高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

管理人がいなくなるのはある意味で致命傷だと思う

公開日時: 2021年2月27日(土) 23:10
文字数:3,481

「はぁ、はぁ、はぁ……、ま、間に合った……のか……?」


 食堂から全力で走った俺は談話室前に着き、ドアの前で垂れてくる汗を拭い、息を整えていた。琴音の尾行は予想外だったものの、このかくれんぼの犯人が琴音だっつーのは知っている。ゲームで起きた殺人事件の犯人が管理人だったからな


「はぁ、はぁ……さ、さすがに飲まず食わずで走るのはキツイか……」


 こんな事なら二度寝なんてするんじゃなかった……。後悔したところで今更か……。


『お母さん的にはきょうが運動不足なだけだと思うよ~?』

『早織さんに一票。日頃から怠けているから少し走っただけで息が上がるのよ。これを期に毎朝マラソンでもしてみたらどうかしら?』


 幽霊二人の言う事が正論過ぎてぐうの音も出ない。外へ出る事をせず、休みの日は寝てるかゲームしている俺に体力がないのなんて言うまでもない。いきなり走ったら息が上がるのなんて火を見るよりも明らかだ。


「う、うっせ……」


 正論を突き付けられた俺は一言だけ言い返すので精一杯。息は整いつつあり、汗も引いてきたから零達の前に出れるは出れる。談話室に入らない理由は特にないのだが……入りづらい。入ったら最後、このかくれんぼが終わるまで俺の自由がなくなる気がしてならないのだ。嫌な予感を感じつつ、俺はドアを開け、中へ入ると……


「「おかえり、恭」」

「おかえりなさい、恭君」

「無事に戻って来てくれて何よりだよ、恭クン」


 安堵の笑みを浮かべる零達に出迎えられた。もしかして扉の前でずっと待ってたのか?にしても……コイツらの事だからてっきり抱き着いて来るのかと思ったんだがな……


「ああ、ただいま」


 俺は零達にいつもと同じように返す。


「おかえり、灰賀君。無事に戻って来てくれて何よりだよ」


 爽やか笑みを浮かべる瀧口と特に興味なさ気な求道と北郷がこちらへやって来た。何でこの余裕が俺を起す前に見せられなかったのか、疑問だ


「無事にって……瀧口達からするとそう見えるのか……」

「まぁね。事情を知ってる僕達から見ると無事に帰って来るのは当たり前なんだけどね」


 瀧口が視線を向けた先にいたのは安堵の表情を浮かべる星野川高校、灰賀女学院の生徒達。チラホラと聞こえてくるのは『無事でよかった』という言葉。事情を知らない人間からすると俺が戻ってきた事自体が奇跡という事なんだと錯覚してしまう。犯人を知っていると余計にな


「そう思ってんのはお前含む一部だ」

「そうだね。でも、事情を知ってる僕や零さん達だって心配になる事くらいある。それだけは覚えておいて」

「俺は簡単に拉致されはしないんだが……」


 俺が拉致されるとしたら不意を突かれた時くらいだ。自分の力を過信するわけじゃないが、食堂へ行く時同様、背後から俺を狙う影あれば早織か神矢想花が教えてくれる。無敵のボディガードと常に行動してると言っても過言じゃなく、早々拉致られる事はないだろう


「だとしてもだよ。君がいない間、零さん達はずっと俯いたままだった。表情はよく見えなかったから泣いてたかどうかは分からなかった。でも、俯いて震えてたのは確かだよ」


 瀧口は笑みを崩さなかった。零達の泣き顔を見てないからなのか、顔で笑って心で怒ってるからなのかは分からない。だが、彼は笑みを浮かべたままだった


「はぁ……分かったよ」

「分かってくれたようで何よりだよ」

「霊圧探知すりゃ俺の居場所なんて簡単に特定可能だろうに……」


 俺は眉間に手をやり溜息を吐いた。この場にいる人間だと零、闇華、飛鳥、由香の同居人組と瀧口と愉快な仲間達は幽霊が見え、霊圧探知が出来る。万が一俺が拉致されてもそれを使えば簡単に見つけられる。それと心配するのは別なのか?


「簡単に居場所を見つけられるられないの問題じゃない。中学の頃に君を傷つけた僕や由香がこんな事を思う資格はない。それでも、由香も零さん達も当然、僕も君に傷ついてほしくないと思ってる」


 瀧口は笑みを消すと真剣な表情で言ってきた。傷ついてほしくない……か。例え傷ついたとしても俺は零達はもちろん、瀧口にも言わないと思う。信用してないわけじゃない。ただ、言う必要がないから言わないだけだ。言ったところで負った傷は癒えない。特に心に負った傷なら尚更な


「そうかよ。肝に銘じとくわ」


 俺は瀧口達の元を離れると例のチャラ男を探し始めた。零達は『アタシ達だけで話し合う事があるから』と言って瀧口達の元を離れると同時に離れて行き、俺一人。さて、どうしたものか……


「はぁ……こんな事なら飛鳥にチャラ男の名前くらい聞いとくんだった……失敗したな」


 俺にイチャモンを付けてきたチャラ男は俺のクラスで見かけた事がない。大方飛鳥のクラスだろう。俺の所属するC組じゃないって事はB組かA組。自分のクラスにいる人間すら把握してない俺が他のクラスにいる人間など把握してるわけがなく、当然捜索は……


「み、見つからねぇ……」


 難航していた。この談話室にはおそらく星野川高校、灰賀女学院の生徒全員がいる。その中からたった一人を見つける。星野川高校だけだったら割と簡単だが、灰賀女学院も混ざると話は別だ。見つけるのがいつもの倍は難しい。


「諦めるか。俺がここへ戻ってきたのは知ってるだろうし直接報告する事もねぇだろ」


 チャラ男探しを諦め、座れる場所を探そうとした時だった。


 ぐぅ~


 俺の腹が鳴った。それもそのはずで俺は起きてから今の今まで何も口にしていない。腹が鳴るのは当たり前の事だ


「腹減った……仕方ねぇ……」


 俺は談話室を出て調理場へと向かった。誰かに一声掛けようと思ったが、空腹には勝てず……黙って出てきた。一度一人で出歩いて拉致されなかったと証明したんだ。一人で出歩いて何ら問題はなかろう




 調理場に来た俺は一直線に冷蔵庫へ行く。冷蔵庫の中にレトルト食品しか入ってないと分かっていても食い物にありつけるならこの際レトルト食品だろうと関係ねぇ。だが……


「この光景はなんつーかあれだな……」


 冷蔵庫を開け、中からレトルト食品の山が出てくるのは虚しい。せっかく無人島に来てんだから山の幸、海の幸が出てこないものかとない物ねだりをしてしまう。


「ゲームで飯にレトルト食品を使っていたからってここまで同じにしなくてもいいだろうに……」


 大量のレトルト食品を前に思わず溜息と文句が漏れる。食うものがない時代だったらレトルト食品でもご馳走なんだろうが、今は食うものがない時代じゃない。食べたいと思ったら金の許す限り食べられる時代だ。


「飯を食うのは止めるか……」


 大量のレトルト食品を前に食欲が失せた俺は冷蔵庫の扉を閉めた。




「この後の飯はどうするんだ?」


 飯を食うのを諦めた俺は一杯の水を飲み、調理場を後にした。で、現在、談話室へ戻る道中。俺は今後の事を考えていた


「琴音────もとい、管理人がいなくなったとなれば問題となるのはどう考えても飯だよなぁ……」


 ベッドメイクは俺達が帰った後でやればいいし、風呂・トイレ掃除はスクーリング最終日に教師陣監督の下俺達生徒がする事になるだろう。掃除くらいなら管理人じゃなくてもできる。だが、飯ばかりはどうにもならない。こればかりは管理人に頼らなきゃならない部分が大きく、その管理人がいないとなると大変困った事になるのは目に見えている。それに……


「冷蔵庫の中身を他の連中に見せるのはちょっとなぁ……」


 大量のレトルト食品を他の生徒達に見せるのは躊躇われる。瀧口だけだったら百歩譲って許すとして、アイツ以外の生徒に見せたら何を言いだすか……考えたくもない


「勘弁してくれよ……」


 俺は面倒事が増えた事に頭を痛めながら談話室へ戻った



 談話室へ戻ると俺がコッソリ調理場に行った事など気にした様子はなく、皆一様に雑談で盛り上がっていた


「呑気なモンだねぇ……」


 雑談をする生徒達を見て俺は危機感をまるで感じていない生徒達へ毒づく。実際に人が死んだわけじゃないから焦る必要はないとはいえ、今後の事を考えるとそろそろ動き出さないとヤバい。二日目にいなくなるのは琴音だけじゃなく、後二人消える。それを考えると流暢に雑談をしている場合でもない


『何だかんだでスクーリングを楽しんでる証拠でしょ~?きょうもどこかの輪に入ってお友達とお話すればいいのに~』


 ここにも呑気な人が一人いたよ……。早織さん?単なるかくれんぼでも飯を用意してくれる人がいないってのはある意味で致命的なんですよ?


『そうよ、恭様。たまには心に余裕を持ったらどうなの?』


 神矢想花、お前もか。


「トイレにでも行くか」


 俺は再び談話室を出た。何か忘れてるような気がするけど……何だったかな?

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