蒼の落としていった爆弾を処理し、事なきを得た後、俺達は朝食を摂った。そして、現在、俺達は大絶賛朝風呂を堪能中だ
「蒼、昨日の勝負で誰一人として止めに入ってこなかった理由を聞こうか」
肩まで湯に浸かり、隣にいる男の娘・蒼に昨日の勝負で誰も止め入ってこなかった理由を尋ねる
「そりゃ、ボクが前もって勝負を途中で止めたら恭さんの本心は永久に聞けませんよって言ったからに決まってるじゃないですか」
何を当たり前の事をとでも言いたげな顔で平然と乱入者が出てこなかった理由を語る蒼。それを聞かされた俺は反論の余地なしで納得せざる得なかった
「よくもまぁ零達や親父達が従ったものだ」
「そりゃ何も言わず自分を拾ってくれた恭さんから替えの利く代用品とか出てけとか言われて傷ついてるところに本心が聞きたかったらボクのする事を大人しく見ててくださいって言えばイチコロですよ」
コイツが将来女に刺されないか心配になってきたぞ……
「お前、その知恵は使い方を間違えると女に刺される事になるだろうから気を付けろよ? マジで」
「そうします♪」
「「はっはっは」」
俺と蒼は互いに笑い合う。男同士の語らいというのも悪くない。悪くないのだが……
「ところでよぉ……」
「何ですか?」
「何で零達も一緒なの?」
「そんなの彼女達が付いてくるってゴネたからに決まってるじゃないですか♪」
「「はっはっは」」
いや、はっはっはじゃないからね? さっきも今も現実が受け入れらないからとりあえず偉い人みたく笑ってみたけど、実際は笑えないからね? 違和感しかないからね?
「いやいや、はっはっはじゃねーからな? 碧と蒼は姉弟だから納得できたとしても俺と零達は兄弟でも何でもないからね?笑って誤魔化せると思ったら大間違いだからな?」
幸いな事は俺達も零達も水着着用だって事だけだ。つか、女湯があるんだからそっちに行けよ!
「いいじゃないですか。全員水着着用なんですから」
「よくねーよ! そもそも何でこうなった?家はいつから相談事とかがある時は全員で風呂に入るって決まりになったんだよ!?」
基本的に家はこれと言った決まり事はない。男湯女湯だって適当に決めたくらいだ
「ボクが知るわけないでしょ。って言うか、瞳を潤ませ、上目遣いで見つめられ、不安そうに『だめ……?』って聞かれて恭さんは断り切れるんですか?」
蒼め……! 俺が爺さんの孫だって事を分かった上で聞いてんのか?
「無理だ。俺は女だけじゃなくて自分の意図してないところで人に泣かれるのは苦手だからな」
泣いてる女を見捨てる趣味はないと前に言ったと思う。昨日の一件を踏まえてそれを訂正させてもらおう。女が泣いた経緯によるとな。で、追加で俺は他人の涙に弱い! これも経緯によるけどな! ここはテストに出るぞ!
「あのお爺さんの孫ですもんね」
蒼の言ってる事は間違いじゃない。間違いじゃないが……その認識だけ改めてくれ……
「その認識は非常に不快なんだけど?」
「事実じゃないですか」
「事実じゃねーから! 何? その俺が女に見境ないみたいな認識! やめてくんない? 人に聞かれたら誤解されるだろ!」
親父は……除外するとして、爺さんは女に弱い。若かろうが年老いていようが泣いてる女となれば見境なしに手を差し伸べる。女限定なのがたまに傷だが……そんな爺さんの姿を見て他人に優しいところは見習うべきところだが、女限定は是非とも直してほしい。そう思った
「大丈夫ですよ! 姉ちゃん以外はもう誤解してますから! ほら!」
蒼の指さす先にいたのは無言で俺へ歩み寄る四人の修羅だった
「お、おい、お、お前ら? お、落ち着け? な? 俺は爺さんと違って女なら誰でもいいってわけじゃないからな? つか、俺怪我人だからな?」
「「「「問答無用!!」」」」
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
爺さんが女に弱いせいで俺はとばっちりを受ける羽目になった
風呂から上がり部屋に戻る道中。俺は零達の背中に向かって呟く
「お前ら吸血鬼かよ……」
何とか最終防衛ラインを守り切った俺は精神的疲労で憔悴していた。風呂に入った後の方が疲れるっておかしくない? しかもだよ? 鏡見ると左右の頬に歯形が一つずつ、左右の首筋には赤い痣が一つずつあった。ドラキュラ映画でもこんな奴いないぞ
「恭が女に見境ないのが悪いんでしょ!」
零さん? 何勝手に俺が悪い事にしてんの?
「そうです! 結婚したいのなら私に言ってくれればいいんです!」
闇華さん? 俺も貴女もまだ年齢的に結婚は許されてないんですよ? その辺解ってます?
ズンズンと進む二人に心の中で突っ込む。今の俺には言葉で突っ込む気力はない
「恭クン、私は飲み屋に行くのは止めないよ? それも付き合いだから。でも、浮気は妻として認められないかな……」
飛鳥……俺はいつお前の妻になったんだ? というか、それは闇華の台詞だろ?
「恭ちゃん……私は恭ちゃんになら何をされてもいいよ?」
東城先生、ちょっと何言ってるか解からないです
「恭くん、心の準備は出来てるから襲いたくなったらいつでも言ってね?」
ヤベェ……琴音まで狂ったよ……
「モテモテですね♪ 恭さん」
隣を歩く蒼は他人事のように言うが、万が一自分が同じ立場に経っても果たして今みたいな態度を取れるんだろうか?
「うるさい。ふぁぁ……何か眠いな……」
風呂に入って身体が温まったからなのか、眠くなってきた。一時間前かそこらに起きたはずなのに
「まだ寝るんですか?」
蒼が呆れるのは尤もだ。俺は夕飯も食わずに寝た。起きた時間はともかく、寝た時間はおそらく寝るには早すぎる時間だったんだろう
「寝たいとは言わないが、眠たいものは仕方ないだろ」
眠たいものは眠たい。それは仕方のない事だ
「そうですね。眠たいものは仕方ないですね」
なんて言ってるが蒼、あくびを噛み殺してるのバレバレな
「だろ? 今日は幸い休みだ。みんなで二度寝しようぜ?」
「ボクは構いませんよ。それに、どんな形であれ今日一日は零さん達を甘えさせてあげてはいかがです?」
「昨日散々甘えさせたんだけど?」
「彼女達にとってはそれでも足りないと思いますよ? それとも、恭さんが甘えてみます? 零さん達なら恭さんが何をしても拒みはしないと思いますよ? 胸に顔を埋めてもね」
このエロ中学生め……それじゃ俺がオッパイ星人みたいじゃないか
「お前じゃないんだからンな事しねーよ」
俺達の限りなく猥談に近い話は部屋に戻るまで続いた。これは余談だが、碧が一言も喋らなかった理由は全て蒼の体験談で恥ずかしかったかららしい。多くは語らなかった彼女だが、無言だった時点で蒼が誰にそれをしたのかはお察しの通りだ
ゴールデンウイークが明け、今日から学校。驚いた事にゴールデンウイーク最終日、爺さんから新校舎が使えるようになったと連絡が入り、それを東城先生に伝えるとすぐさま他の先生に連絡を始め、後はUSBに保存されていた連絡網等を駆使して生徒に新校舎が使えるようになった旨を伝えた
「まさか前の校舎が全焼してもう新校舎が使えるようになるとは……」
「ホント、恭クンのお爺さんパネェっしょ!」
零達よりも後に家を出た俺と飛鳥は現在、新校舎を目指し歩いている。それにしても全焼して一か月足らずで新校舎が使えるようになるとは……どうなってるんだ?
「俺の爺さんがすごいってわけじゃないけどな」
すごいのは作業をした人達だ。店舗を全く別の用途へ改装するのにどれだけの時間が掛かるのかは知らない。でも、一か月足らずで学校が再開出来るようになったのはマジですごい
「恭クン、お爺さんに辛口っしょ……」
「女となれば年代関係なくフラグを立てまくる爺さんには少し辛口なくらいがちょうどいいんだよ」
あの爺さんには呆れたもので旦那や彼氏がいる女以外にはフラグを立てる。本人は純粋な好意で人助けをして下心は全くないらしいから質が悪い
「マジ恭クン辛辣ぅ~!」
長らく飛鳥の男口調を耳にしてなかったせいか対応に困る。こういう時ってどう対応すればいいんだ?
「辛辣で結構。にしてもよ」
「ん? 何?」
「飛鳥の男口調というかチャラ男口調久々に聞いた」
男口調だけじゃない。飛鳥の男装を久々に見た
「そう? 俺的には久々って感じ全くしないんだけど?」
飛鳥的にはそうだったとしても俺的には久々だ
「俺的には久々なんだよ」
飛鳥は男口調と女口調を使い分けて生活するのは当たり前だから長い間、男口調を使ってなかったとしても学校がある、友達と会うという大義名分が出来るとすぐに切り替えが可能だ。聞いてる方はそうじゃない。長い間女口調の飛鳥と接しているとコイツが男装女子だって忘れそうになる
「気のせいっしょ! ところで恭クン」
「んだよ?」
「もう私達を必要ないって思ってないよね?」
いきなりの女口調と上目遣いは反則じゃないですかねぇ……
「思ってない」
「本当?」
「本当だ」
「ならよかった!」
俺のした事が彼女達を不安に陥らせてしまったという事実を忘れてはいけない。改めてそう実感させられながら学校へ向かった。
学校へ着いた俺達は迷わず自分の教室へ。新校舎の感想は? と言われても外観はまんまスーパーマーケットの店舗で変わり映えなしで各クラスの教室は張り紙がしてあったから迷う事はなかった。端的に言えば特に感想はないって事だ
「相変わらず静かなクラスだな……」
このクラスになってまだ一か月経ってない。校舎が燃えてなければとっくの昔に人間関係が出来上がっていてもおかしくはないはずだった。校舎が燃え、少しの間休校だったから仕方のないっちゃ仕方ない
「積極的に関わろうとしない俺が言っても説得力はないか」
後方窓際の席を確保した俺は初登校の日と同じくHRまで寝る事に。
HRまで寝る。星野川高校に通い始めてから三回目にして俺の日課になりつつある。寝ると言っても担任である東城先生が来るまで机に突っ伏してるだけで話しかけられればちゃんと起きて対応する。現在HR中だが、東城先生の『HR始めるよ』の一声で俺はちゃんと起きた。それはそれとして……
「出席の前に今日は転入生を二人紹介するよ」
教壇の前に立つ東城先生の隣には一人の男子と一人の女子。女子の方も男子の方も俺はバリバリ見覚えがある人物だ
「マジかよ……」
切に思う。冗談だよな?
「それじゃあ、女子の方から自己紹介してもらっていいかな?」
指名された女子は『分かりました』と言った後、一息入れ一歩前に出た
「今日からこのクラスに転入する事になりました灰賀由香です! これから皆さんと楽しく学校生活を満喫出来たらと思います!」
女子は一礼した後、一歩後ろへ下がった
「はい、じゃあ次は男子の方ね」
今度は男子が一歩前へ出る
「僕の名前は瀧口祐介です。中途半端な時に来てしまいましたが、皆さんと仲良くしていこうと思ってます!気軽に祐介と声を掛けてくれると嬉しいです。よろしくお願いします」
キラキラとした笑顔のイケメン。忘れもしない。盗人女の彼氏でお袋の形見を奪った実行犯……だからと言ってどうこうしようとは思わない。興味もないしな
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