『話すと言ってもまずどこから話したものかなぁ~』
「決めてねーのかよ……」
長くなってもいいから話を聞かせてくれと意気込んだ俺は何だったんだろうか?
『だってぇ~きょうは生前に私のお家にも来た事あるでしょ~? それでお爺ちゃんやお祖母ちゃんとも仲良くしてたから今になって話す事なんて何かあったかなぁ~? って』
お袋が生きていた頃に母方の祖父母の家に遊びに行って良くしてもらった記憶はある。それだって俺が幼い頃の話だ
「いやいや、俺が知ってるのはお袋の実家は神社をやってるくらいで他にはなんも知らねーんだけど?」
お袋の実家は神社をやっているってのは知ってる。むしろそれ以外何にも知らないんだよなぁ……
『そうだねぇ……きょうには家業の話しかしてないね~』
自分が必要最低限の話しかしてないのをのほほんとした笑みを浮かべて認めるお袋からは緊張感というのを全く感じない。これは俺が質問する形で詳しい話を聞き出すしかないか
「なんだ……お袋の実家はどんな家系か教えてくれ」
『ん~……家系で言うと家は代々霊力を扱う家系かな~』
霊力というとバトルものだとそれを扱っている作品では力の源とされるものだ。実際は眼力や脚力、聴力と嗅覚力などの物理的な力と念力、超能力みたいな霊力とがあると言われている。前者は男性に、後者は女性に多いなんていう説もあったりする。
「霊力って……俺は今の今まで幽霊の類は見た事ねーんだけど……」
今の今まで零の類を見るどころか怪現象に見舞われた事すらない。神矢との話し合いを除いて
『そりゃそうだよ~、きょうが生まれてから中二までは私が抑えてて死んでからは守護霊としてきょうの側にいたからね~』
さらっととんでもない事言わないでくれませんかねぇ……そもそもお袋の家系の血を濃く受け継いでいるなら俺の能力がどれだけのものかってのを教えてくれません?俺から聞いたとはいえ自分の能力を把握出来てないのは困るんですけど……
「は、初耳なんだけど……」
『今言ったから当たり前だよ~。それに、きょうは小学生の頃に能力を暴走させちゃって大変な事になったの覚えてない?』
小学生の頃? ダメだ……思い出せない……
「いや、覚えてないけど?」
『あちゃ~、覚えてないか~』
買い物に行って買い忘れを指摘されたかのような口調で額をペシッと叩くお袋。え? それで終わりなの?
「覚えてるわけないだろ。まぁ、印象深かったのは小二の頃に証拠もなく担任に疑われてやってないモンはやってねぇって強く言った後の記憶がない事くらいだ」
思えばあの一件以来だ。俺が名前で揶揄われる頻度が高くなったのは。それまでは子供特有の名前イジリだった。俺に濡れ衣を着せた女子連中もあっちからすると悪ふざけの範疇でしたんだと思う。された方からするとふざけんなって感じだけどな
『覚えてるじゃん。その時だよ、きょうが初めて霊力を使ったのは』
「え? マジで? そういや、あの時は机や椅子が滅茶苦茶に散乱してて窓ガラスや蛍光灯も割れて────あれ? 神矢との時と似てるな」
今回の神矢想子との話し合いした時の状況と酷似している。机と椅子が散乱している以外はほとんど同じ状況だ
『うん。だってそれがきょうの能力だもん』
うん、それも初耳だ。何?俺の能力って?
「何もかも初耳で若干怖いんだけど?」
『あ、そうだったね。じゃあ、お母さんの家の事から順を追って説明するね』
最初からそうしてくれませんかねぇ……
「出来れば最初からそうしてくれた方がよかった」
『あはは~、それは言わないお約束でしょ?』
「その台詞の使いどころ間違ってね?」
俺の指摘をお袋は“気にしない気にしな~い”と言って一蹴した。その後、真剣な表情になり、一呼し、口を開いた
『まずお母さんの実家の家系から話すと四十九院家の人間は代々人よりも強い霊力を持って生まれてくる家系らしいの。それもあってか古来から霊能力とか祈祷師とかそういった神秘的な稼業が多かったわ。でも、時代の流れと共にそれも衰退していった』
お袋の言ってる前半はよく分らない。だが、時代の流れと共に衰退していったというのは素直に頷けない部分がある。時代が進んで言ってもそういう家業の人達はいるからだ
「前半のはそうなのか? としか言いようがない。後半のは少し違うんじゃないか? 今だってそういう家業の人はいるだろ? 衰退はしてないんじゃないのか?」
衰退してるというのなら今頃その手の仕事はほぼゼロに近いと言っても過言じゃない
『きょうの言う通り衰退していったのは少し違う。正確には人が少なくなっただね。インターネットの普及となる人がなくなったって言った方がよかったかな?それはそれとして、どこまで話したっけ?』
「お袋の家系は人よりも強い霊力を持って生まれる家系ってところまでだ」
お袋の家系が強い霊力を持って生まれてくる。つまり精神の力が人よりも強い。そういう解釈も出来る
『そうそう、それで、霊力は人間誰しも弱いか強いかは別として生まれながらに持ってるものだからだからいい。遠い昔は神秘的な力を持っているだけで特別扱いされた時だってあったから。問題なのは強すぎる力をどうするかって事』
「どうするって……自分で制御するか誰かが抑えるしかないだろ?」
そんなのはアホでも分かる。マンガの読みすぎかもしれないが、強すぎる力は自分で抑えるか第三者が抑えつけるかのどちらかだ
『その通り!お母さんの実家の家系は人よりもほんの少しだけそういうのがあるってだけで他は普通の家庭と何ら変わりない。でも、稀にその能力が強すぎる子が生まれる。ここまで言ったら誰の事か理解出来るよね?きょう』
お袋の話で大体の事は理解出来た。何年、何百年に何人の割合かは知らないが、俺がお袋のいう能力が強すぎる子のようだ
「年単位での割合は知らんけど、ようするに俺がその強すぎる能力を持って生まれた子だって事だろ?」
結局お袋の実家の家系は強い霊力を持って生まれてくる家系だというのは分かった。何の説明もなかったたように思えるが、要約すると俺は父方の灰賀の血よりも母方の四十九院の血を濃く受け継いだ子供であり、その中でも強い能力を持って生まれた子らしい
『そうだよ~、きょうは察しが良くてお母さんは大助かりだよ~。お父さん同様に察しがいいね~』
初めて親父に似てよかったと思った。
「俺が四十九院家の血を濃く受け継いだ事とその家系の中で特別能力が強いのはいいとしてだ。神矢との時に起きた揺れの説明と具体的に俺は何が出来るんだ?」
俺は親父の息子であると同時にお袋の息子でもある。お袋がこうして目の前に現れてる以上、幽霊を否定する気はない。むしろ神矢との一件の時に感じた揺れについて具体的な説明がほしい
『神矢想子との話し合いで起きた揺れはきょうの怒りによって能力が暴走した結果。きょうの能力だと色々と出来るけど、そうだね~……主な力としては物を飛ばしたりがメインなんだけど……能力が強すぎでコレが主だっていうのは特にないかな~。まぁ、ファンタジーもので言うところのチート能力ってことで~』
どうやら俺は超能力者みたいなものらしい。ただ何かに秀でているというわけではなく、主にコレが強いってわけじゃなく、ファンタジーもので言うところのチート能力があるだなんて実感はないからリアクションに困る
「チート能力って……アレか? やろうと思えば斬撃すら飛ばせたり出来んのか?」
男子なら一度は憧れる。斬撃を飛ばしたり、テレポートしたりな
『あ、それは無理。バトルものに出てくるようなもの全般は才能があろうと修行しようと永遠に出来ないよ。でも、相手に霊圧をぶつけるのは出来るよ?』
俺の幼い頃からの夢が潰えた瞬間だった。それでも霊圧を相手にぶつけるのが出来るだけマシとしよう
「夢が潰えたと嘆くべきか……霊圧をぶつけられるっていうバトルものの基本が出来る事を喜ぶべきか……」
複雑な中二病心がせめぎ合う。喜ぶべきなのか……それとも、嘆くべきなのか……
『嘆く事ないよ~、きょうの力量だと百万人程度ならちょっと能力を開放したらすぐにダウンするんだからさ~』
ここに来てまたも知られざる真実!! え? 俺ってそんなすごかったの!?
「それも初耳なんだけど?」
『うん、今言った~』
「いやいや! そんな能天気に構えてる場合じゃないだろ!? 俺の持ってる能力ってもしかしなくてもとんでもないモンだろ!?」
自分の潜在能力の高さに驚くばかりだ。その能力を悪用しようとは思わないも自分の能力が危険なものだというのは解った
『そりゃそうだけど、きょうは何だかんだで理性的だし~、それは蒼君との喧嘩や恭弥達のと喧嘩を見て知ってるから』
お袋はずっと俺の側にいた。当然、俺が親父達や蒼と大喧嘩したのも知っている。だからなのか? こんなに信頼度が高いのは
「今更ゴールデンウィークの一件を見てた事には突っ込まねぇけどよ……俺だって人間で高校生だぞ? いつ怒りで我を忘れるか分からないだろ?」
高校生なんて子供と大人の境目だ。大人なら怒りを抑え込むところだったとしても簡単に怒りに囚われる可能性だってある
『その時はお母さんが止めるからまっかせなさい!』
自分の胸を叩いてドヤ顔するお袋。マザコンではないが、可愛く見えてしまうあたり俺は色々と末期のようだ
「いざという時は頼むわ。ところお袋」
『ん~?』
「お袋の下の名前ってなんだったっけ?」
『今更!? ていうか自分の母親の名前忘れるとかひどくない!?』
こればかりは反論できない。自分の母親の名前を忘れるだなんてひどい息子もいたもんだ。というか俺でした
「悪いとは思ってる。だが、親父はいつも“おい”とか“お前”ってしか呼んでなかったし、俺も俺で幼少期は“お母さん”で小学校高学年から中学に入ってからはずっと“お袋”呼びだったんだ。仕方ないだろ」
そう考えるとウチの家族は不思議だ。俺が生まれてからずっと自分の母親の名前も知らない息子と絶対に妻の名前を呼ばない父親、そんな父親に不満を一度足りとも漏らさない母親で構成されてたんだからな
『いや、さすがにお爺ちゃん達に訊いたりしなかったの!? それがダメでもお葬式は出てくれたんだから名前くらい知ってるよね!?』
お袋の言うお爺ちゃん達は自分の両親だろう。そういえば一回聞いた事あったけど……確かその時に言われたのは“お前のお母さんはお嬢ちゃんって呼ぶと喜ぶんだぞ~”としか言われてねぇし、葬式も葬式でずっと泣いてたからよく覚えてねーな
「爺さん達には“お前のお母さんはお嬢ちゃんって呼ぶと喜ぶんだぞ~”としか言われてなかった。葬式はずっと泣きっぱなしでよく覚えてない」
『お父さん……お母さん……自分の娘の名前くらい正直に答えてよ……自分の為に記憶無くすほど泣いてくれるのは母親明利に尽きるけどせめて名前くらい確認してよね……』
しゃがんでしょげているお袋を見てほっこりする俺。本格的にマザコンになりそう……
「本当に悪かったと思ってる……だから、名前を教えてくれると助かる」
『うう~……早織だよぉ~……』
涙目で俺を睨みつつ、名前を教えてくれたお袋は……家にいる女性陣の中で一番かわいいと思う。もしかしなくても俺って末期?
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