一風呂浴び、頭をスッキリさせ、零達がまだ下着姿でいるのではないかと拭いきれない不安を胸に部屋へ戻ると────
「今度は土下座かよ……」
赤、黄色、青、黒、白、紫、水色のパジャマに身を包んだ零達が土下座していた
「「「「「「「「ごめんなさい!! お願いですから嫌わないでください!!」」」」」」」」
嫌わないでも何も俺は何も言ってない。お前らが勝手に嫌われたと思い込んでいるだけだろ?とは言えず……
「あー、まぁ、何だ?ああいうのは当分勘弁してくれ」
注意するだけしておいた。ラブコメの主人公ならたどたどしい口調で嫌いじゃない、いつもとは違って可愛かったと気の利いた事を言ってとりあえずご機嫌取りをするところなんだろうが、俺は語彙力があるわけでも女の褒め方も知らないからこれで勘弁な
「つ、次からは気を付ける。本当にごめんね、恭ちゃん」
頭を下げたまま東城先生が言う。年齢関係なく女に土下座されるってのは居た堪れない
「それでいいから頭上げないか?年齢問わず女に土下座されたままっつーのは逆に居た堪れなくなる」
あと土下座している意味が分からならない。
「恭ちゃんが許してくれるまで上げない」
「「「「「「「同じく……」」」」」」」
お前らが勝手に下着姿でいただけだから許すも何もないんだが……
「許すから頭上げてくれよ」
ゴチャゴチャ言うと面倒な展開になるのは目に見えていた俺は何も言わず彼女達に一言許すと告げ、頭を上げるように言ってようやく零達は頭を上げた……のはいいんだけど、何で泣いてんの?
「恭……アタシ達を変な女だと思ってないわよね?」
零が涙を流しながら尋ねてきた。同時に闇華達の不安に満ちた視線が刺さる。答えを間違えたらとんでもない事になりそうだ……
「あー……うん、零達は変な女じゃない。大丈夫だ」
零達とまともに目が合わせられない……。この女達は全員変な女だと思ってるだなんてバレた時は……全力で逃げるか
「「「「「「「「本当……?」」」」」」」」
「あ、ああ、本当だ。零達は変な女じゃない」
やめてッ! キラキラした目で俺を見ないでッ!! 罪悪感で押しつぶされそうになるからッ!!
「「「「「「「「よかったぁ~」」」」」」」」
変な女じゃないと言われ安心しきった零達は顔を綻ばせる。俺もよかったよ、本心がバレなくて
「安心してるとこ悪いけど、今何時だ?ついでに茜と真央がお袋の姿を見えるようになってから何日経ったかも教えてくれっと助かる」
風呂へ行く時に一度外へ出て暗かったから今が夜なのは解かる。問題はその時間だ。夕方という線は薄いものの、19時くらいならまだいい方でこれが深夜帯なら眠たくなくとも寝ないと生活リズムが狂ってしまう恐れがある
「にゃ、にゃはは……」
時間と何日経過したかを聞いただけなのに茜には苦笑いされ、零達には目を逸らされた。何でだ?
「変な奴らだな。俺は時間を聞いただけなのに何で答えないんだ?」
時間くらい自分で確認しようと思えば出来るが、今手元にスマホがなく、自分で時間を確認する手段がなく、零達に聞いたら返って来たのは茜の苦笑いだけ。俺の質問は難しいものじゃないから答えられないはずはない。
「え、えっと……ね?グレー」
「おう」
「私と真央が幽霊の姿を見えるようにした後グレー寝ちゃったよね?」
「ああ。寝たな。それがどうかしたのか?」
「にゃはは……お、落ち着いて聞いてね?」
「あ、ああ……」
どこか言いづらそうにしている茜。何を言い淀む?
「えーっとね?私と真央が幽霊が見えるようになった後、グレーは寝ちゃったよね?」
「ああ。女子会みたいになってて暇だったからな」
時間というのは恐ろしい。最初は幽霊ッつー事でお袋達にビビってた茜と真央がいつの間にか仲良くなってんだから
「それについてはごめん……」
「別にいいさ。俺が放置されるだけでお袋達への恐怖心がなくなるなら安いものだ」
茜はこれからどうするか知らんけど真央については一緒に過ごす仲だ。同居人同士で距離や蟠りがあったら俺がストレスで禿げそうだ。それに比べたら放置されたのなんて大した事ない
「そう言ってくれると私達も気が晴れるよ。で、話の続きなんだけど、グレーの昔話が落ち着いたところで飲み物をと思って声を掛けようとしたら……」
「俺が寝てたんだろ?」
「うん。で、喉乾いたのは確かだったんだけど、それ以上にお腹空いちゃって外へ食べに行こうってなったんだけど、寝てるグレー一人を残していくのはかわいそうだって話になってね」
この先は聞かなくても解かる。茜の言いたい事はおそらくこうだ。女子会が一段落したところで腹が減って外食しようって流れになり、俺を見ると寝ていた。彼女達は寝ている俺を部屋に一人残すわけにはいかず、きっとどうしたものかと頭を悩ませたんだろう。そんな時、零辺りが俺の身体に乗り移れ的な提案をお袋へしたと、こんなところだろう。心優しい連中だと思う反面、寝てるならそのまま部屋に放置でよかったのにと思う
「起こせなかった茜達は頭を悩ませ、結果、お袋が俺に乗り移ったかのか?」
「うん。零ちゃんが朝やったようにグレーの身体に乗り移れば?って早織さんに提案したんだ」
「別に寝てるなら叩き起こすかそのまま放置でよかったんだぞ?お袋だってわざわざ乗り移らんでもよかろうて」
別の提案をするならあのホテルにはコンビニもあったんだからそこで適当に弁当でも買って置いといてくれればよかった。大きなホテルだからと言って必ずバイキングで食べる必要はないんだから
「さ、さすがにグレーだけを残すのは……ね?」
「何だよ?」
「また勝手にどこかへ行ってしまうのではないか?という恐れがあったんだよ。聞いた話によるとグレーの単独行動はこれまでに何回かあったみたいだし」
「うぐっ……! な、何で茜がそれを……」
「零ちゃん達から聞いた」
余計な事を……。恨みの籠った視線を零達へ向けると彼女達は目を逸らすどころか逆に俺を睨みつけてきた
「そ、そうか……それなら仕方ないな! うん、仕方ねぇよ!」
零達に睨み返された俺は茜に視線を戻し、この話を強引に終わらせようと試みた。しかし────
「でしょ?仕方ないでしょ?だってグレーは誰かが見張ってないとすぐにどっか行っちゃうらしいしね! でも、私達もお腹が空いていた。早織さんに乗り移ってもらったのは仕方ない事だったんだよ! 納得してくれたかな?グレー?」
茜は俺inお袋が取った単独行動を相当根に持っているらしい。捲し立てるように言うのがその証拠だ
「あ、ああ。お袋が俺の身体に入ったのは納得した」
「よかった! 納得してくれて! 納得してくれなかったらどうなっていた事か……ねぇ?グレー?」
この目を俺は知っている。闇華達と同じ目で月一くらいで見てる
「えーっと、単独行動常習犯の俺が言っても信じられねぇと思うけどよ、茜達置いてどっか行く事はないから安心しろ」
高校生なんだからある程度行動の自由というのはあっていいと思う。だが、零達は極端に俺の単独行動を嫌う節がある。零、闇華だけなら解らなくもない。この二人は形こそ違えど家族を失っている。大切な人や親しい人がいなくなるという事に対して恐怖心があるのかもしれないと考えたら今までの行動にも納得出来る。琴音達に関しては分からんけど
「信じんじていいんだよね?」
「ああ」
絶対になんて事はない。ただ、可能な限り俺は彼女達の側にいようと思う。
「ならよし! 暗い話はおしまいにして、次の話だけど、オカルト関係の話は私じゃ分からないから早織さん、続きお願いします」
『まっかせなさ~い! きょう~、次はお母さんとお話しようね~』
茜からバトンを受け取ったお袋はハイテンションで俺の目の前に現れた
「話をするのは構わねぇけど、テンション高くね?」
『そりゃそうだよ! きょうとお話出来るんだからテンションも高くなるよ~!』
「酔ってんのか?」
『なっ!? 失礼な! 酔ってないよ! きょうのバカ!』
俺の発言に頬を膨らませて怒るお袋。あのテンションじゃ酔ってると思われても仕方ないだろ
「なら何でそんなテンション高いんだよ……」
『たまにはいいでしょ~! お母さんだってはしゃぎたい時はあるんだよ!』
「ちゃんと話をしてくれるのならテンション高くてもいいけどよ……」
テンションが高くても話さえしてくれればそれでいい。ちゃんと解るように説明さえしてくれればな
『ならいいじゃん!早速だけど、茜ちゃんの話はお母さんがきょうの身体に入ったところまでだったからその続きからだよ!』
「ああ。よろしく頼む」
『寝ているきょうの身体に入ったお母さんは茜ちゃん達とケーキを食べに行きました! その時刻が午後五時半! 後三十分もすればバイキングが始まるので軽めにしてみました!』
ドヤ顔で胸を張ってるとこ悪いけど、お袋よ、俺が聞きたいのはアンタらが何を食ったかじゃねぇんだよ
「ああ。で?ケーキの感想は後で聞くから端的に帰宅までの流れを話してくれ」
お袋達が食べたケーキの感想も聞くとは言ったが、絶対に聞くとは言ってない。それよりも今は帰宅までの流れだ
『じゃあ、結論から言うと家に帰って来たのは昨日の夜で茜ちゃんと真央ちゃんがお母さん達を見えるようになったのは一昨日! つまり、きょうは丸二日寝てたんだよ!』
丸二日はさすがに寝すぎだろ……。どうなってるんだ?
「それが事実だとしても丸二日は寝すぎだろ……」
『正確にはきょうが疲れてるだろうな~って思ってお母さんがきょうの身体に入ったまま二日過ごしただけなんだけどね!』
本格的にお袋が何を言ってのか分からない。彼女は何が言いたいんだ?
「え~っと、どういう事だ?」
『上手く説明出来ないんだけど……そうだなぁ~、簡単に説明すると解離性同一性障害の症状を強引に引き起こしたって言えば分かりやすいと思うんだけど……』
解離性同一性障害っつーと本人にとって堪えられない状況を自分のことではないと感じ、その時期の感情や記憶を切り離して思い出せなくすることで心のダメージを回避しようとすることから引き起こされるっていうアレか。なんか違うような気もしなくはないんだが……お袋との関係を考えるとこの例えが一番しっくりくるのか?よく分からない
「何か違うような気もしなくはねーけど、とりあえず納得した」
『納得してくれたようで何よりだよ~。ごめんね?お母さんの説明が分かりづらくて』
「別にいいさ。とりあえず目を覚ましたら自室にいた理由は分かったしな」
要はコックピット不在の飛行機をお袋が操縦し、家まで戻って来た。それだけの話だ。あまり聞きなれない精神障害を例えに出してくるから何事かと思ったぞ……
『さっすが! お母さんのきょう! 話が早くて助かるよ!』
話が早いんじゃなくて昔やったギャルゲーの主人公に似たようなのがいてそれに当てはめただ。俺の理解力なんて大した事ない
「話は分かった。で?今は何時なんだ?」
最初に時間を訪ねた時、零達は目を逸らした。で、あの後の話や丸二日寝てた話で話題を逸らされてしまったが、その話はもう通用しない。今が何時なのかさっさと吐いてもらうとしよう
「「「「「「「「……………」」」」」」」」
『『…………』』
時刻を聞くのはそんなにマズいのか?今度は零達だけじゃなく、お袋と神矢想花にまで目を逸らされてしまった
「はぁ……、千才さん達に聞くとするか……」
零達に時間を聞いても無駄なのが分かった俺は視線を東城先生の横にいる千才さん達へ移した
『午前三時よ』
俺が言葉を発する前に千才さんは零達に一瞬呆れた視線を向け、すぐにこちらへ目を向けて答える。最初から千才さんに聞いた方がよかったのかもしれない
「マジかぁ……」
中途半端とすら言えない時間。これから寝るには遅すぎる時間で起き続けるにも微妙とも取れる時間。これが午前零時、午前一時……ギリ午前二時なら寝たとしても日が昇る頃には起きられただろうけど、午前三時とは俺の中じゃすごく微妙な時間だ。
「微妙な時間だが、俺は一眠りする。茜と由香の話は起きた時に聞くわ」
布団を敷くのが面倒な俺は適当な場所に寝転がる。すると────
「「「「「「「「一緒に寝る!!」」」」」」」」
零達が俺の側へやって来た。さすがの彼女達もこの時間帯だって事と疲労もあってか誰一人喧嘩する事はなかったのは幸いだ。由香と茜の件は……起きた時に話を聞くさ
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