女将駅に移動すべく切符売り場まで移動しようとした俺、灰賀恭と居候の津野田零。そんな俺達の後をつけてきた謎の女性。彼女は一体何者なのか!
「モウハナシマセンヨ? キョウスケクンワタシサミシカッタンデスカラ」
俺の元へやって来た女性。その女性は俺をキョウスケ君と呼んだ。俺の名前は恭でキョウスケじゃない
「「………………」」
そんな彼女を目の当たりにして黙るしかない俺と零。ここは冷静に彼女を分析しようと思う。外見だが、髪型は手入れをしてないのかボサボサ。服装はワンピースを着ているがすべて黒。目はさっきも言った通り光がない。そんな事よりも彼女は何日風呂に入ってないんだ?異常な程臭う。ここが公共の場所じゃなければ思わず顔をしかめそうだ
「と、とりあえず、人の目とかありますし、は、離してくださると助かるのですが……」
謎の女性が俺をキョウスケ君と呼び、オマケに独占発言をした事で俺達は一気に注目の的になってしまった。その証拠に周囲からは『何?修羅場?』とか『アイツ二股掛けてんのかよ?』とかの声が飛び交っている
「ソンナ……キョウスケクンハワタシガキライニナッタンデスカ?」
好きとか嫌い以前に俺はこんな女知らねーんだけど!? 後、零の氷のような視線が痛い
「いや、好きとか嫌い以前に俺と貴女は初対面じゃないですか」
「ショタイメン……? キョウスケクンハワタシトアイシアッタジャナイデスカ!! ワスレタンデスカ!?」
女性は光のない目で俺を睨み、身体を揺らしてきた。キョウスケ君とやらがこの女とどこまで深い仲に進んだのかは知らない。一つ言えるのが……
「は、吐きそう……」
俺は今、吐きそうだという事だけだ
「ネェ! キョウスケクン!! ワタシガキライニナッタンデスカ!?」
「い、いや、お、俺と、あ、貴女は、しょ、初対面です……」
あまりにも身体を揺さぶられ過ぎた俺は意識が遠のき、目の前が真っ暗になりかけた。その時────────
「止めなさい!!」
零が大声を出した
「れ、零?」
「ナニ? アナタハ?」
俺は零が助けてくれた事に意外性を感じ、女性の方は零に対して警戒心丸出しの鋭い視線を送っていた
「そこのアンタ! コイツはアンタの言うキョウスケ君じゃないわ! コイツの名前は恭よ!」
女性を指さし俺の名前を高らかに宣言する零。公衆の面前で恥ずかしすぎる……穴があったら入りたいくらいだ
「キョウ?キョウスケクンジャナイノ?」
零が俺の名前を言う事で初めて女性は俺達の話をまともに聞けるであろう状態になった
「俺は灰賀恭で貴女の言うキョウスケ君じゃありません」
「う、うそ……?」
「本当です」
「そ、そんな……」
人違いだと気付いた女性はそのまま倒れこんでしまった。
「え!? ちょ、ちょっと!? な、何!? どうなったの!?」
「気を失ったのか……」
女性が倒れた事で狼狽える零と人一人が倒れたのにびっくりするくらい冷静な俺。そして、最初は『修羅場だわ』や『あの男二股とかマジサイテー』と言っていた野次馬も女性が気を失った事で『きゅ、救急車!!』『びょ、病院に運ばなきゃ!』と大慌てしていた
「お、お腹すいた……」
気を失い倒れたと思われた女性だったが、どうやら空腹で倒れたらしい
「「………………」」
何とも間の抜けた発言だ。俺はともかく零まで黙ってしまう程だ。だが、この程度じゃ野次馬は騒いだまま。それを一気に黙らせたのは────────
ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~!
女性の腹の虫だった。これを聞いた瞬間、救急車を呼ぼうとしていた人の手からはスマホが落ち、駅員を連れてきた人と連れて来られた駅員はその場で固まり、残りの人達は口をアングリ開けるという昔のコメディー映画のワンシーンが出来上がった。
「と、とりあえず連れて帰るか」
「そ、そうね、特に荷物もなさそうだし連れて帰って事情を聞く事にしましょう」
「それにしても、臭いな」
「そうね。何日お風呂に入ってないのかしら?」
女性の間抜けすぎる行動?により、俺も零も彼女に対する意見が多少辛辣になってしまいがちになる。それは置いといてだ、問題は彼女をどうやって運ぶかだ
「連れ帰るのはいいんだが、どうやって運ぶ?」
「どうやってって、普通におんぶでしょ」
「誰が?」
「恭」
「「……………」」
負ぶって連れ帰るのはいい。ただ、おんぶするのが俺だという事には納得がいかない
「連れ帰るのはいいんだが、どうやって運ぶ?」
「どうやってって、普通におんぶでしょ」
「誰が?」
「恭」
「「……………」」
「もう一度聞く。誰がおんぶするって?」
「だから、恭だって」
「「……………」」
うん、俺が連れ帰る手段を聞いて零がおんぶと答えるのは分かっていた。気を失いかけている人間をおんぶするのは男の方がいいという事も分かっていた。だが…………
「冗談じゃねぇ! こんな刺激臭のする女をおんぶなんて出来るわけねーだろ!!」
何日風呂に入ってないかは知らん! が! 女だとはいえ刺激臭のする物体Xを負ぶれ? バカじゃねーの!?
「はぁ!? アンタ! 女の子であるアタシに動けない人をおんぶしろって言ってんの!?」
「そうは言ってないだろ! 俺が言いたいのは家まで謎の物体Xを運ぶのは嫌だって事だよ!!」
「アタシだって嫌よ!! こんな何日お風呂に入ってないか分からない人おんぶするのなんて御免だわ!!」
「俺だって同じだよ!!」
本人には悪いが、刺激臭のする女を運ぶとかどんな拷問だよって思う
「ふ、二人とも……酷い……」
空腹で気を失いそうになりながらも俺達の言い争いを聞いていた女は蚊の鳴くような声で抗議してくるが俺達にとってはそんなの関係ねぇ!
「「元はと言えばアンタが悪い!!」」
抗議してくる女を俺と零は一蹴し、その後、睨み合う
「あ、あのぉ~、お二方?」
俺と零が言い争いをしているところを止めようとする第三者の声がした
「「何だ!!」」
「ひいぃ!?」
俺も零もヒートアップしていたせいかついその第三者……駅員さんを睨んでしまい怯えさせてしまった
「「あっ……」」
駅員さんが悲鳴を上げたところで俺達は我に返る
「も、もしよろしければブルーシートをお貸ししましょうか?」
駅員さんはブルーシートを貸そうかと提案してくれるものの、その顔は引きつっていた
「お願いします。ついでにロープも貸していただけると大変助かります」
ブルーシートを貸してくれると提案してくれている駅員さんに零は図々しくもロープまで要求しやがった。ブルーシートとロープだけで俺が女性をどんな状態で運ぶのか想像出来てしまうのが嫌だ
「わ、わかりました……駅員室まで取りに行ってまいりますので少々お待ちください」
「はい」
五分後、ロープとブルーシートを持って戻って来た駅員さん。零はその駅員さんと二人で女性をブルーシートで包み、俺の背中に乗せ、ロープで固定した。そして……
「ど、道中くれぐれもお気を付けください……」
笑顔が引きつった駅員さんと野次馬に可哀そうなものを見るような目で見送られ、俺達は一端家へ帰る事となった。
駅から帰宅し、すぐに部屋へと戻ってきて女性を下ろした俺達が最初にした事。それは──────
「零、とりあえずその刺激臭のする物体Xを風呂に入れてやってくれ」
「うぐっ! ほ、本当は恭に押し付けたいけど、女の子だから仕方ないわね……」
刺激臭のする物体Xを風呂に放り込む事だった。運ぶのは俺の役目だったが、風呂に入れるのは零の役目なのは当たり前だ! 女だしな!
「ああ。っつーか! ここまで運んで来たんだからそれくらいやれ! ついでに俺も風呂に入る!」
ブルーシートに包んで運んできたとはいえ付いた臭いは相当な悪臭だ。風呂に入らなきゃ落ちん! ついでに洗濯もするか
「そう。じゃあ、アタシもそうしようかしら?後、この子を包んでいたブルーシートは……駐車場にでも置いてきていいわね?さすがに室内だと臭うし」
「ああ、そうしてくれ。俺は先に行く」
駅からここまで刺激臭のする女を運んできた俺には風呂まで女性を運んでやる義理も道理もない。俺は一刻も早く臭いを落とすべく部屋を出て大浴場に向かおうとした
「待ちなさい」
部屋を出ようとした俺を引き留めたのは言うまでもなく零だった
「何だよ?」
「この子、大浴場の前まで運んでって」
「…………」
見事なまでに笑顔の零はサラッととんでもない事を要求してきやがった。あまりの事すぎて俺は言葉が出ない
「ブルーシート越しとはいえ駅からここまで運んで来たんだからここから大浴場まで運ぶのだってわけないわよね?」
零の質問は結論から言うとYESだ。運ぶ分には何ら問題はない。ただ、ブルーシート越しでも結構臭いがキツかったというだけで
「お、お腹空いた……お風呂の前に何か食べさせて……」
いい笑顔でサラッと無理難題を押し付けようとする零と言葉を失いどうしたものかと悩む俺を余所に女性は食いモンを要求してきた
「風呂に入って綺麗になったらどっか適当なファミレスなりラーメン屋に連れてってやるから今は大人しく風呂に入ってこい」
飯屋に行く前に風呂に入って刺激臭を落とすのが先決だ。むしろそのまま行ったら店の人に迷惑だ
「わ、分かりました……で、では、きょ、恭さん、お風呂まで運んでください……」
「だ、そうよ?恭、運びなさい!」
シレっと俺が運ぶ事を前提に話をする零達。どうせ風呂に入るのですから?別にいいんですけど?
「分かったよ。その代わり、零、その人のスリッパを持って行ってくれよ」
「それくらいなら任されたわ!」
俺は女をおんぶし、零は女が履くスリッパを持って部屋を出た。その前にこのフロアの立体駐車場まで行って女をブルーシートから解放し、その後、風呂へと向かった。
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