「や~って来ました北海道~」
俺、灰賀恭は婆さんの頼みで北海道へ行く事になり、現在新千歳空港の到着ロビーで迎えを待っていた。人間どう転んだら文化祭の真っ只中に北海道に飛ばされるんだ? 文化祭サボれただけでも儲けモンだからいいんだけどよ
『北海道はでっかいど~』
『恭様と北海道デート……楽しみだわ』
ただでさえ大荷物を抱えてて疲れ果ててるというのにこの幽霊二人は呑気なものだ……。この大荷物は婆さんが用意したもので中には着替えとスマホの充電器、暇潰せるようにと本が入っている。にしたってやり過ぎだとは思う。ちょっと厄介事を片付ければすぐに帰れると思うんだがなぁ……
「はぁ……」
北海道と言えばカニや北海道ラーメン、クマ牧場と様々な観光スポットがある。観光目的だったら口では面倒だと言いながらも観光するのだが……婆さんに言われたホラゲ的展開というワードが引っかかる。俺もホラゲはやった経験はある。ホラゲ的展開と言われればある程度想像はできるが、なんつーかなぁ……ホラゲ然り、ギャルゲー然り、エンディングは色々あってハッピーエンドがあればバッドエンドもある。当然トゥルーエンドも……
「問題はホラゲ的展開の何エンドになってるか? だな……」
話を聞く限りじゃバッドエンド────それも生還したはいいが、しこりが残る形の。ゲームならモヤモヤが残る終わり方だ。あるいは全員生還したが、悪夢が続く形だと思う。いずれにしろモヤモヤが残るのは確かだ。ゲームだとモヤモヤが残るだけなのだが、リアルでの話となると一介の高校生たる俺がどうにかできる問題ではない。それにしても……
「迎えおっせぇ……」
学校を出る前に婆さんから新千歳空港には迎えが来るって言われてたのだが……それらしき人物は未だ見受けられない。このままだと俺は立ち往生するしかないんだが……
「はぁぁぁ……妙な事引き受けちまった……」
我ながら妙な事を引き受けたと思う。高校入学してから何かと騒動に巻き込まれるが、まさか地方で起きてる騒動に巻き込まれるとは思わなかった
「君が灰賀恭君だね?」
「そうですけど……貴方は?」
「ああ、失礼。私はこういう者だ」
正面から来た二人の男性。スーツ姿だから最初はサラリーマンかと思ったが、彼らが懐から取り出したものを見て俺は頭に疑問符を浮かべた
「警……察……? 俺は悪い事はしてないと思うんですけど……」
迎えが来るとは聞いていたが、警察官が来るとは思わなかった……
「驚かせて済まない。君のお婆さん────灰賀暦さんに頼んで君を呼んだのは私達なんだ。失礼、自己紹介が遅れたね。私は山本玄。そして……」
「部下の幸田勝です」
「は、はあ、灰賀恭です」
婆さんの人脈はどうなってるんだ? 警察にまで顔が利くとは思わなかったぞ……
「ここじゃなんだから署の方へ来てもらいたいのだが……いいかね? もちろん、君を逮捕するとかじゃないから安心してくれ」
「それは構いませんが……婆さんに頼んでまでどこにでもいる高校生の俺を呼んだ理由ってなんなんですか? 聞いた話だとホラゲ的展開で困ってるって話でしたが?」
「う、うむ……」
山本さんが苦々しい顔をしながら言い淀む。事件の捜査に関する内容なら言いづらいのは仕方ないが、俺は捜査協力で呼ばれたわけじゃない。ザックリとした説明ならできてもいいはずだぞ
「そ、それについては署の方に着いたら説明します」
「はあ、そうですか……」
苦笑交じりに山本さんの代わりに答えたのは幸田さんだが、彼も彼で何か抱えてる様子だ。隠し事をしているってわけじゃなさそうだが……言いづらい内容なのは確からしい。ホラゲ的展開で公衆の面前じゃ言いづらい事ねぇ……
「いつまでも立ち話はなんだ署の方へ行こうか」
人前じゃ話せない理由とホラゲ的展開に考えを巡らせていたところで山本さんから声がかかり、案内されるがまま駐車場へと向かった
駐車場に着いた俺の目に飛び込んできたのは一台のワゴン車。この車でどこかの署へ連れて行かれるらしいが、一人迎えに来るのにワゴン車である必要はないと思うのは気のせいだろうか?
「さぁ、遠慮なく乗ってくれ。君は無類の女好きと聞いてるからね。署内でもトップクラスの美人を連れて来た」
誰が女好きだコラ。婆さん、どんな説明したんだよ……
「どうぞ。美人がお待ちです」
幸田さん……アンタもか……
「女好きじゃないんですが……」
婆さんには後で文句を言おう。俺は幸田さんが開けてくれたドアから車内へ入ると……
「アナタが恭クンね? 待ってたわよ」
「恭君、遠慮しないで私達にできる事があれば何でも言ってね?」
中にいたのは飛鳥似の女性と琴音似の女性。アイツらを大人っぽくしたらこんな感じになるのか……
「初めまして、灰賀恭です」
「あら、自己紹介できるのね。エライわ」
「私の弟にしたい……」
飛鳥似の女性は外見こそソックリだが、少しミステリアスな女性って感じで琴音似の女性は物静かな感じか。何と言うか……やりづらい
『むぅ~!』
『恭様は私達のモノなのに……』
はぁ……早織も想花も接待されたくらいで嫉妬すんなよ……
車に乗せられてから少し。最初は北海道の景色を楽しんでいたのだが、右を見ても左を見てもあるのはだだっ広い空き地。いい加減飽きた。ついでに、接待目的の女性二人が無言だから暇だ
「署につく前にどうして俺が呼ばれたか大まかな理由だけそろそろ説明してほしいんですが……」
「「「「────!?」」」」
理由を教えてくれって言っただけなのに車内の空気が凍った。ミラー越しに見る山本さんと幸田さんは明らかに目を逸らし、女性二人は何故か小刻みに震え出した。凶悪犯罪者に立ち向かう立場の人間が震えだしたり目を逸らしたりするのは相当だぞ……マジで何があったんだ?
「俺は地雷踏んだみたいですけど、いずれ言わなきゃいけない時が来ます。それとも、警察署じゃなきゃ話せませんか? 手元に資料がないとかでしたら警察署に到着してからでも構いません」
この人達も婆さんも今まで詳しい事は何も話してない。今の俺が持ってる情報と言えばホラゲ的展開になってしまったという事だけ。どうしてそうなったか、誰がそうなったかは何も聞いてない。そもそも学校で見せられたホテルに何があるのかすら聞いてない。詳しい事を知らない俺に何をしろってんだ?
「話したいのは山々なのだが……私達はまだ君のお母さん達を目視できるようになっていない。呼びつけておいて何も話せないのは悪いとは思っている。どうか解ってほしい」
運転中だから頭を下げる事はしなかったが、山本さんは真剣な眼差しでこちらを見ていた。そんな事はどうでもいい
「山本さんは俺のお袋が今どんな状態か知ってたんですか……」
「知っていたさ。私だけじゃなく、幸田もそこの女性二人もね」
「そうでしたか」
助手席に座る幸田さんの表情は見えないが、左右にいる女性二人を見ると無言で頷かれた。山本さんの言ってる事は本当らしい。ん? 待てよ? 早織達が見えるようになったら呼ばれた理由を聞ける。だったら……
「ごめんね。恭クン」
「こればっかりは幽霊が見えなきゃ話せない……恭君には悪いと思っている」
申し訳なさそうにしている飛鳥のソックリ……めんどくせぇ。大人版飛鳥と清楚版琴音にすっか。申し訳なさそうにしている大人版飛鳥と清楚版琴音に強く咎められなかった。ただ、聞きたい事はあった
「別に話せないならそれはそれでいいんですが、お袋達が見えるようになるタイミングって全員一緒じゃなきゃいけませんか? 山本さんは運転中で無理ですが、幸田さんはやろうと思えばすぐにでもできます。俺の両隣りにいるお二人は言わずもがなです」
「全員同じタイミングじゃなければダメだというわけではないが……幽霊っていきなり見えるようになるとパニックになるんじゃないのかい?」
山本さんの言う事はある意味正しい。幽霊がいきなり現れたら驚く。彼はそれを危惧しているようだ。ここは早織達に意見を仰ぐべく視線を彼女達がいる方へ向ける
『確かにいきなり見えるようになればビックリだけど、それはお母さん達が見え方を調節すれば万事解決だよ~』
『映画とかゲームみたいな見た目じゃなきゃ驚かれないわよ。それでも事前に告知は必要だと思うけれど』
なるほどねぇ……要は零達と同じようにすりゃ大きな騒ぎにならないってわけね
「確かにいきなり幽霊が見えるようになったら驚くでしょうけど、お袋達は見た目を調節するらしいので大丈夫かと思います」
「そ、それならいいんだが……この先で休憩するからせめてその時にしてくれないか? 告知されていてもパニックは避けたい」
「分かりました」
山本さん達ての頼みで早織達を見えるようにするのは休憩の時にという事で話がついた。なんだろうなぁ……話聞かなくてもホラゲ的展開で何があったか、これから何をさせられるか何となく分かっちまったんだが……気のせいだよな?
これからさせられるだろう事を考えると今すぐ家に帰りたくなった
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