昨日は疲れる一日だった。苦手意識を持っていた内田飛鳥が女だと発覚し、警察の人達に協力したからな。幸いなのは飛鳥と密室で二人きりだった事を東城先生が闇華達に黙っててくれた事くらいだ
「朝か……」
金曜の朝はテンションが上がる。今日学校や仕事に行けば明日は休みってところが多いから当たり前っちゃ当たり前か。俺もそうだし
「金曜の朝だっていっても布団から出る気は全くしないんだけどな」
金曜の朝だからといって布団から出る気はしない。俺の恋人は年中布団だからな!
「恭君、バカな事言ってないで起きてください」
「そうだよ恭ちゃん。教師として遅刻するのは許さないからね?」
「分かってるよ。今起きようと思ったところだ」
闇華と東城先生に言われ仕方なく起きる事にした俺。布団に入りながら勉強出来ないものかと我ながらアホな事を考えてしまうが、そんな方法は百年くらい経たなきゃ発見されないと諦め、布団から出た
「恭君を起こすのは妻としては嬉しいですが、出来れば自分で起きてくれた方が嬉しいです」
誰が妻だ誰が
「面目ない……」
妻の部分はあえてスルーだ。闇華の言う通り一人で起きられないのはマズイとは思う
「闇華ちゃんの言う通り恭ちゃんを起こせるのは嬉しいけど自分で起きられるようにならないとね」
闇華と違って自分を妻だと言わないだけ東城先生に言われた方が罪悪感が大きい
「ど、努力します……」
「うん」
闇華と東城先生からお小言を貰った俺は洗面所に行って顔を洗う。その後は昨日と同じように顔を洗い、琴音の作った飯を食べて家を出た。
昨日と同じように熊外駅から電車に乗り、女将駅で電車を降り、学校へ歩く。初登校の時は新鮮さを感じていたが、早くも飽きてしまった。代り映えしない道だから飽きるのも当然の事だ
「マジかよ……」
学校に着き、昨日と同じように授業を受けると思っていた俺は目の前にある現実を受け入れられなかった。何故なら……
「学校燃えてるし……」
学校が炎に包まれていたからだ。学校付近に付いた時点で野次馬が集まっている事と矢鱈と消防車を多く見かける事に違和感はあった。しかし、燃えたのは学校近くにある別の建物だと思っていて自分の学校が燃えてるとは思ってもいなかった
「きょ、恭クン……」
野次馬の中からどうにか俺を見つけたらしい飛鳥がこちらにやって来た。学校が燃えたからなのか表情は暗い。でも、服装が昨日と同じなのが引っ掛かるな
「飛鳥……」
「俺が学校に着いたら燃えててビックリした……」
「という事は燃え始めたのは俺らが来る大分前って事になるな」
「うん……」
学校は現在、消防士による懸命な消火活動が行われていてとても近づける状況じゃない。当然ながら校舎が燃えてしまった以上、今日の授業は全て中止だろう
「とりあえず東城先生を探すか。今日の授業どうするか気になるしな」
「そうだな。場合によっちゃこのまま返されるかもしれないしな」
登校三日目にして校舎が全焼とかマジかと思う。現実逃避したところで校舎の火は消えないけどな
野次馬をかき分け、俺達は東城先生を探そうとした。が、歩き出そうとした瞬間、先生達の集まりを見つけ、探さずに済んだ。
「東城先生」
東城先生の姿を見つけた俺はすぐに声を掛けた。学校が燃えて大変なのは解かる。しかし、俺達生徒にとってはそれと同じくらい今日の授業がどうなるかも気になる
「恭……それに飛鳥も……」
普通なら朝の挨拶をするところだが、東城先生にも俺達にもそんな余裕はなかった。学校燃えてるしな
「先生、今日の授業ってどうなるんですか?」
こんな時に何を聞いているんだ?と思われても仕方ない。けど、生徒にとってはそれが一番重要だ。その証拠に他の生徒も集まってきている。こんな状態だから家に帰されるだろうけど
「学校がこんな状況だから生徒は全員帰宅。後日メールで知らせるよ」
「そうですか……解かりました。今日は帰ります」
「お疲れっした」
「うん。さようなら」
他の生徒も同じ事を言われたらしく、次々に帰路へ着いていく。当然、俺達とて例外じゃない
「さて、学校が火事になっちまったし、帰るか」
「う、うん……あのさ、恭クン」
「何だ?」
「この後時間あるか?」
「授業がなくなったからな。時間ならたくさんあるぞ」
「じゃ、じゃあさ、ちょっと話さね? 相談したい事あんだ」
「別にいいけど、どこで話す?」
「なるべく金が掛かんねえトコで」
「了解。とりあえず女将駅に向かうか」
「うん……」
飛鳥から相談があると言われその場所に金の掛からないトコを指定された。もちろん俺はそんな場所知らない。とりあえず俺達は女将駅に向かう事にしたのだが、駅に向かう道中、飛鳥は一言も言葉を発しず、暗い表情のままだった
女将駅に到着した俺達は東改札の発券機近くにあるベンチに腰掛けた
「で? 相談ってなんだ?」
昨日友達になったばかりの飛鳥が俺に何を相談するのか皆目見当も付かない。
「う、うん……こんな事相談されたら恭クンはきっと困ると思う。でも、私には恭クンしか頼れる人いなくて……」
相談されたら俺が困る事。つまり、高校生が何とか出来る問題じゃないって事か
「困るかどうかは相談を聞いて判断する。とりあえず言ってみ?」
自分は出来る人間だなんて傲慢な事は言わない。だとしても困るかどうかは聞いた俺が判断する
「う、うん、私の格好さ、昨日と同じでしょ?」
「そうだな。その服気に入ってるのか?」
「違うよ。私の父親が勤める会社が昨日付けで倒産したの! で、生活の為に家具と家電、洋服類を売ったから着れる服がコレしかないの!」
飛鳥の話は高校生の俺が何とか出来る範疇を超えていた。金と仕事の問題は俺に解決するのは無理だ
「そうだったのか……で、学校には通えそうなのか?」
「無理だと思う……。お父さんが失業した以上新しく住む場所を探さなきゃならないし……それに、生活の為に私も働かなきゃならないし……せっかく恭クンと出会えたのに……」
飛鳥は泣きそうだった。高校入学して三日で止めなきゃならないなんて飛鳥じゃなくても泣きたくなる
「そうか。ちなみに飛鳥の父親の職業って何だ?」
「トラックのドライバー」
トラックドライバーって事は何かを運ぶ仕事をしていたと見て間違いなさそうだが、そんな職種の会社が倒産なんてするのか? 実際飛鳥の父親は会社が倒産して無職になったんだからするのか
「一応聞くが、飛鳥の父親は大型免許以外に資格って持ってるのか?」
「分からない……。私が知ってるのは大型免許を持っているって事だけだから」
「そっか。念のために聞くが、大型免許は第一種だけか?それとも第二種も持ってるのか?」
「分からないよ……でも、私もこれから働かなきゃいけなくなるのは確かだよ。それに、住む場所も探さなきゃいけないしね」
「そっか……」
飛鳥の瞳からは大粒の涙が流れる。高校生活これからって時に父親が失業し、学校を辞めなきゃいけなくなった飛鳥にとってこれほど悲しい事はない。そんな時────────
じりりりりん! じりりりりん!
俺のスマホが鳴った。掛けてきたのは意外な事に爺さんだった
「いいよ。出ても」
「悪い」
消え入りそうな声ではあったが飛鳥から電話に出てもいいとお許しを貰ったので電話に出る事に。さすがに泣いてる女の子を一人に出来ないから側にいたままで出る
『やっと出たか! このムッツリスケベ!』
電話に出るなり酷い言われようだ。それに授業中だったらどうするつもりだったんだ? このジジイ……
「何の用だ? 悪いけど今取り込んでるんだ。くだらない用だったら後にしてくれ」
『なんじゃ偉く不機嫌じゃないか。もしかして女にフラれたか?』
親父といい、このクソジジイといい……何で女関係に話を持って行こうとするかねぇ……
「学校が火事になった挙句、少々立ち入った相談を受けたんだよ。だから今は爺さんの冗談に付き合う気分じゃないだけだ」
『そうじゃったか……学校が火事に……それは大変じゃったのぅ』
「他人事みたいに……んで? 何の用だ? アホみたいな用だったら電話切るぞ?」
『そう言うでない。実はのう、熊外駅から少し歩いたところにあるスーパーマーケットの空き店舗あったじゃろ。あそこを買い取ったのじゃが、最近バカな若者達が溜まり場にしとるらしくてのう。いい加減買い手が欲しくなって恭の知り合いで建物を欲しがってる者はおらんかと思って電話したんじゃ』
爺さん……電話する相手間違ってるよ……そんな話を高校生の俺に持ってくんなよ……ん? スーパーマーケットの空き店舗? こりゃいい事聞いた
「それについては心当たりがあるから相談してみるわ。用件がそれだけなら切るぞ?」
『待て待て! まだあるわい!』
電話を切ろうとする俺を慌てて引き留める爺さん。今度は何だ?
「何だよ? 言っとくが、合コン行こうぜ? って話とか、キャバクラ付き合えって話ならお断りだぞ?」
爺さんの遊びというのは基本的に俺が未成年の為アウトだ。特にキャバクラ。今までは法律上の問題だけだったが、最近は闇華と東城先生にバレたらヤバい的な意味でもアウトだ
『違うわい! 恭は儂を何じゃと思っとるんじゃ!』
爺さんを何だと思ってるかって?そんなの決まってるじゃないか
「ただのエロジジイ」
『違うよ? 儂は大手不動産会社灰賀グループの会長じゃよ? エロジジイ違うよ?』
「そう言えばそうだったな。エロジジイ」
大手不動産会社の会長だろうと俺からするとただのエロジジイだ
『エロジジイ違うわい!』
「分かった分かった。エロジジイじゃないよな。で? 会長の爺さんの空き店舗以外の用件って何だ? 婆さんに浮気がバレたとかか?悪いがそれは俺にはどうにも出来んから自分で何とかしろ」
『違わい! 儂専属のトラックドライバーを大量に欲しいんじゃが、恭の知り合いにそんなのがいないかどうか聞きたかったんじゃ!』
専属ドライバーを欲しているならまだしも専属のトラックドライバーって……
「そのトラックドライバーって二種免持ってなかったとしてもいいのか?」
『構わん。二種免を持ってる事に越した事はないが、今のところ物を運搬してもらうのがメインじゃからな』
何を運ばせるのかもの凄く気になりはする。そして、そんな都合のいい奴が俺の横にいる
「そうか。それなら都合よく俺の横にいる奴の父親がそうだ」
『そうか。それなら午後に迎えをやるから恭。その者と一緒に儂のところへ来い』
「分かった。ついでに俺の部屋に住んでる奴の一人か二人も一緒に行くと思う」
琴音と東城先生の事だから爺さんに会いに行くって言えば付いてくる。後、飛鳥とその家族も連れてく事になりそうだ
『可愛い女子が来るなら大歓迎じゃ! 迎えが着く頃になったらまた電話するからのう!』
「了解。こっちもこっちで話付けとくわ」
『頼んだぞ。恭』
爺さんとの電話を切り、飛鳥の方を向いた
「恭クン電話もういいの?」
飛鳥の表情は電話前と変わらず。泣きそうだった。
「ああ」
「そっか。じゃあ、俺はそろそろ帰るわ。家族とこれからの事相談しないとだしさ」
「んじゃ、俺はそれに着いてくわ。飛鳥の父親に再就職先の話しなきゃだし」
「は? え? 再就職先?恭クン、どういう事?」
飛鳥の目が点になった瞬間だった
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