高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

何で闇華はいきなりタメ口で話そうと思ったんだろう?

公開日時: 2021年2月7日(日) 23:20
文字数:3,835

 闇華と二人ベッドに寄り添う────これまでの生活でそんな場面はなかった。だからなんだろうな……


「恭君、私の顔に何か付いてる?」


 俺に身を寄せる彼女が可愛く見えるのは


「あ、いや、別に……。ただ闇華と二人きりになるのなんて初めてだからなんつーかこう……緊張してるっつーか……」

「ふふっ、変な恭君」


 そう言って微笑む彼女は砕けた口調のせいかいつもとは別人に見える。いや、前にもタメ口で話した事はあった。ん?あったかなぁ……、いかん、記憶が曖昧になってる


「変で結構。いつもとは口調が違ってるから戸惑ってんだよ」


 騒動に巻き込まれるのには慣れてきた。俺が出会う家なき子や家はあっても住む場所を変えようかと思っている奴はトラブルを抱えている事が多い。そんな連中を引き取るとなるとトラブルに巻き込まれるのは必然と言えるだろう


「普段の私は敬語だもんね。そりゃ戸惑うか」


 自覚あったんですね……


「自覚してたのかよ……」

「まぁね。仮に私が恭君の立場だったら戸惑ってアタフタしてるよ」


 戸惑ってるのは事実だから否定はしない。でも、アタフタするほどの事じゃない


「戸惑ってんのは事実だけどよ、慌てふためくほどの事じゃねーだろ」

「それは多くの修羅場を潜ってきた恭君だからだよ。私は戸惑ってアタフタしちゃうの!」


 幼い子供を叱る母親のように言う闇華に言いたい。俺は子供じゃないし多くの修羅場を潜ってないぞ


「俺は修羅場を潜った覚えなんてないんだけどなぁ……」


 俺が潜ってきた修羅場など飛鳥幼児退行事件と加賀強盗事件の二つだけだ。盃屋さんの一件は過激なファンが家に押しかけてきました気色悪いで片付けられ、修羅場と言うには緊張感に欠ける


「そうかな?真央さんの一件は恭君にとってそれなりの修羅場になるんじゃないの?」

「あんなのは盃屋さんの過激なファンが家に乗り込んできたってだけだろ。修羅場と言うには緊張感に欠ける」

「恭君、世間じゃそれを修羅場って言うんだよ?」


 世間なんて知らん! 俺は俺の思うように行動するまでだからな!


「そんな事知るか、俺は自分の思うように行動するだけだ」


 闇華達を拾ったのは半分は俺の意志で半分はその場の流れ。前者よりも後者の方が勝っているのは仕方なく、自分の意志で行動してないのでは?と言われてしまえばそこまでだ。それを後悔してなどおらず、退屈だった毎日が賑やかになっていいとすら感じ始めている。願わくばずっとこんな日常が続けばいいのにな


「恭君って意外とワンマン社長みたいなところあるんだね」

「ばーか、ワンマン社長は自分で何でも決めるけど、ちゃんと会社の事を思ってるだろ。俺のは単なる自己中だよ。それより、いつになったら荷物をまとめるんだよ?」


 闇華の部屋に来てすぐに俺はベッドへ誘導されると無理やり座らされ、無言の彼女が寄り添ってきた。ラブコメの主人公ならここで文句の一つでも言うところなんだろうけど、闇華……いや、闇華に限らず無言で何かしてくる時は大抵何かある時だと身をもって学習している俺は無駄な事はせず、されるがままになったのだが、さすがにこの状態になって結構経つ。何も言わないままというわけにはいかない


「うーん、もう少ししてから?」

「あのなぁ……」

「だって、恭君と一緒に住んでから三か月が経とうとしてるのに私だけ二人きりになる機会が少ないんだもん……たまには甘えてもいいでしょ?」


 確かに闇華と二人きりなる機会は少ない。あったとしても片手で数える程度だ。それを考えると強く拒否出来ず、結局は……


「こんなダメ人間でよければ好きなだけ甘えろよ」


 と、許してしまう。ヤンデレ気質で困る部分はあるものの、俺は闇華を嫌っていない


「うん、そうする」


 闇華の入居を許可した当初の俺は闇華を含め、今いる盃屋さん以外の同居人達を部屋の空きスペースを埋める置き物程度にしか思ってなかった。俺にとって他者とはいてもいなくても同じものであり、利用したい時に必要な人数いればそれで充分程度にしか思ってなかったしな。人を人とも思ってなかった俺が他人を甘やかす……人間変われば変わるものだな


「それも闇華達と同居し始めたお陰か……」


 他人に対して厳しくもなければ甘くもない俺。見ず知らずの零を拾った時点で甘く、お人好しだと言う人もいるだろう


「何が私達のお陰なの?」

「秘密だ」

「む~、教えてよ」


 いつもどこか大人びている闇華。口調も相まって時々コイツは俺よりも年上なのではないか?と錯覚してしまう事も少なくなくない。その闇華が今は同じ歳……いや、少し幼く見える


「内緒だよ。俺にだって知られたくない事はあるんだ」


 今のは知られたくない事じゃなくて照れくさくて恥ずかしい事だけどな


「けち……」

「ケチで結構。それより、早いとこ荷物まとめて戻ろうぜ」


 闇華と二人きりが嫌なんじゃない。これ以上二人きりでいると要らん事を考え、ペラペラ話してしまいそうになってしまいそうで怖い


「恭君、そんなに私と二人きりが嫌なの?」


 上目遣いで見つめないでくれ……


「闇華と二人きりが嫌なんじゃなくて嫌な予感がしたから早いとこ部屋に戻りたいだけだ」

「嫌な予感?」

「ああ、ここへ来る途中、ホテルの従業員と一回も会わなかっただろ?」

「うん……」

「休憩中だったと言われればそれまでなんだけどよ、何か嫌な予感というか、俺が騒動に巻き込まれる予感がするんだ」


 ホテルの従業員は接客や清掃のプロと言っても過言ではない。ましてここはリゾートホテルで接客術や清掃術はかなりのものだ。そういった意味では洗礼された人達が忽然と姿を消したとなれば不審に思わない方がおかしい。とは言ってもいつから姿を消したかは分からない


「そう言えば、私達が徘徊している時からいなかったような……そうでもないような……。あれ?どっちだっけ?」


 顎に人差し指を当て、首を傾げる闇華。自身の記憶を必死に掘り下げているのか眉間にはシワが寄っている。


「分からん。何しろお前らが俺に仕掛けたドッキリはホテル全体を使って行われたもので監視してた時は闇華達の動きを優先的に見ていて従業員を気にしている余裕なんてなかったからな」

「わ、私達を優先してくれたんだ……」


 頬に手を添え、顔を真っ赤にする闇華は心底嬉しそうだ。それは結構なんだけど、監視されて喜ばれてもなぁ……


「監視されて何で嬉しそうにしてるんだよ……。とにかく、さっさと荷物をまとめて戻るぞ」

「だね」


 ベッドから立った闇華は手早く荷物をまとめ始める。その間、俺は特にやる事がなく、ベッドの上でボケっとして過ごした



「忘れ物ないか?」

「うん! バッチリ!」


 俺は闇華が荷物をまとめ終わるのを見計らい、ベッドから立ち、彼女の荷物を持つ。最初は遠慮していた闇華も俺の『手ぶらじゃ付いて来た意味がない』という一言に遠慮しながらも『じゃ、じゃあ、お願い……』という事で荷物を任せてくれた。そして部屋を出て今に至る


「んじゃ、戻るか」

「う、うん……ね、ねぇ、きょ、恭君……」


 手をモジモジさせ、チラチラとこちらを窺っている闇華の顔は赤い。例えるなら告白前の女子か好きな人をデートに誘おうとしている女子だ


「何だ?手でも繋ぎたいのか?」

「う、うん……、い、いいかな?」

「ああ、いいぞ」

「やった!」


 俺は空いている左手を差し出し、闇華はそれを遠慮がちに握る。付き合い立てのカップルかよ……。


「んじゃ、行くか」

「う、うん……」


 そうして俺達はエレベーターへ向かって歩き、後は着た時同様。それにしても……何か調子が狂うな……闇華がタメ口で話してるからか?それとも、いつもみたいにキレがないからか?


「なぁ、闇華」

「ん?なあに?」

「何でいきなりタメ口で話すようにしたんだ?」


 一階へ降りる途中、俺は気になっていた事を尋ねる


「い、嫌だった……かな……?」

「嫌ってわけじゃないんだけどな、普段敬語なのに何でいきなりタメ口で話すようにしたのかなって思って聞いただけだ。気に障ったのなら謝る」


 闇華=敬語。俺の……いや、俺達の中ではこれが当たり前。決して闇華を下に見ているとかじゃなく、彼女は年上、年下関係なく敬語で話す。感情が高ぶった時でさえ敬語で話す闇華がいきなりタメ口────気にするなという方が無理だろ


「べ、別に気に障ったとかはないんだけど……、私がタメ口で話すのって変……かな?」


 闇華がタメ口で話すのが変か否かで言えば変ではない。多分、彼女の両親が生きていていたらこんな感じになってただろうしな


「変じゃねーけど、普段敬語で話す奴がいきなりタメ口だとどうしても違和感が……」

「だ、だよね……、私も自分がされたら恭君と同じ気持ちになるし……」


 苦笑いを浮かべる闇華は自分でも違和感があると自覚してたみたいだ


「違和感はあるけど、変ではない」

「よ、よかった……」


 安堵の表情を浮かべる闇華。本当は彼女の両親の話をしようと思ったんだけど、飛鳥の一件で家にいる連中は皆心に何かしらの傷を負っていると思い知らされた。全員から辛い過去を聞いたわけじゃなく、俺が勝手に思っているだけなんだけど、零と闇華の場合は経緯が経緯だ。下手な事は言えない


「まぁ……アレだ……いつも敬語で話す必要はない。タメ口で話たけりゃそうしろよ」

「うん……」


 上手い返しが思いつかず、ついどうするかは任せる的な感じで誤魔化してしまった……。言葉に嘘はなくてもこれじゃ闇華が自分の殻を破れるのかと不安になる。この後、俺達は手を繋いだまま無言になり、あっという間に一階に着いた

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート