高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

家賃の話をしたらセンター長が泣き出した

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:34
文字数:4,081

「納得のいく説明をお願いしますよ?武田センター長」


 現在、開放された俺はリビングにてテーブルに就き、武田センター長に説明を求めている最中。ついでに言うと零達の特訓だが、俺が母ーズに捕まっている間に終わったらしく、戻ってみると部屋に俺の姿がなく、お袋から霊圧を探る術を教えてもらったらしい。で、あの場面に遭遇という流れだったみたいだ


「えっと~……、あ、あはは~」


 説明を求めるもセンター長は笑って誤魔化した。ここに来た理由を言うのは無理という事なのだろうか?それとも、零や闇華、琴音や飛鳥みたいに人には言えないような只ならぬ事情があるのか?


「笑って誤魔化さないでください。別に只ならぬ事情があるならそれはそれでいいです」


 零を拾った時から他人の重い家庭事情を聞くなんてのは慣れっ子だ。今更一人も二人も変わらない


「え~っと……説明は後でするから何も言わずに住める場所を提供してくれないかな~灰賀君ならいい物件知ってそうだしさ」


 俺は説明を求めたはずだ。なのに返って来た答えが何も言わずに住める物件を紹介しろというものだった。もしかしなくてもこの人は住む場所に困っている。よく見たら手ぶらだし


「それは別に構いませんけど……」


 住む場所を提供してやるのは構わない。だが、それならこちらとしても聞かなきゃいけない事が出てくる。聞く事はもちろん立地条件や家賃だ


「本当!?」


 ぱぁぁぁという擬音が聞こえるくらい満面の笑みを浮かべるセンター長。この人が自分より年上だと思うと世の中間違っている。そう思わされる


「ええ。ですが、住む場所を紹介する以上、こちらとしても聞かなきゃならない事が出てきます。それは解りますよね?」

「うん、立地や家賃の事……だよね?」

「はい。住む場所は癪な話、祖父に頼めば何とかしてもらえると思います。ですが、センター長が希望する立地、月々の家賃と予算を聞かなきゃ俺も簡単には紹介出来ません。もっと言うなら貯蓄額も聞きたいですが、あんまり金の話はしたくないんでそれはいいです」


 貯蓄額を聞きたいのはあくまでも万が一の事を考えての事だ。例えば、センター長を突然クビになって家賃が払えなくなったとかの支払い不能になった時の対策って言えば分かるだろ?


「り、立地は多くは望まないけど、駅に近いところがいいかな……」

「ほう、それで家賃は?」

「や、家賃は……」

「はい」

「家賃は……」

「はい」

「や……ち……んは……」


 家賃は……。それだけを繰り返す武田センター長は瞳から大粒の涙を流し、顔を覆って泣き崩れた


「えっと……どうしたらいいんだ?」


 顔を覆って泣き崩れるセンター長を前に俺は言葉を失った。希望の家賃を聞いただけなのに泣かれるだなんて誰が予想出来る?仕方なく俺は後ろで待機している零達に助けを求めた


「そんなのアタシ達が聞きたいわよ……」


 零の答えに闇華達は同意と言わんばかりに頷く。今回ばかりは誰一人として俺が悪いだなんて言う奴はおらず、逆に俺同様、センター長が突然泣き出して戸惑っているようだ


「恭ちゃん、武田先生が泣き止むまで待つ。今はそれしかないよ」

「だな。泣き止むまで待つか」


 普通なら優しい言葉の一つでもかけてやる場面だ。しかし、泣いてる原因が分からない俺はかける言葉が見当たらず、ただただセンター長が泣き止むのを待つしか出来なかった


「いや~、ごめんねぇ~、いきなり泣いちゃって~」


 しばらく泣き続けていた武田センター長だったが、ついさっき泣き止んだようで普段と変わらないテンションに戻った


「いえ、それはいいんですけど、希望の家賃を聞かせてくれると助かります」


 家賃の話をして泣き、ついさっき泣き止んだ人間に家賃の話。これが喧嘩とかなら確実に俺は外道か鬼畜だ。必要な事だから聞くんだけどな


「えっと……家賃は……今ちょっと経済的な事情で家賃にまで手が回らないから家賃はタダがいいかなぁ……なんて……」


 経済的な事情。つまり、遠回しに金がないと言っている。物件を紹介する不動産会社からしたらセンター長は単なる冷やかし。しかも、支払いの見込みがある人間にしか物件を紹介しないという現実を考えればそんな都合のいい物件なんてあろうはずもない。逆にセンター長が怒られるまである


「駅近で家賃がタダ。そんな都合のいい物件があると思います?」

「な、ないです……」


 シュンとし泣きそうな顔で答えるセンター長。そう、普通はそんな物件あるわけがない


「そうです。普通ならそんな都合のいい物件はありませんし、不動産会社に行ったら逆に怒られるか単なる冷やかしだと思われて終わりです」

「はい……」


 徐々に言葉尻が小さくなるセンター長。悪いがこれが一般不動産の現実だ。


「まぁ、センター長の経済事情は後で聞くとして、一般の不動産会社なら即座に叩き出される希望ですが、俺ならその希望を叶えてあげられます。駅近で家賃タダの物件を紹介出来ます」

「え……?」


 目を丸くし俺を見るセンター長。彼女は意外だと言わんばかりの表情をしているのだが、この人に紹介する入居先を知っている俺としては別に意外でも何でもない。


「センター長の希望通り駅近で家賃タダ。その上部屋は広いし、大浴場、ランドリー、プール、ゲーセン付きの優良物件なんですけどどうです?」

「す、住む場所を紹介してくれる方としては至れり尽くせりだけど……そ、そんな都合のいい物件なんて本当にあるのかな?紹介してって頼んでおいてなんだけど、その物件って事故物件だったりしない?」


 うわ、ひっでぇ言われよう……何も知らずに同じ話を聞いたら俺もそう思わなくはないけどよ


「事故物件ではありません。というか、センター長はもうその物件にいるんですけど……」

「え……!?」


 何で驚くの?つか、アンタさっき普通に女子会参加してたよな?そん時に話聞いてなかったのか?


「いや、え……!? じゃないでしょ。さっきの女子会で参加者の一人から聞かなかったんですか?」

「えっと……さっき仲良くなった子達からはここの家主が高校生の男の子だっていう事と自分達の母親は管理人として雇われているって言う話しか……」


 なるほど、十二番スクリーン在住の女子達は自分達がここに住んでいる話を全くしなかったと。だとしてもだよ?普通さ、外にデカデカと12とか数字が振ってある映画館開けて中が生活臭……それどころか酒の匂いが充満してたら普通は何かあるって気が付かないか?


「えっと……センター長はここが前何だったのかご存じで?」


 この建物の現状を話すのは非常に簡単だ。一言自分の家だと言ってしまえばいい。その前にこの建物が元々何だったのかを聞いておく必要がある


「デパートで去年の冬に潰れたって話は聞いた事あるよ?あっ! そう言えば灰賀君! それに藍ちゃんも! 空き店舗であるここで何をしてるの!?」


 えーっと?俺は何から突っ込めばいいんだ?いや、むしろ突っ込んでいいのか?この際だから真実を語った方が早い気がする。うん、そうしよう


「何してるも何も、このデパートの店舗全てが俺の家で今いるここは俺の部屋なんですけど……」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 俺の部屋だと告げた瞬間、センター長の絶叫に俺達は思わず耳を塞ぐ。この人はもしかしなくても天然だ。


「せ、センター長うるさいです」

「ご、ごめん……じゃなくって! え!? 何!? 灰賀君ってここに住んでるの!?」


 天然で小っちゃくて夜に出歩いてたら補導されかねない容姿でも察しだけはいいらしいな


「え、ええ、まぁ、高校入学を期に父に一人暮らしをしろと言われてからは……もっとも、東城先生を始めとする同居人のお陰で一人暮らしとは言えませんが……」

「で、でも、灰賀君の連絡先にあった住所はここじゃなかったよ!?」

「そりゃ、学校から送られてくる保護者向けの書類をここに送られても困りますから。連絡先に書かれている住所というのは多分、実家の住所です。実際はデパートだったこの場所で暮らしてます」

「そ、そうだったんだ……知らなかった……」


 この人はどうやってここの中に入ったんだ?という疑問、そもそも何でここに来たんだ?という疑問が生まれた瞬間だった。それはさておき、そろそろセンター長の家賃タダを希望するほどの経済事情を聞くとしよう


「理由等は後で話すとして、センター長」

「ん?何?」

「ここに住むんでしたらセンター長の家賃タダを希望するほどの経済事情を話してはいただけませんか?」


 ここに住む以上極貧生活に陥ったり、家を失った理由を絶対に話さなければならないなんて決まりはない。これは確認だ。本当に住む場所がないのか、本当に極貧生活を送っているのかという確認作業。ただそれだけの事だ


「えっと……こんなに人が多い中じゃ説明しづらいかな~……なんて……藍ちゃんと飛鳥ちゃん、それに灰賀君にもセンター長としての示しがつかないし……」


 センター長の言う示しがつかないというのは捉えようによっては大人としての威厳がなくなるとも聞こえる。


「示しがつかない……ですか……」


 俺はセンター長の言葉をゆっくり反復する。言う方からするとそうなんだろう。この人がプライドが高く、人を頼るのを悪としている人間ならどんな理由であれ家なし金なしの理由を話すというのは恥になるのかもしれない。


「うん。だから、経済事情は話せないかな~」


 天然系であっても大人としてのプライドは守りたいという事か。だが、俺にとって家と金を失った理由なんてのは些細な事だ。生き方の方が大事だし


「はぁ……」


 上手い言い回しが思いつかない俺は溜息を吐く。


「ごめんね?せっかく住まわせてくれるって言ってくれたのに」


 そんな俺を見てセンター長は切なげな笑みを浮かべ謝罪の言葉を口にする。


「別に構いませんよ。今の溜息は自分の語彙力が少ないなと思い知らされただけですから。それより、センター長」

「ん?何?」

「さっきセンター長が仲良く喋ってた女の子達いるじゃないですか」

「うん」

「あの子達は何でここにいると思います?」


 十二番スクリーンにいる母娘達が何でここにいるか。その理由をセンター長は何て言うんだ?

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