高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

恐怖心に支配された茜に俺は提案する

公開日時: 2021年2月11日(木) 23:54
文字数:3,913

 電話を切り、口に出すのが恥ずかしいアパート名を写真に収め、すぐさま茜の元へ戻り────


「ぐれぇぇぇぇぇ~」


 いきなり抱き着かれた。今回ばかりは状況が状況なだけに零達は顔を真っ青にしている。目くじらを立てられる事がなく、助かったが、加賀よ、見てないで俺がいない間の事を説明してくれ


「ちょ!? いきなり何だ!?」


 女性に抱き着かれる行為自体は慣れていて驚く事ではない。問題は俺がいない間に何があったかだ


「どごいっでだの~! ごわがっだぁ~!」


 本当に何があったんだよ……俺が降りる前はここまで酷くなかっただろ?それが戻るとどうだ?涙で顔はぐちゃぐちゃ、涙声だから辛うじて何て言ってるか解かるレベルとビフォーアフターの差が激しすぎる


「電話しに下に降りてたんだよ。それより、何で茜は号泣してんだよ?」


 鍵が開かないと知った時の茜はへたり込んで泣きながら震えていただけ。零達も嫌悪感は拭い切れずとも顔が真っ青ではなかった。少し離れた間に何があればここまで状況が変わるのか誰か教えてくれ


「あー……クソガキ?これなんだけどよ……」


 頭を掻き、気まずそうにしている加賀が渡してきたのは詰め込まれていた封筒の中の一通。しかも開閉済みのやつ


「これがどうかしたのか?」


 渡された封筒には差出人と住所はなく、切手も貼られていない。表面にカタカナで『タカダ アカネ サマ』と赤字で書かれているだけだ。


「お前が電話している間に……な?零ちゃん達がその封筒をみんなで見れば怖くない!って言って開けたんだけどよ……何て言うか……その……」


 加賀にしては珍しく歯切れが悪い。真っ赤に染まったドア見ても冷静だったのにどうした?


「何だよ?」

「ワリィ、これ以上俺の口からは言いたくねぇ……直接確かめてくれ」


 加賀は俺から顔を逸らし、一通の開封された封筒を渡してきた。


「ったく、どうせグロい写真とかキモイ自撮り、あるいは隠し撮りだろ?いちいち大袈裟な……」


 封筒を受け取り、中を見ると出て来たのはグロい写真や自撮り写真といったものではなく、ストーカーの典型という意味じゃ同じではあるものの、別のベクトルでヤバいものが出てきた。解かりやすく言うと手紙だ。そこに書かれていたのは……


 “タカダ アカネ オマエ ヲ コロス”


 という謎めいた脅迫文。使用されている封筒、紙が黒、赤いペンか何かで書かれている辺りが恐怖心を煽り、薄気味悪さを演出。文字をカタカナで書いてるところが犯人の異常性を物語っていて男の俺ですら狂気を感じてしまう程度には酷い。


「ここまで来ると病気だ……」


 今の時代メールがあるんだからとかそういう問題じゃない。高多茜という一人の声優への異常なまでの執着心……。彼女のどこが気に入らなくて犯人は執着してるんだ?


「そんなの見りゃ分かる。クソガキ、お前はこれを見て犯人が正常な奴だと本気で思っていたのか?」

「いや、全然」


 正常な人間ははみ出るくらい手紙を詰め込んだりはしない。もしも正常な人間が異常な奴を装ってるのならかなり陰湿だ


「グレー、私、怖い……」


 茜が号泣し、零達が顔を真っ青にしてた理由は今ので分かった。でも、どうする?茜が引っ越したとしてもこういう奴はすぐに新しい住まいを特定し、同じ事を繰り返す。で、また茜が引っ越し、特定される。これじゃ負の連鎖は止まらず、彼女の方が先に参ってしまう


「大丈夫。俺達が付いてる」

「グレー……」


 俺は茜を安心させるため頭を優しく撫でる。その実、内心はどうしたものかと悩んでいた。炎上関係なしに特定される奴ってのはどんな事をしていても特定されてしまい、何をしたところで無駄。茜がどこへ逃げようとも意味はない


「怖いのは分かったから離れてくれ。じゃないと話も展開も前に進まない」

「うん……」


 不安そうにしている茜に一端離れてもらい、ポケットからスマホを取り出し、カメラを起動させようとした矢先、爺さんからメールの受信通知が。開いて中を確認すると……


 “遅い! 今からそっちへ行くから待っとれ! ちなみに、お前の位置情報はGPSで常に監視しておる! 隠れても無駄じゃ!”


 と、デートの待ち合わせに遅刻した彼氏を迎えに行く彼女とストーカーを足して二で割った感じのメールが爺さんから届き、俺は……


「普通に気持ち悪いな」


 驚きもせず、メール画面を閉じるとスマホをポケットへ押し込むとこの場にいる全員へ爺さんがここへ来るって事と時間指定がなかった事を伝え、このまま待つか、車へ戻るかで多数決を取った結果────


「さすがにこのクソ暑い中、外で待ってようって言う奴はいねぇか……」


 満場一致で車に戻るが可決。夏の真っ昼間に何もせず、外にいたいという奴などこのメンバーの中にはいなかった。というわけで俺達は車内にいるのだが……


「「「「「「「「うだ~……」」」」」」」」


 零達はだらけ切っていた。


「お前ら……」


 だらけ切っている彼女達に溜息しか出ない俺と……


「嫁と娘に会いたい……」


 遠い目をし、家族を求める加賀。暑さというのは時としてここまで人の人格を崩壊させるのか……いい勉強になった


「これが異様な光景を見て怯えていた女共と冷静でいた男の姿だとは思えん……」


 つい先程まで零達女性陣は染められたドアと謎めいた脅迫文に怯え、加賀は俺達の中じゃ最年長ともあり、常に冷静だった。それが今はどうだ?女性陣は糸が切れたようにだらけ切り、加賀は家族欠乏症。ここへ戻るまで五分と掛からなかったのに……。俺はキャラ崩壊を起した零達を見ながら五分前を振り返ってみた




 五分前────。爺さんからの気色悪いだけのメールを確認し、スマホをポケットへ放り込んだ後


「恭、どうしたの?」


 不安を隠し切れない様子の零が声を掛けてきた


「別にどうもしねぇ。ただ、爺さんがこれからこっちに来るらしいっつーだけだ」

「恭のお爺さんが?何で?」

「知るか。事情を話したらここへ来る話になったんだよ」


 本当はこのアパートの管理が爺さんの会社で俺の位置情報を常にGPSで監視されている事を隠し、何も知らぬ体で事情を話したら来る流れになったと零には言っておく。アパートの名前なんか知られた時には……考えたくもない


「そう。それで?これからどうするのかしら?」

「どうするって、とりあえず闇華達に爺さんが来る事を伝えるのが先だろ。茜に関してはここに住み続けるにしても引っ越すにしてもドアの修理は必要になるんだからよ」

「そりゃ……そうでしょうけど……あの様子じゃ……」


 零の視線の先にいるのは恐怖心を未だ拭いきれてない様子の茜とそれを慰めようと声を掛け続けてる闇華達。


「移動どころか話すら無理か……」


 闇華達に反応を返してないところを見ると茜は自分の世界へ入り込んでいる可能性が高く、多分、同じ言葉を何度も繰り返し呟いてるに違いない。


「ええ。アタシも恭が戻ってくるまで声掛けてたんだけど、茜ったらブツブツ言うだけで返事を返さないのよ……」

「はぁ……こりゃ、爺さんが来る前にこれからどうするかを俺達で勝手に決めて結果を突き付けるしかねぇな……」


 恐怖心に支配された人間を元に戻すのは並大抵の事じゃない。多大なる労力を消費し、時間も掛かる。元に戻せたとしても人によってはトラウマが残り、ふとした時に出ないとも限らない。ならどうするか?高校生の俺に出来るのは彼女を拾ってやる事くらいだ


「恭……」

「分かってるよ。ったく……」


 零が言いたい事は言われなくても解かるし俺もそうしようと思っていたところだ。結論が出た俺は未だに怯えている茜の元へ行き、彼女を見下ろす。そして……


「恭君?」

「恭ちゃん?」

「俺の家へ来い」


 戸惑いながらも俺の名を呼ぶ闇華と東城先生を無視し、家へ来るように言った


「ぐ、グレー……?」


 見上げる形で上げられた茜の顔は涙と鼻水でグチャグチャ。オマケにメイクも。この顔はとてもファンに見せられるような顔じゃないぞ……


「もう一度言うぞ?怖いなら俺の家に来い。家なら零達を始め、大勢の人がいる。駅だって近いし仕事に行く分には不自由はないはずだ。このまま一人で暮らし続け、引っ越しを繰り返すくらいなら俺の家にいた方が何百倍もマシだろ?どうだ?」


 あくまでもこれは提案であって命令でも強制でもない。どうするかは茜次第だ


「グレーは私を守ってくれるの?」

「守るっつーか、出来る限りの事はする。絶対に守り切れるって保証はどこにもねぇけどな」

「本当?」

「ああ。それに、この事態をどうにかする対策も考えてある。損はさせないぞ?」


 俺が思い付いた対策に関しては茜達の協力が必要になって来るのは内緒だ。それは爺さんが来てから話しても遅すぎるという事はない


「グレーが守ってくれるなら行く……」


 安堵の笑みを浮かべた茜は差し伸べた俺の手を取り立ち上がる。でも……


「そうかい。なら、さっさと顔拭け。話したい事もあるし何より人前に出れた顔じゃない」


 涙と鼻水でグチャグチャになった顔じゃマズい。性別、職業問わずな。だから俺は顔拭けって言ったんだけど……


「恭くん、一言多いよ」


 琴音に怒られてしまった


「うっせぇ。それより、琴音は茜に何か拭くものを貸してやれ」

「分かってるよ」


 琴音に連れられ、茜はフロアの端へ移動。その間、俺は……


「恭、アンタが考えた対策とやらを聞かせてもらおうかしら?」

「恭君! また一人で危ない事をしようとしているんですか!?」

「恭ちゃん、教師としてそれは擁護出来ない」

「恭クン、闇華ちゃんの言う通りなら今回ばかりは私も容赦しないよ?」

「義姉として義弟の無茶は見過ごせないよ!」


 零達に尋問されていた。で、加賀に助けを求めたんだが……


「日頃の行いが悪いんだから仕方ない。諦めろ」


 アッサリ切り捨てられてしまった

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