高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

知ってるような気がすると思ったらゲームの舞台となった館だとは思わなかった

公開日時: 2021年2月17日(水) 23:23
文字数:4,724

 渡された紙袋にスマホと充電器を藍に預けた俺はしおりを受け取り、食堂を出た。玄関ホールでしおりを開いて自分の部屋を確かめていたのだが……


「冗談だよな?」


 ただでさえ帰りたいと思っていたのにルームメイトの名前を見た瞬間、その気持ちがより一層強くなった。俺のルームメイトの名は────瀧口祐介。この館まで一緒に来た男の名だ


「何で俺と瀧口が一緒の部屋なんだよ……」


 瀧口を好きか嫌いかで言えばどちらでもない。強いて言うなら興味のない奴。道端の石ころ程度の男。特別話が合うわけじゃなく、かと言って話せないわけじゃない。俺にとってはいてもいなくてもどっちでもいい奴。話した事のない奴じゃないだけマシだけど、どうしても同じ部屋になりたいとも思わない


「部屋割り決めたの誰だよ……ったく、俺と瀧口は仲がいいわけでもなんでもないんだぞ……」


 星野川高校一学年担当の教師陣は何を考えてるんだ?どういう基準で俺と瀧口を同じ部屋にしたか小一時間ほど問い詰めたいところだ


「行くしかねぇか……」


 しおりで確認したところによると俺と瀧口の部屋は二〇五号室。見取り図で言うなら玄関ホールにある中央の階段を上がって右方向。館の中心部分付近の場所だ。


「はぁ……」


 俺は溜息を一つ漏らし、階段を上がった



 階段を上がり、二階へ到着。心なしか一階よりも更に薄暗く感じる


「解かってはいたが、やはり薄暗いな……ホラゲの舞台かよ」


 窓の有無関係なしに大きな建物が暗いってのは無意識のうちに恐怖してしまう。この館はどういうわけか窓が一か所しかない。高校のスクーリングで使う場所として考えるのなら明らかに不適切。なのにどうして星野川も灰賀女学院もここを選んだんだ?


「考えても仕方ねぇか」


 教師側の意図は分からない。俺が考えたところで分かるはずもないと諦め、しおりを見ながら二〇五号室へ向かった



 ひたすら右方向へと進み、ようやく俺は自分の部屋である二〇五号室の前に辿り着いた。ドアプレートには『二〇五』と書かれている。ここで間違いないようだ。俺はドアを開け、中へ入った


「ここは牢獄かよ……」


 中へ入ると天井から吊るされた傘電球がオレンジ色の光を放っていた。不気味という言葉がピッタリな部屋という印象を持ちつつも部屋全体を軽く見回すと二人分の古びたパイプベッドが二つあるだけで他の家具類はもちろん、トイレすらなかった。手前にパイプベッドには瀧口の荷物が置かれてたため、俺は奥にあるパイプベッドの側に荷物を置き、しおりをわきに放り投げ、そのまま寝ころんだ。


「これじゃ電気点いてても点いてなくても同じじゃねぇかよ」


 薄暗い部屋の中、オレンジ色の電球だけが光っているのは薄気味悪い。窓もないから自分のいる場所が地下なのではないかと錯覚してしまいそうになる


「よくもまぁ、こんな不気味な場所でスクーリングしようだなんて思ったよな……こういうの苦手な奴だっているだろうに……」


 幽霊が見える俺ですら若干怖いと感じる場所で三泊四日寝泊まりする。暗所恐怖症や閉所恐怖症の奴にとっては地獄だ。


『だね~、ゲームの舞台を忠実に再現したからってここはないよね~』

「ああ。全く、教師陣は何を────って、今何て?」

『ここはないよね~って』

「いやその前」

『ゲームの舞台を忠実に再現した』

「は?」

『は?じゃなくて、この館きょうは覚えてない?』

「ここへ来たのは今日が初めてだ。あの塀を見た時に何となく知ってるような気はしたけど」


 あのレンガ造りの塀を見た時、中に何があるか何となく知ってるような気はした。気がしただけなんだけどな


『そりゃそうだよ~、ここは“悪夢の夜”に出てきた館なんだから~』

「え?悪夢の夜ってもしかして……あの悪夢の夜か?」

『うん、その悪夢の夜だよ』

「マジかよ……」


 俺達が話している悪夢の夜ってのはゲームのタイトルだ。中学時代、親父が買ったはいいが、クリアできず途中で投げたサウンドノベルゲー。それを不登校だった俺と生きていたお袋の二人でプレイ。全てクリアした。ゲームの説明はこれくらいにして、この館がゲームの舞台を忠実に再現して造られたものだと知った俺はその事実に言葉を失う。ストーリーの詳しい内容は覚えてない。確かストーリーが複数あったような……それは後で思い出せばいいか


『うん。ゲームと違うのはこの島の構図と館のわきに見張り台がなかった事。ざっと確認しただけだから他にも違いはあるとは思うけど……どうする?』

「どうするって……」

『高校のスクーリングだから殺人事件は起きないと思うけど、用心に越した事はないでしょ~?館の探索くらいしておいてもいいんじゃない?』


 とは言われても探索可能な範囲は限られている。他の生徒や先生の部屋を勝手に見るのはご法度。できて食堂、共同トイレ、浴場、談話室くらいだ。


「そう言われてもなぁ……。見れて共同スペースくらいしかねぇぞ?」

『それだけあれば十分でしょ~?』


 十分って……早織さん?数は少ないですけど、建物は大きいんですよ?そこんとこ分かってます?


「建物はデカいんだぞ?それに、男女で区切られてるトイレと浴場はどうするんだよ?女子トイレに入ったら俺はただの変態だぞ?」


 小学生の頃、トイレ掃除で女子トイレに入る機会はあった。清掃や点検目的だったら文句を言う奴は一人もいないだろうけど、今の俺が入ったらただの変態だ。女子達から変な目で見られるのは明らかだ


『その辺は大丈夫だよ~、お母さんが調べるから』

「ならいい。んじゃ行くか。ここで寝てても暇なだけだしな」


 俺はベッドから起き上がり、ベッドわきに放り投げたしおりを持って部屋を出た



 部屋を出て一階へ降りた俺は談話室へ向かう事に。それにしても、館全体が妙に静かだ。自分以外誰もいないんじゃないかと思ってしまいそうだ


「これが普通なのかねぇ……」


 談話室へ向かう道中、薄暗い廊下に響くのは俺の足音のみ。星野川高校と灰賀女学院の合同スクーリングなんだから教師の声くらいしてもよさそうなのだが、それすらしない。この館に俺以外の人間が本当にいるのか?


『これが普通なんだよ~。この館にはお母さん達しかいない……素敵な夜を過ごそうね♡』


 頬をほんのり赤く染め、妄言を吐く早織。窓もなく薄暗い上にムードの欠片もない場所でどうやったら素敵な夜を過ごせるのか是非とも教えてくれ


「いやいや、俺達以外にも人いるから。同級生とか教師とかいるから」


 静か過ぎて俺達以外には誰もいないのではないかって錯覚に陥りそうだが、俺達以外にも人はいる。


『でも、誰ともすれ違ったりしてないじゃん』

「それを言うなよ……」


 痛いところを突かれ、どう言い返そうかと悩んでいた時────


 “何よ! コレ!!”


 談話室の方から零らしき女の怒鳴り声がした。


『人いてよかったね、きょう』

「うるせ。とりあえず行ってみようぜ」

『だね』


 俺は自分以外の人間が館内にいた事に感激しながら急いで談話室へ向かった



 談話室前に到着するとドアは開いていて中を覗いて見ると二つ折りの紙を持った零。その周囲に集まる動揺した様子の闇華、飛鳥のイツメン女子と星野川高校、灰賀女学院の生徒数名の姿が。その数名の中に瀧口もいるのだが、彼も顔を真っ青にし、酷く動揺しているように見える。一応、何があったか話だけでも聞くか


「大声なんて出してどうしたんだ?」


 俺は何も素知らぬフリで零達へ声を掛けた。


「きょ、恭! こ、これ……」


 そう言って俺の元へ駆け寄って来た零が渡してきたのは赤字で『今夜零時、誰か消える』と書かれていた一枚の黒い紙。


「誰か消えるねぇ……誰かのイタズラか?」


 死ぬと書かれていたならさすがの俺も危機感を抱く。しかし、消えると書かれているだけじゃ反応に困ってしまう。俺からしてみればこんなので動揺している意味が分からない


「イタズラなワケないでしょ! これ見なさいよ!」


 と言って零が取り出したのは別の二つ折りにされた黒い紙。そこには先程と同様赤字で『当館にお越し頂きありがとうございます。惨劇の夜をお楽しみください』と書かれていた


「なるほど。これを見た後じゃさっきの紙がイタズラに思えねぇわな」


 ゲームじゃ零が見せてきた『当館にお越し頂きありがとうございます。惨劇の夜をお楽しみください』と書かれた紙は各部屋のドアプレートに張り付けてあった。『今夜零時、誰か消える』書いてある紙の方は談話室の振り子時計が確か十五時だったか?そのタイミングで鳴って時間を確認しようとそっちに目を向け、違和感を持った主人公が近づいて見てみたら張り付けてあったってオチだった。俺にとって紙をどこで見つけたかなんて問題じゃない。これから何が起こるかの方が重要だ


「でしょ?アタシ達はこれからこの紙について先生達に相談しに行こうと思うんだけど、恭、アンタはどうする?」


 どうするも何もこの後の展開をうろ覚えだが知ってる俺が向かう先はもう決まっている。先生達に相談している時間が惜しい


「俺はパス。ちょっと行くところがある」

「そう。じゃあ、アタシ達だけで行って来るわ」

「ああ」


 そう言って零は同級生達を引き連れて出て行った。ある一人を残して。その一人とは……


「瀧口、お前は行かなくてよかったのか?」


 瀧口祐介だ


「本当は零さん達について行くべきなんだろうけど、それ以上に君の様子が気になってね」


 憎たらしい爽やかスマイルを浮かべる瀧口。さっきまで青い顔して同様してたのが嘘みたいだ


「俺は不審な動きを見せた覚えはないぞ?」

「そうじゃない。普通なら零さんが持っていた二枚の紙をどこで見つけたか聞くところなのに君はそれをしなかった。もしかすると何か知ってるんじゃないのかい?」


 鋭い。リア充は人の言動には敏感なようだ


「知ってたらどうする?」


 瀧口の言うように俺は二枚の紙がどこで見つかったか、これから起こるであろう事を知っている。さっきも言った通りうろ覚えだがな


「教えてほしい」


 そう言って瀧口は頭を下げた


「教えるのは構わない。俺としても学年の中心にいるお前が今後の展開を知ってるってのは動きやすいからな」

「な、なら────」

「だが、その前に食堂だ。確認したい事がある」


 ゲーム通りなら食堂にはアレがある。瀧口に今後の展開を話すのはそれからでも遅くはない


「分かった。僕も一緒に行くよ」


 俺と瀧口は談話室を後にし、食堂へ向かった。願わくばアレがない事を祈りたい




 食堂へ着いた俺達は目の前の異様な光景に言葉を失っていた。


「は、灰賀君……これは一体……」


 動揺を隠し切れない瀧口。それもそのはず、食堂の電気が消えていた。問題は電気が消えていた事じゃなく、一番奥の席に幽霊を思わせるような形でライトアップされた男性の遺影にも似た写真とその側に置かれたトラックのミニカー。そしてどこからともなく流れてくるこの音声


 “私は不当な理由で自分を解雇した会社を許しません。どんな事をしてでも必ず復讐します”


 遺影にも似た感じの写真とその側に置かれたトラックのミニカーから写真に写っている男性の職業が嫌でも解かってしまう。瀧口が動揺するのも無理はないと思う反面、ここまでするかと呆れる。


「ここまで忠実に再現するなよな……」


 俺は溜息を吐くとライトアップされた写真へ近づき、それらを手で払い飛ばした


「は、灰賀君!? な、何をしてるんだい!?」


 そう言って瀧口が掴みかかってくる。いきなり写真を乱暴に扱ったからそうされても仕方ない


「何って写真を払い飛ばしたんだよ。こうしなきゃ話が前に進まないからな」

「話って……き、君はアレが何か分かっているのかい!? 遺影だぞ!?」

「遺影じゃねぇから。確認したい事も確認できたし部屋に戻るぞ」


 俺は文句を言っている瀧口の手を引き、食堂を出た

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