高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

今日の俺は気力が沸かない

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:25
更新日時: 2021年2月14日(日) 15:52
文字数:4,579

「…………零と闇華さんを縛るものはなくなったが、これからどうする?」


 婆さんが零の借金を返し、言い方は悪いが闇華さんと親戚連中を引きはがし当面の問題はなくなり、めでたしめでたし。なんて言うのは話の中だけで実際は問題は山積みである


「どうするって言われても……」

「そうですよ……私達が学校に通えるようになったのはいいとして、話が急過ぎてついていけません」

「だよなぁ……」

「「「はぁ~……」」」


 零と闇華さんからしてみれば喜ばしい話だ。自分が知らぬところで解決してなければな


「零と闇華さんの抱える問題は解決した事だからお祝でもするか?」


 これと言ってやる事が思いつかない俺はとりあえず二人の抱えていた問題が解決したお祝いを提案してみるが……


「アタシ達の抱えていた問題が解決したのは素直に嬉しい。もちろん、恭がそれをお祝いしてくれるのだってそうよ。でも……」

「ええ、私達の抱えていた問題が第三者の口から急に解決したと聞かされても実感が沸きません」


 零と闇華さんの気持ちはよぉーく解かる。借金問題に親戚問題。どちらも一朝一夕では解決出来ないものだ。それを婆さんは零と闇華さんの知らぬところで解決していた。事後報告されても実感が沸かないと言うのは当たり前だ


「だよなぁ……俺だって当事者だったら信じられんし」


 零と闇華さんが無事に学校に通えるようになった事に関しては俺だって素直に祝福したい。解決したという実感は全くねーけど


「とりあえずご飯を食べませんか? さすがにお腹が空きました」

「だな。さすがに飲まず食わずってわけにいかないしな」

「そうね」


 時間を確認すると時刻は十三時を回っており、昼のピークは過ぎていた。だから何だってわけじゃないけどな


「昼飯はどうする? 家で作るか? それとも、どこかに食いに行くか?」


 飯にするのはいいとしても問題は家で作って食うか、適当な飲食店に食いに行くか


「家で作って食べるに決まってるでしょ! 恭! お金は使えばなくなるのよ!」


 ですよねー、零さんお金の事になると厳しいっすね


「零さんの言う通りですよ?恭君。お金があるからと言って使ってしまえばいずれなくなってしまいます! それに! 作るのが面倒だからと言って飲食店に頼り過ぎていては栄養バランスが崩れてしまいます!」


 お金に厳しい零と金、栄養バランスに厳しい闇華さん。俺はこの二人を拾った事を心の底からよかったと思う反面、母親が一気に増えたような錯覚に陥ってしまった


「じょ、冗談だ! ちょっと言ってみただけだ! だ、だから、そんなおっかない顔すんなって!」

「冗談ねぇ……」

「本当ですか?」


 あっ、これ信用してないやつだ。零と闇華さんの目が信じられないって言ってるし


「ほ、本当だって! 家には大量の食材があるんだぞ?食材が家にあるのに飲食店に行く意味なんてないだろ?」

「「ふ~ん」」


 零と闇華さんの視線が痛い……これからは二人の前で気軽に飲食店に行こうだなんて言うの止めよう……


「とにかく! 飯を食った後は適当に過ごす! これでいいな?」


 二人の視線に耐え切れなくなった俺は強引に飯を食った後の予定を伝える。じゃないとノミの心臓を持つ俺はどうにかなっちまいそうだ


「「は~い」」


 視線に耐え切れなくなった事を察知したのか零と闇華さんの返事はかなり投げやりだった


「んじゃ俺は飯を作ってくるが、リクエストは?」


 闇華さんと零は各々の問題が解決した喜びを噛み締めていてほしい。そう思った俺は一人キッチンへと移動しようとした。したのだが……


「恭一人に作らせるわけにはいかないわ! アタシ達も一緒に作る!」

「ですね。恭君に全てやってもらったというわけじゃありませんが、恭君一人に作らせてしまうわけにはいきませんものね」


 中学時代、俺は引きこもりだったというのは何回か話したと思う。でもただの引きこもりじゃない。確かに俺は朝飯・昼飯・晩飯の時とトイレ、風呂以外では部屋から一歩たりとも出なかった。そんな引きこもりでも昼飯と晩飯は自分で作っていた。とある事情からな


「零と闇華さんがそう言うならみんなで作るか」


 普通ならここは『俺一人で十分だ』『私達も手伝う!』と互いに気を使い、それで喧嘩になってしまうだろう。しかし、俺は気遣いが出来る男だ! そんな王堂バカップルやラブコメ的な喧嘩はしない!


「ええ! それに、恭って料理が出来そうに見えないから不安なのよね」

「零さんの言う通りです。他の事では恭君の事を信じていますが料理となると私も不安で不安で仕方ありません」


 コイツ等……喧嘩売ってんのか?


「お前ら、喧嘩売ってるなら買うぞ?」


 鍋をした時は料理ってより調理だったからカウントしないとしてだ。その次の日からはどうだったっけ?零と闇華さんが交代で作ってくれてたな。あれ?俺料理してなくね?


「別に喧嘩なんて売ってないわよ。ただ、アタシ達の見えないところでアンタに料理させるのがこれ以上なく不安だってだけで」


 零、俺は幼稚園児か何かか?


「わ、私は……恭君にちょっとでも美味しい料理と私の愛情を届けられたらいいなと思っただけですよ?断じて恭君に火を使わせるのが不安だとか、包丁を持たせてケガでもしたらどうしようとか思ってないですからね?」


 闇華さん、過保護過ぎじゃないですかねぇ……


「あー、うん、とりあえずみんなで一緒に作るって事でいいか?」

「うん!」

「はい!」


 いつもなら零の言い分にも闇華さんの言い分にも何等かの突っ込みを入れているところなのだが、今日に限ってはそんな気力はなく、結局みんなで作ろうという事で俺達はキッチンへ


「飯は何にする?」

「何がいいかしらね?」

「何にしましょうか?」


 キッチンへとやって来た俺達は調理台の前で今日の飯を何にするかを考えていた。時刻は十三時半だが、これからの事を考えるととてもガッツリ食う気分じゃない。だからと言ってアッサリ過ぎるのもどうかと思うけど


「俺はガッツリって気分じゃないから軽いもので十分だぞ」


 今日の気分はガッツリって言うよりもアッサリという気分だ


「じゃあ、ホットケーキにでもしましょうか?」

「そうですね。ガッツリ系ではありませんが、お腹には溜まるでしょうし」

「そうだな」


 と、いう事で飯はホットケーキに決定。なのだが……


「なぁ、俺は本当に何もしなくていいのか?」


 俺は現在、零と闇華さんの命により二人の様子をただ見守っている状態だった


「ええ、さっきみたいに不安とまでは言わないけどそれでもお世話になっているお礼としてアタシ達が作るわ」

「そうですよ。私も火を使わせたり包丁を持たせるのは不安とまでは言いませんが、お世話になりっぱなしは嫌ですからこれくらいさせてください」


 零も闇華さんも『お世話になっている』と言っていた。だが、それは勘違いだ。出会い方はどうであれ俺は二人を拾った事に変わりはない。あくまでも客観的に見れば俺が二人を世話した事になるが、元々はデパートの空き店舗だったここに一人で住んでも広すぎて持て余すから居候を許可しただけだ


「別に俺は二人に同情してここに住まわせているわけじゃないんだよなぁ……」


 ホットケーキを作っている零と闇華さんの後姿は年相応の女の子を感じさせる。そんな二人の背中に向かって俺は自分の思いをそっと呟く。別に同情で住まわせたわけじゃない。広すぎるこの場所に俺一人だと部屋を持て余すから住まわせただけだ。だから、恩なんて感じる必要なんてない


「恭!アンタがアタシ達に同情して住まわせたんじゃないと思うのは勝手だけど、アタシ達がアンタに恩を感じるのも勝手でしょ」

「そうですね。零さんは恭君に拾われてなければ今頃父親せいで借金取りから逃げ回る生活を送っていたでしょうし、私は私で警察に補導され、親戚の家に逆戻りでした……ですので恭君には感謝してもしきれません」


 俺は感謝してほしくてしたわけじゃない。さっきは部屋が広すぎるからとか言ったが、本当はただの成り行きだ。家の前で座っていた零は絡まれたから拾い、闇華さんも闇華さんで駅で絡まれ大衆の目を避ける為に家へ連れ込んだ。それだけだ


「二人が俺に感謝するのは勝手だ。それに、闇華さんを住まわせる時にも言ったと思うが、ここにいたいのなら好きなだけいろ」

「うん!」

「はい!」


 俺の呟きはてっきり聞こえてないものだと思っていた。だが、案外聞こえてるもんだな……まぁ、二人を拾った事を後悔してないからいいか。少なくとも目の前にいる二人を俺は見捨てたりなんかしないのだからな


 俺の何気ない呟きが案外聞こえてるもんだなと実感した料理タイムが終了し、昼飯とは言えないであろうホットケーキを完食した俺はさすがに零と闇華さんに洗い物をさせるわけにはいかないという事で現在、一人キッチンにて洗い物と格闘している最中だ


「零と闇華さんを拾ってから一週間か……住人は増えたが、それでもまだ広いな」


 洗い物をしている最中、ふと住人の人数と建物の規模があまりにも反比例しているのではないかと思ってしまった。元はデパートだったこの建物。それを爺さんが買い取り、俺が住めるように改装してくれたのは感謝している。が、広すぎる


「広すぎるからと言って無差別に住人を増やしてもなぁ……」


 広すぎるから住人を増やす。広すぎる建物を持て余していたとしてもそれだけはしたくない。ここに住むのに条件なんてものは存在しないが、だからと言ってただ人を増やせばいいというものではない


「人を増やすのもそうだが、やっぱ俺達が学校に通うようになった時に誰がこの家で家事をするかも問題か」


 学校に行ってない今は家事を分担すればいい。じゃあ、学校に通うようになってからは?そこが問題だった


「どうしたもんかねぇ……」


 零と闇華さんが抱える問題が解決したのに俺は自分で勝手に問題を増やしてバカみたいだと自己嫌悪しながら洗い物を片付けていった。



 洗い物を片付け終わった俺がリビングに戻ると零と闇華さんが正座で待ち構えていた


「何だよ?二人して畏まって」


 一週間程度の付き合いだが二人が正座して待っている事がおかしい事はすぐに気づく


「恭、お願いがあるの」

「お願い? 何だよ?」


 正座して待ってるくらいだ。こりゃ相当なお願いに違いない


「アタシ達を外へ連れてって!」


 前言撤回。くだらないお願いだった


「外へ連れてくのは構わないが、何で正座? 普通に頼めばよくね?」


 外へ連れて行くくらいなら正座なんてしなくても普通に待ってればいい。なのに何で?


「恭君、私達はただ外へ連れて行ってほしいわけではありません」

「ほう、じゃあ、何の為に連れてってほしいんだ?」


 真剣な眼差しで俺を見る闇華さん。そんな目で頼んでくるんだから何か重要な理由なんだろう


「私達、スマホが欲しいんです!」


 本日二回目の前言撤回。本人達には悪いが、アホみたいな理由だった


「あー、うん、スマホなら家具と一緒に送られてきた名刺があるからそれを持って買いに行こうな」


 家具と一緒に爺さんの友達の名刺が送られてきた。それを持って行けばスマホは何とかなる。別に真剣な顔して頼む事でもなかろうて


「何よ! ノリが悪いわね!」


 いや、ノリが悪いと言われましても……


「今日の俺はそんなノリに付き合う気力がないんだ、勘弁してくれ」


 婆さんのせいとは言わないが、何故か今日の俺は零と闇華さんが作り出す茶番劇に付き合う気力が不思議と沸いてこなかった


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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