高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

俺はトイレに来た理由が分からない

公開日時: 2021年3月1日(月) 23:24
文字数:3,771

『これでよかったのかしら……』

「巻き込まれたら面倒だからこれでいいんだよ」


 はい、どうも。灰賀恭です。喧嘩していた早織と藍はそのまま放置し、神矢想花を連れ、僕は現在、男子トイレに来ております。この男子トイレは薄暗いところと床や壁がタイルなところ以外は俺が一人暮らししている元・シネマフロンティアのトイレと同じ広さ。広さの話は置いといて、俺がここに来たのは用を足すわけじゃない。かと言って調べものの為でもない。俺の勘がこれからこのトイレ周辺でイベントが起こると告げたからだ


『面倒なのは否定しないけれど、放っておいてよかったのかしら……』


 何やら思案顔の神矢想花。彼女の不安はよく解かる。片方が霊圧を上げると対抗してもう片方も霊圧を上げる。結果、建物全体が今も微かに揺れてはいる。しかしだ、あの二人だって子供じゃない。いい大人なんだからその辺は弁えているはず……やっべぇ……少し不安になってきた


「不安になるような事言うな。あの二人だっていい大人なんだから踏ん切りのいいところで止めるだろ」


 普段は俺の理解を超えた言動を見せる早織と藍だが、あれでも片や俺の母親、片や教員。二人共いい大人で自分達が喧嘩の道具に使っているものがどんなものかは十分理解していると俺は信じている。


『だといいんだけれど……』


 眉間に手をやり、溜息を吐く神矢想花は早織と藍に飽きれているようだが、夏休みの旅行で真央にした事を思い出すとコイツもあの二人と同類に見える。どうして俺の周りにいる大人は自分を鑑みないのやら……藍と早織の喧嘩なんて傍から見れば目くそ鼻くそだろ


「いいんだよ。騒ぎになったら藍が適当に言い訳すりゃいいだけの話なんだからよ。それに、あの二人喧嘩止めたみたいだしな」


 さっきまで揺れてたのにそれがいつの間にか収まっている。二人が喧嘩を止めた証拠だ。どうして喧嘩してたのか、どうして止めたのかは知らんが、揺れ、喧嘩共に収まったようで何よりだ




 きょうが男子トイレの方向へ歩いて行くのを横目で確認し、私は藍ちゃんへ視線を移した。


「どうしました?まさか今になって負けを認めたとかじゃありませんよね?早織さん?」


 私が煽ったから仕方ないけど、藍ちゃんはすでに敵意剥き出し。ちょっとやり過ぎたかな~とは思う。でも、こうでもしないと私は彼女と二人きりになれなかったからしょうがない。私を睨みつけている藍ちゃんを前に煽り過ぎた事を後悔しながら口を開いた


『負けを認めたとかじゃないよ~。ただ、上手くいったな~とは思ってるけどね』

「上手くいった?何の事ですか?」


 私の言葉に藍ちゃんは疑問符を浮かべる。当然の反応だよね。いきなり上手くいったって言われたら誰だって何の事?ってなる


『ちょっと藍ちゃんに重要なお話があってきょうを遠ざけたんだ。ごめんね?煽っちゃって』

「は、はぁ、それはいいんですけど……重要な話があるなら煽る必要ありました?恭ちゃんに私と重要な話があるから二人きりにしてって言えばよかったんじゃないんですか?」


 藍ちゃんの訝し気な視線が刺さる。彼女の言う通りきょうに重要な話があるから藍ちゃんと二人きりにしてってお願いすれば大人しく従ってくれはすると思う。ただ、私も藍ちゃんもきょうに対しての発言がところどころ危ないから疑われると思うけど


『事態が事態だからね~、きょうに余計な負担を強いたくなかったんだよ。それより、本題に入っていいかな?二重の意味であまり時間ないしさ~』

「は、はぁ……」

『なら早速だけど、このスクーリングに引率教員としてあの子来てるよね?』

「あの子?」

『うん。あの子。神矢想子ちゃん』


 神矢想子ちゃん。飛鳥ちゃんを幼児退行するまで追い詰め、きょうの怒りを買った子。いや、怒りを買っただなんて生易しいものじゃない。きょうを暴走させかけた子って言った方が正しい


「来てますけど?それがどうかしました?」


 事もなげに答える藍ちゃん。私がした質問の意図が分かってないのは無理ないか。これだけじゃ分からないよね……


『ちょっと……ね。それは最後に話すとして、あの子、何か変わった?例えば、自分の意見を押し付けなくなったとかさ』

「どうなんでしょうね?今のところ生徒とは接してないみたいなので私には何とも……」

『そっか……』


 想子ちゃんは飛鳥ちゃんの一件を最後に星野川高校を去った。それは私もきょうと一緒に見てて知ってる。でも、その後、灰賀女学院でどうなったかは分からない。家にいる時のきょうは自分から学校の話はしないし、零ちゃん達にも振らない。零ちゃん達も零ちゃん達で学校の話は家じゃあまりしないんだけどね


「はい。私が知っているのはあの一件の後、灰賀女学院で再教育を受けた事くらいです」


 藍ちゃんはその後『私も今回のスクーリング女学院側の先生に聞くまで知りませんでしたけど』と続けた。あの人の意見を一切聞かなさそうな想子ちゃんが再教育を大人しく受け入れたとは思えないけど、今は再教育どころの話じゃない


『そっか。私としてはあの子がきょうの逆鱗に触れないでくれる事を祈るよ。後二回……いや、あと一回が限度だしさ』

「限度?何の限度ですか?」

『きょうを本気で怒らせて周りにいる人が無事でいられる回数だよ』

「はい?」


 藍ちゃんは目を丸くしながら頭に疑問符を浮かべ、私を見る。何も知らない人からすると一人の高校生が怒り狂う程度で何を言っているんだ?と笑い飛ばすと思う。あるいは何をバカな事をと一蹴するかのどちらか。飛鳥ちゃんの一件がなければ先の話で慌てる事もなかったけど、あれを見てしまった以上、流暢な事も言ってられない


『藍ちゃんは夏休みの旅行で私のお祖母ちゃんに会ってるからきょうの霊圧が暴走したらどうなるか知ってるよね?』

「え、ええ、確か街一つなくなるって言ってましたけど、それって本当なんですか?いまいちピンと来ません」


 藍ちゃんが疑うのも無理はない。科学の時代に幽霊とか霊圧の話をされたところで信じられるわけがないのはもちろん、ラノベやアニメの世界ならいざ知らず、現実でこんな話したところで実際に見てない人に手放しで信じろって言う方が無理。飛鳥ちゃんの一件を間近で見ていたとしてもね


『街一つなくなるかどうかは実際のところ分からない。街一つなくなるかもしれないし、飛鳥ちゃんの一件の時みたいになるかもしれない。でも、きょうが怒ったところ間近で見てたならどうなるか想像つくよね?』


 飛鳥ちゃんの一件できょうが怒り、椅子や机が浮かび上がったのは藍ちゃんだって見てたから知っている。あの時は飛鳥ちゃんを退学させ、精神科に放り込んだ方がいいって発言がトリガーとなった。問題は怒りの原因ではなく、その結果。あの時は椅子や机が浮かび上がり、飛んで行った程度だったから大惨事にはならなかったからよかった。でも、次かその次は多分、そうも言ってられなくなる。あの時は言うならば暴走一歩手前。次はどうなるか分からない


「あの時みたいな事が起こるんですよね?」


 藍ちゃんの答えは半分正解。でも、もう半分はハズレ。あの時みたいに物が浮かび上がって怒りをぶつけたい相手の元へ飛んでいくとは限らない


『全く同じではないと思うけどそうだね。そう言った意味じゃ半分正解かな』


 車の運転と一緒で決められたパターンというのは存在しない。狭い道や駐車場があれば広い道や駐車場もある。その場所の広さで走行する車線や駐車の仕方があるように霊圧の暴走もその時の場所や本人の心情によって変わってくる。100%あの時と同じとは限らない


「半分……ですか」

『うん。車の運転と同じで決められたパターンがないからね~。暴走の仕方はその時になってみないと分からないからこれ以上はしないよ。私が伝えたいのは後二回か一回きょうを怒らせたらアウトだよ~って事だから』


 普段から“怠い”“めんどい”が口癖のきょうが本気になって怒り狂う事なんてほとんどない。けど、あの一件以来きょうの霊圧が安定してないのも事実。万が一を考え、早めに伝えておくに越した事はない


「は、はぁ、と、とりあえず心に留めておきます」

『うん。本当はハッキリはいって言ってほしかったけど、今はそれで許してあげる』


 藍ちゃんの返事は要領を得ないもので私としては喜べるものじゃなかったけど、いきなり後二回か一回本気で怒らせたら暴走するよ~っていきなり言われても困るだろうから今はこれで許してあげるとしよう




「用もないのに何で俺はトイレにいるんだ?」


 来る前に気付くべきだった。談話室を出たのは瀧口達に隠れて自分だけ飯を食おうとした後ろめたさで居づらくなったからだ。本当は部屋に戻ってもよかったのだが、いない事がバレた時に面倒だ。だからこそトイレに来たというのはある。調べるでもなく、用を足すでもないから何しに来たかは分からんが


『調べものでもあったからではないの?』

ここトイレは昨日隈なく調べた。今更調べる事なんてないぞ」


 今調べたら昨日なかったものがありそうだって言うのなら調べるのも吝かではない。しかし、トイレにあるものなんてそう変わるものじゃない。掃除用具入れにはゴム手、バケツ、ブラシ、雑巾と入ってるものは決まっている。変わってるとしても道具が新しくなったくらいだ。調べようがない


 俺は来た理由を考えながら男子トイレを後にした

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