「あ~、やっと解放された~……」
東城先生に拘束を解いてもらい、久々に自由の身となった。本当、拘束されていた時間がどれくらいかは知らんけど、マジで両手両足が自由になった瞬間の解放感が半端じゃない
「恭ちゃん、ごめん……」
開放されたというのにまだ申し訳なさそうな顔をしている東城先生。さっきも言ったんだけどなぁ……
「さっきも言っただろ?別にいい。あーだこーだ言うだけ時間の無駄だって。怖くなかったと言えばウソになる。どうしても何かしたいならそうだな……夕飯に美味いモンでも食わせてくれりゃそれでいい」
本心を言えば詫びなんて望んでない。自分が異世界転生モノのチート主人公で能力に依存しているというわけじゃないが、いざとなったら霊圧当てて東城先生達の動きを封じるだなんて簡単だ。実際にそうしたしな。だから雰囲気には狂気を感じたものの、何とかなるだろうと軽く考えていた
「恭ちゃんはそれでいいかもしれないけど、早織さんが許さないと思う」
事情を知っている東城先生らしい答えだ。俺が許してもお袋が許さない。そんな風に思っていても無理はない。それは……どうなんだろうな?見た感じだと怒っている感じはなかった。口調もいつも通りだったし
「どうなんだろうな?藍ちゃん達に襲われそうになった時、お袋はこんな事した藍ちゃん達も悪いけど、俺も悪い的な事言ってたから問題ないんじゃないか?」
『その通り! 藍ちゃん達も悪いけど、きょうも悪いよ!』
「うぉ!? ビックリした!」
「い、いきなり話に入ってこないでください!」
突然のお袋登場で思わず飛び上がる俺達。幽霊ってだけでも人によってはビビるというのにそれがいきなり現れるな!事情を知っててもビビるから
『だってぇ~、零ちゃん達に説明終わって暇なんだもん!』
暇なんだもん! じゃねぇよ! 歳考えろ! 歳! つか、説明早いな!
「暇なら零達と雑談でもしてりゃよかっただろ。お袋はずっと俺に憑いてて零達を見てきたんだ。母親的な立場から何か言える事があったんじゃないのか?」
母親的立場からなんて言ったが、一人の女としても言える事はあったかもしれない。絶対に口には出さないけどな
『そう思ってきょうの黒歴史教えておいたよ~』
「は?何言ってんの?」
オイこら! お袋! 何人の黒歴史バラしちゃってるの?
『ん~?だから、きょうの黒歴史バラしたって言ったんだよ~』
この人何言ってんの!?
「何で勝手に人の黒歴史バラしてんの!? つか、どれバラした!? 中学の時のか!? それとも、小学生の時のアレか!?」
黒歴史をバラした。これってある種とんでもないカミングアウトだと思う。で、黒歴史をバラすぞってのはとんでもない脅迫だ。お袋がしたのは前者で心当たりのあり過ぎる俺は気が気じゃない
『きょうが中学生の時にしたお母さんとの結婚宣言~』
よりにもよってダメージが一番デカいのをバラしやがった……
「よ、よりにもよってダメージがデカいやつをバラしやがった……」
客観的に聞けばマザコンと笑われても不思議じゃない。いや、むしろ笑ってくれた方が気が楽だ
『きょうにとってはダメージ大きいかもしれないけど~、お母さん的には嬉しさが大きかったからよかったよ~』
「わ、私も恭ちゃんから結婚しようって言われたら嬉しいから大丈夫だよ! 元気出して!」
悪びれる様子のないお袋と頑張ってフォローしようとしている東城先生。お袋は悪びれろ! 東城先生はフォローになってないって事に気が付いてください……。肝心の俺はと言うと……
「お、終わった……」
ガックリと膝から崩れ落ちた。お袋が話した黒歴史は間違いなく俺が床に臥せていた時にお袋からされた質問に答えた時の一つだ。よりにもよってアレをバラすとは……
「恭、アンタ……」
ほら、零が何か切なそうな顔で俺を見てるじゃないか
「な、何だよ……?俺を笑いに来たのか?それとも、お袋に言った事をネタに言う事聞かそうって魂胆か?」
笑いに来たとか、言う事を聞かせようという魂胆が零になかったとしても今の俺はネガティブだからそうとしか捉えられない
「違うわよ。アタシは……アタシ達は恭に謝りに来たのよ」
俺に謝りに来たと言われてもビックリはしたものの、特に怖い思いをしたわけじゃない。全く怖くなかったわけじゃないけどな!
「藍ちゃんにも言ったけどな、あーだこーだと言うだけ時間の無駄だ。悪いと思っているなら今日の晩飯に美味いもんでも食わせてくれればそれでいい」
『そうだよ~、今回の事は零ちゃん達にも悪いところあったけど、きょうにも悪いところあったんだからお互い様だよ~』
お袋、子供同士の話に首を突っ込まんでくれ。
「まぁ、そう言う事だ。俺は気にしてない。怖くなかったと言えばウソになるけどな。だから、いいんだよ」
「でも……」
俺が気にしないと言ってるのにまだ話を続ける気なの?この子?
『は~い、零ちゃん、きょうが気にしないって言ってるんだからこの話はここで終わり! 今回の事はきょうだって悪いんだから。闇華ちゃん達もだよ!』
「「「「わ、分かりました……」」」」
零達を強引に納得させやがった……。そういえばお袋はさっきも同じ事言ってたな……この件に関しては俺にも悪いところがあるって。悪いところがあったとしたらどこだ?
「話は変わるがお袋よ、さっき俺にも悪いところがある的な事言ってたけどよ、それってどこだ?心当たりがあり過ぎて分からない」
情けない話、俺は女性の気持ちに疎い。女性の気持ちっつーか、人の気持ちか。とにかく、気持ちに疎い俺は自分は全く悪くないと考える時もあれば自分の悪かったところを探して結果、見つからず終い。何が言いたいかというと、俺は人から悪いところを教えてもらわなきゃ分からないって事だ
『きょうの悪かったところはこのお部屋にいるのは蒼君以外は全員女の子でその女の子の中でも碧ちゃん以外はきょうに特別な感情を抱いてる。そんな女の子達の前で他の女の子を匂わせる事を言ったところ。きょうにそのつもりはなくても他の女の子を匂わせる事言っちゃダメだよ~』
他の女を匂わせる事。そんな事言ったか?と心当たりを探る。う~ん、他の女を匂わせる発言か……。あっ! もしかして……
「えーっと、その他の女を匂わせる発言ってもしかして甘やかした日に言った“適当に甘やかさせてくれる奴探す”ってアレか?」
『そうだよ~。確かにあの時は零ちゃん達もお母さんも少し言い過ぎたと思うけどさすがに他の人のところに行くって発言はめっ!だよ。零ちゃん達は親しい人に裏切られるのが怖くてたまらないんだから』
お袋の言う通りだった。東城先生と飛鳥は……今は置いとくとして、零・闇華・琴音の三人がここに来た理由、その原因が人に裏切られたからだ。
「悪かったよ。つか、お袋」
『ん~?なに~?』
「零達に説明すんの終わったんだな」
零が俺達の話に入って来た時点で説明は終わったんだというのは何となく察していた。
『大変だったけどね~。最初は私がずっと側にいたって信じてくれなかったしさ~、まぁ、零ちゃん達ときょうの出合いを事細かに言ってやっと信じてもらったって感じだよ』
「そうかい。それはそれはご苦労な事で」
闇華と初対面を果たした時には零が側に、琴音と初対面を果たした時には側に零と闇華がいた。飛鳥が実は女だって知った時と零と初めて会った時は俺しかいなかった。それを知ってて状況を事細かに説明されたら信じざる得ないか
『うん、疲れた~』
中にプカプカ浮いてる状態でぐて~とその場に寝そべるお袋。生きてる人間だったら邪魔でしかない
「疲れてるとこ悪いが、零達は俺を怖がってなかったのか?」
『全く怖がってなかったわけじゃないけど、ない物だらけの自分達を受け入れてくれたきょうを今度は私達が受け入れる番です。だって~』
「そうか。で?お袋がくれるって言ってた零達と俺を繋ぐ証って何だ?」
お袋の事だからくれる物はネックレスとかそんなありきたりな物じゃないとは思う。
『きょうの霊圧だよ~』
うん、意味が解からない。俺の霊圧を何だって?
「お袋、もう一度聞くが、お袋がくれる零達と俺を繋ぐ目には見えないものって何だ?」
さっきのは俺の聞き間違いだと願いを込めて再度お袋に尋ねた
『だから~、零ちゃん達にあげるのはきょうの霊圧だよ~。もしかして耳遠くなった?』
どうやら俺の聞き間違いじゃなかったらしい
「いや、耳は正常だ。お袋の言った事に理解が追い付かなかっただけで」
俺自身もまだ霊圧に関しては分からない事が多い。それこそ自分の霊圧を他人に譲渡可能なのかとか。マンガでそんなようなシーンを見た事はある。ただ、あるだけで本当に可能かは分からない
『だろうねぇ~、そう思って言った~』
のほほんとした顔でガキみたいな事しないでくれませんかねぇ……。今確信したが、俺の聞かれてないから言わないところはお袋似だわ
「俺は親父よりお袋似だったか……」
『えっ?きょう恭弥よりお母さんに似てて嬉しい?いやぁ~、照れるなぁ~』
誰も嬉しいまで言ってないんだけど……
「あー、嬉しい嬉しい。嬉しいから話を先に進めてくれませんかねぇ……」
女に弱い親父よりもお袋に似てて嬉しいと思ったのは本当だ。似てたのは肝心なところを黙ってる悪癖だけどな!
『うん! きょうがお母さん似で嬉しいって喜んでくれたから話進めちゃう!零ちゃん達もよーく聞いててね!』
「「「「「はい」」」」」
テンションの高いお袋、そんなお袋を見て若干ゲンナリする俺とは違い、真剣な表情の零達。何?そんなに俺との繋がりが大事なの?
『いいお返事だね! それじゃ本題に入るけど、零ちゃん達にあげるきょうとの目には見えず、絶対的な繋がりはさっきも言ったけど、きょうの霊圧だよ! な~んて言っても零ちゃん達にあげられるのは一部だけなんだけどね~』
普段と変わらぬ口調で話すお袋。だが、待て。人より強い力を渡すって何等かのリスクが付くんじゃないのか?
「まてお袋」
『なにかな?きょう』
「俺の霊圧って人よりも強いんだろ?そんなのを零達のような普通の人に渡しても大丈夫なのか?仮に大丈夫でも使用には何等かの代償が付くとかがあるんじゃないのか?」
バトルマンガ的な展開だと強すぎる力にはそれ相応のリスクが伴う。例えば、使用したら寿命が一年減るとか、視力が落ちるとか
『渡しても大丈夫な上に使っても特に代償はないよ~、というか、きょう』
「んだよ」
『バトルマンガの読みすぎ。もう少しエッチな本とか読んだら~?例えば、ツンデレ女子とあんな事やこんな事するのとか~、ヤンデレ女子とイチャイチャするのとか~、年上の女の子達とのハーレムものとか~』
例えがピンポイント過ぎる……
「買える年齢じゃないってのと、例えで出てくる女子がこの部屋にいる女性陣じゃねぇかってところには突っ込まないぞ」
『え~!お母さん的にはきょうが誰とお付き合いしても結婚しても構わないのにぃ~』
頬をリスみたいに膨らませて剥れるお袋だが、言ってる事は爺さんと一緒だ。日本は一夫多妻制じゃないんだけど?
「それは追々考える。今は俺の霊圧をどうやったら零達に渡せるかだけを教えてくれ」
『きょうが零ちゃん達に霊圧を流すイメージをしながら手を繋ぐだけ』
「え?それだけ?」
何かしらの能力を渡すのって普通はキスしたり、力を込めた刃物で刺したりするんじゃないのか?
『うん~、きょうが零ちゃん達に力を渡したいと思いながら手を繋げば渡せるから』
なんつー単純な方法なんだ……俺はその言葉を飲み込んだ。何て言うか、力の受け渡しが大した行為じゃないと感じる。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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