高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

俺は再婚相手の連れ子を殴った

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:28
更新日時: 2021年3月8日(月) 00:09
文字数:4,755

 女性が娘を呼びにリビングから出て行った後、残された俺と親父。普段なら親父が下ネタを言って俺がそれに突っ込むという流れになるのだが、今日はそうじゃなかった


「何か喋れよ」

「いや、緊張してて何て話掛けていいか……」


 向かい合って座る俺と親父。何故か空気は張りつめていて冗談を言えるような雰囲気じゃない。俺の気のせいかもしれないが、何となくそんな気がした


「緊張って……今日俺が呼ばれた理由くらい話してくれないと困るんだが……」


 一人暮らししろと言って息子をデパートの空き店舗なんて普通じゃあり得ないところに放り込んだ人間が緊張を理由に人を呼んだ理由を話せないとは……親父の神経はどうなってるんだ?


「いや、それは……全員揃ってからの方がいいだろ?といってもあちらさんの娘には話してあるし、了解も取ってある。後は恭だけの状態なんだけどな!」


 ドヤ顔でサムズアップ親父。これがいつも通りのノリなら腹立たしいし殴りたいと思う。しかし、今は腹立たしいとも殴りたいとも思わない


「あっそう」

「ああ……」


 おかしい……いつもなら『恭冷たい!』とか言ってダル絡みしてくるはずなのに今日はそれがない。何か変だ


「いつもならダル絡みしてくるのに今日はしてこないんだな」

「まぁな。恭だって嫌だろ? 父親がいつまでも息子にダル絡みするなんて」

「嫌だな。酔っぱらっててもシラフでもダル絡みされんのは勘弁だ」

「だろうな……ところで恭」

「何だよ?」

「いや、何でもない」


 親父は何かを言おうとして止めた。親父が何を言おうとしたのか皆目見当もつかない。言おうとした事をこれから話してくれると期待するしかなく、歯がゆい気持ちになるかと言われれば別にそうでもなかったりする


「そうかい」


 親父が話してくれる事はある程度予想済みだ。助手席にいた女性と女性が口にした娘を呼んでくるというワード。ここから想像するに話というのはあの手の話題しかなく、親父が緊張している理由は俺がそれを受け入れるか否かだ



 この会話を最後に親父は黙ってしまった。俺から話を振ってもよかったと思い、話題を探した。だが、何を話せばいいのか分からず結局は俺も黙るしかなかった。


 気まずい沈黙から少しした時─────。


「待たせたかしら?」


 娘を呼びに行くと言って出て行った女性が傍らに娘を連れて戻って来た。女性の傍らにいる娘を俺はよく知っている……いや、忘れもしない


「いや、待ってない。恭との話をちょうど切り上げようとしていたところだ。なあ? 恭?」

「それならいいのだけれど……恭君、どうかしたのかしら?」


 俺は無言で席を立ち、女性の傍らにいる娘に近づく。そして─────────


「返せ」


 娘の顔面を殴った。殴られた娘は言葉にならない声を漏らしながら倒れ、女性に支えれれながら立ち上がり俺を見つめてくる。幸いだったのは加減して殴ったお陰で鼻血が垂れてないって事だな


「恭!! いきなり何するんだ!!」

「そうよ!!」


 娘を殴った俺は親父と女性に咎められるがそんなの関係ない。娘の首にあるロケットペンダントを取り戻せればそれでいいんだからな


「黙れ。人の大切なものを奪った奴を殴って何が悪い?」


 娘の首にあるペンダントは元々俺の物だった。だが、中学二年の時に奪われたのだ。コイツの彼氏によって。奪った理由は単純で当時彼女だったこの女が俺のペンダントを欲しがったかららしい


「大切な物を奪ったからっていきなり殴る事ないだろ!! 恭! お前はそういう奴じゃなかったはずだ!! 何より義理とはいえお前の姉さんになる娘なんだぞ!!」


 俺の義姉になる娘。今の言葉で親父の話が何なのか分かった。いや、分かってしまった


「親父再婚するのか」

「そうだ!! 今日はその話をするためにお前を呼んだんだ! だというのに何だ!! いきなり人を……それも女の子を殴るなんて!!」


 コイツが普通の連れ子だったら俺だって殴らない


「別にいいだろ。コイツは俺の大切にしていたもの……死んだお袋の形見を奪った奴なんだからよ」

「「───────!?」」


 俺の言った事は親父と義母になる女性にとっては寝耳に水だったらしく、二人共言葉を失った。娘の方は俯いてしまった


「何だ? 二人共知らなかったのか? 親父は再婚しようとしている女の娘が俺から大切な物を奪った事を、アンタは自分の娘が人様の物を盗む泥棒だったって事を」


 知らないのも無理はない。何せ中学の頃に起きた事だからな


「し、知るわけないだろ! 中学の頃は恭から話を振ってくるなんてしなかったんだからな!」


 親父の言う通り中学の頃は俺から話を振るだなんてしなかった。それは今でも変わらない


「俺から親父に話を振らないのは今も同じだ。で、アンタはどうなんだ? 自分の娘が仕出かした事を全く知らなかったのか?」


 話の的を親父から女性に変える。どんな答えが返ってくるか楽しみだ。


「し、知らなかったわ……」

「だろうな」


 知ってたら親父と再婚しようだなんて考えないか


由香ゆかちゃんが恭の大切な物を奪ったとしても殴る事はないだろ!!」


 親父が娘……由香を庇い立てする。だが、それはコイツがした事を知らないからそんな事が出来るんだ


「いいだろ、別に。コイツ……いや、コイツ等だってペンダントを奪う時に俺を殴ったんだからよ」


 過去の事をネチネチと言うつもりなんてない。俺はやられた事の半分をやり返しただけだ


「だとしてもだ! 女の子を殴るように育てた覚えはないぞ! 恭!!」


 親父の言う通り女を殴るように育てられた覚えなんて毛ほどもない。むしろ女は新たな可能性を生み出す生き物で子供は新たな可能性であり宝だと口酸っぱく言われた覚えならある。それは俺が由香を女として扱っていたとしたらの話だ


「確かに親父から口酸っぱく言われたのは女は新たな可能性を生み出す生き物だと言われて育ったな。親父が怒ってる理由は俺がソイツを殴ったからだっつーのも十分に理解している」


 いきなり人を殴る我が子を叱らない親がいたら見てみたい。きっとそんな親は自分や自分の子が何でもかんでも一番じゃなきゃ気が済まないとか、自分達が世界の王様とでも思いがっているに違いない


「だったらッ! だったら由香ちゃんに謝れ!!」


 謝る?謝る事に関しては構わない。殴った俺が悪い。人に悪い事をしたら謝るのは人として当たり前の事だ。人に悪い事をしたらな


「人に悪い事をしたら謝るのが当然だって言う親父の意見は尤もだ」


 親父は自分の言ってる事がようやく通じたと思ったのか満足気な顔で頷く。そんな親父を女性は尊敬の眼差しで見つめる。それは由香も同じだった。そんな親父達を絶望のどん底にでも突き落としてやるか


「満足気なとこ悪いんだけどよ、俺はソイツを人とも女とも認識した覚えは一度たりともない」

「「「──────!?」」」


 俺の言葉に親父達は無言で目を見開いた。口に出さずとも解るぞ? お前らは俺の言ってる事が理解出来てないんだよな?


「理解出来ないって顔してんな。まぁ、当たり前だよな……俺とアンタ等じゃ認識が違うんだからよ。アンタ等にとってソイツは女で娘だったとしても俺にとっては人形でしかない」


 由香は親父達にとっては女で娘だ。俺からすると単なる人形……いや、サンドバッグと言ったところか。殴ろうと蹴ろうと心が痛む事はない


「に、人形って……」


 自分の娘を人形扱いされ悲痛な表情を浮かべる女性。だったら俺がお袋から貰った形見のネックレスを奪うようなバカ娘に育てないでくれませんかねぇ……


「アンタの娘が俺にした事を考えると人形という人の形を成している物扱いなだけまだマシだろ。それともサンドバッグの方がよかったか? あ? つか、さっきから親父とお前の母親しか喋ってねーけどよ、当事者の言い訳はどうした? 私は盗人じゃありませーんって言わないのか?」


 言い訳をしたところでお袋の形見が返ってこないなら俺は適当に痛めつけるだけだ


「あ、あたしは……」


 殴り飛ばしてから一度も口を開いてない奴が初めて口を開くが、いきなり殴られるとは思ってなかったようで言葉が出てこないようだ。


「あたしは? あたしは何なんだ? 今になって自分が首から下げてるペンダントが実は俺にとって大切な物だったなんて知らなかったとかいうつもりか? そんな言い訳が通用すると思ってるのか?」


 泣きながら言い訳して許されるならみんなそうする。人を殺した奴だって泣いて許されてるのなら今頃刑務所なんかにいない


「あたしは……このペンダントが灰賀にとって大切な物だっただなんて知らなかった……」

「そんな言い訳通用しないって。まぁ、俺はどんな言い訳されても信じる気なんて全くねーけど」


 コイツの言い訳を信じてやるほど俺はお人よしじゃない


「ごめん……」

「謝れって言ってないから。結局どうするんだ? 自分から大人しく返すのか? それとも、俺が痛めつけて強引に取り返した方がいいのか?どっちなんだ?」


 俺としてはどっちでもいい。自分から大人しく返してくれるのならそれでいい。痛めつけた上で取り返していいというならそれはそれでアリだ


「ま、待ってくれないかしら?」

「何だよ? 自分の娘を守ろうってか? 盗人とはいえ娘だもんな」

「違うわ……由香のした事を謝りたいのよ」


 母娘揃って人の話を聞いてなかったようだ


「謝る? 謝れって俺は一言でも言ったか? 言ってないだろ」


 俺は謝罪なんて望んでない


「でも、娘が悪い事をしたら謝るのが親ってものでしょ?」


 子供が悪い事をしたら謝るのが親か……確かにそうかもしれない。それが本人の為になるかは別として


「本人の為になるかどうかは置いといてアンタがそうしたいのならそうすればいい」


 ネックレスの件に関して言えば誰が謝ろうと関係ない。返してもらえさえすればな


「分かったわ。恭君─────」

「ちょっと待て、恭」


 女性が謝罪しようとしたところに親父が口を挟んできた。謝罪なんて望んでないから別にどうでもいいけど


「何だよ?」

「そのペンダントが母さんの形見である確固たる証拠はあるのか? お前の思い過ごしだったとかじゃないのか?」


 親父の言い分にも一理ある


「そうだな。ソイツがそのペンダントの中にある写真を入れ替えてなけりゃ入れてあるのはお袋の写真だ。それが証拠になるだろ。中学の時に奪われてから俺は一度も触れてない」


 ロケットペンダントに写真を入れるのはとても面倒だ。やり方は色々だが、俺の知ってるのだと薄い紙をロケットの写真を入れる部分に押し込み型を取る。その後ロケットの形に変形した紙を丁寧に切って写真を乗せる。で、サイズを合わせる為に写真と一緒に切るというものだ。


「…………もし写真が出て来なかったらどうする?」

「諦めが悪いぞ親父。でもそうだな……もし出て来なかったらそん時は素直に謝るさ」

「約束だぞ?」

「ああ」


 半分賭けみたいな約束をしてしまったが、俺は中にお袋の写真が入っていると確信している。何しろ写真を入れているのを見てたんだからな


「あ、あたし、知らない……このペンダントが開くだなんて知らない……」


 親父と賭けのような約束をし、いざ開けるとなった時、女が知らないと言い出した。コイツふざけてんのか?


「知らない? そんなはずないだろ?」

「ほ、本当に知らない! このペンダントが開く事も、その中に写真が入ってるだなんて事も!」


 そんなバカな話があるか。嘘もここまで来ると飽きれる


「今更怖気づいたのか?まぁいい。そのチャームの左側んとこ押してみろ」

「わ、分かった……」


 女がチャームの左側を押す。出てきたのは……


「「「なっ──────!?」」」


 お袋の写真だった。親父達は驚きの声を上げているが、俺にとっては分かり切っていた事だ


「さて、証拠も出てきた事だ。そのペンダント返してもらおうか」


 ロケットの中に入ってるお袋の写真が動かぬ証拠だ。さて、返してもらうとするか

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