部屋を出た俺は瀧口と共に談話室へ来たのだが……
「恭……アンタ、突然いなくなったりしないわよね?」
「恭君、置いてっちゃ嫌です……」
「恭、お義姉ちゃんから離れるなんて許さない……」
「恭クン、私と一緒にいようね?」
ご覧の有り様。ハイライトが仕事を放棄した零、闇華、由香、飛鳥に四方八方から拘束され、身動きが取れない状態。瀧口を始め、星野川高校、灰賀女学院の生徒達はそんな俺を助けようともせず、生暖かい視線を向けるだけ。零達の依存体質にも困るが、瀧口達の薄情さ加減にも困ったものだ
「いなくなりも置いても行かねぇ。お前らから離れるつもりもねぇから安心しろ」
俺は零達だけじゃなく、この場にいる生徒全員に言い聞かせるように言った。だが、本当のところこれからどうなるかは分からない。無理矢理拉致される事はないだろうが、油断大敵。琴音が俺を強引に連れ去ろうとする事も視野に入れて考えなきゃならない
「「「「本当……?」」」」」
「本当だ。まぁ、俺を無理矢理拉致しようとしたところで失敗に終わるのなんて零達が一番よく知ってるだろ?」
瀧口、求道、北郷以外の生徒は『何言ってんだ?コイツ?』みたいな顔をし、零達は納得したような顔をする。そんな中、一人の男子生徒が口を開いた
「お前はそう言うけどさー、拉致しようとしても失敗するって根拠教えてくんね?」
異を唱えたのはチャラ男を体現したような男子。服装もそうだが、口調も典型的なチャラ男。
「根拠って言われてもなぁ……飛鳥の一件で俺がやらかした事を知ってるならそれが根拠になると思うぞ?」
灰賀女学院の生徒達は疑問符を浮かべるが、星野川高校の生徒達は一部を除いて納得がいったようで頷いてる生徒が多い。頷いてない生徒は異を唱えたチャラ男を含めごく数名。普段他の生徒と交流のない生徒と彼みたいに他の人に興味のないギャルやヤンキーは頭に疑問符を浮かべていた
「それじゃ分かんねぇよ! 俺っち普段コイツら以外とは喋んねーし!」
そう言ってチャラ男が指さしたのは疑問符を浮かべているギャルとヤンキー達。女三人に男二人のグループだ。コイツは普段の学校生活でこの五人としか交流がないらしい
「っつってもなぁ……俺からはそれで納得してくれとしか言いようがない。後は俺と行動を共にして自分の目で確かめろくらいしか言えねぇぞ」
言っといてなんだが、俺と行動を共にしたところで琴音……かどうかは分かんねぇけど、犯人が攫いに来なければ意味がないのを忘れてた。自分の目で確かめる以前の問題だ
「あんさー、灰賀と一緒に行動したところで俺っちが側にいたら意味ないって分かってる?」
チャラ男にしては頭がキレるな。俺もちょうどそう思ってたところだ
「分かってるよ。分かってはいるけどよ……お前は俺にどうしろってんだよ?」
「は?そんなん決まってる。灰賀が一人で出歩いて無事にここへ戻ってくりゃいいんだよ」
何を当たり前の事をとでも言いたげなチャラ男。他の連中は信じられないようなものを見る目でチャラ男を見る。彼の言ってる事は普段なら至って簡単。だが、ここを出た俺はどこへ行けばいい?一人で出歩けと言われてもゲーセン一つない館内で行く当てなんてねーぞ?
「出歩くのはいいけどよ、ここを出た後俺はどこへ行けばいい?ここへ戻って来るのはいいとしてだ、出て行った後、一定数の時間を経過させる必要があるだろ?」
一時間は置かずとも五分~十分程度は置かないと俺は絶対に拉致されないという証明にはならないと思う。そうなるとだ、ここを出て、どこへ行くかだ
「は?え?どこへ行くって何?」
「だから、俺は拉致されないって証明するのに一人で出歩くのはいいけど、ここを出た後、俺はどこかで一定の時間を潰さなきゃならねぇ。俺はどこで時間を潰せばいい?って聞いてんだよ」
「あっ、え、えと……ごめん、そこまでは考えてなかった」
「なら俺が決めていいか?」
「お、おう……」
「少し考える時間をくれ」
「分かった」
俺は顎に手をやり考える。トイレは……綺麗汚い関係なく却下。自室はトイレよりマシだが、俺の性格上、寝落ちするのが目に見えてるからこれも却下。そうなると残るは食堂くらいか……あそこなら綺麗で俺を誘惑するものがない。そう言った意味では食堂が一番最適だな
「決まったぞ。俺が行く場所は食堂だ。そうだな……五分程度した頃に戻って来る。それ以上かかった場合はお前ら全員で食堂まで様子を見に来てもらって構わない」
「分かった」
「んじゃ、五分後にまたここで」
そう言って俺は零達から離れようとした
「待って! 恭!」
零が離れようとした俺の腕を掴んできた。彼女の目に不安の色が浮かぶ。闇華達も同様に不安気な目で俺を見つめる
「何だよ」
「ちゃんと……ちゃんと戻って来なさいよね!!」
「当たり前だ。簡単に拉致られてたまるか」
「約束よ?」
「ああ、約束だ。お前達とのな」
俺は簡単に拉致されはしない。何の目的で次のターゲットに俺を指名したのかは知らねぇが、簡単に拉致されるほど俺は甘くねぇ
「「「「うん!」」」」
零達は満面の笑みで頷き、それを確認した俺は談話室を後にした
談話室から出て、食堂へ向かう道中、なぜ次のターゲットに俺を指名したのかを考えていた
「どう考えたってこれは教師対生徒の謎解きかくれんぼだ。なのに何だって次のターゲットが俺なんだ?」
琴音からは全ての答えを知っている俺は何もするなと言われた。だが、塚尼先生がいなくなった時、一番最初に部屋に辿り着いたのは俺。他の連中が寝ていたから必然的に最初にもぬけの殻になった部屋へ辿り着くのは俺だってのは仕方ない事だ。しかし……
「これがクラス、学校を超えた生徒同士の交流やチームワークを高めるためのレクなら生徒である俺をターゲットに指名したら意味ないだろうに……それに、何で二校合同なんだ?」
開校してからそれなりに年数が経ってる星野川高校と開校してから間もない灰賀女学院。その二校が合同でスクーリングをする事自体には何の文句もない。学校のトップ同士が決めた事だから一生徒の俺が文句を言ったところで最終的に決めるのはセンター長と理事長で俺じゃない。でも、おかしい。どちらが先に打診したのかは知らんが、入学してくる生徒が事情持ちという点くらいしか共通点がない二つの学校が合同でスクーリングを開催するだなんておかしい。今はスクーリングが合同で行われている事よりも次のターゲットに俺が指名された事を考える方が先なんだがな
『それは学校のトップ同士が決めた事なんだからきょうが考えたって無駄だよ~。それより、どうして次のターゲットがきょうなのかの方が重要じゃない?』
『早織さんの言う通りよ、恭様。貴方が考えるように今回の騒動は藍さん達教師が生徒間のチームワークを高めるために仕掛けたと考えられるけれど、次のターゲットは恭様。生徒同士のチームワークを高めるためだとしたら明らかにおかしいわ』
早織と神矢想花の言う通りだ。今回の事が生徒間のチームワークを高めるためなら教師がターゲットになっても生徒である俺がターゲットになるのはあり得ない。
「言われんでも分かってる」
『分かってるのなら余計な事を考えるのは止めなさい。答えなら騒動が全て解決した時に藍さんにでも聞けばいいでしょ?』
『そうだよ~、余計な事は考えないで今は自分がターゲットに指名された理由だけを考えようよ~』
神矢想花も早織も呑気なものだといつもの俺なら言うだろう。今回は人の命やこれからの生活が懸かってるわけじゃなく、単なるゲーム。彼女達の言う事も一理ある
「だな。合同になった事は後で聞くとして、今は俺が次のターゲットになった理由を考えるか」
二人に言われた通り自分がターゲットに指名された理由へと思考を切り替えた。俺が狙われる理由……心当たりは山ほどある。例えば、この館の元ネタを知っているとか、昨日起きた事、これから起こる事、全ての答えを知っているとか。心辺りがあり過ぎて結論に辿り着けない
「分かんねぇ……」
考えても答えが見つからず、つい本音が漏れてしまった
『分からないのなら食堂へ着いた時に本人にでも聞く事ね』
「本人?」
『ええ。今貴方の後ろを付いてきているわよ』
「は?後ろ?」
神矢想花が何を言ってるか分からず俺は後ろへ振り返ろうとした。その時────
『振り返っちゃダメだよ~』
早織に止められた
『早織さんの言う通り振り返ってはダメ。そのまま聞いて頂戴』
「あ、ああ……」
神矢想花にも振り返るなと言われ、俺は振り返りそうなのをグッと堪える
『さっきも言った通り琴音が後ろから付いて来てるわ。多分、拉致できる隙を窺っている。貴方はこのまま素知らぬフリをして食堂へ行って。いいわね?』
「分かった」
俺は神矢想花に言われた通り何も知らぬフリをして食堂へ向かった
食堂前に着いた俺はドアを開け中へ入った。ゲームでもこの食堂のドアは鍵はあるものの、常に開けたままになっていて入ろうと思ったら誰でも入れるのは知っていた。まさか現実でもそうだとは思わなかった
『そのまま昨日恭様が座ってた席まで行って』
俺は神矢想花に言われた通り、昨日自分が座っていた席へ行く。目的の場所へ着くと今度は振り返れと言われ、その通りにすると……
「何してんだ?琴音」
目出し帽を被った琴音がいた
「気付かれちゃったか……早織さんと想花さんが一緒だから無理ないか……」
そう言って琴音は観念したのか目出し帽を脱いだ
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