琴音から自分達専用のパソコンが届いたという説明を受けた俺。嬉しそうな零達を見ると俺もほっこりしてくるから不思議だ。それはそれとして、俺からも零達に知らせる事がある。あるのだが……
「お前ら、俺が言えた立場じゃねーけど、飯の時くらいパソコン止めたらどうだ?」
「「「嫌!!」」」
現在、零達は食事中だというのに自分専用のパソコンに夢中だった。その気持ちはよく解かるぞ! 俺だって初めて自分専用のパソコンを買った時は夢中になったからな! だからと言って食事中にまでパソコンに向かおうとは思わんけどな
「嫌!! ってパソコンに張り付いて何するんだよ? ゲームか?」
俺基準で言えばゲームか動画見るくらいしかやる事はない。それが零達に当てはまるかは知らんけど
「「「ドラマ鑑賞!!」」」
ドラマ鑑賞……つまり、後者の動画見るって事か……。幸い零達のパソコンはノートだから取り上げる事も可能なのだが、俺の良心がそれを許さない
「はぁ……こりゃ零達や最悪他の住人達のパソコンに『RINK』を入れる必要があるみたいだな」
『RINK』とはスマホ、パソコンに入れられるチャットアプリの事でパソコンで利用している人が多いと名高いものだ。それにしても婆さんめ……テーブルと一緒に送ってくる事はねーだろ
「「「RINK?」」」
Oh、パソコンに夢中だと思ってたのにちゃっかり聞いてたのね……。『RINK』を知らないのは予想済みだったけどよ
「メールアドレスか携帯番号を入れれば簡単にアカウントが取得出来るアプリだよ。零達のパソコンに入れとけば直接アレをするなとかアレをしろとか言わなくていいし、それに、部屋の中で分からない事があってもいちいち俺のところまで来なくて済むだろ?」
大した距離じゃないとはいえさすがに部屋から部屋への移動というのはこの家限定で言うと結構しんどい。無駄に広いから
「それもそうね。普通の家と違ってこの家は広すぎるからそれを考えるとそういうアプリは必要かもしれないわね」
「ですね。私も恥ずかしながら自分専用のパソコンを貰えた事に舞い上がっていたようで食事を忘れてましたし」
零と闇華が釣れ────もとい賛成してくれた。残るは琴音だけなのだが……
「私も電話やメール以外の連絡方法をパソコンやスマホに入れるのは賛成だけどさ、私の携帯は料金未払いで止められてるし、それに、しばらく充電してなかったから漏電しきってるかも……」
「「「はい?」」」
琴音の携帯事情を聞き、俺だけじゃなく、零と闇華も思わず聞き返す。
「だーかーら! 私の携帯は料金未払いで止められていて挙句、充電してないから漏電しきってるかもしれないの!」
「いや、それはさっき聞いた。料金の件に関しては会ったばかりの零がそうだったからいいとしてだ、え? しばらく充電してなくて漏電しきってるって、どれだけの期間充電してないんだよ?」
俺も過去に携帯を何回か買い替え、今のスマホに落ち着いた。で、新しいスマホやら携帯に買い替えると前に使っていたスマホやら携帯を取ってはあるものの、雑に扱ってしまい、充電すらしないというのはよくある話だ。問題は琴音がどれだけの期間充電してないかだ
「私が前のアパートを追い出されてここの前に倒れるまでの間だから一か月か二週間くらい……」
随分期間が開いたな。オイ。一か月と二週間じゃえらい違いだぞ?その程度だったら充電さえすれば動くとは思うが
「一か月と二週間じゃ大分違うと思うが……まぁ、いい。それくらいだったら多分、充電すれば動くと思うぞ?」
確証はなかったものの、バッテリーが完全に落ちてから大した日にちが経ってない。ワンチャン充電すれば動くだろ
「え!? 本当? 恭くん」
充電すれば動くかもしれないと聞いた琴音は身を乗り出してきた。琴音さん? 嬉しいのは解かりますけど、身を乗り出されると零や闇華と同等のある部分が自己主張するのでその体制は止めて頂きたい
「本当だから身を乗り出すな」
動揺すると俺が女慣れしてない事がバレる恐れがあったので努めて冷静に返したが、内心いろんな意味でウハウハだったりする
「じゃ、じゃあ! 早速携帯持ってくる!」
まだ動くと希望を持った琴音が勢いよく立ち上がり、自分のバッグへ向かおうとする
「待て、充電するのはいいが、まずは飯を食い終わってからだ。充電するにしてもパソコンやスマホに連絡アプリを入れるのも全て飯を食い終わってからにしろ」
意気揚々と行動を起こそうとしたのは琴音だけだったのは幸いなのだが、全員に言っておかないとコイツ等は飯そっちのけで行動を起こそうとする。俺は一人だった時に飯と並行してパソコンを自分好みにしたが、それだって行儀のいい行為じゃない
「「「は~い」」」
琴音は一旦座り、零と闇華はパソコンテーブルから焼きそばが置かれているテーブルへと移動してきた。本当にコイツ等は過去に苦労していたらしいという事が分かったところで食事再会
「さて、飯も食い終わり、食器も食洗器や使ったもの全て食洗器に放り込んできたところで、まずは琴音の携帯を充電する。その間に『RINK』をそれぞれのパソコンにインストールするか」
「「うん!」」
「はい!」
飯を食い終わり、食器や使ったまな板やフライパンを食洗器に放り込んだ俺はリビングへ戻り、琴音の携帯を充電しながら零達のパソコンに連絡アプリを入れようと試みる
「んじゃ、零と闇華のパソコンに『RINK』を入れる準備だけするからその間に琴音はバッテリーが切れになった携帯を持って来てくれ」
「分かった!」
琴音はバッグの置いてある方へ向かって行った。その間に俺は零と闇華のパソコンに『RINK』を入れようとするのだが、俺とした事が重要ではないが、連絡アプリには欠かせないであろうものを零と闇華が持っているか確認するのを忘れていた
「『RINK』を入れる前に零と闇華はフリーメールのアドレスって持ってんのか?」
フリーメール。通称『Fメール』とは検索サイトである“FREE ACCESS”にアカウント登録する事で初めてログイン出来るもので、俺の主な使い道は小説投稿サイトのアカウント登録と“MYVideo”の動画評価、コメント等でログインするくらいだ。それは置いといて、零と闇華がそれを持っているかだ
「持ってるわけないでしょ。アタシはついこの間までガラケーだったのよ?」
「私は恭君達と携帯ショップでスマホを買うまで携帯の類を持ってませんでしたからね、当然ありません」
俺の予想通り零と闇華は“FREE ACCESS”のアカウントを持っていなかった。零と闇華が持っていないという事は琴音や他の新しい入居者も持っていないという事になる。もっとも、新しい入居者達はスマホを持っているかすら怪しいところではあるがな
「やっぱりか……最初はアカウント作るところから始めるか」
と、いう事で、零と闇華は琴音が来るまで待機させた。理由は簡単だ。零達だけ先にアカウントを作らせて琴音に後から作らせるよりも三人まとめて作らせた方が効率がいいからだ
「恭くん、これなんだけど、充電すれば動くかな?」
戻って来た琴音の手に握られているのはブルーのガラケーとゴムが剥げ、中身の線がむき出しの充電器だった。
「…………いやぁ~、どうなんだろうなぁ~」
琴音の持っているガラケーは多分だが充電すれば動くとは思う。ただ、中身の線がむき出しの充電器で充電すると火事になる危険があるし、ぶっちゃけ、まともに充電できるかどうかすら危うい
「恭くん充電すれば動くって言ったじゃん!」
確かに充電すれば動くとは言った。言ったけどよぉ……
「充電すれば動くとは言ったし、携帯本体は多分充電する分には何の問題もないだろう。しかしなぁ……充電器の方がなぁ……」
携帯の状態を言えば電池パックが膨らんでないから充電する分には何の問題もないと思う。ただ、充電器の方が断線を起こしている可能性があるってだけで
「え~! これじゃ充電できないの~」
充電できないとは言ってないのに勝手に落ち込む琴音。元は映画を観る為の部屋だからスペースは十分にある。火事が起きたところですぐに消火すれば何の問題もないか。
「充電できないとは言ってない。ただ、充電するにはちょっとばかり危ないかもしれないってだけでな。それでも、一応、やるだけやってみるか」
線がむき出しの充電器を使うのは危険だ。それでもやってみる価値はあると思う
「うん!」
「でも、ここだと燃えたら困るものがあるから隅の方に移動しような」
「分かった!」
琴音と俺は携帯を充電すべく部屋の隅に移動する事にしたのだが、面白そうだと言って零と闇華も付いて来た
「さて、一応、充電できるか確認するにはするけどよ、ダメだったら諦めろよ?」
携帯を充電する前に持ち主である琴音はもちろん、後から文句を言いそうな零。主にこの二人に言い聞かせるつもりで念を押す。闇華は大丈夫だと思うけど、名指しで言うとそれこそ文句を言われそうだから全員に言ってるように装う
「「分かった!」」
「はい!」
零達を納得させたところで携帯と充電器を繋ぎ、コンセントに刺した。すると……
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
携帯のランプが全く点灯しない。まだ充電したばかりだから仕方ないか。
携帯を充電し始めてから十分が経過した。が、ランプは一向に点灯しない
「十分経ってランプが点灯しないっつー事は携帯本体か充電器が壊れてるって事か」
充電器が断線してんのか携帯本体が壊れてんのかは定かではない。ただ、現状として充電出来ないのが事実だ
「そ、そんなぁ……」
明らかにショックを受けてる琴音。それに引き換え零達はというと……
「「はぁ~……」」
持ち主である琴音以上に沈んでいた
「な、何にせよ琴音の携帯を買い替えにOKINAに行かなきゃいけないの確かだ」
親父には琴音が住み始めた事をメールした。ただ、それだけでスマホを買えるとは思えないから念のために婆さん経由で爺さんに確認してもらうか
「琴音のスマホを買う時はアタシ達も付いてくから!」
「当然です!」
琴音のスマホを買うだけなのに零と闇華が付いてくる必要があるのかとは思った。しかし、子供のように目を輝かせた二人を目の前にしてダメだと言えるはずもなく、俺は許可するしかなかった
その後、携帯の話は一旦止め、零達のパソコンだけでも『RINK』を入れる為に“FREE ACCESS”のアカウントを取得し、『Fメール』のアドレスを手に入れた。その後は流れ作業で『RINK』にアドレスを登録し、零達がそれぞれパスワードを設定して作業終了。
「これで一先ず作業終了か」
「「「お疲れ様!!」」」
大して疲れる作業ではない。それでも労ってくれる零達は将来いい嫁さんになるんだろうなと思いつつ、平穏なひと時を過ごした。とはならず、零達は俺を引きずって新しい入居者達の元へ。そして、俺達は同じ作業をする事となった。
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