お袋の感覚はよく分からない。今でもそう思う。それはさておき、話の続きだ。
「お袋が俺を無条件で信じる理由は別の機会に聞くとして、零達に霊圧の扱い方を教えないでいいのか?」
人の事を言えた立場じゃない俺が上から目線で言うのはお袋からするとふざけた話だと思う。お前だって出来てないだろって突っ込まれても文句は言えまい
『教えないとダメに決まってるでしょ?零ちゃん達はきょうと違って生まれ持っての力じゃなくて後から追加された力で特に零ちゃん、闇華ちゃんはここに来た理由が理由なだけにいつ感情が高ぶって暴走するか分かったものじゃないんだから』
何でそこまで分かっていながら彼女達に俺との繋がりと銘打ってヤバい力を渡したんですかねぇ……
「そこまで分かっててヤバい力渡すとかお袋質悪くないか?」
我が母親ながら質が悪い。しみじみと思う。
『確かにそこまで知っていながら力を渡すのは悪質だね。だけど、零ちゃん達なら使いこなせると思った。だからこそだよ』
「それは母親としての勘か?それとも、一人の大人としての勘か?」
バトル的展開がある作品で出てくる常套句。使いこなすと信じている。その根拠が何なのかと考えた事数回。その言葉を自分の母親から聞くとは思わなかった
『まぁね~。それよりきょう』
「何だよ?」
『寝ているから仕方ないとはいえ零ちゃん達に黙って出てきちゃったけど、よかったの~?』
「よくは……ない。ただ、寝ているのに書置きなんてしたら紙の無駄になる。それに、一度グッスリ寝ているんだ。簡単には起きないだろ」
零達が起きないという絶対的な確信はない。今日は色々あって疲れているだろうから簡単には起きないだろうっていう俺の勝手な予想だ
『そうでもないみたいだよ?』
「はい?」
『零ちゃん達、ここに来たみたい』
そんなバカな。そう思い俺は出入口の方を向く。すると……
「恭! いないと思ったらここにいたわね!」
仁王立ちの零と苦笑いを浮かべる闇華達がいた。
「零……時間帯を考えろよ……。声デカすぎるだろ」
この駐車場には作業員達の仮設住宅があり、今の時間帯だと中で作業員達が寝ている。それをお構いなしに声を張り上げる零。だが、彼女にはそんな事関係ないようでツカツカとこちらへ一直線に向かって来ている。で────────
「外に出るなら書置きくらいしなさいよね! 心配するじゃない!」
俺の側で立ち止まり出入口にいた時と変わらぬ声のボリュームで説教を始めやがった
「わ、悪かった……。すぐ戻るつもりで忘れてたんだよ」
今日は一人だったし、ちょっと星を見たらすぐに戻るつもりでいた。だから書置きを忘れていたというのは本当だ
「すぐに戻るつもりだったって言いながらアンタはここに何分いたのかしら?」
「い、いちいち時間なんて測ってねぇよ!」
ここに部屋を出る前だって時間の確認なんてしてない。当然、ここに何分いたか?なんて分かるわけがない
「はぁ……。そんな事だろうとは思ってたわ」
呆れたと言わんばかりに深い溜息を吐く零。
「わ、悪かったな!」
「全くよ……でも、恭がいないのに気づいて真っ先にここが分かるって事はアタシ達はアンタの行動パターンを理解してきたって事よね?それをこの一件で証明出来たから許してあげるわよ」
零さん?俺は動物か何かでしょうか?だとしたら貴女は何の実験をしてるんですか?アレですか?俺の生態を調べる実験ですか?
「俺は野生動物か子供か?」
「強ち間違いではないわね。目を離すとすぐどっか行っちゃうし」
零とは一度ゆっくり話し合う必要があるようだ
「あのなぁ……」
『まぁまぁ、零ちゃん達はそれだけきょうの事が好きなんだから怒らない怒らない』
反論しようとした俺をお袋に止められ、喉元まで出かかった言葉を飲み込む。言い争ってもいい事など何一つない。ここは素直に引いておこう。
「まぁいいけどよ。つか、グッスリ寝てたのに揃いも揃って都合よく起きるんだな」
「そんなわけないでしょ。アタシが喉渇いて起きて恭の布団を見てもぬけの殻だったからみんなを起こしたのよ」
「さいですか」
零は俺がトイレに行っているとは考えないんだろうか?
「そうよ! それはそれとして、アタシ達は早織さんに聞きたい事があったのよね」
「聞きたい事?」
零単体ではなく、零達が聞きたい事?真顔だから俺に男色の気があるのか?とかじゃなさそうだ
「アタシ達は恭との繋がりの証って事で霊圧を貰ったじゃない?」
「ああ。そうだな」
繋がりに霊圧を渡すというのもどうかと思う。ネックレスとか常に身に着けられるものの方がいいんじゃないか?とも思わなくはないが、零・闇華・飛鳥・俺は高校生で東城先生は教師。琴音以外は学校に行っている。ネックレスぶら下げて学校で見つかるよりはマシだと考えると……そっちの方がよかったのかもしれない
「それでね、恭ちゃん」
零の言葉を東城先生が引き継ぐ
「ああ」
「零や闇華ちゃんはともかく、私や琴音、飛鳥は一度学校で恭ちゃんが霊圧を神矢先生や職員室で使っているところを見てるでしょ?」
「そうだな。神矢を大人しくさせたりデリカシーのない事を言った教師に使おうとしたな。それがどうかしたのか?」
神矢はともかく、ノーデリカシー発言をした教師は殺すつもりで使った。どうかしたのか?なんて簡単に済ませちゃいけないのは重々承知だ
「それで私達も恭ちゃんみたいな事出来るのか聞きに来た。後は元は恭ちゃんの力だったから私達にリスクがあるかどうかも」
零達が頷いてるところを見ると東城先生の疑問は共通のものらしい
「そうか。で?お袋よ。どうなんだ?藍ちゃん達にも俺と同じ事出来んのか?それと、リスクについても聞きたい」
霊圧を当てられるか否かは零達がいない時に聞いて可能なのは知っている。ただ、やり方を知っていればの話だけどな
『やり方さえ覚えれば藍ちゃん達にもきょうと同じ事出来るよ~。リスクの方は全くないから安心していいよ~』
のほほんとした表情で答えるお袋。この様子じゃ本当にリスクはないと考えていいかもしれない。何はともあれお袋の答えを聞いて胸を撫で下ろすかと思いきや……
「「「「「霊圧の当て方を教えてください!!」」」」」
答えを聞いた零達はお袋に詰め寄った。
『え、えっと~、今日はもう遅いし……ね?それは明日からちょくちょく教えていくよ』
詰め寄られたお袋は引き気味だった。正直、俺も引いた。そんでみんなで少し星を見て部屋に戻り就寝となった。
で、今朝はいつも通り零と闇華、東城先生は学校へ。学校がない俺と飛鳥は琴音の手伝いをしつつ過ごしたのだが、如何せん、琴音がある程度やってしまったのでやる事がなく、これから何をしようかと考えてたところで飛鳥がやって来て今に至る。
「えへへ~、恭クン♡」
先ほどから俺の胸板に頬擦りしているのはご存じ内田飛鳥。いきなりやって来ていきなり抱き着いて頬擦り。されてる方からすると理解不能だ
「えっと、飛鳥さん?そろそろ別の事しません?」
「もうちょっと~……」
「えぇ……」
もうちょっと。この言葉を聞くのは本日何度目だろうか?さっきも同じ事を聞いて同じ答えが返って来た
「だって久々に恭クンと一日中同じ部屋で一緒なんだからいいじゃん」
「しょ、しょうがねぇな……」
俺という人間はつくづく単純だと思う。さっきも同じ事を聞いて同じ答えが返って来た挙句、同じ事を言われ、言いくるめられてしまった。女に弱いのか、甘いのか……
「あー! 飛鳥ちゃんだけズルい! 私もー!」
仕事が一通り終わり戻ってきた琴音。彼女も飛鳥と同様、スッと俺の左隣に座ると飛鳥と同様に頬擦りを始めた。うん、何だこれ?
「マジでか……」
嘘だろ?とは思っても嫌だとは思わない。それに……なんだ……そのうち飽きるだろ。俺は琴音達が飽きるのをひたすら待つ事にした。
「恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン恭クン」
「恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん恭くん」
飽きるのを待ってからどれだけの時間が経っただろうか?彼女達は依然として飽きる様子を見せず、ホラゲのゾンビか亡霊の如く俺の名前を呟き続けている。俺の胸板に頬擦りしながら
「頬擦りしながらだから恐怖心はないものの……されてる事がされてる事なだけに突っ込みどころが多い……」
人間どう転べば女子が自分の名前をノンブレスで呟きながら頬擦りをしてくる状況を作れるのかを教えてほしい。
「「えへへぇぇぇぇぇぇぇ~」」
これでもかというくらい満面の笑みを浮かべてる飛鳥と琴音。失礼な話、この二人も零達も見た目だけはいい。中身はアレではあるけど
「これいつまで続くんだよ……」
している方はいいかもしれんけど、されてる方は飽きてきたり暇したりと退屈な事この上ない。
「「私達が満足するまで!!」」
「いつ終わるんですかねぇ……」
飛鳥と琴音が飽きるのを待っていたら夜になってしまうのではないか?そう思えてならなかった
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました
読み終わったら、ポイントを付けましょう!