高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

いろいろあったけど俺はセンター長を拾った。拾ったであってるよな?

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:34
文字数:4,805

 神妙な面持ちで俺を見つめるセンター長。零達一人ひとりと話をして考え方が変わったか?


「灰賀君」

「はい……」


 話を聞いてくれないか?と言ってきたセンター長だが、俺が生徒という立場だからなのか、説教をされている気分だ。特に悪い事なんてしてないんだけど


「先生がどうして家もお金もないか。その理由はね、付き合っていた人に夜逃げされたからだよ」


 聞いてると胸糞悪い話だが、理由としては至ってシンプル。この人の年齢こそ不明だが、センター長……普通の高校で言うところの校長をやっているんだ。月々の給料だって相当稼いでいるだろうから働きたくないヒモ男か詐欺で楽して儲けたいって輩なら目を付けない事もない


「そうでしたか。それは大変でしたね」


 センター長からすると同情してほしかったのかもしれない、慰めてほしかったのかもしれない。だが、同情して家と金が返ってくるのか?慰めたら彼女の好きな人に騙された心の傷は少しでも癒えるのか?


「灰賀君、ここは同情してくれるか慰めてくれてもいいでしょ~?先生、これでもかなり傷ついてるんだよ?本気で好きだった人がお金目当てで近づいて挙句、家具まで持ち逃げされてさ……」


 傷ついている。本当ならこの人は今すぐにでも泣き叫びたい気分なんだろうな。それをしないのはここに俺・飛鳥・東城先生の三人がいるからしたくても出来ない。それをしてしまうとセンター長として示しがつかないだろうから。特に詐欺に遭ったとはとてもじゃないけど部下や生徒に言えるはずもない


「慰めたり同情したりしたところでセンター長が心に負った深い傷は癒えないでしょ。それより、俺や飛鳥、東城先生の前だからって無理していつも通りに振る舞わなくてもいいと思いますよ?」


 そっちの方が見ていて痛々しい


「先生はこれでもセンター長だからね! 家とお金がないのは詐欺に遭いました! なんて声を大にして言えないのだよ! 詐欺に関係する授業でお話しないといけないから」


 中学時代、ほとんど学校に行ってなかったからよく分からんが、一つの授業でセンター長が出てきて話をするだなんてことあんのか?


「はあ、そうなんですか」

「うん!」


 センター長はエッヘンと胸を張って見せる。しかし考えてほしい。今まで拾ってきた連中の中で金がない、家がない、仕事がないって話はどれほど聞いた?俺からするとそんなのはとうの昔に聞き飽きている


「っつってもこの部屋にいる連中は一様に金と家がない、親戚から邪険にされた挙句、好きだった人からも雑に扱われた。極めつけは会社をリストラされたとか、会社が潰れて一家揃ってホームレス生活を送っていたとか。センター長の話は確かに可愛そうだとは思いますよ?ですが、俺からするとそんな話は聞き飽きた。これに尽きます」


 今のは零達を取り上げたが、母娘達や加賀達の事を数に入れるとこんな話を多分、百回は聞いてる。今更一人増えたところで何も思わない


「そっか~、そうだよねぇ~、灰賀君は入学前から多くの人を助けてきたもんね~、先生の話は聞き飽きてるよね~」

「そうですね……」


 聞き飽きてはいる。でも零の抱えてた借金も闇華の抱えていた親戚等の問題も解決したのは俺じゃない。婆さんだ。これまで俺は家なし金なしの女子達を拾いはした。拾いはしたがそれだけだ


「でもさ、灰賀君には分からないよね?大好きだった人から裏切られた人の気持ちなんて」


 センター長の声が冷たいものに変わる。彼女の言うように初恋もまだな俺には大好きな人に裏切られた人間の気持ちなんて理解できない。恋をした事がないからな


「そうですね、俺には理解できません。初恋すらまだなもので」


 こういうところで自分の経験はまだ浅いという事を思い知らされる。闇華がキョウスケ君とやらに裏切られたって話を聞いた時にも薄々は感じていた。自分はつくづく経験値が足りないと。


「知りもしないのに聞き飽きただなんて言わないでくれる?本人にとっては本当に辛いし死にたいって思う。それを初恋すらまだな子供に聞き飽きただなんて言われたくない」

「すみません……」


 謝るしか出来ない。恋というものを知らない俺が上から目線であれこれ言えた立場じゃないのは痛いほど解かっている。きっと今の俺じゃ彼女が心に負った傷を癒すなんて不可能なんだろう。


「謝るくらいなら最初から言わないの。変に慰められると逆に辛くなるからさ」


 センター長の言う通りだ。謝るくらいなら最初から言わない方がいい。慰められる事で逆に辛くなる。だから俺は……


「俺の発言が軽率でした。確かに仰る通りだと思います。謝るくらいなら最初から言わない方がいい。慰められる事で逆に辛くなるってのも理解できます」

「でしょ?」

「ええ。初恋すらまだな俺が何を言ったところでセンター長の心の傷を癒す事は出来ないと思います。ですから、俺はセンター長を慰めたりしません。ただ、居場所が欲しいなら俺がその居場所になります。俺から言えるのはそれだけです」


 慰めるなんてしない。居場所がないと言うなら俺がその居場所になろう。自分が必要とされてないと感じているなら俺がその人を必要としよう。そう思う


「何それ?灰賀君、傷心中の人に慰めないって酷いと思わない?」


 必死に体裁を保とうとしているセンター長だが、声は涙声で震えている。まぁ、震えているのは声だけじゃなく、身体もだがな


「酷い事を言ってるのは自覚してますよ。俺は初恋すらまだですし、ゴールデンウィークの時には己が心の闇に任せて東城先生や飛鳥を始めとするルームメイトを追い出そうとしました。どちらかと言うと俺は人を傷つけてきた側の人間です」


 零達を叩き出そうとしたキッカケは最早語るまい。同じ話を何度も何度もしたかない


「灰賀君、女の子を傷つけるだなんて最低だね」

「自分でもそう思います」

「自覚あるんだ」

「自分がした事ですから」


 個人的には悪い事をしたら謝る。それは当たり前の事だと思う。そんな当たり前の事が出来ない連中がいる。神矢想子とかな


「そう。ところで灰賀君」

「何でしょうか?」

「先生さ、学校じゃセンター長なんてやってるけど、プライベートじゃ自分は必要とされてないんじゃないか?ってよく思うんだよね」


 いきなり何の話だ?


「いきなりですね。唐突にそんな話をされても困るんですけど……」

「だよね……先生もしてて思った」

「だったら前置きくらいしてください」

「ごめんね」


 謝るくらいならするな。さっきこの人はそう言った。それが今ではどうだ?物の見事にブーメランじゃないか


「はぁ……別にいいですよ。唐突に重い話をされるのにも慣れっ子ですから」


 零を拾った時は何だコイツってなったが、それが闇華、琴音と来て母娘達の事情、飛鳥父の事情、加賀達の事情。概算だと六回になる。だが、闇華単体、琴音単体、母娘達の場合はクラス二つ分、飛鳥の場合は会社一つ分、加賀の場合は学校一つ分。回数が少なくとも人数が人数だ。量は大した事なくても質が良質過ぎる。悪い意味で


「灰賀君、本当にそういうのに慣れてるんだね」

「まあ、一人暮らし始めた初日には十五のガキには荷が重すぎるんじゃないかって思いましたが、それが立て続けにってなるとさすがに……ねぇ」


 一人暮らし初めてまだ二か月程度なのに事が事だから一年くらい経ったんじゃないかと感じさせられてします


「ねぇって言われても先生は分からないよ?」

「それもそうですね」


 センター長とちゃんと話をしたのは校舎が変わってからだ。同意を求められても困るか


「ところで灰賀君、話は変わるんだけどさ」

「はい」

「さっき居場所がないなら自分が居場所になるって言ってたじゃない?」

「そうですね、居場所がないと感じてるならですけど」

「先生さ、今居場所ないから灰賀君が居場所になってくれないかな」


 さっきまで大人、教師としての体裁がどうとか言ってたセンター長が手のひらを返してきやがった。どういう心境だ?


「どういう心境かは知りませんけど、俺でよければ」

「うん。それとさ、灰賀君」


 居場所になってくれ以外にまだ何かあるのか?


「何ですか?居場所になれって以外でまだ何か?」


 好きだった人に騙されたから自分を慰めるつもりで恋人になれとか言わないよな?言われてもない事で不安になる俺はかなりのビビりだ


「お腹空いた~」


 センター長はぐてーっとテーブルに突っ伏し、俺は深い溜息を吐いた。零達は……盛大にズッコケた。


「すぐに用意しますよ」

「やた~」


 俺の通う学校のセンター長マイペース過ぎね?今日ちゃんと話してみて改めてそう思う。



 飯を食い終え、俺達は食休みをしていた。だが、俺には聞かなきゃならない事がまだ残っている


「センター長」

「ん~?」


 零達が各々雑誌を読んだりスマホを弄ったりしている中、俺は目の前で満足気な笑みを浮かべ、茶を啜るセンター長へ声を掛けた


「何回かお話していると思いますが、俺はここに住んでます」

「そうだね~、よく見たら家具があるからここに住んでるのは信じるよ」

「信じていただけたようで何より。それでです。ここって夜はもちろん、昼間でも一階玄関は鍵を掛けてるんですよ」

「そうだんだ~」


 これだけじゃ単なる世間話だ。そろそろ本題に切り出すか


「そうなんです。だからセンター長が勝手に入るなんて不可能なはずなんですけど、事実、センター長は勝手に入って来ています。加えてこの場所を知ってた。どなたから聞いてどうやって入ったか教えていただけますよね?」


 学校の先生が不法侵入をするだなんてほぼあり得ない。ガラスを割られた形跡もなかった。マジでどうやって入ったんだ?


「駅で段ボールに包まってるところに親切なお爺さんが来て『お嬢さん、家とお金がないなら儂が困ってる人なら男女問わず助けてくれる親切な人をご紹介しよう』って声を掛けてきて」

「はい」

「その後、リムジン?に乗せられて」

「はい」

「で、ここに連れて来られて」

「はい」

「そのお爺さんが鍵を開けてくれたから入った」


 今の話で親切な爺さんが俺の祖父だと分かった。で、あのクソジジイが家の合鍵を持ってるのも理解した。何で駅にいたのかはどうでもいいとして、言えるのは一つ。拾ったなら自分で保護しろよ!


「その親切な爺さんはおそらくですが俺の祖父です」

「ええ~!? そうだったの!?」

「ええ、きっと困ってるセンター長を見かけたはいいけど、自分の家には祖母がいる。困った祖父の頭に俺の存在がパッと思い浮かび、ここへ連れてきた。そんなところでしょう」

「すっごい偶然だね!」


 できる事ならもう二度とごめん被る偶然だ。


「俺としてはこんな偶然は一度でいいです。ところでセンター長。ここに住みます?」

「もちろん! よろしく願いします! 灰賀君!」


 こうしてセンター長の入居が決定した。余談だが、俺はこの後、爺さんに文句を言いまくったのだが、あろうことかあのクソジジイ『一千万やるから許してくれ~』とかぬかしやがった。ま、『金で解決できると思ったら大間違いだこのクソジジイ!』と言って電話を切った。



 騒がしかった一日が終わり、深夜。


「今日はいつもの二倍疲れた……」


 零達が幸せそうに寝息を立ててる中、俺は一日を振り返っていた


「零達には問いただされるし、センター長は拾うし……双子は双子で俺を差し置いてプールで遊んでるし……」


 夕飯の時に聞いた話だが、いないと思っていた双子はずっとプールにいたらしい。何をしていたかは聞かなかった。いや、ゲッソリしている蒼を見てとても聞く気になんてなれなかった。それはどうでもいいとしてだ


「六月もそろそろ終わるな……」


 六月最後の土曜日。今月こそは平和で穏やかな日々をと思って生活するも俺の望みは叶わないらしく、いつも何かしらの騒動に巻き込まれる。来月こそは平和な日々をと思うのだが、来月は七月。夏休みに加え、夏のイベント目白押しときたもんだ


「来月の方が大変そうだなぁ……」


 俺は一人来月に思いを馳せながら目を閉じた

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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