高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

どうやら由香は告白の時に泣いて交際を申し込んだらしい

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:35
文字数:4,293

『はぁ……』


 元・自室前まで戻って来たはいい。道中決して軽い足取りではなかったものの、戻ってくる事は出来た。それはいいとして、この世界で俺が体験した事は普通の事じゃない。朝だったのがいきなり夜。不可解な事が増えた


『行くしかないんだよなぁ……』


 眠たくも何ともないのに布団に入る。普段の俺はそんな怠惰で自堕落な生活を望んでいてそれが許されるのなら万々歳だと思っていた。ただなぁ……朝だったのがいきなり夜に変わる世界でそれが手に入ったところでというのが本音だ


『仕方ないか……。この不安定な世界が何なのか、どうやったら抜け出せるのかを知っているのは多分、この世界の人間だけだ』


 時間があっという間に変わってしまう世界があって堪るか!と声を大にして言いたくはある。が、そういう世界だと言い切られてしまえばそれまでなのも理解している


『とりあえず由香だな……』


 当初の目的は由香の夢の中へ入り、彼女と話をする事。と言っても実際何を話していいのか分からない。学校では由香の方から一方的に絡んできたなんてのはあった。俺が絡むというのはゼロ。どう話を切り出していいのかと悩む


『なるようにしかならない……よな……』


 俺は運を天に任せ、ドアを開けた。



『遅かったね、何してたの?』


 部屋に入ると由香がベッドの上で正座して待っていた。アレか?結婚して初めての夜ってか?喧しいわ!


『トイレから出て喉が渇いたから水飲んできたんだよ』


 本当はトイレに行ってないし水も飲んでない。部屋ここまでの足取りが重かっただけだ。その事実を言いはせず、適当に誤魔化す。言って余計な不安を煽ってもしょうがないしな


『恭、私言ったよね?すぐに戻ってきてって』


 由香は鋭い目で俺を見つめる。コイツはこんな目も出来るのか……?零達に黙って外へ出て怒られた事あるけど、こんな目で見られたなんてのはないぞ……精々ハイライトが消える程度だ。


『わ、悪かったよ……』

『恭が戻って来るまでの間あたしがどれだけ不安だったか分かる?このままいなくなってしまうんじゃないか、あたしの事なんてどうでもいいんじゃないかって不安だった。なのに恭は悪かったの一言で済ませるんだね』


 め、めんどくせぇ……! 零達でもこんな事言わねぇぞ?なのにコイツときたら何でこんなめんどくさいんだ?


『お、俺に出来る範囲でしてほしい事があればする』


 謝罪の言葉をいくら言おうと由香は納得しない。零達もだが、俺の周囲にいる女は謝っただけで済まないから本当にめんどくさい


『ふーん、出来る範囲で何でもしてくれるんだ?』

『あ、ああ、由香を待たせたのは事実だしな。それくらいならするさ』


 本音は謝罪を受け入れてもらえないから行動に出るしかない。口には出さないけどな


『そっかそっか、出来る範囲でなら何でも……』


 何やらブツブツと言い始めた由香。時折『エッチな事もしてくれるんだよね……』とか『これにかこつけて結婚の約束してもいいんだよね……?』とか聞こえるが、俺はどっちもするつもりはないからな?そこんとこ解ってんだろうな?


 由香が独り言を言い終わり、期待に満ちた目を向けてきた。俺に何をさせるつもりだ?


『恭、出来る範囲でなら何でもしてくれるんだよね?ね?』

『あ、ああ、公序良俗に反する事や人生に関わってくる事以外なら』


 意味不明な世界に来て意味不明な設定が付いていた。公序良俗に反する事や人生に関わる事をしてみろ、お袋や零達に何て言われるか……考えたくもない


『何でもしてくれるって言ったじゃん! うそつき!』

『何でもするとは言ったが、公序良俗に反する事や人生に関わる事はなしだ!バレたらめんどくさい奴らがいるんだよ!』


 例えば、お袋とか、零達とか。


『あっ、そっか。お義父さんやお母さんにバレたらめんどくさいか……。あたし達が付き合い始めた時もめんどくさかったし』


 当たり前のように付き合い始めの事を口にする由香に俺は上手く返事を返せなかった。俺には告白した記憶もなければ告白を受けた記憶もない。


『ま、まぁ、そんなところだ。で?頼み事は決まったのか?』


 上手い返しが思いつかず結局は由香に同調する形になってしまう


『本当はエッチな事か結婚の約束にしようと思ったけど、後がめんどくさいから抱きしめて寝てくれるだけでいいよ』

『後がめんどくさくならなかったらそれを頼もうとしてたのかよ……』

『当たり前でしょ。恭との絶対的な繋がり欲しいもん!』


 何が当たり前なのか理解不能だ


『絶対的な繋がり……か……』


 零達もそれが欲しくて俺を監禁したんだったな。まさか由香から俺との絶対的な繋がりが欲しいだなんて言われると思ってもみなかった


『うん。だってあたしと恭は付き合ってるんだよ?好きな人との繋がりが欲しいって思うのは当たり前でしょ?』


 微笑みながらこちらを見る由香に俺は────────


『さっさと寝ようぜ。明日も学校があるだろ?』


 否定でも肯定でもない返事を返す。今の俺にはそれが精一杯だった


『むぅ、恭のバカ!』


 望んだ返事が返ってこず由香は剥れてしまったが、周囲や付き合っているとされる相手が言ってるだけの現状を認めたくはないんだ。許してくれ


『バカで結構。つか、もう寝ようぜ』

『そうだね! 明日も早いから寝よっか! おやすみ! あっ、抱きしめるの忘れないでね!』


 言いたい事だけ言って由香はさっさとその場に寝ころび空いたスペースを叩く。俺は由香の隣で横になると彼女をそっと抱きしめた


『えへへ……幸せ……』

『こんな奴に抱きしめれて幸せとは……世の中もっと幸せな事があるだろうに……』


 俺は容姿がいいわけでも性格がいいわけでもない。信じられない場所で暮らしている以外はその辺にいる高校生と何ら変わらない奴だ。ラノベに出てくるような平凡な中にも特別な何かを持っている主人公でもない。そんな奴に抱きしめられて幸せを感じる由香はどこか変だと思う


『好きな人に抱きしめられたら女の子は幸せなの!』

『さいですか』


 女性というのはよく分からない。人を好きになる基準を始め、幸せの基準がどこなのか理解に苦しむ


『うん!』


 本人が満足しているのなら幸せについてこれ以上俺から何かを言う事はしない。だが、俺は俺で聞かなきゃならない事がある


『由香が幸せそうで何よりだよ。それより、聞きたい事がある』

『何?何でも聞いて』


 そう言って俺を見つめる由香の目には期待の色が浮かんでいた。これから何を聞かれるとも知らずに


『それじゃあ遠慮なく聞かせて貰うが、俺達は親父達の再婚した時期とほぼ同時期に付き合い始めたんだよな?』

『うん』

『告白はどっちからしたんだ?俺か?由香か?』


 自分の性格上女子に告白するなんてない。常に受け身だからとか、自尊心が低いからではなく、人を好きになるというのがどういう事なのか理解してないからだ。


『どうしたの?いきなり?』


 先ほどとは一転しキョトンとした顔で俺を見つめる由香は質問の意図が理解出来てないみたいだ。まぁ、付き合っている相手にこんな質問されたら誰だってこうなるか


『どういった経緯で付き合い始めたのかなって思っただけだ。それで?俺が告白したのか?それとも、由香が告白したのか?』


 俺から告白するなんてあり得ない。特に由香だけには絶対に。そんな思いを抱きながら俺は彼女の答えを待った


『告白したのはあたしから。だけど、恭はそれを受け入れてはくれなかった……当たり前だよね……中学の時に自分をイジメてた相手からの告白なんて受け入れてもらえるわけないよね……』


 由香の言い分は正しい。中学時代に自分をイジメていた相手から好きです、付き合ってくださいと言われても素直に受け入れるのは無理だ。許すとか、許さないとかの問題ではない。信じられるか信じられないかの問題で


『そりゃそうだろ。許すとか許さないじゃなくて自分をイジメてた奴から好きですとか言われても信じられるわけない』

『うん。告白した時にも言われた』


 俺が由香の告白を拒否する姿が容易に想像出来る。でも、それだと変じゃないか?それだったら今の状況はあり得ない。人によるが少なくとも俺は自分をイジメてた奴を簡単には信じたりしない。親父達の再婚と同時期に自分をイジメてた女と付き合うだなんてのは絶対にしない。なのに由香と付き合っている。どうなってんだ?


『だったら今の状況は変じゃないか?俺は過去に自分をイジメたりしてた奴を簡単に信じたりしない。つまり、仮に俺と由香が付き合ったとしてもずっと先の話になるだろ?』


 人間どこで何があるかなんてのは予測不能だ。だから由香と付き合うのは絶対にない!なんて言わない。親父達の再婚とほぼ同時っつーのはいくら何でも展開が早すぎるとは思うとは言うけどな


『うん……本当だったらあたしが恭と付き合うのはもっと先の話になるはずだった。でも……』

『でもなんだ?』

『お義父さんとお母さんが恭を説得してくれたお陰であたし達は付き合えたんだよ』


 わけが分からない……。由香の話を纏めると場面背景はこうだ。告白したのは由香からでその場には親父と夏希さんがいた。俺は由香から告白されるも一度はそれを拒絶。大方今まで自分をイジメてた奴に好きとか言われても信じられるか!なんて言ったんだろう。それで親父と夏希さんが俺を説得して交際。変なところが多すぎる


『変なところが多すぎるだろ。え?何?お前、親父達の前で告白したのか?』

『うん……お義父さんから由香ちゃんみたいな子が恭の彼女だったら嬉しいって言われてその勢いで……』


 人間時にはノリと勢いで行動してもいいと思う。だけど、告白をノリと勢いでするってどうなんだ?


『告白を勢いでするなよ……それはいいとして、その告白に対する俺の返事は?』

『“中学時代の出来事だとは言えお前は俺をイジメてきた奴だ。そんな奴の告白なんて受け入れるわけないだろ?自分の行いを振り返ってからもう一度言え、バーカ”だったよ』


 うわぁ……俺なら言いそう……


『だろうな。今でも俺が由香と付き合ってるのが不思議なくらいだ。当時の俺がそう言っても不思議じゃない』


 ここまで来ると本当にどうやったら付き合う話になるのか謎だ


『うん……実際に言われた時は泣いた。泣きながら恭が好き、どんな扱いでも構わないし何でもするからあたしと付き合ってって言ったのは今でも覚えてる』


 由香は男を付け上がらせる典型だな。普通の男なら弱味に付け込んで無茶苦茶な要求してくるぞ


『うわぁ……』

『引かないで! それくらい恭の事が好きなんだから!』


 好きと言われて悪い気はしない。でも……でもなぁ……さすがに泣きながらどんな扱いでも構わない、好きだから自分と付き合えは引くぞ……

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