高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

もう一人の俺はかなりの苦労人だったようだ

公開日時: 2021年3月24日(水) 23:51
文字数:4,279

 恋愛とはめんどくさい。当たり前だ。平凡な関係から特別な関係に昇華したとはいえ、対人関係。上手くいく事もあればぶつかる事もある。近しい関係になったからこそのめんどくささってのがどこかにあり、喧嘩一つでこれまで築いてきた関係が壊れる事もあれば深まる事もある。恋愛に関係なく人間関係って大変なんだなと思う今日この頃。霊圧の俺が何を干渉に浸ってるのやら……とナーバスになりつつ東城先生の方を見ると……


「幸せぇ~……」


 満足そうに顔を綻ばせていた。アイツが彼女達に手を出さなかった弊害がここで出たか……


「今まで強硬手段を取れなかったのが奇跡だぞ……」


 闇華からヤンデレをうつされたのは知ってる。俺はアイツであり、アイツは俺だ。知らないわけがない。灰賀恭という人間の周囲に集まる人間は面倒な奴ばかりだ。出会うまでの過去も取り巻いてきた人間関係も


「恭ちゃん……」


 物思いにふけっていると不意に呼ばれ、そちらを向くと今まで顔を綻ばせていた東城先生がいつもと同じ顔でこちらを見つめていた


「何だよ?」


 行動が奇怪な分、態度はいつも通りを装う俺。本当は彼女達や他の人間に対しての考え方や扱い方が百八十度違うんだが、俺の存在意義に関わる。こんなところで態度を変えるのは得策じゃない


「どうしてあんな事したの?」

「あんな事?」

「き、キス……」

「ああ、あれか。別に深い意味はねぇよ。強いて言うなら気分でだ。俺は聖人君主じゃないんでね。迷惑を掛けられたら相応の迷惑料が欲しい人間なんだ」


 零を拾ったところから今に至るまでアイツはよく相手に対して対価や報酬を求めなかったものだと感心する。払える対価がないから仕方ない部分もあると思うが、にしたってアイツはもうちょっと欲を出してもいいと思うんだがな


「迷惑料……恭ちゃんにとって私達は迷惑なの?」

「迷惑か……どうだろうな? 零や闇華、琴音や飛鳥、女学院の連中は住む場所や職がなかったから仕方ない部分があっからゴチャゴチャ言わねぇよ。だが、藍や想子は別だ。帰る家、安定した職があるのに俺ん家にいる。親父に言われたとか、一人でいると情緒が不安定になるとかハッキリ言って俺の知ったこっちゃねぇよ。まぁ、全て今更だから文句は言わねぇけどよ」


 今のはあくまでも灰賀恭の霊圧である俺個人の意見。アイツが本心でどう思ってるかは知らねぇ。もしかしたら自分が東城先生と想子を見捨てたら居場所がなくなってしまうのではないかって思ったから何も言わず同居を受け入れたのかもしれない。もう一人の俺は本心を隠すのがお上手な事で


「迷惑ならハッキリ言って。悲しいけど、受け入れるから」

「迷惑だと思ってる女にキスするほど俺は優しくねぇよ。さっきは突き放すような事言ったが、藍達が迷惑かどうかはゴールデンウィークでカタが付いてる。いたいならずっといろ」


 東城先生────いや、同居人達に悲しい顔させると後でアイツの負担が多くなる。取り繕ったつもりはないが、一応、フォローだけは入れておく。俺自身今言った事に嘘はない。考え方は違えど俺もアイツも彼女達を迷惑だとは思っていない。迷惑か聞かれたから自分の意見を言っただけで


「恭ちゃん……」

「ただ、もしかしたら今みたいに迷惑料としてキスくらいはするかも知れねぇからそこんとこヨロシク」


 東城先生に悲しそうな顔をされたままじゃ俺がアイツに怒られる。普段は怠いめんどい言ってるクセに他人が本当に困ってたら何だかんだ言って手を差し伸べてしまうってんだからバカとした言いようがないお人好しだ


「うん……」


 自分から迷惑かと聞いといて悲しそうに顔を伏せる東城先生。俺が悪い奴みたいじゃねぇかよ……ったく、女はこれだから……




 それからしばらく俺と東城先生はベッドに寄り添って座り、静かな時を過ごした。彼女の頭を撫でるとくすぐったそうに目を細める彼女がネコみたいに見えたのは教師として、大人としての彼女しか見てないから新鮮だったのか……。始めて見た顔だから分かんねぇや


「落ち着いたか?」

「うん……」

「じゃあ、戻るか」


 東城先生が落ち着きを取り戻したところで俺達は彼女の部屋を出た。そういや今日ってスクーリング最終日だったな。今もそうだが、この四日間それらしいイベントなかったからすっかり忘れてた




 食堂に戻ると────


「あなた達は高校生としての自覚が足りません!!」


 瀧口達はまだ説教をされていた。正座してるのは言うまでもなく、瀧口達生徒。仁王立ちで見下ろしているのは昨日付けで同居が決定した神矢想子。ガキのイタズラで何をムキになってるのやら……


「まだやってたのかよ……」


 高校生にもなって程度の低いイタズラを仕掛けようとした瀧口達もだが、それをいつまでも説教してる想子にも飽きれる。そう思ったのは俺だけじゃなく……


「いくら何でも時間掛かり過ぎだよ……」


 隣にいる藍もだった。変貌する前に家に乗り込んできてまで飛鳥を登校させようとしていたから粘着質というか、根に持つタイプだとは思ってたがよ……。さすがにこの光景はリアクションに困る


「ああいう部分が生徒達に嫌われた原因の一端なのかもしれないな」

「だね……。というか、一体何がそんなに気に入らないのかな? たかが高校生のイタズラなのに」


 東城先生の言う通りだ。瀧口達がしたイタズラした結果どうなったかは分からない。だが、誰一人としてケガしてないところを見るとだ、彼らがしたのは後になって振り返れば笑い話で済むであろうレベルのイタズラ。目くじらを立てるレベルじゃない


「高校生にしてやられたのが気に食わなかったとかじゃないか?」

「どうなんだろう……私的には程度にもよるけど、今回のは程度の低いイタズラなんだから笑って許してもいいと思うんだけど……」


 東城先生の言う通りだ。今回の場合イタズラの程度は低い。綿密に計画されたものじゃなく、どちらかと言えばその場のノリで決まった即興的なもの。水が上から降ってきたとか、バケツが落ちてきたとかのケガをする可能性があるものじゃない。説教開始から何分経ったかは分からんけど、ダラダラと咎めるようなものじゃない


「想子本人に話を聞くしかないか……」

「そうだね。ところでさ」

「何だよ?」

「恭ちゃんはいつから神矢先生の事を想子って呼び捨てするようになったの? 最初の頃は私の事だって東城先生呼びだったよね?」


 やべっ、アイツは想子の事を神矢想子って呼んでたんだった。適当に誤魔化しとくか


「神矢想子ってフルネームで呼んでるのが面倒になっただけだ。藍の事は他の連中の手前、呼び捨てじゃマズいと思っただけで他意はない」

「ならいいんだけど。今日の恭ちゃん何か変だよ? いきなりキスとか普段は絶対にしないのに」


 そらそうだ。アイツは簡単にキスするような奴じゃない。旅行の時に額へキスしたのだって奇跡みたいなモンだったのに一か月経たないうちにデコから唇とかレベルアップしすぎにも程がある


「俺だって健全な男子高校生だ。女に飢える時だってある。藍っつーか、女にキスしたくなったとしても不思議じゃない」

「そうなの?」

「そうだ。ハッキリ言うと俺がキスしてぇと思ってるのは藍だけじゃない。零や闇華、琴音にだってそうしたいと思ってる」


 今の言い訳だと単なるキス魔だと思われそうで怖いが、最善の言い訳が思い付かない


「そうなんだ……ふーん……」


 上手い事言い包めなかったか……。東城先生がジト目で睨んできた


「ああ。だが、相手は誰だっていいというわけじゃねぇぞ? 藍とか零とか俺に恋愛的好意を寄せてきてくれてる女限定だ」

「ふーん……」


 ダメだ、言い訳が完全にチャラ男のそれだ。俺が女にだらしない感じになってる。東城先生の視線が痛い……


「とにかくだ、俺がキスする相手は明確に恋愛的好意を示してくれてる女だけで誰でもいいってわけじゃない」


 ごめん、もう一人の俺。戻った時に上手く言い訳しといてくれ


「そ、それならいいけど……」


 顔を少し赤らめる東城先生。自分でしといてなんだが、それでいいのか?


「わ、分かってもらえて助かった」


 突っ込みたくはあるが、今は東城先生の思い込みに乗っておく。下手に弁解して拗れたらめんどくさい


「うん。要するに恭ちゃんが私達を求めて止まないって事だよね?」


 前言撤回。拗れなくてもめんどくさい。人の思い込みってマジでめんどくせぇ……


「もうそれでいい。でだ、神矢先生そろそろ止めなきゃヤバいんじゃね?」

「そうだね。今日は帰らなきゃならないから後の事考えるとそろそろ止めないとマズいね」


 突っ込みを放棄し、想子の方へ目を向けると未だ説教中。イタズラを仕掛けたのは瀧口達だから怒られて当然なんだが、この後の事を考えるといつまでも説教させとくわけにはいかない。瀧口達もだが、教師連中もそろそろ飽きが来ている。現に教師の中には約数名あくびを噛み殺しているのもいる


「問題はどうやって止めるかだな」

「そうだね。ああなった神矢先生はちょっとやそっとじゃ止まらなさそう……」


 東城先生の言う通りああなった想子は簡単に止まらない。飛鳥の一件がそうであったように一度指導に入ると簡単には止まらず、自らの考えを変えようとはしない。もう教員に向かないんじゃないのか?


「打つ手なしか……」

「そうだね……」

『想子の暴走を止める方法ならあるわよ』

「「え?」」


 暴走想子────略して暴想子をどうしたものかと頭を悩ませていたところで想花からの一声が掛かった。俺達にとっては天から伸びた蜘蛛の糸にも等しいものだ


『想子の暴走を止めたいのなら恭様が一言愛を囁いて藍さんにした事と同じ事をすれば簡単に止まるわよ?』


 想花はその後で『私は気に入らないけれど』と続けた。彼女の意志は置いとくとしてだ、言いたい事は一つだけ。生徒と教師がいる場で一人の教師にキスをするバカがどこにいる? 東城先生にキスしたのだって生徒や教師がいても見られてなかったから出来た事。状況が違う


「大衆の前で俺に恥をかけと?」

『そうよ。ついでに言うとこの機に乗じて妹を嫁にしてくれて構わないわよ? その時は姉である私もセットで付くけれど』


 この姉にしてあの妹ありか。想花が何を言ってるのか分からない


「恭ちゃん。神矢先生を嫁にする時は想花さんと一緒に私も付くからどうにか頼めないかな?」

『お母さんも付くよ~』


 ダメだこの女性陣。マジで何言ってっか分かんねぇ……。どうして想子を嫁に貰うとオマケで想花や東城先生、お袋が付いて来るんだよ? 日本は一夫多妻制じゃねぇから


「頭痛ぇ……」


 もう一人の俺よ、お前の苦労が分かったよ……。ごめん、関係を進めろとか言って


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