部屋に戻った俺は零達が何も聞いてくれないのは助かったと思った。ただ、どうしてそんな結論に至ったかだけでも聞こうと思う
「零達が何も聞かないのは助かるが、どうしてそんな結論を出したんだ?」
零の性格上、絶対にしつこく聞いてくると踏んでいた俺からするれば闇華と琴音は聞き分けがいいタイプで捲し立てて誤魔化したところで察しはしてもそれを本人に聞く事は余程の事がない限りしない。が、零は違う。コイツは他人の隠し事を意地でも聞き出そうとするようなタイプ。そんな零が大人しく俺が過去の事を話すまで待とうだなんて結論に納得するわけがない
「恭、アンタが何を隠してるのかは知らない。出来る事ならアタシは……いや、アタシだけじゃなくて闇華も琴音もアンタが隠してる過去を知りたいと思っている。でもね、それを無理矢理聞き出したところでアンタは大人しく話す? 話さないでしょ。だから何も聞かないのよ」
零は俺がここに来て一番最初に拾った女だけあって俺の事を分かってらっしゃる。と言っても半ば強引に拾わされたんだけどな
「そうか。闇華と琴音はともかく、零は無理矢理にでも聞き出そうとしてくるものだとばかり思っていたけど案外考えてるモンだな」
「どういう意味よ! アタシが考え無しで生きてるって言いたいの!?」
オフコース。とは言えねぇよな
「零はなんて言うか、目の前にある壁は強引にでもブチ破りそうなイメージだから意外だっただけだ」
零はどっちかと言うとやる前に考えるのではなく、やってみて失敗した時に初めて考えるタイプだ
「アタシだってやる前に失敗するか成功するかくらい考えるわよ!」
「そうかい。まっ、俺の過去については高校入学後あたりにでも話すわ」
俺の性格上先延ばしにすると絶対に話さないのは目に見えている。だったら、高校入学後という期日を設けた方がいい。俺も零達も心の準備とか必要だろうからな
「そう。アタシはそれで構わないけど、闇華と琴音は?」
「恭君本人が決めた事ですから私もそれでいいです」
「だね。恭くんが高校入学後に話すって言ってくれてるんだからそれでいいと思う」
出合ってから一か月と経ってない人達に自分の過去を話すのは早いとは思う。だとしても長い目で見ればコイツ等とは年単位で付き合っていかなきゃいけないのは多分、確定事項だ。重い話は早いにこした事はない
「三人共……ありがとな」
俺は零達に礼を言うしか出来なかった
「「「いえいえ」」」
そんな俺を零達は温かく受け入れてくれた。なんかこれ若者ってより年寄の会話みたいじゃね?
そんな年寄染みた会話をした俺達だったが、暇なモンは暇なわけで……
「暇ね。恭、何か面白い動画ないの?」
こたつに入り、俺達は揃ってゴロ寝をしていた。
「面白い動画って言われても俺と零の面白いの基準が違うだろ。俺が面白いと思っても零からするとつまらないと思うかもしれないし」
面白いの基準は人それぞれだ。俺が面白いと思っても零からすると面白くない。人間は価値観が違うから面白いと思う反面、面倒だとも思う
「それもそうね。それにしても暇ね……」
この家に娯楽がないわけじゃない。元々は俺が一人で暮らす事前提だったから娯楽の類も俺の趣味に合わせて作られており、零達女性陣が楽しめるものなんてゲームコーナーにしかないのだ
「ですね……外に出ようと思っても家の中にあるもので事足りてしまいますし……」
闇華の言う通り外に出て遊ぼうと思ってもゲーム関係限定で言えば三番スクリーンだけで事足りてしまう
「わ、私は来たばかりでお風呂とゲームコーナーしか見た事ないけど、この家ってそんなに便利なの?」
俺達の中で最年長かつ入居が最も遅い琴音が知らないのも無理はない。この家にはゲームコーナー、大浴場、プールとまぁ、本家本元のホテルには負けるが、それなりに娯楽施設は揃っている方だ
「ああ、大浴場とゲームコーナーには昨日行ったと思うが、それ以外にプールもあるからな。大ホテルには劣るが、普通に遊ぶ分には家から出る必要がないんだよ」
スキーやスケートといった温度が極端に低くなきゃ出来ないようなものは別として、プールやゲームと言った一年中出来るものに限って言えば外へ出る必要はない。ウォータースライダーとか求めるのなら話は別だが
「し、知らなかった……」
「琴音は昨日来たばかりだから知らないのは無理も……あっ、ヤベッ」
琴音と話していて忘れていた事があった。それは────────
「恭くん、どうしたの?」
「親父に琴音の事言うの忘れてた」
琴音がここに住み始めた事を親父に報告してなかったという事だ
「言われてみればそうね。恭、アンタが父親と電話してるとこ見てないわね」
「確かに……で、でも、大丈夫ですよね?恭君。今更一人増えたところで問題ないですよね?」
いつも通りの零と不安そうな闇華さん。そして……
「きょ、恭くん、わ、私ここから追い出されちゃうのかな……?」
闇華以上に不安そうな琴音
「追い出されはしない。零と闇華を拾ったって言った時も軽い感じで許可出たから大丈夫だ」
零と闇華が大丈夫で琴音がダメだなんて事は親父の性格上ない。ただなぁ……
「そ、それならよかった……こ、ここを追い出されたらまた路頭に迷うところだったよ」
余程不安だったのか安堵の涙を流している琴音。俺としては追い出すとか追い出さないよりも親父に報告した後の方が不安だ
「追い出しはしないが……はぁ」
前に電話した時は好きにしろと言ってたから追い出されはしない。ただ、どんなタイプか聞いてくるのは目に見えてる
「追い出されないって分かって私はホッとしたよ。でも、恭くんはどうして溜息なんて吐いてるの?」
「そりゃ、零と闇華の時と同様に琴音がどんなタイプか聞かれた挙句、電話とか買う時に必要だからとか理由付けて琴音の写真を催促されるからだよ」
零達がスマホを買う時には助かった。それにしたって親父本人が撮影するならまだしも、俺が撮影するとなると気が重くなる
「写真くらいなら別に私は撮られてもいいけど?」
琴音は零達と違って寛大だったようで、呆気なく写真撮影をOKしてくれた。まだ頼んでないのに
「あー、それは親父に琴音も住む事になったって言って写真寄越せって言ってきた時にでも言う」
写真を張り付けてメールなんかしたら変に誤解されるに決まっている。とは言えこれも遅くなると面倒になるのは目に見えている。ただ、電話をするのは凄まじくめんどくさい
「恭君、とりあえずお父さんにメールでもしたらどうです?さすがに平日だから電話ってわけにもいかないでしょ?」
「闇華の言う通りね。とりあえずお父さんに琴音も一緒に住み始めたってメールだけでもしたら?」
闇華と零の言う通り平日の昼間という事もあり、電話ってわけにはいかない
「だな。とりあえず親父にメールする」
面倒だと思いながらもスマホを手にした俺は電話帳から親父のアドレスを開き『昨日から年上女性も住み始めたから』と一文だけのメールを送った
「とりあえず親父にはメールしたし、後は返事を待つだけだ」
「そう。それはそうと恭、アンタ暇潰せる道具持ってないの?」
「持ってない事はないが、ゲームしかねーぞ」
俺の持っている物の中で暇を潰せるものはゲームしかない。ただ、ゲームと言ってもほとんどがサウンドノベルゲーム。つまり、大勢でワイワイやるものではなく、どちらかというと一人で淡々とやるタイプのものだ。だからゲームが出来たとしてもこの中の一人だけ
「ゲーム! いいじゃない! それ持ってきなさいよ!」
ゲームと聞いた零はすぐに食いついた
「ゲームはゲームでもサウンドノベルゲーだぞ?」
「「「サウンドノベル?」」」
零達はサウンドノベルを知らないのか
「あー、サウンドノベルを知らなかったか……」
「「「うん!」」」
サウンドノベルについて俺の口から説明してもいい。ただ、俺って説明下手だから上手く説明出来る自信がない
「説明してもいいが、口で説明するよりやって見せた方がいいよな?」
「「「うん!!」」」
ゲームなら昨日三番スクリーンで飽きる程した。たが、それはあくまでも音ゲーとか、レーシングとかゲーセンに行けば出来るもので俺の持っているサウンドノベルゲーはゲーセンに置いてない。だからなのか零達の目はこれでもかというくらい光り輝いている
「すぐに準備するから少し待ってろ」
テレビに繋いであるHDMIケーブルを外し、PS(正式名称 PlayStyle)をテレビに繋ぐ。後は適当なソフトを入れるだけなのだが、どれもホラー要素がある。だから作品選びは慎重にやらなきゃいけない
「零達が苦手じゃないものを選べって方が無理か」
俺の持ってるものの中から零達でも親しめるものをと思ったが、そんな事考えているうちに日が暮れる。ここは適当に選ぶとするか
「ちょっと、恭、まだ選んでないの?」
後ろから苛立った零の声がし、振り返ると零が仁王立ちしていた
「ああ、サウンドノベルゲーはホラーものが多くてな。どれにしようか迷ってたところだ」
全てのサウンドノベルゲーがそうだとは言わないが、俺の持っているサウンドノベルゲーはホラー要素を含んだものが多い。俺一人でやる分には気を使う事はない。それが零達と一緒となると話は別だ
「ほ、ホラー? きょ、恭! サウンドノベルゲーってもしかしなくてもだけど、怖い感じのが多かったりするのかしら?」
ホラーと聞いた瞬間少し顔が引きつった零
「そうだな。俺だって全部知ってるとは言わないが、基本的にホラー要素を含んだものが多いな。だが、それがどうかしたか?」
俺は零の顔が引きつっているのをあえて無視。見たいと言ったのは零達だ
「な、何でもないわよ! そ、それより、は、早くしなさい!」
「はいはい」
俺は数ある中から適当に選び、零達の元へ戻る。関係ないと思うが、この部屋の利点はいちいち他の部屋に戻らずともリビングに俺の必要な物が置いてあるって事だ
「は、早かったのね?」
「も、もう少しゆ、ゆっくりえ、選んでいてもよかったんですよ?」
「そ、そうそう!」
零達の元へ戻ると零だけじゃなく、闇華と琴音も心なしか震えていた
「そりゃそうだが、零達もサウンドノベルゲーがどんなのか楽しみにしてただろ? 何はともあれ、とりあえずやって見せる」
「「「ま、待っ────」」」
零達の静止も聞かずテレビの電源とゲーム機の電源を入れる。そして、ゲーム機にソフトを入れゲームスタートなのだが……
「お前ら、始まる前から震えすぎだろ……」
まだOPどころか会社のロゴすら出てないのに震え上がっている零達。怖いなら怖いと素直に言えばいいのに
「う、うるさいわね! あ、アタシは部屋が寒くて震えているだけよ!」
闇華と琴音は恐怖のあまり声が出ないのか零の言葉に自分もそうだと言わんばかりの顔で頷く。辛うじて声が出ている零の声も震えていた
「さいですか」
テレビ画面に目を向けると会社のロゴが消え、OPに差し掛かっていたが、怠かったので飛ばし、その後のおどろおどろしいタイトル画面まで飛んだ。チラッと零達の方を確認するとタイトル画面を見ただだけですでに涙目。どんだけ怖いのダメなんだよ……
「一応、確認するが、そんなに怖いなら止めるか?」
「「「────!!!!」」」
俺の言葉に零達は無言で首を横に振るだけだった。要するに続けろという事らしい
「はぁ……」
素直じゃない零はともかくとして、琴音と闇華が意地を張るのは珍しい。多分、闇華は見たいと言った手前止めさせるのに気が引けたといった感じで琴音は……最年長としてのプライドか?
何はともあれ女性陣が終始無言で震えるだけのゲーム会は互いに口を利く事なく終わった。
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