ゲームから実行する事の大変さを学んだ俺は────
「ふい~、生き返る~」
風呂に入っていた。恭が零達と一緒に入浴してたのは見てて知ってる。風呂に入ってる理由は……何となくだ
『きょう~、おじさんくさ~い』
『いくら疲れてるからといってそれはないんじゃないかしら……』
うるさいぞ幽霊二人組。アイツは慣れてるからあの程度じゃ音を上げないだろうがな、俺はメインで長時間活動したのはこれが初めてなんだよ。スクーリングの時だって騒動にぶち当たってはないが、結構疲れてたんだよ。周りにいる奴のキャラが濃すぎて
「うるさい。人の苦労も知らねぇでゴチャゴチャ言うな」
本当は苦労など全くしてない。入れ替わってるのがバレたら面倒だからそれっぽく言っただけで
『それとこれとは話が別だよ~』
『そうよ。恭様が苦労してるのは知ってるし、できる事なら力になりたいとも思っているわ。けれど今のはさすがにおじさん臭いわよ? って言ってるのよ』
女ってのはどうしてこうもうるさいかねぇ……入れ替わる時に結婚するなら口うるさくない女にしとけと言っとくか
「それはそれはすみませんねぇ……疲れてたもんでつい」
適当に平謝りをし、風呂から出た
風呂から出て部屋に戻ったのだが……
「恭さん! 凛空のところに行きましょう!」
デジャブ。突き放す前と変わらぬ様子の蒼に捕まった
「嘘だろ……」
「嘘じゃありません!」
俺は二者択一の試練的なものを与えてここを出たはずだよな? 期待はしてないが、戻ってきた時に蒼から友達と全力で向き合います的な答えが聞ければと思っていた。自分で凛空を助けて見せます的なアレを期待してたのだが……戻って来たらこれだ。何だコレ
「嘘じゃねぇなら夢だな。よし、寝よう」
「夢じゃないんで寝ないでください」
蒼の横を通りすぎようとして腕を掴まれる。俺的には嘘か夢であってほしかった……アイツに押し付けるのも失敗したしよぉ……
「ダメか?」
「ダメです」
「どうしてもダメか?」
「どうしてもダメです」
「拝むから」
「崇めてください」
「コーラガム買ってやるから寝かせてくれない?」
「ボク、現物より現金派なんで」
「寝たい!」
「ダメです!」
蒼はマジで俺を寝かせる気がないようだ
「頼む。寝かせてくれ」
俺は仕方なく頭を下げた
「恭さん、今夜は寝かせませんよ」
艶やかな表情で俺を見る蒼の姿は彼が男だと知らない人間から見りゃ女の子に誘惑されてるみたいな感じに映るだろう。だが、蒼は男。正確には男が男に迫られているというか、誘惑されている気色の悪い事この上ない絵面だ。容姿って大切なんだな。なーんて思っていると……
「ヘタレ、蒼に手ぇ出したら殺す」
『きょう? 蒼君じゃなくてお母さんで理性失ってね?』
誤解しまくっている碧とお袋達に鬼の形相で睨まれた。アイツは知らんが、俺に男色の趣味はないんだが……
「黙れバカ共。特に母親。アンタは息子に何を期待してんだ」
『それは恥ずかしくてお母さんの口からは言えないよ~』
左右に身体をくねらせイヤンイヤン言ってるお袋は一言で言うと気色悪い。頭のネジが百本ほどぶっ飛んでんのか?
「さいですか……はぁ……行くぞ、蒼」
「え? 一緒に来てくれるんですか?」
「ああ。ここにいるより数百倍マシだから一緒に行ってやるよ」
「あー……確かに……」
俺と蒼が零達の方へ視線を向けると……
「お義兄ちゃんは女の子より男の娘の方が好きなんだ……」
「義兄さん……男の娘が好きだから私に興味持ってくれないんですか?」
「恭クン、男の娘じゃなくて私を好きになってよ……私なら男の恰好してるからいいでしょ?」
「恭、本当はお義姉ちゃんが一番なんだよね?」
「浮気は許しませんよ? ご主人様?」
「恭ちゃんのお嫁さんは私だよね?」
「恭くん、大人の女性の魅力を教えてあげるよ?」
全員がハイライトの消えた目で俺達を見つめていた
「という事だ。お前がこれからどんな選択するか見届けさせてもらうわ」
「はい」
「つー事だ。さっさと行こうぜ」
「ですね。ボクの方もこのまま居座り続けると命に関わりそうなんで」
蒼の視線が零達から別の場所へ移り、俺もそちらを窺うと……
「蒼、恭を殺せばアタイのものになるのか?」
零達と同じ目でヤバい事を言う碧がいた
「……………行きましょうか」
「……………だな」
俺と蒼は深い溜息を吐きながら部屋を出た。ちなみに今日は琴音はいません
女性陣から逃げるようにして部屋を出た俺達は初日と同じく夕焼けのに染まる空の下、熊78のバスに乗って一条家に来ていたのだが……
「蒼、助けて……」
家の前に着くなり凛空が半べそ掻きながら飛び出し、蒼に縋り付いてきたではないか
「ど、どうしたの?」
「い、家の中でか、怪奇現象が……」
「怪奇現象?」
「う、うん……」
「え、えっと……」
縋り付く凛空の背中を摩りながら蒼がこちらを向き、無言で頷いてきた。幽霊が見える彼にとって怪奇現象など日常茶飯事。驚く事ではない
「蒼、とりあえず先行ってんぞ」
「ぼ、ボクは凛空が落ち着いてから後を追います」
「りょーかい」
俺は蒼より一足先に一条家の中へ入った
「お邪魔しまーす……?」
家の中へ入ると辺りは静まり返っていた。凛空が半べそ掻いて飛び出してきたからてっきり中は阿鼻叫喚の地獄絵図になってると思ったんだが……どうなってんだ? つか、この緊張感は何だ?
『きょう、マズい事になったよ』
『このまま放っておくと大変な事になるわ』
謎の緊張感に違和感を感じていると神妙な面持ちの幽霊二人組が口を開いた
「妙な緊張感は感じるが、マズい事じゃないだろ。単に凛空以外の連中が全員寝ているだけかもしれねぇしよ」
俺は灰賀恭の霊圧だが、幽霊の気配や変化は分からん。というか、分かってても無視してる。アイツ同様面倒事に巻き込まれんのは嫌だからな
『マズいよ! 説明は後にして居間へ急いで!』
『このままだと本当に大変な事になるのよ!』
「へいへい」
何がどう大変な事になるかは分からんが、俺は想花に言われた通り急いで居間へ向かった
居間へ着いた俺が見たのは宙に浮く一条家女性陣と……
『来たのか……』
この前とはまるで別人のようになってしまった凛空パパ。彼からは狂気染みたものしか感じない。見た感じは普通だけどな
「来たのかじゃねーよ。何してんだ?」
『何って見ての通りだ』
見ての通りと言われても俺には一条家の女共が宙に浮いてる────いや、浮かされているようにしか見えないんだが
「見ての通りだけじゃ分かんねぇよ。ちゃんと分かりやすく説明しろ」
アイツと一緒に見た凛空パパはとても人に危害を加えるような感じには見えなかった。とても同じ人物とは思えない。誰か彼のしている事に対しての説明を頼む
『コイツ等を殺そうとしている』
「なるほど、状況は理解した。何があって殺そうとするのかは後で聞くとしてだ、とりあえず止めろ。凛空を悲しませてぇのか?」
一条家の誰がどうなろうと俺には関係ない。しかし、どんな奴にも死んだり傷ついたら悲しむ人がいるわけで、俺は凛空の為に凛空パパを止めないといけない
『その凛空を先に悲しませたのはこの女共だ。親の俺が息子を悲しませた人間に制裁を加えるのは当たり前だろ?』
何言ってんのか分かんねぇんだが……誰か解説求む
「何がどう当たり前なのか分かんねぇよ……」
先程から宙に浮いたままピクリとも動かない女性陣と口調と表情だけは平静を保っているモノの、纏っている雰囲気が狂気染みている。お悩み相談がとんだ幽霊騒動になったもんだ……
『きょう! 困惑するのは後でいいから先に凛久也さんを止めて!!』
『このままじゃ魂食べられちゃうのよ!!』
「一条家女性陣が今どうなってるのかの説明は?」
『『そんなの後!!』』
「はぁ……」
こんな事なら入れ替わるんじゃなかったと後悔しながら俺は凛久也を止めるために全力を────
『へぶっ!!』
出さなかった。俺は凛久也の頭を金属バットで殴る感じで能力を発動させた。凛久也はみっともない声を上げ、その場に崩れ落ちた。同時に浮いていた女性陣は地面に落下
「さて、凛久也を大人しくさせたところでお袋説明よろしく」
『りょうか~い。口下手だから簡単に説明するとね、この中にいる誰かが凛空君と凛久也さんの思い出が詰まっただろう何かを捨てるか雑に扱ったみたい』
雑過ぎる……
「説明雑過ぎるだろ……もうちょっと詳細な説明できんもんかねぇ……」
『無理! さっきみたいな事になるキッカケは人それぞれだから!』
「さいですか。想花の見解も同じでいいのか?」
『ええ。私も説明しろって言われたら早織さんと同じ事を言うわ』
「はぁ……」
幽霊二人が役に立たねぇ……要は汚されたくない領域あるいは触られたくないものに触られたからブチギレたって事か……
『溜息吐かないでよ~さっきみたいになるのは本当にケースバイケースなんだから~』
『恭様、お願いだから嫌いにならないで……』
俺はまだ何も言ってないのに何を勘違いしたのかお袋と想花は半べそになった。今日はよく勘違いに見舞われる日だなぁ……後で苦労するのは俺じゃなくてアイツなんだけどよ
「はいはい、嫌いにならないからベソ掻くのは止めようね。めんどくせぇ……」
下手したらアイツより苦労しているような気がするぞ……
『『めんどくさい!? めんどくさいって言った!?』』
「言ってねぇよ」
将来禿げそうだなぁ……俺はそう思いながら天井を見上げた。もう面倒だから凛空に凛久也を見えるようにして直接話合わせるでいいや。めんどくせぇし
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