不都合な何か。考えても分かるわけがない。俺がする事は……
「考えたって仕方ない。とりあえず家探しでもすっか」
塚尼’sルームの物色である。昨日見つけたマネキンなくなった以上、別の手がかりをこの部屋から見つけ出すしかないのだ。とは言ってもこの部屋は窓がある以外俺の部屋と同じ。探す場所など塚尼の荷物を除くとベッドとその下くらいだ
『いいのかなぁ……』
「いいんだよ。遅かれ早かれいなくなった連中の部屋は捜索するつもりだったんだからよ」
早織のぼやきを軽く流し、捜索開始。このかくれんぼのヒントになるものが見つかりますようにと願いながらベッドの下を覗き込んだ
「何も見えねぇ……」
カーテン越しに夕日が差し込んでるから俺の部屋よりかはマシだとはいえ、部屋全体が薄暗い。ベッドの下は最たるもので明かりもなしに覗き込んだところで何も見えない。
「先に来る場所を間違えたか……藍の部屋から先にすべきだった……」
藍の部屋に行けば多分、俺が預けたスマホがある。そっちに行ってからここを調べればよかった……
自分の要領の悪さを痛感しながら塚尼の部屋を出た俺がしおりを頼りに向かった先は藍の部屋。荷物を物色する事もできたが、教師────というより、人のカバンを勝手に開けるのは良心が咎め、部屋を物色するだけに留めておいた。結局のところ塚尼の部屋はマネキンがなくなっていた事以外収穫はゼロ。飛んだ無駄骨だった。んで、藍の部屋に向かっているのだが、彼女の部屋は俺達男子が泊まっている部屋群とは反対側。女子の部屋があるエリアだ
「今度こそ手掛かりあってくれよ……」
俺は微かな希望を抱き、藍の部屋がある女子エリアを目指した
女子エリアに来て俺が最初にした事は言うまでもなくしおりを確認する事だ。アイツがいる以上、このエリアでは慎重に動かなきゃならない。まだ二日目とはいえ、一度も鉢合わせしてないのが不思議だが、今はそれよりも藍の部屋だ
「.二〇五号室?ん?」
しおりで藍の部屋番号を確認すると『.二〇五号室 東城』と書かれていた。これには違和感を覚えずにはいられない。.二〇五号室って何だ?数え順なら一〇五のはず。だが、実際には.二〇五と書かれている。考えるまでもなくおかしい。この『.』もそうだ。これは『てん』と読むのか?それとも、『ドット』と読むのか?ゲームじゃ女子の部屋がある左方向にある部屋番は『一〇一』から始まり、最後は確か『一〇九」で終わっていた。改めてしおりを確認したところゲームを元に造られたここの部屋番の順は窓がある塚尼の部屋が『二〇一』で最奥部にある部屋が『二〇九』。なのにここは『.二〇一』から始まり『.二〇九』で終わっている
「これってもしかして……」
俺が感じた違和感が次第に嫌な予感へと変わる。普通じゃない番号の振り方。誰かの悪ふざけとしか思えない
『多分、あの人の仕業じゃない?』
『私はよく知らないけれどあの人ならやりそうね』
早織と神矢想花も俺と同じ嫌な予感を感じたらしく、苦笑を浮かべている。彼女達が言うあの人とは俺もよく知る人物でこれまで何度も世話になった。そもそもがだ、こんな薄暗い場所がスクーリングの会場で管理人が琴音の時点であの人物が絡んでないわけがない
「あの人かぁ……この館がスクーリングだって時点で何となくそんな気はしてたが……はぁ……」
名前と続柄を出すだけでもめんどくさい。精神的に疲れすらする。俺はゲンナリしながら藍の部屋へ。
藍の部屋の前に着くと塚尼の部屋に入った時と同じくノックもせずにドアを開け、中へ入った。室内は電気が点いたまま。広さや配置されている家具は俺らの部屋と大差なく、手掛かりを見つけられる気がしない。
「俺らの部屋と大して変わらんか……」
教師の部屋だからと言っても所詮は同じ。建物の構造を考えると部屋番が違う以外は大差ない。塚尼の部屋は窓があるから俺らの部屋よりほんの少し明るい。だが、それ以外の部屋はどこも同じ。薄暗くて昼間も電気を点けなきゃ真っ暗。点けたところで真っ暗から薄暗いに変わる程度だから大した変化はないがな
『そりゃ、基本どこの部屋も同じ造りなんだから目に見えた変化はないと思うよ~?塚尼って先生の部屋は窓があったから変わって見えただけで』
「だよなぁ……大して変わらないよなぁ……」
俺の部屋同様、家具の類がなく、パイプベッドが二つあるだけだから特に調べる場所もない。いや、あるな。自分の部屋もそうだが、俺はまだ部屋に必ず一つありそうなアレをまだ見ていない
『部屋ごとに造りが違ってたら変よ。和室と洋室を分けてますとか、喫煙可か喫煙不可で分けてますならともかく、この館にはそういった区別は特になされていないわ。私の持論になってしまうけれど、部屋によって区別する必要がない以上、部屋ごとで造りを変えるだなんて無意味だわ』
神矢想花の言っている事は正しいのかもしれない。部屋によって内装や可能な事がないのなら造りを変える必要はない。ゲームの舞台を元に造られた建物だったら尚更だ
「まぁ、部屋ごとで造りを変える必要はないわな。それより、まずはコンセントと俺達のスマホ探しだ」
塚尼の部屋に生徒の物の思われるスマホはなかった。本体どころか充電器すらも。各クラスの担任が預かったスマホを管理しているのなら塚尼の部屋からスマホ機器一式が見つからなかったのはおかしい。まぁ、コンセントを探そうと思ったのはこの部屋に来てからだから今更なんだがな
『それは恭様が寝ている間に確認しておいたけれど、各部屋コンセントの差込口はベッドのわきにあったわよ』
「仕事早くね?というか、俺の部屋にいた零達はいいとして、よく藍に見つかんなかったな」
『見つかるわけないじゃない。私が確認しにここへ来た時はすでにいなかったんですもの』
「え?いなかった?」
『ええ。藍さんどころか教師全員ね』
「それって単に教師全員で風呂にでも行ってただけなんじゃねぇのか?」
こういう旅行的行事だと生徒には入浴時間が割り振られている。教師の入浴時間は必然的に全生徒の入浴後あるいはもう少し後。詳しくは知らんから何とも言えないけどな。だが、俺の部屋にいた連中は昨日の夜は全員入浴してなかったはず。部屋に入ったらシャンプーや石鹸の香りはしなかったし、髪も濡れてなかった。つか、琴音が盛った睡眠薬のおかげで生徒全員グッスリだったはずだしな
『私もそう思って荷物を確認してみたけれど入浴セットは入ったままだった。お風呂に入るのに入浴セットを持たずに行く人がいるかしら?藍さん一人ならウッカリ忘れたで済むかもしれないけれど、塚尼先生を除く教師全員のカバンに入浴セットが入れっぱなし。偶然にしては不自然過ぎると思わない?』
神矢想花が言うように偶然と片付けるにはあまりにも不自然過ぎる。一人ないし二人が風呂道具を忘れたと言うなら偶然で済む。だが、教師全員────つまり、五人の人間が同時に風呂道具を忘れるだなんて変としか言いようがない
『確かに不自然過ぎるね~。一人か二人ならまだしも五人同時はないよ~』
俺も早織に同意。一人か二人なら偶然だが、五人同時は変だ
「確かに風呂に行った前提で考えると変だが、今はスマホを取り戻す方が先決だ。全てを明らかにするのはその後でもいいだろ。この部屋にあるんだろ?俺達のスマホ」
俺達のクラス担任は藍だ。スクーリングに参加している生徒全員分のとまではいかずともC組の生徒達だけのはあってほしい
『恭様のスマホと充電機器一式ならこの部屋にあるわ。むしろ、この部屋には恭様のスマホしかないの』
「他の生徒のスマホと充電機器一式はないのか?」
『ないわ。多分、琴音さんの部屋じゃないかしら?』
どうして他の生徒のスマホと充電危機がないのかってのは……聞かなきゃダメかな?聞きたくないんだけど……
「それは後で探すとして、俺のスマホと充電器一式はどこだ?」
『奥のベッドのわきよ』
神矢想花に言われた通り奥にあるベッドのわきまで行き、下を見た。すると充電器に繋がれた俺のスマホ発見。充電器を外し、スマホを点けると……
「…………何考えてんだよ」
俺の目に飛び込んできたのは下着姿の藍。目元を手で隠してはいるがほんのり頬が赤い。上斜め45度の角度で盗ったんだろう上から下までバッチリ収まっている。しかも、下着の色は黒。普通の男なら誘われていると勘違いしそうだ
『きょう?お母さんはいつでもいいよ?』
『恭様、そういうのが趣味なら一言言ってくれればいいのに』
何がいつでもいいのか、どういうのが趣味だったら一言言えばいいのか……今の俺にそれを聞く気力はない。
「はぁぁぁぁぁ……」
帰ったら拾ってきた連中全員を常識的な奴と危ない奴で分別しよう。そう俺は固い決心をして藍の部屋を出た
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