高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

ストーカーが家に乗り込んできた

公開日時: 2021年2月6日(土) 09:16
文字数:4,721

「なぁ、蒼」

「何ですか?恭さん」

「俺達は盃屋さんの居場所特定に関係する書き込みかそれを臭わすような書き込みを探していたよな?」

「ええ、間抜けな一般人ならともかく、不特定多数の目に触れるような職業ですから当事者である盃屋さんは安易に個人情報をバラしたりしないでしょうから第三者の線が濃厚って事で探し始めました」

「だよなぁ……」


 盃屋さんのメンタルを甘く見てはいないが、場合によっては本人に見せられないようなものもある。そう思った俺はトイレに行くと適当な事言って部屋から出て盃屋さんの居場所特定に関する書き込みを探そうと試みた。試みたのだが……


「ここまで短絡的かつ露骨なのは……、恭さん、ボクどんな顔したらいいですか?」


 我がスマホに表示されるは『盃屋真央のカバンに発信機を仕掛けてみた』というなんともまぁ、短絡的というか、露骨というか……、リアクションに困る題名のスレ。しかも、最新のもので最後の書き込みは家の住所で今からそこへ突撃するという内容のものだった


「俺が知るか! というか、この書き込みした奴は今から家に来るって言ってんだぞ?」


 普通ならこの手の書き込みはスルーかバカにして放置、通報するのが定石だったりする。相手にしたらヤバそうだし、相手は有名人だからそんな事してタダで済むわけがないし、単なる荒らしと認識されるからだ。なのにこの掲示板の連中ときたら……


「恭さん、さっきから再度読み込みかけて最新のにしてますけど、バンバンこの場所に関する情報公開されてるんですけど……」


 蒼の言った通りバンバン家の情報を公開している。やれ『この場所ってデパートじゃなかったか?』とか『こんなとこにいたら単なる不法侵入だろ』とか


「知るか! いざとなったら爺さんの力でも何でも使って黙らせる!」


 自重しない書き込みの多さに俺は考えるのを止めた


「恭さん、自分の霊圧でとは言わないんですね……」


 人の力を当てにする俺に飽きれたのか蒼は溜息交じりに言う。別に霊圧当てて黙らせてもいい。むしろそっちの方が早くて安心だ。ただなぁ……


「声優のストーカー相手にそんな事したらあっという間に広まって俺が面倒事に巻き込まれるだろ」


 普通のストーカーなら黙らせた後で警察にでも突き出せばいい。有名人のストーカーでもやる事は変わらないのだが、いかんせんどこで、誰が見てるとも分からない上に万が一動画でも取られてみろ?あっという間に見世物だ。


「まぁ、気持ちは分からなくもないんですけど、それよりもどうするんです?」

「あ?何が?」

「盃屋さんのストーカー、ここに来るんでしょ?」

「あー……どうしよう?」


 ストーカーが家に突撃してくると聞いて普通ならビビるところだが、俺はホラ、家が無駄にデカいし、何よりもお袋お墨付きの霊圧がある。ビビる事なんてあんまりない


「恭さん……」

「は、ははは、取るに足らない存在だから考えてなかった」

「ボクだってそう思いますけど、一応、対策は考えておきましょうよ……」

「め、面目ない……」


 俺達にとってストーカーなど取るに足らない存在だ。自分達の力を自慢するわけじゃないけど、人知を超えた力を使えばすぐに黙らせられる


「そんな事だろうと思って今回はボクが対策を考えておきましたよ」


 珍しい事もあるものだ。蒼が対策を考えてくれたなんて


「よし! 採用!」

「まだ何も言ってないんですけど……」

「いや、もう考えるのめんどくさいからその案でいこう!」


 暑い上に予想外の騒動でやる気がしない。今の俺に何かを考えるという選択肢はないのだ


「恭さんがそう言うのならいいんですけど、後からやっぱなしはダメですからね?」

「言わねーよ。今の俺は考えたくないモードだからな」


 ただでさえ夏休み前半の四日が勉強会で潰れたんだ、一刻も早く普通の夏休みをエンジョイしたい俺はこの騒動の早期終息を願う。今なら寛容な心でどんな案でも受け入れられそうだ


「そうですか、じゃあ、言いますけど、まず一階玄関に行きます」

「ああ」

「それで犯人を出迎えて撃退します」

「ああ。え?それだけ?」

「はい、そうですけど?」

「ちなみになんだが、その役は誰がやるんだ?蒼、お前か?」


 蒼の作戦は至ってシンプルだ。誰がそれをやるかは置いといて


「まさか、恭さんに決まってるでしょ?」


 蒼はもの凄いいい笑顔でとんでもない事を言いやがりました


「却下。このクソ暑い中外に出て堪るか」


 外は暑いから闇華達の買い物に付いて行かなかったのに何で俺が犯人を迎撃する事になってんの?おかしくね?


「やっぱなしはダメですよ?恭さんだって了承したじゃないですか」


 確かに俺は了承した。けどそれは俺が活動しない前提の作戦だと思ったからだ


「了承はした。俺が活動しない前提だったからな。だが、俺が活動するとなると話は別だ! 俺は断固拒否する!」


 俺はNOと言える日本人だ!


「えー!」


 えー! じゃない


「えー! じゃない。俺は外に出たくない」


 外に出るのもそうだが、なによりストーカーを撃退した後で逆恨みでネットにある事ない事を書き込まれたくない


「でも、恭さんがやらないと盃屋さんは元より零さん達だって危険な目に遭うかもしれませんよ?」

「ふっ、蒼よ、零達だって俺と同じ力を持ってるんだ、ストーカーの一匹や二匹軽く撃退するさ」


 力を持ってなかった頃ならいざ知らず、今は俺と同じものを持っている。ストーカーの一匹や二匹、軽く撃退するのは目に見えている


「恭さん、零さん達だってか弱い女の子です。同じ力を持っていたとしても実際にそれを発揮できるという保証はどこにもありませんよ?」


 それを言われたらお終いなのだが、蒼の言っている事にも一理ある。仕方ないか……


「はぁ……、爺さんと操原さんにメディア関係の友達がいるか確認しておいてくれ。あと、零達には黙ってろよ?」

「と、いう事は……?」

「今回ばかりは仕方ない、やってやるよ」


 本当は外に出たくないし目立つ事はしたくない。しかし、いつまでもこのままにしとくわけにもいかず、俺が折れるしかなかった


「さすが恭さん! そう言ってくれると思ってましたよ!」


 俺がやると宣言したからか太陽みたいな笑顔を浮かべる蒼。普通の奴ならトキメクところなのだろけど、俺は殺意しか湧かない


「はいはい。んじゃ蒼はとっとと部屋に戻ってどうぞ。念押ししとくが、爺さん達への確認と零達に黙ってるって事だけは忘れるなよ?」

「解ってますよ」


 そう言うと蒼は軽快な足取りで部屋の中へ入り、残された俺は────────


「はぁ……」


 溜息を吐くしかなかった


『きょうも大変だねぇ~』

「そう思うなら俺と代ってくれ」


 今この瞬間ほどお袋と立場を代えてほしいと思った事はない


『そう言ってもきょうは真央ちゃんをちゃんと守るんでしょ?』

「爺さんに言われたからな。やるしかないだろ」

『うんうん、お母さんは口では面倒だと言っててもちゃんとやるきょうの事大好きだよ~』

「そりゃどうも。さて、さっさと片付けるとしますか」


 俺は突撃してくる犯人を出迎えるべくエレベーターホールに向かい、そのままエレベーターに乗り込んで一階へ



 一階へやって来た俺はすぐさま外へ出た。当然、見ず知らずの人間が来るのは予想済みなのだが……


「何なんだ?この人の数は」


 俺が思ってた以上に大勢の人が押し寄せていた。え?コイツら全員が『盃屋真央のカバンに発信機を仕掛けてみた』ってスレにいた連中?ざっと数えても百人以上いるんだけど?


「どうなってんだよ……」


 俺はスマホを取り出し、調べた時と同じように何でも教えてくれる先生を呼び出し、履歴から『盃屋真央のカバンに発信機を仕掛けてみた』のスレにアクセスした。すると……


「はい?」


 最後の書き込みがあった後、スレが伸びたようで近場だから自分も突撃してくる旨の書き込みと動画の撮影を要求する書き込みで溢れ返っていた。目の前の人々がその結果だと思うと頭が痛い。お前ら、あんなアホなモンを当てにすんなよな……。誰か一人通報しろよ。何より恰好! ドイツもコイツもオタクの典型みたいな恰好だから全員が疑わしく見える


「何だろう……、コイツら全員犯人でも不思議じゃねーな」


 それもそのはず、ところどころから『デュフフフ、真央た~ん』『君のナイトが今行くよ~』とか聞こえるんだぜ?何もしてなくとも怪しく見えるだろ?って言うか、この連中はちゃんと風呂入ってんのか?


「お前! 真央を出せ!」


 家の前に集まったオタク集団に飽きれていると一人のオタクとは無縁そうな男が声を上げた。オタク連中の中にもまともな奴がいたものだ


「真央?はて?真央って誰の事っすか?」


 真央の名前で思い当たるのは盃屋真央一人しかいない。もちろん、家にいるから出せと言われて出すのは簡単なのだが、この大勢の人前で人気声優である彼女を出すという事はライオンの檻にエサを放り込むのと同義。すっとボケた俺は悪くない


「惚けんな! 盃屋真央に決まってるだろ!! ここにいるのは調べがついてるんだ!」

「調べがついてるって言われましても……。大体その……盃屋真央さん?でしたっけ?その人は何者なんですか?」


 男は小馬鹿にするような笑みを浮かべ



「は?お前、知らないのか?人気声優の盃屋真央だよ!」


 と言った。しかし、俺が知りたいのは盃屋真央が何者かじゃなく、誰が発信機をどんな方法で入れたかだ


「人気声優ねぇ……。その人気声優が何だってこんなところにいると思うんです?アンタはここがどんなところか知ってるでしょ?」


 この男達だってバカじゃない。書き込みにもあったようにここはデパートの空き店舗で本来なら土木関係の仕事をしている人間以外は立ち入らない場所。


「ああ、知ってる。ここは元はデパートだった場所だ。だが、発信機じゃここの八階にいるって反応があるんだよ! さぁ! 早く真央を出せ!」


 男に同調するようにオタクたちは声を荒げ始めた。こうなってくると零達にバレるのも時間の問題だ


「出せって言いますけど、出した後アンタはその人に何をするつもりですか?」

「もちろん! 永遠に俺のものにするに決まってるだろ! さぁ! 分かったら早く出せ!」


 本格的に男が何を言っているのか理解できない。永遠に自分のものにする?一般人ですらそんな事は不可能だというのに有名人なんてもっと無理だと何で気が付かない?


『きょう~、もう霊圧当てて黙らせたら~?』


 お袋、まだ肝心な事を聞いてないんだ、そうはいかないだろ


「出してやるのはいいけどよ、その前に聞きたい事がある」

「何だ?」

「アンタが発信機を入れたんだよな?」

「ああ! そうだ! 俺が真央を守るためにな!」

「守る云々はいい。俺が聞きたいのはアンタが発信機を入れた方法だ」


 ストーキングの相手が一般人だったとしても相手の所持品に発信機を取り付けるのは簡単じゃない。有名人なら尚更だ


「そんなの真央が乗っている電車の同じ車両に乗り込んで彼女の荷物を盗んでカバンに入れたに決まってるだろ! お前、バカか?」


 この男の口ぶりからカバンを盗んで発信機を入れた。その後は多分、カバンを拾ったとでも言って駅に届け、後はそれを真央さんが取りに来て家の場所を特定すればいい。ここからは俺の予想だが、発信機の電源だって無限じゃない。定期的にカバンを盗んで発信機を入れ替えてたといったとこか……。


「へいへい、俺はバカですよ」

「じゃあ、約束通り俺の真央を出してもらおうか?」


 男は手を鳴らしながらこちらへ一歩一歩ゆっくりと近づいてきた。それに合わせるかのようにオタク集団もこちらへ近づいてくる。万事休すではないが、ゾンビみたいだなとは思った。そんな時だった


「恭!!」


 零の声が辺り一面に響き渡り、振り向くと────


「マジかよ……」


 部屋にいたメンバー全員がいた

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