高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

イケメンには文武両道がデフォルトて付くらしい

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:34
文字数:4,382

「きゃー! 瀧口君ー! 頑張ってー!」

「瀧口君! ファイトー!」

「瀧口君! カッコいいー!」


 あの騒がしかった日から二日後である今日。俺達は体育館を借りて体育の授業を受けている真っ最中。女子達の黄色い歓声は現在進行形でバスケの試合をしている瀧口に向けられたものだ。


「このクソ暑い時期に身体を動かすとか正気の沙汰じゃねぇな」


 夏はエアコンの利いた部屋でぐうたらするのが最高の贅沢だという考えの俺からすると室内だとはいえスポーツをするだなんて信じられない。もちろん、水泳は別だ。水泳は人類が生み出した最高のサマースポーツだ。何しろ身体を動かせる上に涼しい思いも出来るんだからな


「恭クン、それを言ったら工事現場で働く人が可哀そうっしょ」


 女子達の黄色い歓声をBGMにボケっと瀧口達の試合を眺めていたところに飛鳥がやって来た。


「やかましい。俺のポリシーは暑い時期と寒い時期は活動しない事なんだよ」


 暑い時期に活動すると無駄にエネルギーを消費するからしたくない。寒い時期はそもそもが外に出たくないからしたくない。俺は間違ってないよな?


「それを言うと恭クンが活動出来る時期はいつなの!? 一年中ダメって事になるっしょ!」


 バカ言え、春と秋があるだろ! 春と秋はいいぞ~?日中はポカポカと温かい陽気で夜は程よい涼しさ。活動するには最適じゃないか


「いや、春と秋がある。日中は温かく、夜は程よい涼しさ。これ以上の環境が他にあるか?ないだろ?」


 春と秋はマジで過ごしやすい。具体的に言うなら春は四月下旬から五月下旬。秋なら九月下旬から十一月中旬だな


「恭クン、ダメ人間まっしぐら……」


 呆れたように溜息を吐く飛鳥に言ってやりたい。俺がダメ人間なのは今に始まった事じゃないと。外に出るのが嫌で学校を辞めようか?と本気で考えた時期もある。それくらい俺は暑いのと寒いのが苦手だ。


「ダメ人間で結構。俺は将来外に出て仕事しない職に就くから別にダメ人間で構わない」


 なんて言っては見たものの、現段階では将来俺は爺さんの跡を継ぐが確定している。それは追々考えるとしてだ。会長職か……俺が爺さんの跡を継いだら会議は全てテレビ会議システムを取り入れよう。


「はぁ……」


 飛鳥は溜息を吐いた後、ポソッと『こんな事言ってる恭クンに救われたから強く言えないよね……』なんて言ってたが、部屋が余ってたのと人材が必要だったってだけの理由なんだけど、本人達が救われたと思っているのならそれはそれだ。わざわざ言い直す必要もないだろう


「溜息を吐くな。本当に自分はダメなんじゃないか?と軽く自己嫌悪したくなるから」


 ダメ人間と言われるのは一向に構わない。事実だしな。何も言わずに溜息を吐かれると自己嫌悪してしまう。もしかすると俺は本当にダメなんじゃないか?とな


「だったら引きこもりみたいな事言わないでくれないかな?」

「そら悪かったな」


 引きこもりみたいな事を言ってる自覚はある。しかし、考えてほしい。夏の暑い時期に動きたくないと思うのは当たり前だろ?


「全く、恭クンは……これじゃ私が妻になるしかないじゃん……」


 頬を赤く染めよく解からない事を言ってる飛鳥。俺は突っ込まないぞ。結婚すらできない年齢なのに妻だなんて単語は聞いてない。うん、聞いてない


「それはさておき、飛鳥は何で俺んトコ来たんだよ?」


 前にも話したと思うが、星野川高校のクラスなんてのはあってないようなものだ。クラス関係なくみんな仲が良く、協力し合えている(一部は)。飛鳥の立ち位置的に普通高校で言うところのリア充グループ。つまり、トップカーストって事だ


「何でって私は恭クンと一緒にいるのが当たり前なんだよ?こういう合同授業の時は側にいるのが当たり前でしょ」


 飛鳥から出た答えは俺にとってはどれも初耳だ。どうして俺と一緒にいるのが当たり前なんだ?合同授業の時は側にいるのが当たり前の事と認識しているんだ?


「全て初耳なんだけど?誰が決めたんだよ」


 俺は周囲に頓着するタイプではない。クラス内で男女関係なく恋バナをしていたとしても俺は蚊帳の外で聞き耳を立てているのが当たり前の人間。傍観者ではあるが当事者ではない。だというのにいつから飛鳥は俺の側にいるのが当たり前になったんだ?ん?


「え?女子の間じゃそうなってるよ?私×恭クンって構図が出来上がってるくらいだし」

「何だよ、その二次創作のカップリングみたいな構図は」

「に、二次創作?何言ってるかサッパリだけど、とにかく! 私は恭クンと一緒にいるのが当たり前なの!」

「いや、知らんて」


 飛鳥が俺の側にいる事の何が当たり前なのか全く理解出来ないものの、とりあえず脳内花畑連中のパワーに負けたってのは理解した


「恭クンのバカ……」


 飛鳥さん?意味もなくバカとか言わないでくれませんかねぇ……


「バカで結構。それにしても……瀧口のヤツ、凄い人気だな……」


 飛鳥と話している最中にも聞こえた黄色い歓声。全て瀧口に向けられたものだ。イケメンでスポーツ万能。どこの王道ラブコメキャラだよと突っ込みを入れたくなるし、勉強が出来てスポーツも万能。天は二物を与えずとはよく言うが、瀧口は天から二物も三物も与えられたらしい


「瀧口君が人気なのは勉強もスポーツも出来るからでしょ?」

「そうだな。天は二物を与えずと言うが、瀧口は天から全てを貰ったらしい」


 普通の男子ならイケメンでスポーツも万能な瀧口を妬むところだ。俺?俺は違うな。俺にとってはその調子で男女問わず人気を集めてくれ。そして面倒な体育祭実行委員とか、文化祭実行委員とかを引き受けて俺を楽させてくれ。その程度の認識だ


「確かに普通の人からするとそうだけど、恭クンは瀧口君よりも凄いもの持ってるでしょ?」


 飛鳥の言う瀧口よりも凄いもの。俺の持っているものでそんなのあったかな?と俺はふと考える。俺は常に部屋に籠る事を考えている男子高校生。ラブコメ主人公のようなどこにでもいる平凡な男子高校生よりも更にダメな奴だ。そんな俺が瀧口よりも凄いものなんて持ってたっけなぁ……


「俺は常に部屋に引き籠る事を考えているダメな男子高校生だぞ?そんな俺が瀧口よりも凄い物を持ってるわけないだろ。飛鳥の思い過ごしだ」


 瀧口よりも凄いものを持っているのなら今頃女子の黄色い歓声を浴びてるのは俺のはずだ


「思い過ごしなんかじゃないよ。恭クンは人よりも強い霊圧を持ってるでしょ。私達に分けても有り余るほどの」

「あー、そう言えばそうだったな」


 他人よりも強い霊圧を持っている事が果たして瀧口よりも凄いものと言っていいのかどうかは不明な部分が多い。何しろ目立たないからな。お袋の言うように街一つ壊せば本当に凄いんだって証明出来るかもしれない。それをやると多くの命が失われるだろうからやらないけど


「そうだよ。それに恭クンは関わり始めて間もない私のお父さんに再就職先を提供してくれたり、見ず知らずで初対面の零ちゃん、闇華ちゃん、琴音さんを引き引き取るって選択が出来る優しさだってあるじゃない」


 飛鳥、関わって間もないお前の父親に再就職先を紹介したのも見ず知らずで初対面の零達を引き取ったのも単なる偶然だ。広すぎる上に部屋が余ってるって理由がデカいが、それ以上に零と琴音は家の前に居座ってたし、闇華は駅で絡まれたから家に連れ帰っただけなんだ


「どれも偶然なんだけどな」


 しつこいようだが今までの事は全て偶然の産物でしかない。俺が優しい人間か?と聞かれたら答えようがない。


「それでも私達は感謝してるんだよ?」

「そうかい。ま、それならそれでいい。俺からは何も言わん」

「うん」


 その後、俺達は瀧口の試合をただ眺めるだけだった。女子の黄色い歓声をBGMに。




 それから程なくして授業が終わり、今日はその場で解散。先生達は学校へ戻り、俺達生徒は早めに帰宅するように言われ、残る奴は残り、帰る奴は帰るという流れになった。もちろん、俺は帰宅組だ


「世の女子ってのはイケメンに弱いのかねぇ……」


 帰宅途中、ふと俺は瀧口の試合を思い出していた。


「それは人によるんじゃない?私はイケメンとか興味ないよ」


 隣を歩いている飛鳥が律儀にも俺の呟きに答えを返してきた。女だと知られた今でも男の格好している彼女にとってイケメンはステータスじゃないようだ


「そうなのか?」

「うん、私はどちらかというと無条件で他人に優しい人の方が好き。見た目なんて二の次だよ」


 世の中には不細工な男と付き合ったり結婚してる女もいる。見た目が全てとは言わないまでもそれなりに容姿というのは重要なのは俺でも理解出来る


「見た目は二の次か……ま、そう言う女も世の中探せばいるわな」


 世の中見た目不細工で性格イケメンもいればイケメンなのにとんでもなく性格が悪いのもいる。女だってそうだ。不細工なのに性格が聖母並みにいい奴もいれば美女なのにものすっごい性格が悪いのもいる。一概にこうだとは言えない


「恭クン、今の言い方だと私が変な女だって言ってるように聞こえるのは気のせい?」


 それは気のせいじゃない。ダイレクトにではないが飛鳥が変な女だと言っている。引き籠る事に情熱を注ぐ俺に好意を向けてる時点で変な女だ。零達もな


「気のせいだ。飛鳥は至って普通の女の子だよ」


 事実を言うと面倒だからここは飛鳥の気のせいって事にする。夫婦間でも秘密ってあるだろ?それと同じだ


「ふぅ~ん。口では何とでも言えるよね?本当はどう思ってるのかな?ん?」


 ダメだこの飛鳥。俺の言う事を微塵も信じてねぇ。


「本当に飛鳥はどこにでもいる普通の女の子だと思ってるからジト目止めて」


 飛鳥をどこにでもいる普通の女の子と言うのには些か語弊が生じる。本人には口が裂けても言えないけどな


「恭クンが本当の事を言ってくれたら止める」

「いや、本当の事しか言ってないから」

「でも霊圧少し乱れているのは気のせい?」

「気のせいだ」


 霊圧を分け与えてからというもの、下手に隠し事をして誤魔化そうとすると全く通じない。理由は飛鳥も言ったが、霊圧が乱れるからだ。それは俺に限った事ではなく、飛鳥にも零達にも当てはまる


「本当に気のせい?」

「ああ、気のせいだ。飛鳥達に隠し事したって仕方ないだろ?それに、隠すような秘密なんて俺にはない」


 俺に隠すような秘密がないのは事実だ。秘密がないというよりは秘密を作れない。霊圧が乱れてすぐにバレるしな


「今はそう言う事にしておいてあげるけど、本当に隠し事なんてないよね?嫌だよ?恭クンが黙ってどこかに行ってしまったりするの」


 俺を見る飛鳥の目には不安の色が浮かぶ。黙ってどこか行こうにも行く宛てなんてない。自分の家が一番最適だからな


「家が一番最適なのにどこに行こうってんだよ?何回も言うが俺は用事以外では部屋から出たくない人間なんだ」

「信じるよ?」

「ああ」


 自分のダメさ加減を再認識しつつ、俺は飛鳥と共に家へ向かった。

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