高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

お袋がすり寄ってきた

公開日時: 2021年2月11日(木) 23:54
文字数:3,976

 お袋の襲来により、久々だった一人の時間が終わり、すっかりいつも通り────


『きょう~、きょ~う~……』


 とはなってなかった。お袋と仲直り?を済ませ、俺が作業をし、お袋が黙って見守るという構図にはならず、今は……


「お袋、すり寄り過ぎだろ……」


 お袋が俺の胸に自身の頬をこれでもかというくらい擦り付けていた。


『だぁって~、きょうに会えた事が嬉しいんだもん~』


 この姿を見ると生前のお袋は俺が学校に行っている間どう過ごしていたのかを気にせずにはいられない。ちょっと離れただけでこれだ、俺が小学生の時はどうなっていた事やら……特に修学旅行の時なんかどうしてたんだ?


「ちょっと離れただけだろ?」

『ちょっと?お母さんにとっては永遠だよ! きょうがいないとお母さんは消えちゃうんだよ!?』


 大袈裟な……。


「大袈裟な……そういえば俺とお袋が魂で繋がっているってのに今日はどうして離れられたんだ?」


 部屋を出る前は一人の時間が欲しくてお袋を拒絶した。よく考えてみると曾婆さん監修の元、お袋は俺の魂に自らの魂をくっつけ、俺と離れないようにしたってのに今日に限って離れられたのはおかしい


『きょうが本気でお母さんを拒絶したから離れられたんだよ~』


 頬を擦り付けていたお袋が俺を見上げ、上目遣いで言う。その目には薄っすらと涙が溜まっており、今にも泣きそうだ


「そうだったのか……」

『うん……。魂がくっ付いたって言っても取り憑いてる人と取り憑かれている人の繋がりを強化するだけでどちらかが本気で拒絶したら例えくっ付いていたとしても離れられるんだよ……』

「なるほど……」


 曾婆さんは絶対に離れられないような事を言っていたが、こんなところに思わぬ落とし穴があったとは……


『だから、これから嫌だなって思ったら言って?お母さん、きょうに拒絶されたら悲しいから……』

「分かった」


 シュンとするお袋を見てると本気で自分が悪い事をしたような気がして居た堪れない。え?一人の時間を欲するのが悪い事なの?違うよね?


『さてっと、暗い話はこれくらいにして、きょう、一人の時間は満喫出来た?』


 一人の時間を満喫出来たか?と聞かれましても……ホテルを抜け出してからここまでの僅かな時間でお袋達に見つからない事だけを考えて行動してたから楽しむ余裕なんてなかったんだが……


「指名手配犯みたいな事考えて行動してたから満喫する余裕なんてなかった。見たいアニメや動画がなかったから茜の事を調べはしたものの、結局収穫はゼロ。仕方ねぇから37歳ニートBBAの配信ってアニメ見てたけどクソも面白くねぇし」


 今なら主婦の気持ちが解かる。自分一人の時間を与えられ、買い物に繰り出し、気になる商品を見つけても結局は家族の事や家計の事を考えてしまう。全力で一人の時間を満喫しようと心に決めてても家の事が心配で最終的には自分そっちのけ。見たいアニメや動画がなかったと言い訳をして茜の事を調べてる辺り俺も同じようなものだ


『あのアニメかぁ……うるさいもんねぇ~』

「ああ。オマケに誰が主人公だか途中で分かんなくなるしよ」

『空想上の登場人物だけど、お母さんも見てて同じ女として恥ずかしくなったよ……』

「本当、このアニメであった唯一の収穫は茜が出てたって事だけだ」


 クソアニメでも見てみると意外とキャストの中に今じゃ売れっ子の声優とかいて予期せぬ発見をするって事だ。それ以外の価値はないんだけどな


『へぇ~、あのアニメに茜ちゃん出てたんだぁ~』

「意外だったろ?俺もキャスト調べて初めて分かったから胸を張れねぇが、出てたらしい」

『ふ~ん。それで?37歳ニートBBAの配信から何か分かった?』

「何にも。さっき言っただろ?収穫ゼロだって。簡単に見つかるとは思ってねぇけど、一応、俺に出来る限りの事はしたつもりだ。で、決めたよ」

『何を?』

「俺はこの一件から手を引く。茜を見捨てるわけじゃねぇけど、今回の事は手に負えん」


 俺は警察や探偵じゃない。調べると言っても限度があり、特定班と呼ばれるような繋がりなどネットでもリアルでもない俺が見えない水面下で動いてるストーカーを捕まえるだなんて不可能だっていうのは最初から分かりきっていた。所詮、一人の男子高校生に警察の真似事など出来るわけがないのだ


『きょうがそうしたいならいいんじゃない~?本来これは茜ちゃんの事務所と警察の仕事できょうがやる事じゃない。ここで手を引いたところで誰も怒ったりなんかしないよ~』


 お袋の言う通りこれは事務所と警察の仕事だ。事務所の公式ホームページで茜が現在こういう被害に遭っていると公表し、警察が茜の家周辺をパトロールしたり一晩中張り込んだりすれば解決はしなくとも注意喚起にはなる。それをせず放置した結果、こうなっているんだから笑えない。茜には俺の家で平穏な暮らしをしてもらうとしよう


「ならいいんだが……」


 男子高校生に警察の真似事をさせている時点で一部職業の大人は信用ならない。言うまでもなく操原さんと警察だ。俺が茜の家に行って自分の目で被害状況を見てきたが、初見でドン引きするくらい酷かったのに事務所も警察も動かないってのはどう考えてもおかしすぎる


『きょうは大人の信じてないの~?』

「大人を信じてないんじゃなくて操原さんと警察の人間を信用してないだけだ。お袋も茜の家の有り様を見て酷いと思っただろ?」

『そ、そりゃぁ……ね。さすがにドア真っ赤にしただけじゃ飽き足らず、鍵穴を壊し、玄関まで塗料を流し込むだなんてやり過ぎだよ』

「だよな……」


 SNS上でどうなってるかは分からないけど、自宅だけの被害を見ると明らかに常軌を逸している。被害届を出せば即受理されるレベルだ。なのに動かないってのは……


『うん……それもそうなんだけど……きょう、そろそろ帰らないと大変な事になるとお母さん思うよ?』

「は?まだ時間じゃないぞ?」


 俺が選んだのは四時間パックだ。ここに入ってから経ってても一時間程度だろうからヤバいという事はないはず……


『時間の事じゃなくて零ちゃん達の事だよ』

「零達の事?」


 零達と約束をした記憶はないから大変な事になると言われてもピンと来ない。一体何が大変なんだ?


『お母さんもきょうの霊圧辿ればいいって分かって飛び出してきた口だから人の事言えないんだけど、行き先も告げずに飛び出してきたでしょ~?今頃零ちゃん達カンカンだと思うよ~?』


 一人の時間が欲しくてお袋を拒絶してまで飛び出したんだ、零達に行き先を告げてないのは当たり前の事で何も変じゃない。とは言え、零達がカンカンか……


「とっとと戻った方がよさそうだな」

『うん』


 身の危険を感じた俺は個室を出て受付へ駆け込むと支払いを済ませ、ネカフェを後にし、ホテルへ戻った



 ネカフェを飛び出し、ホテルの自分がいた部屋の前まで全力ダッシュで戻ってきた俺は……


「ハァ、ハァ、い、息を、と、整えてから、は、入ろう……」


 ドアの向こうから感じる殺気に中へ入るのを躊躇っていた。ネカフェが入ってる雑居ビルからここまで全力ダッシュはさすがにキツイ。というのも、ビルを出て時間を確認すると時刻は15時半。って現時刻はどうでもいいか。今ヤバいのはドアの向こうから感じる溢れんばかりの殺気だ


『ダメだって言いたけどこの殺気を感じると言えない……』

「だろ?なら逃げよう。うん、そうしよう」


 俺は踵を返し、非常階段へ────


「ダメだよ、恭ちゃん」


 向かえなかった。非常階段に行こうと回れ右をした瞬間、部屋のドアが開き、中から東城先生が出てきて肩を掴まれたのだ。


「え、えっと……こ、コーラ買って来る」


 振り返れば殺されると本能的に察した俺はどうにか東城先生を振り切ろうと試みた。しかし……


「コーラなら買ってあるよ。それより、みんなが待ってる」


 さすが教師、力つえぇぇ……。そ、そうだ!


「そ、そうだった! 俺は今、サイダーが飲みたい気分だった! サイダーはねぇだろ?ないよな! よし! ひとっ走り買って来る!」


 東城先生一人ですら怖くて仕方ないのにそれが後七人もいてみろ、明日、俺が生きている保証はない。どうにか逃げ出そうと口実を作り、振りほどこうとするが……


「サイダーもちゃんと買ってある。それより、みんな待ってるから入ろう?大丈夫、私含め、みんな怒ってないから」


 怒ってないって言う人ほど怒ってるんですよ?


「か、顔洗ってからじゃダメか?汗だくのまま零達に会いたくない」


 本音を言うならほとぼりが冷め、俺が何も言わずに抜け出した事を忘れてから落ち着いてからにしてほしい


「ダメ。恭ちゃんがいなくなってから私達すっごく心配した。恭ちゃんにはちゃんと説明する義務がある」


 説明って俺が単に一人の時間が欲しくて脱走したってだけでそれ以下でもそれ以上でもない。義務もクソもないだろ


「せ、説明なら、こ、個別で────」

「ダメ。全員の前で」

「そ、それは、ちょっと勘弁してくれねぇか?」

「ダメ。全員の前で」

「ぜ、全員の前だと、い、言いづらい事もあるんだが……」


 言いづらい事があるのはマジだ。一人の時間が欲しいというのは俺の個人的な感情だけど、茜の噂について調べてたってのは全員の前じゃ言えない。人の粗探しをしてましたとか言えるか!


「そう。なら今ここで私がその言いづらい事を聞く。それで言いづらいと判断したら言わなくていい。でも、そうじゃなかったらちゃんと説明して。私達、すごく心配したんだから」

「分かったよ、でも、ここじゃ何だ、話は落ち着ける場所に移動してからにしてくれ」

「分かった。じゃあ、私は零達にちょっと出てくるって伝えてくるから。大人しくそこで待っててね?逃げたりなんかしたら……分かってるよね?」

「は、はい、分かっております……」


 こ、怖えぇぇぇぇ……


「よろしい。じゃあ、大人しく待っててね?」


 そう言って東城先生は部屋の中へ戻って行った


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