家主の俺から始まった自己紹介。最初の入居者である零が終わり、次は闇華の番。どんな自己紹介になるんだ?
「では改めまして、私の名前は灰賀闇華。ここの家主である灰賀恭の妻です。趣味はお裁縫とお料理、夫の恭を観察し保護する事。年齢は十五歳で好きなものは恭君です。よろしくお願いしますね?」
闇華の自己紹介は一言で言うと名前と一部趣味、好きなもの以外は全て妄想とストーカー行為で埋め尽くされていた。そんな闇華に俺は……
「やり直し」
容赦なくやり直しを申し付けた
「ええ!? い、今の自己紹介に悪いところありましたか!?」
やり直しを申し付けた俺に涙目で抗議してくる闇華なのだが……むしろ何で悪いところがないと思うの?ねぇ?
「苗字と肩書と趣味の一部が悪い! そもそも! 俺も闇華も結婚できる年齢じゃない! 趣味だって裁縫と料理はいい。だけど何だよ!? 俺を観察し保護する事って! 俺は動物じゃねーよ!」
現在日本の法律じゃ男性は十八歳以上で女性は十六歳となっている。が、さっきも言った通り俺も闇華もまだ十五歳。婚姻適齢には達していないのだ
「将来的に恭君は私と結婚するんですからいいじゃないですか! 何の問題もありません! さあ! 褒めてください! キスしてください!」
褒めるのはちゃんと自己紹介が出来たらって約束ですよね? 闇華さん? しかもちゃっかりキスも追加されてるのは気のせいでしょうか?
「何でちゃっかりキスする事も追加してるんですかねぇ……」
闇華と最初に交わした約束はちゃんと自己紹介出来たら褒めるというものでキスするとは一言も言ってない。それに、飛鳥や東城先生がいる前でそんな事言ったら……
「恭クン……」
「恭ちゃん……」
うん。知ってた! 飛鳥と東城先生が笑みを浮かべてはいるものの、今にも襲い掛かって来そうな勢いで俺を見つめてるって何となく分かってた! で、琴音は……
「恭くん、私の相手もちゃんとしてくれないと嫌だよ?」
何でだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 何で琴音まで飛鳥や東城先生みたいになってんだよ!!
「琴音まで飛鳥や東城先生みたいにならないでくれ……収集がつかなくなるから!」
琴音まで飛鳥・東城サイドに堕ちたら残る良心は零しかいない。でもその零は……
「悪いけどアタシじゃ飛鳥達を止めるのは無理よ」
いとも簡単に俺を見捨てやがった
「そこは頑張ってもよくない?」
「嫌よ。暴走した飛鳥達を一人で止めるのって大変なの」
零の言う事は正論だった。闇華が暴走しただけでも大変だってのにそれに近い奴が二人も暴走したとなると苦労は二倍になる。それを一人で止めろと言う方が無茶だ
「はぁ……こりゃ本格的に暴走女対策を考えなきゃいけないな」
これからどうなるかなんて俺にも分からない。だが、このままじゃ俺は過労死してしまうというのは分かる。そう、このまま対策を立ててない状態だとな
「対策も何も恭がアタシ達に大切なものを捧げればいいだけの話じゃない」
「さらっととんでもない事言わないでくれ。それに、俺の大切なものって言われても何やればいいんだ?ゲームか? パソコンか? それとも、テレビでもくれてやればいいのか?」
俺が大切にしているものでやれるのはこれくらいだ。それ以上のものはない
「はぁ? バカじゃないの? そんな買えば手に入るものなんていらないわよ! アタシ達が欲しいのはアンタの初めてよ!」
この女、何言ってんだ?
「初めてって……俺のファーストキスでも欲しいのか?」
俺には初めてがキスだけじゃいなんて事は理解していた。しかしだ。俺は一人しかいない。そうなると当然だが、争奪戦になる事は目に見えている
「そうよ。アタシ達は恭のファーストキスが欲しい。出来ればアッチの初めてもね」
アッチの初めてというのは言うまでもないだろう。
「それは働いて金稼げるようになるまでお預けだ!」
俺だっていつかは彼女ができ、結婚すると思う。希望的観測でしかないし誰が彼女になるかだなんて分からない。もしかすると同居人の誰かと付き合うかもしれない。もしかすると違うかもしれない。それは置いといてだ。責任も取れない、稼ぎもない今の状態で俺は自分の恋人にキス以上の事はしないと思う
「アンタ、そういうところはしっかりしてるのね」
「まぁな。自分で育てられないうちに子供なんか作って一番不幸になるのは生まれてきた子供だっていうのは何となく理解してるからな」
「そう。それよりいいのかしら?」
「何がだ?」
「闇華達がさっきからアンタの事睨んでるわよ?」
横目でチラッと確認すると零の言う通り闇華達が俺を睨んでいた。
「はぁ……闇華、来い」
「はい……」
とりあえず闇華を呼び寄せる。自己紹介が上手く出来たら褒めるという約束だった。だから褒めてやる事はしない。が、あくまでも褒めてやる事はしないってだけだ
「ほらよ……」
「え? な、ナデナデ? きょ、恭君?」
闇華は頭を撫でられるとは思わなかったみたいで目を白黒させている
「褒めてやるのは自己紹介を上手く出来たらって約束だ。が、闇華は自分の苗字をちゃんと言えなかったから褒めることはしない。まぁ……何だ?自分に好意を持ってくれている女の子を撫でても罰は当たらないだろ」
女性の頭を気安く撫でるべきではないとは思う。せっかくセットした髪型が崩れたりとか、女性によっては髪の毛に触れたくないと思う人もいるだろうから。闇華の場合はどうか知らん!俺の妻だとか言ってる時点で嫌だとは言わないと思う
「ほ、褒めてはくれませんでしたけど、私は恭君に撫でられるだけで十分幸せですよ」
「そうかい。こんな事でよければいつでもしてやるよ」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ」
「恭君……」
「闇華……」
俺と闇華は互いに見つめ合う。そして互いの距離がゼロになろうとした時……
「「「「ストーップ!!」」」」
零達から待ったが掛かった
「ちっ……」
「はっ!? 俺は一体何を!?」
雰囲気に流され俺は闇華とキスしようとしたっぽい
「恭!! アタシ達の目の前で闇華とキスするなんていい度胸してるじゃない!!」
「そうだよ! 恭クン! 私だってまだ恭クンとキスした事ないよね!?」
「恭ちゃん、ファーストキスは私だよね?」
「恭くん!! キスはダメだよ!! 双子ちゃん達の教育に悪すぎ!!」
零と琴音は割かしまともな事言ってるからいい。それに引き換え飛鳥と東城先生……子供の前で何してんだ!! くらい言ってくれないかな?特に東城先生
「わ、悪かったよ……」
悲しいかな男の性。女には逆らえない
「恭! 闇華とキスするならアタシ達全員とキスするって約束しなさい!!」
「そうだよ!! 私達全員とキスするって言うなら闇華ちゃんとのキスも許してあげるよ!! 恭くん!!」
零と琴音がいつからまともだと思った?
「いやいや、闇華はもちろん、他の連中ともキスなんてしないからね?」
誤解がないように言っておく。俺はキス魔じゃない!!
「はぁ~、いつまでやってんだよ? ったく……」
不意に聞こえた第三者の声。この場にいるのは俺、零、闇華、琴音、東城先生、飛鳥、双子だけだ。零達がこんな言葉遣いをするわけないから声の主は双子のどちらかになる。しかし一体どっちが……
「ね、姉ちゃん、落ち着いて? ね?」
姉ちゃん……つまり、さっき聞こえた第三者の声は双子の姉の声か
「あ? コイツらがトロトロしてんのがワリィんだろ!! ったく、男の方はビックリするくらいヘタレで女達はどういうわけかヘタレにゾッコン……。女達は男の方に自分が何で好きになったか理由言ってとっとと告れってんだよ!!」
口悪すぎだろ!! 双子姉……
「ね、姉ちゃん! ボクもそう思うけど仕方ないよ。恭さんは『多くの女性からモテている俺カッコいい!!』とか思ってる痛い人で零さん達は『恭……私はこんなに好きなのにどうして気づいてくれないの?』って思ってるヒステリック一歩手前の人達なんだから!」
毒舌すぎんだろ!! 双子弟……
「はぁ!? 蒼は甘いんだよ!」
「み、碧姉ちゃんが厳しすぎると思うんだけど……」
どっちもどっちだ!
「アタイはいいんだよ! それよりも蒼! そんなんじゃ嘗められっぞ!」
「そんな事ないよ。自分に害成す人間はちゃんと潰してるから」
「まぁ、蒼に絡んで無事だった奴見た事ないから文句はねぇけどよ」
「でしょ? それより、恭さん達の自己紹介待ってたら僕達の番が来る頃には日が暮れちゃうから先にしようか?」
「そうだな」
勝手に話し合って勝手に結論を出すな
「っつー事で、アタイは空野碧。こっちが─────」
「弟の空野蒼です。姉共々よろしくお願いしますね?灰賀恭さん、灰賀零さん、灰賀闇華さん、灰賀琴音さん、灰賀藍さん。そして、灰賀飛鳥さん」
双子共、俺は灰賀恭で合ってるけど、他の連中は灰賀じゃない
「双子共、フルネームで合ってるの俺だけだぞ」
「いいじゃないですか。いずれ恭さんが纏めて嫁に貰うんでしょ? それに彼女達は満更でもないみたいですよ?」
「はい?」
「ほら、アレ」
蒼が指さした先にいたのは顔をこれでもかというくらい真っ赤にした零達の姿。『あ、アタシが恭のお嫁さん……』とか『きょ、恭君と結婚……え、えへへぇ……』とか聞こえてくるのは突っ込まないぞ
「蒼、日本という国はな? 一夫一妻制なんだ」
「知ってますよ。ヘタレ野郎の恭さん」
蒼君マジ毒舌!!
「ならいい。それと、ヘタレ野郎は止めろ!」
「なら、さっさと零さん達のハジメテを全て奪って見せてくださいよ。そうしたらヘタレ野郎だなんて言いませんから」
こ、コイツ……毒舌なだけじゃなく、心なしか爺さんと同じ匂いを醸し出してやがる……
「お前の言う通りにしたら俺の人生終わるんだけど?」
「いいじゃないですか。っていうか、飛鳥さんと一緒にお風呂入った時点で人生の終焉に片足突っ込んだようなものですし」
何で飛鳥と一緒に風呂入った事知ってるんですかねぇ……
「ど、どこでそれを……?」
「どこでってデタラメ言っただけですよ。まさか本当に飛鳥さんと一緒にお風呂に入ってたとは思いませんでした」
「だ、騙したのか……」
「引っかかる恭さんが悪いんです。中学生に騙されて恥ずかしくないんですか? まぁ、ボクを責めるよりも先に嫉妬の炎を纏い恭さんに迫らんばかりの零さん達を何とかする方が先だと思うんですけどね」
この後の話を少ししよう。飛鳥と一緒に風呂に入った事がバレた俺は零達から尋問され、その結果、零達とも一緒に風呂に入る事となった。どうやら俺はとんでもない双子の入居を許可してしまったらしい
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