高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

家なき子でも有名人と一般人じゃ大きく違うという事を痛感した

公開日時: 2021年2月6日(土) 09:15
文字数:4,145

「とりあえず調べてみるか」


 爺さんとの電話が終わり、いつもならスマホをそのままポケットへ放り込むところだけど今回は違う。職業が職業なだけに知らせました、ハイ終わりじゃ済まない。俺は某聞いたら何でも教えてくれる先生に盃屋真央と入れ、検索をかけた


「盃屋真央っと……」


 見た感じ東城先生や琴音と同じ歳だから仮に彼女が声優だったとしても出演作は大して多くない。そう考えるのは声優という職業を知らない一部の人間だけ。多少なりともアニメや声優を知っている俺からすると彼女が本物の声優であるのは確定。知りたいのは一人の女性声優の為に事務所の社長が動く理由だ


「やっぱ基本的な事しか出ないよな……」


 盃屋真央と検索のトップに出てきたのは案の定基本的な事。オフィシャルページ、某何でも大百科的なサイト、名前、イベントに出演した時の画像(または動画のスクリーンショット)くらいで彼女が金欠に陥った挙句、家なき子になった理由はなかった。俺としては人気声優で出演作が多いのに何で金欠になるんだって話なんだけど


「最初から期待してなかったけど、これだと探しようがなぁ……。しゃーない、検索ワードを変えるか」


 普通に声優の名前を入れたところで基本情報しか出てこないというのは分かりきっていた。基本情報の中に何かしらの騒動に巻き込まれたニュースが紛れ込んでるのを期待したが、世の中欲しい情報がすぐに出てくるほど都合よくはない


「盃屋真央 ストーカーっと」


 他人の心の闇になど微塵も興味なんてない俺だけど今回ばかりはそうも言ってられない。あの爺さんが何としてでも守り抜けと言い、事務所の社長が動く状況だ。事態はかなり重たいものと見てまず間違いない


「世の中には暇な奴が大勢いるんだな」


 盃屋真央 ストーカーと入れて検索したら出るわ出るわ、無職の三十九歳男性逮捕やら、二十八歳会社員逮捕など一人の女性声優を追っかけて人生を狂わせた人間の末路に関する情報がごっそりと出てきた


「何が気に入らないのやら……」


 三十九歳の方はストーカー行為、二十八歳会社員の方は脅迫メール。しょうもない……。でも逆に盃屋真央という人物の何がこの二人をこんな行動に移させたのかが気になった。現段階で考えられる理由としては単なるアンチか盃屋真央に深い仲の男性がいるくらいしか思いつかない


「本人に直接聞くか」


 俺は開いていたブラウザを閉じ、スマホをポケットにしまい部屋に戻った



「ただいま」

「おかえりなさい、恭」


 部屋に戻ると珍しく零が出迎えてくれた。他の連中はゲームをしたり、盃屋さんと何やら話をしていたりと各々自由な時間を過ごし、楽しいひと時を過ごしているようだ


「ただいま……。はぁ……」


 彼女達が悪いというわけじゃないから苦言を呈する事はしないが、知らぬが仏と言ったところか、これから来る人物達や現状の話をしないといけないのかと思うと頭が痛い


「どうしたの?溜息なんて吐いて」


 そんな俺を心配そうな顔で覗き込む零なのだが、彼女もまた現状何が起こっているのか知らない人間の一人。本当にどうしたものか……


「あー、かなり面倒な事になったなと思ってな」


 家なき子に遭遇するのはもう慣れた。しかし、今までの家なき子が抱えていたものは借金や親戚とのトラブル、会社が倒産と人的被害があれど大抵は爺さん婆さんが何とかしてくれた。情けない話だけどな


「面倒な事って真央の事?連れてきちゃマズイ人を連れてきちゃったとか?」


 その程度ならどれだけよかった事か……


「それならどれだけよかった事か……」

「何よ?じれったいわね!」


 ハッキリしない俺の態度に零は業を煮やしたようで声を荒げる


「説明してやっからちょっと来い」

「ちょ、ちょっと!」

「いいから」


 楽しいひと時を過ごしている闇華達を見るととても現状を説明する気にはなれず、俺は零の手を引き部屋から出た


「ちょ、ちょっと! 何なのよ!」


 部屋から出て俺はすぐに掴んでいた零の手を離す。異性と手を繋ぐというのは大変魅力的なのだが、この時期だと手が汗ばんで気持ち悪い


「いきなり引っ張ってきたのは悪かったと思ってる。けどな、現状そうも言ってられないんだ」


 手を引っ張ってくるのと現状に因果関係はまるでないのだが、これからの話をする上で手を引いてきた事と現状を結び付けておく必要がある


「は?アンタ何言ってんの?」


 零ならこう反応するよな……


「零には回りくどい言い方は通用しないから単刀直入に言うが、闇華達が拾ってきた盃屋真央はストーカー被害に遭ってる」

「はぁ!?」


 同居人が拾ってきた人がストーカー被害に遭っていると言われて驚く気持ちは十分理解出来るが、声がデカいぞ零。つか、お前も聞いてただろ


「声がデカい。驚く気持ちは解かるが、落ち着け。俺だって爺さんに電話して初めて知って状況を掴めてないんだ」


 同居人が増えた報告したらストーカー被害に遭ってました。本人の口からストーカー被害に遭っているという話は聞いていたものの、事務所の社長が動く事態ともなれば初耳と言っても過言ではない


「いやいや! え?何?あの話マジだったの?」

「らしいな。もしかしなくても信じてなかったのか?」

「当ったり前でしょ!闇華達がいない時にも言ったと思うけどアタシは最近になってアニメを観始めたしアイドル声優なるものを知ったのよ?アニメはともかく、アイドル声優がどういうものかすら把握してないのにストーカー被害とか信じられるわけがないでしょ!」


 今の話から零が俺に拾われる前までどんな生活を送っていたのか想像するのは容易だった。零の生活苦は過去の話だからいいとして、問題は今だ


「アイドル声優についてはこれから来る人に説明してもらうとしてだ、盃屋真央を取り巻く現状はヤバいって事だけ言っとく。何しろあの爺さんが何としてでも守り抜けって言うほどだからな」

「あ、アンタのお爺さんがそんな事を……、それほどヤバい事態なのね……」

「ああ。実際問題、盃屋真央のストーカー、脅迫に関しちゃ逮捕者が出てるくらいだ」


 声優然り、芸能人然り、絶対に自分だけのものにならない奴を脅迫し、ストーカー行為を行う意味なんて俺には理解不能だ。絶対に自分のものにならないんだから


「あ、あの江戸時代からタイムスリップしてきたような娘が……」


 あ、うん、それ俺も思った


「それに関しては同意する。んで、これから爺さんと盃屋真央が所属している事務所の社長がここに来るらしい」

「な、何?それほどヤバい状況なの?」

「らしい。俺も軽く調べただけだから現状での実害がどれくらいなのか、そもそもが何でストーカーする奴や脅迫する奴が出てきたのかすら知らないから何とも言えん」


 それ以前に俺は盃屋真央がどんな人物なのかすら知らない。知ってるのは名前だけだ


「あ、アンタねぇ……」

「仕方ないだろ?買い物から帰って来たと思ったら家なき子……、それも人気声優拾ってくるとは思ってなかったし、人気声優なら金だってそれなりに持ってるだろうに何で飯すら食えなくなるほど金欠になるのかと分からない事だらけなんだからよ」


 ついでに人気声優が今までよく保護されずに放置されたなと言っておこう


「そりゃアタシも変だとは思ったわ。仕事を多くもらってる人が金欠になるだなんておかしいもの」

「だろ?だとしたら事務所が対策を講じなかったとしか考えられないが、一人の声優の為に社長が動くって事はその線は薄い。そうなってくると他に理由がある。その理由が何なのかだが、その前に……」

「その前に?」

「爺さん達が来るまで暇だし暑いからプールだな」

「恭、アンタには危機感というものがないのかしら?」


 零は蔑むような視線で俺を見る。危機感がないと言われても仕方ないのだが、暇な上に暑い。こんな状態では纏まる考えも纏まらない


「根詰めて考えていたって纏まるモンも纏まらねぇだろ。時には気分転換も必要なんだよ」

「あのねぇ……」


 こめかみに手をやる零を余所に俺はプールへと歩き出し、数歩のところで立ち止まって────────


「零は行かないのか?」


 と尋ねた


「行くわよ!」


 人に危機感がないのかと言ってきた零も暑さには敵わなかったようで俺達はプールへ。闇華達?彼女達は談笑してると思って声は掛けてない




 海パンと水着を用意し、着替えを済ませた俺達はプールへと来ていた。基本家から出たくない俺でも夏にプールと海は欠かせない。市民プールと海水浴場は人が多いから行きたくないけど


「子供用じゃない普通のプールが家の中にあるって最高だな」


 来たばかりの時は家の中にプールなんて作って何の意味があるんだと思った。それが今となってはどうだ?夏の暑い時期にほぼ貸し切り状態でプールに入れるだなんて最高じゃないかとそう思っている


「そうね。貸し切り状態って言うのがまた最高よね。それはさておき、恭」

「何だよ?」

「アタシに何か言う事はないかしら?」


 零に言う事……、はて?何かあったか?そうだな……、風呂に入ってる時と着てる水着が違うけど……それの事か?


「言う事ねぇ……、言う事って言われても零の水着姿はいつも通り似合ってるからとくにねーな」


 ラブコメの主人公は女子が髪型変えたとか、水着を変えたのに気づかず酷い目に遭うというのが王道になりつつある。なぜか?それは女子側からすると気づいてほしいポイントに気がつかないからだ。対して俺は同居人達の水着姿なんて見慣れてしまってるから特にドキッとする事などない。新しい水着にしたと言われたところで似合ってる以外の感想など思いつくはずもない


「そ、そう……、あ、ありがとう……」


 そんな俺の安直な感想でどうして照れるんですかねぇ……零さん


「おう。さて、んじゃ適当に準備体操でもすっか」

「そうね。怪我でもしたら大変だもんね」


 準備体操を終えた俺達はいざプールへダイブ!


「かぁ~! 暑い日はこれだなぁ~!」

「恭、親父臭いわよ?」

「うるせぇ、これから面倒事が待ってるんだ、こうでも言わないとやってられねぇんだよ!」


 これまでの騒動ならいざ知らず、盃屋真央が遭遇している騒動は不特定多数の人間が引き起こしたものだろう事が予想され、オマケに彼女が過去にした事を洗いざらい調べなきゃならない。そんな事務作業的なものが待っているんだ、こうでもしなきゃやってられない。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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