女性陣からすれば恐怖以外の何物でもないゲーム会が終わり、現在深夜0時。まぁ、ホラー映画や何かじゃここから恐怖が始まったりするものなのだが、そんな展開にはならず俺は眠りに就こうと……
「おい、いくら何でも引きずり過ぎだろ」
出来なかった。ゲーム会をしたのが昼過ぎ。そこから今に至るまで何時間も経っているにも関わらず零達は俺にベッタリくっ付いて離れない
「うるさいわね! デパートの空き店舗が舞台でホラー要素満載のゲームされて普通に今まで過ごせるアンタが異常なのよ!」
「そうです! サウンドノベルのゲームを見せてほしいと言ったのは私達ですが、何もデパート廃墟が舞台のやつを選んだ恭君が悪いんです!」
「二人の言う通りなんだよ! 恭くん!」
サウンドノベルゲーをやって見せろと言い出したのは零達だ。だから俺が責められるのはお門違いだとは思う。作品を適当に選んでしまった俺にも責任が全くないわけではない
「作品を適当に選んだ俺にも責任はある。だがな、あれから何時間経ってると思う? 昼過ぎからずっとだぞ? さすがにビビり過ぎだろ」
昼過ぎにゲームを始め、終わったのが夕方。まぁ、サウンドノベルゲーやギャルゲーを一日で全部クリアしようとすると朝から始めなければその日の内に全クリはほぼ不可能と言っていいだろう。零達の前でやって見せたゲームだって一日で全クリしようと思ったら朝から始めなきゃならんしな
「う、うるさいよ! 恭くん! 私達は女の子だよ? 怖いものは怖いの! だから! 今日は一緒に寝てよね!」
「「そうだ! そうだ!」」
琴音の意見に当然だと言った感じで賛同する零と闇華。人間誰しも怖いものはある。苦手な物なんてないと豪語している奴だって怖いものや苦手なものの一つや二つあるものだ。それはいいとしてだ、いつも一緒に寝てるだろ?今日はじゃなくて今日もの間違いじゃないのか?
「分かったよ。琴音達と一緒に寝るからあんま騒ぐなよ」
本人達の前じゃ絶対に言わないが、眠れなくなる程怖かったら中断しろと言えばいいのに……
「うるさい、アタシ達の恐怖を和らげるには騒ぐくらいがちょうどいいのよ」
「さいですか。とりあえず、三人共もう寝ろ」
これ以上騒がれたら堪ったもんじゃない。零達は騒ぐ事で恐怖を紛らわせようとしているらしいけど、俺からしてみればゲームはゲーム、現実は現実だ
なんて思っていた事もあった。寝ろと言った零達は昼間のゲームが予想以上に怖かったのか三人共無言で布団を被り、アッサリ寝てしまった。俺としては零達が大人しく寝てくれたのには大助かりなわけでスマホゲームに熱中出来る。そのはずなのだが……
「下の階が騒がしいな……」
扉はちゃんと閉めてるから本来ならば外部の音は聞こえないはずだ。だと言うのに下の階からはエンジン音と人の声がした。
「んぅ、恭君……」
下の階の騒がしさで目が覚めてしまったのか闇華が目を覚ました
「闇華か……」
俺が起こしてしまったのなら謝る。今回に至っては俺のせいじゃないから謝る必要はない
「何か下が騒がしいんですけど……」
「ああ、おそらくだが誰かが入って来たらしい。それも、お化けじゃなくて生きてる人間がな」
普通の空き店舗なら変な奴が入り込めないよう厳重にバリケードが張られているのだが、ここは空き店舗ではなく俺の家。バリケードなんて張っておらず、ドアにカギは掛けてあるものの、ガラスを割って入ろうと思えば誰だって入れる状態だ
「そ、それって……ど、泥棒とかでしょうか?」
誰かが入って来たと言われて真っ先に思うのは泥棒の存在だから闇華の言う事は間違ってない。
「泥棒……泥棒とは少し違うと思う」
「え……?」
「微かだが、エンジン音が聞こえないか?それも複数の」
「エンジン音……ですか?」
「ああ、耳を澄ませて聞いてみろ」
耳を澄ませた闇華に倣い俺も念のため意識を耳に集中させる。微かに聞こえてきたのは男女の下品な笑い声とその場にいたら腹の中にまで響くであろうエンジン音。それがバイクなのか車なのかまでは判別出来ない
「男女の下品な笑い声とエンジン音が聞こえました」
「だろ? 多分、一階のドアを割って入った後で車かバイクを入れた。こんなところだろ」
俺の聴力は超人レベルではない。ただ、深夜という事もあってか建物内が静か過ぎて微かな音でも聞こえやすくなったというだけでな
「そ、それはそれで迷惑ですが、とりあえず零ちゃん達を起こしましょうか」
「だな」
零達は気持ちよさそうに寝ているから起こす必要はないんじゃないかとは思った。しかし、起きた時に俺と闇華がいなかったら不安になるだろうから起こすだけだ
「じゃあ私は零ちゃんを、恭君は琴音さんをお願いします」
「分かった」
夢の中にいる零と琴音には可哀そうだが、事態が事態だ。そんな事も言ってられない。俺は申し訳ないと思いつつ、琴音を起こそうとした
「起きてるよ、恭くん」
俺が声を掛ける前に琴音は自分から身体を起こした
「えっと、いつから?」
「恭くんがゲームしてる時からずっと」
「最初から起きてたのか……」
「正確にはウトウトしてただけなんだけど、下が騒がしくて起きた」
「そうか。じゃあ、さっきの話は聞いてたな?」
「うん」
俺と闇華の会話を聞いていた琴音は事態を把握しているようで説明の手間が省けた。さて、零はどうなんだ?
「アタシも聞いてたわよ、恭」
「零、もしかしてお前も……」
「ええ、アンタがゲームに熱中してる時から起きてたわよ!」
「じゃあ、説明しなくても分かってるな?」
「この建物に誰かが入り込んできたみたいね」
ウトウトしていたかは別として、零も琴音同様事態を把握していたようだ
「んじゃ、これからどうするかだが、警察に通報するのは確定事項として、問題は下で騒いでるバカ共をどうやってここまで来ないようにするかだ」
ドアがどうなっているかは不明だが、多分、壊されていると思う。これだけで立派な器物破損だ。その上人ん家に侵入してるんだから住居侵入でもある。相手が大勢いたとして、俺達は四人。人数を確認してないから何とも言えんが、おそらく四人以上いると見て間違いない
「どうやってって、各フロアのシャッターを下ろせばいいんじゃないの?」
「零、それだとエスカレーターを使った経路は断ててもエレベーターの方は断ててないだろ。侵入した連中がエレベーターに気が付いたら終わりだ」
零の言う各フロアのシャッターとは多分、エスカレーターのすぐそばにあるシャッターだと思う。それだとエスカレーターを使用しての侵入経路は断ててもエレベーターを使った経路は断ててない
「じゃあ、どうすんのよ!」
「どうするって言われても……まずは警察へ連絡するのが最優先だろ」
俺達が対策するのはいくらでも出来る。それに対して警察は通報から現場に到着するのに時間が掛かるから最優先させるべきは警察への通報だ
「多勢に無勢。見つけたとしても私達じゃ何も出来ないだろうからまずは警察への通報を最優先だね」
「琴音さんの言う通りですね」
「それもそうね」
警察へ通報するという方向で話が纏まったところで闇華がスマホを取り、警察へ電話。その間俺はエレベーターを止める方法を考えていたのだが、俺のような素人じゃいい案が浮かばない。
「警察の方は五分後くらいに来てくれるようです」
「そうか……それまでどうするかだな」
警察が到着するのは五分後くらい。その間に下で騒いでる連中がここまで来たらアウトだ。だが、ここで俺の頭に一つの疑問が浮かぶ
「五分後くらいね……長いようで短いわね」
「だよね……。ところで恭くん、難しい顔してどうしたの?」
「いや、下で騒いでる連中はここまで来るのかなと思ってな」
「「「────?」」」
俺の言った事の意味が解からない。零達の顔にはハッキリそう書かれていた
「恭、それってどういう意味?」
零が何を言っているか分からないと言った表情で聞いてきた。闇華と琴音も同じ表情だ
「さっきからずっと思ってたんだが、騒いでるのは騒いでるんだが、どっちかっつーと笑い声よりもバイクだか車だかのエンジン音の方が割合高いだろ?だから、下で騒いでる連中はこの建物で休憩すると言うよりも室内レースをしたくてこの建物に入ったんじゃないかと思ってな」
さっきから聞こえてくるのは笑い声よりもエンジン音の方が多い。俺の予想だとレースがしたくてこの建物に侵入し、レースが終わる度に休憩を摂っている。聞こえる笑い声というのはその時のものだ。んで、休憩が終わると再びレースに戻る。だからなのかエンジン音の方が目立つのは
「恭君の言う通りだとして、下の人達がここに来ないという保証はありません」
「闇華ちゃんの言う通りだよ、恭くん」
二人の言う通り下の連中がここまで来ないという保証はどこにもない。
「だよなぁ……」
下で騒いでる連中がここに来ないという保証はない。それに対してここに来る保証もない
「闇華と琴音の言う通りここに来ないという保証もないけど、ここに来るって保証もないわよね?」
「闇華と琴音が言ってる事も一理あるが、零の言ってる事にも一理ある。下の連中がここに来るという保証もない。どうしたものか……」
素人の俺じゃエレベーターを止める方法なんて八階に来たエレベーターの扉を開けっぱの状態にして留めておく程度が精一杯だ。それもあってか俺達は今まさに八方塞がり状態だった
「とりあえず警察が来るまでエレベーターを止めとくしかないわね」
「そうですね、ここに来ないという保証もありませんが、来るという保証もない以上、私達に出来るのはそれくらいしかないですもんね」
「だね」
「だな」
俺達は急いでエレベーターの前へと向かった。
エレベーターの前に来た俺達は扉をここ八階で止まっているのを確認し、扉を開けた。そして、扉が開いた瞬間、俺が閉まりそうになる扉を抑え、警察の到着を待つ。警察が来てからは早かった。通報を受け、来た警察は闇華が前もって言っておいてくれたのか俺達がいる八階にダイレクトで来てくれた。後は流れ作業で警官達と共に俺達は一階へ降り、警官達がバイクで爆走しているアホ連中をとっ捕まえて事件は終了。そして──────
「一日の中で一番疲れた……」
「「「同じく……」」」
アホ連中がお縄になったところで俺達は部屋に戻って来たのだが、寝る前にこんなに疲れる事になると思ってなかった俺達はそのまま布団へダイブ。
「はぁ、後で親父か婆さんに連絡して玄関のドア直してもらうか」
布団にダイブした俺は眠り姫となった零達を後目に玄関のドアの事を考え一人憂鬱な気分になっていた
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