俺にとってメリットもデメリットもない掃除用具捜索ゲームがスタートしてから早三十分。女達の意見により、現在いる場所は……
「恭くんってエッチな本の一冊も持ってないの?」
俺達の住まいとなっている十四番スクリーン。ここに来る前、ちょっとした出来事があった。
遡る事、十分前─────
「トイレ付近に掃除用具があってもなくても俺にとってメリットなんて何もない。で、罰ゲームの事はどうでもいいとして、今まで出た候補を纏めるとリネン室、ランドリー、ゲームコーナー、プール、大浴場と出たが、どこから探すんだ?」
有力候補はないものかと隊長的な位置にいる琴音が隊員達に聞いたところ五つの候補が挙がった。候補が挙がったのはいいとして、どこから探すかだ
「恭くん、出た候補はこれだけじゃないよね?」
「そうだったか? 俺はこの五つしか覚えてないぞ?」
口では覚えてないと言ったが、実はちゃんと覚えている。六つ目の候補として俺達の部屋が挙げられてた。挙げられていてそれを言わなかった理由は簡単で俺の本能がこの人達は琴音も含めて俺の部屋で掃除用具を探すつもりは全くないと告げているからだ。
「きょ・う・く・ん? 出た候補は五つだけじゃないよね?あと一つあったよね?」
笑顔のはずなのにどこか威圧感を感じさせる琴音。初対面の時の情けない琴音はどこった?それと、渡井琴音っつー名前でドジっ子を連想したんだから少しはその片鱗を見せてほしい
「あ、いや、これだけだったと思う」
三人寄れば文殊の知恵という諺がある。これの意味は凡人でも三人集まれば文殊に劣らない知恵が出るという意味だ。この諺を出した事に深い意味はない。三人繋がりで女が三人寄れば姦しいという諺がある。これは女が三人寄ればやかましいという意味だ。問題、これらの諺から琴音は次に何を言うと思う?
「恭くん。六つ目の候補として私達が普段生活している部屋が出たの忘れたわけじゃないよね?」
答え、俺が必死に誤魔化そうとしていた候補を挙げるでした。諺を出した意味は全くない。知恵の方の諺は本当に出した意味はないが、女が三人寄れば姦しいの方は超重要だ。
「あー、そんなのあったなぁ~。でも、俺の部屋には廊下の掃除用具なんて入ってなかった。だから俺の部屋は絶対に違う」
確認はしてない。見られて困るものも持っていない。琴音は普段一緒に生活している。じゃあ、何で頑なに俺の住まいを調べる事を拒むと思う?
「そんなの探してみないと分からないよ! それに、もしかしたら恭くんのお宝本が見つかるかもしれないし!」
「「「「うん! うん!」」」」
これがあるからだ。お姉ちゃんと呼べだとかお母さんと呼べだとか言われた時点で何となく分かってた。俺の部屋を調べる=俺のエロ本を探すだろう事は
「俺はまだ十五歳だ! エロ本を買える年齢じゃねーよ!」
俺は十五歳でエロ本を買える歳じゃない。なのにそれがある前提で話をするのはどうなんでしょうね?
「嘘だ! きっと恭くんの部屋には私が見た事ないだけで大量のエッチな本が隠されているはず! お姉ちゃんは許しませんよ!」
「「「「そうだ! そうだ! お母さんも許しませんよ!」」」」
琴音はもう俺の姉になったつもりかよ……。そして母親集団、アンタ等ももう俺の母親になったつもりなのね……
「やかましいわ! 俺はエロ本なんて持ってねーの!」
「「「「「嘘だッ!!」」」」」
「嘘じゃねーから! っつーか! 声揃えんな! 一人くらい俺を信じようって奴はいねーのか!」
というやり取りがあり、琴音達は俺の反対を押し切って強引に住まいである十四番スクリーンへ。そこから掃除用具探しから俺のエロ本探しへと目的が変わり、琴音達はエロ本を見つけ出そうと奮闘するもご希望の品は出て来ず今に至る
「最初に言っただろ? 俺はまだ十五だからエロ本なんて買えないんだよ!」
年齢的に買えないというのも理由の一つなのは間違いない。それとは別に買えない理由があった。言うまでもなく親父の存在だ。万が一親父が部屋に入って来てエロ本が見つかってみろ。絶対に弄り倒されるのは火を見るよりも明らかだ
「え~! 年齢には無理かもしれないけど、買う時に歳誤魔化せば買えるでしょ?」
琴音が何を言っているのか解からない。インターネットっていう便利なものが存在する現代でそんなリスクを負ってまで俺がエロ本を買う勇者に見えんの?すごいね!
「バレた時に親や学校に連絡されるかもしれないリスクを負ってまでエロ本読みたいとは思わねーからな? つか、この部屋からエロ本は出てきませんでした! 琴音も母親達もエロ本探しはとっとと諦めて別の場所に掃除用具を探しに行きましょうね!」
本来の目的は掃除用具を探す事でありもしない俺のエロ本を探す事ではない
「あっ! そっか! 恭くんはエッチな本に写ってる女性じゃなくて私達に欲情してるんだね!」
「は? 何でそうなるの?」
琴音の言った事は俺には理解が出来なかった。エロ本を持ってないのは純粋に年齢で引っかかるから。だと言うのに琴音は謎理論で自分達に欲情しているとか言い出した。俺には意味不明だが、母親達は『なるほど!』と納得してる。あれかな?女にしか理解出来ない事があったのかな?
「だって! 恭くんは年上の女性が好きなんだよね? だから、零ちゃんと闇華ちゃんと一緒に寝る事が出来たんだよね?」
やっべー! 琴音が何言ってんのか本ッ当にわっかんねー! マジで何言ってんの?
「マジで何言ってんの!? 零に手を出したら全てが終わるし、闇華に手を出したら全てが終わるから手を出さないだけなんだけど!?」
零に手を出したら社会的に全てが終わる。闇華に手を出したら将来的に全てが終わる。どっちに手を出しても全てが終わるから手を出さないだけだ
「じゃあ、私達は恭くんの全てを終わらせないから手を出してもいいよ?」
掃除用具を探しているはずがいつの間にか俺が手を出すとか出さないとかの話になっていた
「出しません! とにかく! そんな事言ってると琴音をお姉ちゃんって呼ぶ話も他の母親達をお母さんって呼ぶのもナシだ! というか、本来の目的を忘れんな!」
琴音達とこれ以上掃除用具を探しても見つからないと思った俺は彼女達の返事も聞かずに部屋の外へ
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
部屋から出て最初に出たのは深い溜息。母親の一人が何を思って俺の住まいを掃除用具があるであろう候補に挙げたのか、琴音が何を思って俺達の住まいを最初の捜索場所として選んだのかは何となく見当が付いてる。
「琴音も母親達もはしゃぎ過ぎだっての……」
彼女達は純粋に嬉しかったんだと思う。さっきのやり取りで琴音の事が何となく分かった。彼女は多分、人とのコミュニケーションが上手くいかずにいたんだろう。さっきも俺が琴音達に欲情してると一言も言ってないのに勝手にそういう事にされてたし
「今まで琴音と関わってきた人間は多分、あんな感じになった琴音を叱りつけたか罵ったんだろうな……で、母親達は……純粋に息子が出来て嬉しかったってところか」
今まで母一人、娘一人で楽しいよりも苦しいの方が多かった生活。婆さんのところにいても多分、今みたいにはしゃげる機会ってのは少なかった反動なんだろうな
「婆さんには俺が責任持って面倒見るって言った以上は琴音にも母親達やその娘達、零と闇華にもちゃんと向き合わなきゃな」
自分で勝手にあれこれ考えといて勝手に決意を新たにするのはどうかと思いつつ、俺は部屋へ戻る
「……………」
「お帰りなさい、恭くん。ご飯にする?お風呂にする? そ・れ・と・も? お姉ちゃん? それか……」
「「「「お母さん?」」」」」
部屋に入った俺を出迎えてくれたのは琴音と母親達。格好は部屋を出る前と変わらない。強いて言うなら胸元がはだけたくらいか。んで、そんな琴音達が笑顔で立ち並び俺を出迎えてくれた。それもいい。問題は『お帰りなさい、恭くん』から先だ
「なんで胸元がはだけてるんですかねぇ……あと、何で新妻が聞くような事を皆さんが聞いてくるんですかねぇ」
「だってそっちの方が恭くん喜ぶと思って」
琴音の言葉に母親達も『うんうん』と言って頷いてる。さっきまでの俺ならば理解不能と切り捨てていただろう。しかしだ、今の俺は違う
「はぁ、こんな事されても俺は喜ばない。それより、さっさと掃除用具探そうぜ? 姉ちゃん。母さん達もな」
零達の前じゃ絶対にこんな事言えない。自分で言っといてなんだが、今もすごく恥ずかしい。恥ずかしいが、たまにならやってもいいと思う俺もいる
「きょ、恭くん……い、今、何て……?」
「わ、私も上手く聞き取れなかった……」
「私もです……」
目を潤ませる琴音と母親達。本当に今日の俺はらしくない。
「きょ、恭さん? もう一回言ってもらってもいい?」
一人の母親が俺の元へやって来た。もう一回言え?んなの嫌に決まってるだろ!
「え? 嫌だけど? 普通に恥ずかしいし」
血の繋がりがない上に幼い頃から知っている仲でもなんでもない年上の女性を姉だ母だと呼ぶのには抵抗がある。俺の個人的な意見にはなるが、義理の母や義理の姉に対してそう呼べないのはこの気恥ずかしさが原因だろう
「そ、そんな! もう一回! もう一回だけでいいから!」
「嫌だよ。さっきだってスッゲー恥ずかしいの我慢したんだから!」
俺の方はやって来た一人の母親の願望はまるでウィルス感染が広がっていくが如く他の母親や琴音に感染していった。そして……
「恭くん! お願いだからもう一回! もう一回お姉ちゃんって呼んで!」
「「「「お母さんって呼んで!」」」」
ものの見事に呼んでコールが部屋全体に響き渡る
「嫌だっつてんだろ!! 姉ちゃんも母さん達もいい大人なんだから諦めよろな!」
俺は先の事を予想する男だ。姉呼び、母さん呼びを拒否し続けたところで堂々巡りになるのは目に見えているだったら拒否しつつ琴音達の望みを叶えてやるのが得策だ
「「「「「分かった! 諦める!」」」」」
ほら、簡単に諦めた
「んじゃ、零達が帰ってくる前に掃除用具探すぞ」
「「「「「うん!」」」」」
こうして俺達は廊下用の掃除用具を探すのだが、エントランスの近くにあるトイレから簡単に見つける事が出来た。ちなみに、姉呼び、母さん呼びは零達には内緒にするという約束で時々そう呼んでやるという事でカタが付き、俺の体裁は守られた事を言っておこう
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