「ふぃ~、食った食った」
食堂にて飯を食い終えた俺はしばしの食休め真っ只中。同級生達が食い物を求めて冷蔵庫へ走って行った時はどうなる事かと思ってたが、無用な心配だったようでアッサリメニューが決まった。ちなみにメニューは調理に時間が掛からないラーメン。味は醤油、塩、味噌と別れているが、大きな寸胴鍋で麺を茹で、スープとなるお湯も大きな寸胴鍋で沸かしたから何のこっちゃない。
「だねぇ~……でもまさか冷蔵庫いっぱいにレトルト食品が詰め込まれてるのを見た時はさすがに引いたよ」
正面に座る由香が自分の腹を撫でながら冷蔵庫を開けた時の心情を口にする。俺も最初に見た時は言葉が出なかったが、彼女達は俺以上の反応を見せた。とは言っても単に何だこれ!? と騒いだだけだから語るまでもない
「由香に同意。普段料理しないアタシでも作れるものばかりで助かったと言えば助かったけど、手抜き感は拭えなかったわ。恭、アンタ昨日のカレーがレトルト食品だって知ってたわね?」
「うぐっ……!」
左斜め前に座る零から鋭い視線を向けられ、俺は思わず目を逸らした。彼女の言う通り昨日のカレーがレトルト食品だって知ってた。ついでに言うと睡眠薬が入っていたのも
「そうなんですか?恭君?」
「い、いや、知らなかった。昨日のカレーはレトルト食品だったのか」
「恭クン?」
「「恭?」」
零達からの視線が刺さる。飛鳥、お前にはレトルト食品だって話てあるだろ?何で睨む?睡眠薬入ってた事言わなかったからか?
「そんなに睨むなよ……この後の展開知ってるって事はだ、昨日のカレーがレトルト食品か否かくらい知ってて当然だろ?」
零達の視線に耐え切れなかった俺は溜息交じりで開き直ってみた。睡眠薬の件は後で誤魔化せるとして、自分達がいる建物の元ネタを知っているんだ、夕食に出された料理がどんなものかくらい知ってて当然! 聞かなかったお前らが悪いんだ! 俺は悪くない!
「はぁ……、命に関わるような事じゃないから何も言わないけど、次からはちゃんと言うのよ?」
「言わなかったら永遠に監禁しますよ?」
「私達全員と結婚してもらうから」
「お義姉ちゃんとずっと一緒にいようね?」
零の言い分は解かる。報連相は大事だ。が、闇華、飛鳥、由香の言い分は解らん。永遠に監禁とか怖い。全員と結婚?日本は一夫一妻制だ。お義姉ちゃんとずっと一緒ってどこまでだ?ずっと一緒に暮らすって意味なら首を縦に振るぞ?つか、皆さん何でハイライトのない目で俺を見るんですか?ウィルスみたいに感染するものでしたっけ?
「分かった分かった、次からはちゃんと今後の展開を事細かに言う。だからハイライトを戻してくれ……薄暗い環境下でそれやられっとマジで身の危険を感じる」
ヤンデレは嫌いじゃない。彼女にするならヤンデレが最適だとすら思える。主に煩わしい人間関係を構築せずに済む的な意味でな。ハイライトのない目だって愛嬌があると思えば可愛く見え、異常なほどの独占欲や束縛だって好かれている、愛されていると思えばウザいとは思わず逆に嬉しくなる。薄暗いあるいは暗い部屋でハイライトを消されると殺されはしないと理解していても若干怖い
「恭がお義姉ちゃん達に隠し事するからだよ悪いんだよ?昨日のカレーがレトルト食品だった事以外にも隠し事あるなら今の内に言っておいた方が身のためだよ?」
「由香の言う通りよ。今吐けばスクーリングの最中アタシ達と常に行動を共にするだけで許してあげるわ」
「恭クンは私達に隠し事なんてしないよね?するはずないよね?私達愛し合ってるもんね?」
「恭君が妻である私達に隠し事なんてあり得ません。ですよね?恭君?」
どっから突っ込んでいいか分からねぇ……零からか?それとも、飛鳥からか?いや、闇華か?あえて由香から?ハイライトのない目で笑みを浮かべる零達に俺は頭を抱えるしか出来ない。俺の年齢に関してはお茶を濁す。んな事よりも日本は一夫一妻制だ! ハーレム婚とか法律が改正されない限り無理なんだよ! 喉元まで出かかった言葉を飲み込み、俺は────
「今から言う事を聞いて怒らないっつーなら全部話す」
聞いた後で怒らない事を条件に琴音の事は伏せ、全てを話す事にした。こうなったらヤケクソだ。悪いのは俺じゃなく、夕食に睡眠薬なんて入れやがった琴音と容認した教師陣。どうにでもなれだ
『今から言う事を聞いて怒らないっつーなら全部話す』
「「「────!?」」」
スピーカーから流れてくる恭くんのこの一言が隠れ家内を戦慄させた。隠しカメラに映る彼は零ちゃん達に問い詰められ、諦めて全てを話すようだけど、仕掛け人の私達にとっては非常にマズい
「どどどどどどどうしましょう!? 灰賀君を止めに行かないと!」
「お、落ち着いてください、塚尼先生。焦っても仕方ありません」
明らかに焦っている清楚感あふれる女性と冷静を保とうとはしているけど、声が震えているクールな女性。星野川高校に勤務する塚尼宇美先生と藍ちゃんだ。彼に限って私に会った事を話すとは思えない。だけど、全てを話すという彼の一言は隠れ家にいる私達を震え上がらせるには十分だった。
「で、ですがッ! 灰賀君に全てを話されてはせっかくの計画が全て台無しになるんですよ!? 解っているんですかッ!? 東城先生!」
そう言って塚尼先生は藍ちゃんを問いただす。今の私は映像から目が離せず、彼女達の様子は見えないけど、塚尼先生の制止を強引に振りほどこうとしているだろう事は容易に想像できる。塚尼先生は不測の事態に弱いから
「解ってますよ。ですが、恭は肝心な部分は絶対に話しません。それは貴女も理解してますよね?」
「そ、それは……」
恭くんは肝心な部分を話す事はしないっていうのは藍ちゃんに同意。彼はいつもそう。口では何かあれば相談すると言ってるのに肝心な事は何も話してくれない。特に自分の思いなんかね。それが時々辛くもあり、楽でもあった。と、今は私の不満を愚痴っている場合じゃない! 二人を止めなきゃ!
「ふ、二人共、落ち着いて!」
振り返ると彼女達は私の思った通りだった。塚尼先生が藍ちゃんに押さえつけられている。
「渡井さん! 貴女には関係ありません! 早くッ! 早く止めないとレクがパーです!」
「ですから! 全部話すとは言ってましたけど、恭は肝心な部分は話さないと何度も仰ってるじゃないですか!」
「信用できません! 何を根拠に灰賀君が肝心な部分を話さないと言い切れるんですかッ!?」
「担任である私に何も相談してくれないところです!」
うわぁ……嫌な信用のされ方だなぁ……。今回ばかりは恭くんに同情。というか、塚尼先生も藍ちゃんも何を焦っているんだろう?
「…………東城先生」
「はい」
「それ、言ってて悲しくなりません?」
「ものすごく悲しいです」
恭くんが何も相談してくれない。この一言で焦りに焦っていた塚尼先生が平静を取り戻し、同時に藍ちゃんへ同情の目を向け、藍ちゃんの肩に手を置いて尋ねた。答えた藍ちゃんも涙目になってるけど、この場面を恭くん本人が見たらきっと『相談する事もないのに悲しいもへったくれもあっかよ』って言うんだろうなぁ……
落ち着きを取り戻したところで私達は一同、モニターの方へ目を向けた。でも、時すでに遅し。モニターの向こうにいる彼は零ちゃん達に睨まれていた。塚尼先生と藍ちゃんの声がうるさくて話の内容を聞き逃したし……踏んだり蹴ったりだよ……
全てを話し終えた俺は一息つく。だが、全く休まらないのはなぜか?それは……
「恭……覚悟はいいわよね?」
「私達を誘わなかった罪は大きいんですよ?」
「大好きな義弟に生贄にされてお義姉ちゃんは悲しいよ。」
「恭クンって薄情なんだね」
零達に睨まれているからに他ならない。俺は零達の圧に負け琴音の事を伏せ、昨日のカレーに関する事は全て話した。というか、カレーの事しか話していない。んで、話が終わってやっとこさ一息つけると思ったんだが……神は俺が嫌いらしい。正直に話したのに何で睨まれなきゃならんのだ?
「待て待て! 怒らないって約束はどうした!?」
全てを聞いて怒らないって条件を突き付け、彼女達は同意した。だから琴音の事や諸々を伏せつつ、昨夜零達が感じた異様な眠気の原因がカレーにあった事を始め、いろいろ話したっつーのに……
「知らないわよ! それより! 何かあると思うなら言いなさいよね!」
「そうです! 少しでも危険を感じたんだったら教えてくれてもいいじゃないですか!」
「恭クン! 次やったら婚約してもらうから!」
「恭! 帰ったらお義姉ちゃんと一緒にお風呂ね!」
真っ当なキレ方をする零と闇華。俺の弱みに託けて己が願望を言う飛鳥と由香。もう突っ込む気力すらねぇよ……
「分かった分かった。次に何かあると思ったら言うし身の危険を感じたら教える。そんな怒んな」
この短い間にドッと疲れた俺は何もかもを放棄し投げやりに答える。前半二人の言い分はご尤もで反論の余地はない。後半二人の言い分は逆らうと今度は自分達に魅力がないのかと喚きそうだ。当たり障りのない答え方をしといて損はないだろ。と、思っていた時だった────
「灰賀君!! 今度は東城先生がいなくなった!!」
瀧口が大慌てで俺の元へ来た。
「マジか……ここで東城先生か……」
面倒な事になったなぁ……。俺の心はいなくなった連中を絶対に探し出してやる!という思いから霊圧探って琴音の居場所特定すればよくね?という堕落思考へとシフトチェンジしていくのだった
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