高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

俺は琴音に休暇を言い渡す

公開日時: 2021年3月27日(土) 23:48
更新日時: 2021年3月28日(日) 16:56
文字数:3,950

公園を徘徊するという妙な夢から覚め、時間を確認すると十八時。一般家庭だとちょうど飯の時間に差し掛かる頃だ。俺も腹が減った。だが、飯の前にやる事が一つ────


「なぁ、いい加減機嫌直してくれよ……」


 零達の機嫌を直す事だ。目を覚ますと零達に取り囲まれていた。意味不明だろ? 言ってる俺も自分で何を言ってるか理解出来ない。理由は何となく心辺りはある。だからといって取り囲む必要がどこにある? ないだろ? 零達の中には神矢想子もいるってんだからいつもより余計にめんどくさい


「機嫌直してくれよ? アタシ達を置いてさっさと帰って来た身分で随分と偉そうね。それに何? 藍には唇を許したのにアタシ達にはキス一つしてこないところも気に入らないわ」


 零の一言に他の女性陣は無言で頷き、蒼と碧は……


「一歩前に進んだかと思えばこれですか……。恭さん……」

「ちょっと見直したアタイがバカだった……」


 二人共呆れたと言わんばかりに肩を竦める。やったのは俺であって俺じゃない。なんて言い訳は通用しないよな……


「それにはちょっとした事情があったんだよ」


 頬を掻きながら言葉を探す。霊圧と入れ替わってましたとはとてもじゃないが言えない。言ったら最後、どんな目に遭わされるか……


「事情? 事情って何ですか? お義兄さん」

「あ、いや、そ、それはだな……」

「それは?」

「秘密だ。俺にも色々あるんだよ。藍にキスした事も含めてな」


 俺は闇華にだけじゃなく、全員に言い聞かせるように言った。彼女達の悪いところは人の深い部分にまで踏み込もうとするところだ。知らない事は確かに怖い。知らないからこそ知りたい。気持ちは理解出来ないでもないが、人には言える事と言えない事がある。例えば仕事の事なんかがそうだ。個人情報はもちろん、会社から固く口留めされているような事は家族であっても話せない。万が一バラされでもしたらと思うと家族だったとしても言えない。って考えると好きな相手であっても全てを知りたいだなんて傲慢なんだと思う。しかし、秘密を作る行為を許さない奴が一人。そう……


「グレー、色々って何?」


 人気声優の一人。高多茜だ


「色々は色々だ。何? お前ら俺の下事情聞きたいの? 止めろよ……恥ずかしい……」


 下手に誤魔化すと拗れるのは前回で経験済み。俺は学習する男だ。今回は聞いた方が恥ずかしくなる方向に話を持って行ってみた。これならどうだ?


「恭さん……マジですか……」

「ヘタレ……その年で嘘だろ……」


 蒼と碧ドン引きありがとう! 双子にドン引きされたが、女性陣が顔真っ赤にして黙ったからそれでよし!


「事情が分かったところで、次は俺からの質問だが、お前ら自己紹介は済んだのか?」


 勝手に帰宅した話を強引に終わらせ、俺は話題を強引にすり替える。キスの話なんてされてみろ。キスした藍にもしてない零達にも問い詰められるか実行させられるに決まっている。ならば俺から話題を変えるのが吉だろ?


「恭クンがグースカ寝てる間に済ませたよ。とは言っても蒼クンと碧ちゃん、真央さんと茜さんにだけだから一時間も掛からなかったよ」

「そ、そうか……それは何よりだ。さて……」


 話が終わり、起き上がろうとした。しかし……


「恭君、起きていいって言ってないよ?」


 琴音に押さえつけられ、起き上がるのを阻まれた


「話は終わったんだから起きてもいいだろ? 腹減ったしよ」

「まだダメ。恭君にはしてもらわなきゃならない事があるんだから」

「してもらいたい事?」

「藍さんにキスしたように私達にもキスして。もちろん、唇に」


 マジでか……。できれば忘れててくれた方が俺的にはよかったんだが……


「それって今じゃなきゃダメか?」

「当たり前だよ。ここで明日でもいいって言うと恭君絶対にしてくれないでしょ?」


 さすが琴音。そこそこ長い付き合いだけあって俺の事よく理解してらっしゃる。明日になったら忘れたフリ作戦が通用しないとは……


「っつってもホラ、俺は寝起きだから口が臭い。それにだ、寝起きの口内にはばい菌がうようよいるからちゃんと歯磨きとかしねぇと……な? だから一回風呂に入らせてくれ。頼む」


 女子のような言い訳をし、こうべを垂れる俺。言い訳も姿も見苦しい。特に風呂の下り。キスするだけなのにどうして風呂に入る必要があるんだと突っ込みたくなる


「お風呂に入るのは構わないけど、私達も一緒に入っていいよね?」

「私達ってのは……」

「私、零ちゃん、闇華ちゃん、飛鳥ちゃん、藍ちゃん、由香ちゃん、真央さん、茜さん、想子さんだよ」


 ですよねー。蒼と碧、センター長を除く女性陣全員に決まってますよねー。センター長は仕事でいないから除外されんのは当然で、蒼と碧はよく分からん


「えーと……」


 俺は目を泳がせ、考える。一人に何かして他の奴にはしないっつーのは不公平だ。だが、全員同時っつーのも女好きみたいに見られて嫌だ。どうしたものか……口臭と体臭を言い訳に逃げられると思ったんだけどな……当てが外れたか……


「恭、東城先生がよくてあたし達がダメだなんて言わないよね?」

「恭殿、拙者信じてるでござるよ」

「グレーは全員平等に扱ってくれるよね?」


 由香、真央、茜が上目遣いでこちらを見つめてくる。平等に扱いたいのは山々だが、同時はどうなんだ? 夏休みのデコにチューじゃねぇんだぞ?


「当たり前だろ。だけどよ、お前らはいいのか? 藍にキスした時は他に人がいても絶対に気付かれない状況だったり二人きりの部屋だった。前者はともかく、後者はそれなりにムードがあった。藍以外の連中はムードのない状態でキスしたいのか?」

「「「「「「「「うっ……」」」」」」」」


 俺の質問に藍以外の女性陣は苦虫を噛みつぶしたような顔する。藍にキスした時もムードがあったのかと聞かれると答えに困るが、黙っておこう。言ったら藍も参戦してきそうだ


「つー事で、全員平等にキスはする。だが、今日じゃない。分かってくれないか?」


 複数の女性とキス。チャラ男か女にだらしないヤツがする行動だ。言ってる事も浮気男のそれに近い。俺だってなるべくなら言いたくない。一日で複数の女性とキスだなんて恥ずかしくて死ぬ


「分かったわよ。アタシは今夜でいいわ」

「なら私は日付が変わった瞬間を予約しますね」

「あたしは明日の朝!」

「拙者、出勤前を所望するでござる!」

「私は登校中」

「なら私は明日の昼にしよっかな」

「私は出勤中ね!」

「想子はお風呂の時を希望します!」


 零が今夜で闇華が日付が変わった瞬間か……どっちも夜だ。由香が朝で真央が出勤前、飛鳥が登校優か……朝のクソ忙しい時間に三人の女とキスするだなんて勘弁願いたい。琴音が昼で茜が出勤中……うん、分からん。最後の想子だが……お前そんなキャラだったか? 堅物キャラどこに捨ててきた?


「あのなぁ……」


 突っ込みが追い付かず、溜息が出る。キスするとは言ったよ? 藍にして他の連中はナシとか後が怖いから。けどな、具体的な時間帯までは指定してないぞ?


「いいでしょ? アタシはお兄ちゃんと過ごす夜が好きなのよ」

「私もです! 夜はお義兄さんと一緒にいたいんです!」


 零と闇華が俺と夜を共にしたいとは意外だった。理由は分かんねぇけど、要望が出た以上、答えるしかない。情けない俺を好いてくれた物好きな女の子達のためにもな


「分かったよ。零と闇華だけじゃなく、全員の要望に応える」

「「「「「「「「うん!!」」」」」」」」


 零達が満面の笑みで頷く中、寂しそうな顔をする女性が一人。藍だ


「藍を仲間外れになんかしないから安心しろ」

「うん!」


 藍の顔が寂しそうな顔から満面の笑みに変わる。難を逃れられたようで何よりだ




 あのキス騒ぎから一夜明け、今日は金曜日。普通なら学校に行ってるのだが、スクーリングの代休という事で今日、明日、明後日、明々後日は休み。四日間のスクーリングだったから休みも四日間とか……星野川高校はどうなっているんだと文句の一つも言いたくなるが、休みなのは灰賀女学院も同じ。いつもよりも若干遅めに起きた俺は周囲を確認。藍達社会人連中の姿はない。零達はまだ寝ているみたいだが、琴音の姿が見えない


「どこ行ったんだ?」


 理由は分からんが、琴音は管理人として俺達のスクーリング会場に来ていた。管理人として働いていたのなら彼女にだって休息が必要だと思いながら身体を起すと俺はキッチンへ。琴音の事は気になるが、今は喉の渇きを潤したい


 キッチンへ入ると肉の焼けたいい匂いが鼻孔を擽る。確認するまでもなく、琴音がフライパンを振っていた


「少しは休めよな……」


 彼女は社会人でここの家政婦みたいな感じだから仕事をするのは当然と言えば当然だ。だが、あくまでも家政婦みたいな感じであって完全な家政婦じゃない。琴音にだって休息は必要だ。だからこそなんだろう。働く彼女に不満にも似た言葉が出てきたのは


「あ、恭くん、おはよう」


 俺に気付いた琴音が柔和な笑顔を向けてきた


「あ、ああ、おはよう。何作ってるんだ?」

「焼きそば。今日は凝ったもの作る気になれなくてさ……寝起きの恭くん達には悪いけど……」


 シュンと申し訳なさそうな顔をする琴音。確かに寝起きに焼きそばは少しキツイ。脂っこいものだからな


「別にいいさ。詳しい理由は分かんねぇが、琴音は四日間、あの広い館の仕事を一人でこなしてきたんだろ? 今日くらい休んでも俺はもちろん、零達だって怒りはしねぇぞ」

「そうかもしれないけど、私は一応、ここの家政婦だからね。休んでなんかいられないよ」


 そう言って笑う琴音。俺には彼女がどこか無理をしているように見えた。無理をしているようには見えるが、琴音は休めと言われて大人しく休むような女じゃないだろう。だから……


「そうかい。なら雇い主として琴音。お前に休暇を申し渡す」

「え?」


 突然の休暇に琴音は目を丸くするだけだった

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