高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

空腹は人を狂わせるようだ

公開日時: 2021年3月2日(火) 23:29
文字数:4,123

 談話室へ戻り、零達の様子を窺うと特に変わった様子はない。彼女達の様子より俺が心配なのは……


「腹減った……」


 空腹だ。二度寝してて朝飯と昼飯を抜き、口にしたのは水一杯。今が何時かは分かんねぇが、腹の虫は等に限界を超え、鳴りっぱなし。食事の事もそうだが、藍はあそこで何をしようとしていたのか、そっちの方が気になっていたりする。ゲームだと二日目には三人の人間が死ぬ。このスクーリングで言えば二日目の今日、三人の人間が消える。いや、すでにどこかへ身を潜めている琴音を覗くと後二人。どちらにしても面倒な展開ではある。現状じゃ瀧口を始めとする他の生徒達は落ち着いてるように見えるが、今後どうなるか分からない以上、たかがかくれんぼでも能天気に構えているわけにはいかない


「瀧口を連れて調理場に行くか……その前に教師に相談するか……」


 管理人である琴音がいない以上、食事は自分達でどうにかするしかない。だが、昨日出てきた飯がレトルト食品で冷蔵庫の中身が全部レトルト食品で埋め尽くされている事なんか他の生徒に知られたら暴動が起きてもおかしくない。八方塞がりとはまさにこの事だ


『先生達に相談したとして、あの人達は何か提案してくれると思う?お母さんは相談するだけ無駄だと思うよ』


 早織の言う通り教師に相談しても無駄だとは思う。彼らが仕掛け人である以上、塚尼や琴音が身を潜めた方法も食事関係も全て自分達でどうにかしろと言われるような気がしてならない。とは言っても飯抜きはさすがにキツイ


「教師が使えない以上、飯は自分達でどうにかするしかないのか……」


 考えただけで憂鬱だ。特に飯。昨日の飯の様子がどうだったかは知らんが、事情を知らない生徒達が文句を言ってないところを見るにカレーがレトルト食品だとは気が付いてなさそうだ。若干味が濃かったと思ってはいてもレトルト食品だからだとは誰も思ってなさそうだ


「誰か都合よくお菓子を持ってたりしねぇかな……」


 このかくれんぼにおいて分からない事はたくさんある。直近で言うなら藍が突然現れた理由だ。加えて琴音がここにいる理由、この館をスクーリングの舞台に選んだ理由、二校合同になった理由など挙げたらキリがない。そこに食事の問題……楽な方に転ぼうと思っても無理はない


「当面は飯をどうするかだな……」


 諸々の疑問の解決やいなくなった連中を探すのは後回しにして、まずは飯の問題だ。人間空腹には勝てないからな。


「とりあえず瀧口に一声掛けてから調理場に行くか」


 俺は男子数名と雑談してる瀧口の元へ向かった


「────でさ~」

「ははは、そうなんだ」


 ちょうど話に華が咲いてるのか盛り上がっているご様子。空腹だっつーのによく盛り上がれるものだ。瀧口達だけに限った事じゃねぇけど、話している連中は喉の渇きを感じないのかと思っていた時だった


「喉乾かね?」


 一人の男子が喉の渇きを訴えた。


「そうだね。それに、お腹も空いた」


 瀧口の言葉に喉の渇きを訴えた男子を含め、その場にいる連中は全員頷く。瀧口を調理場に誘うなら今がチャンスだ!


「なら、みんなで調理場に行かないか?」

「え?灰賀君?」


 意外な人物に声を掛けられた。瀧口の顔にはハッキリそう書かれていた。


「ああ。他の連中はどうか知らんが、俺も喉が渇いたし腹が減った。どうだ?みんなで調理場に行かないか?」


 本当は瀧口と二人で調理場に行きたかった。だが、他の連中も喉の渇きや空腹を訴えるのなら置いてくわけにはいかない。食わなくても死にはしないが、水分を摂取しないと人間は死ぬ。俺や瀧口だけが何か口にするわけにはいかない


「それはいいけど、先生達に一声掛けなくて大丈夫かな?」

「大丈夫だろ。今回の事は教師が仕組んだ事で何も言ってこないところを見ると多分、自分達で考えて行動しろって事だと思う」


 塚尼が消えた時も琴音が消えた時も教師陣は何も言ってこなかった。つい五か月前に入学したばかりで生徒同士の関係が固まってないのに自分達で考えて行動しろってのは些か無茶な要求だとは思うけど、いつもとは違う同級生と話すにはいい機会なのかもしれない。俺みたいに同級生と関わりがあるようでない奴もいるしな。二か月後には文化祭も控えてるし、ちょうどいいのかもしれない


「自分で考えて行動って言うのは義務教育を終えたばかりの僕達にはちょっと無茶な気が……」

「その意見は同意だが、このかくれんぼが物語ってるだろ。今のところ二人の人間が姿を消したわけだが、教師陣は話し合いの場を設けるどころか何も言ってこない。自分達で考えて行動する他ないだろ」


 俺の言葉に男子生徒達は頷く。彼らも自分達で考えて動かなきゃいけない事は感じていたようだ


「だとしても勝手な事して怒られないかな?」


 瀧口は肝心なところで気が小さい。恋愛に関してだけだと思ってたが、考えを改めるとしよう


「平気だろ。万が一文句言われても指示を出さなかった教師連中が悪いんだよ。で?瀧口は行くのか?」

「行くけど……他の人達も誘わないかい?喉が渇いてたりお腹が空いてるのはみんな同じだろうからさ」


 瀧口の言う事は尤もだ。他の連中を誘うのには俺も賛成だが……冷蔵庫に詰め込まれたレトルト食品が俺の判断を妨げる。だが、背に腹は代えられない。しばし逡巡し、俺が出した答えは────


「だな。俺達だけ飯食ったってバレたら暴動が起きそうだ。俺はソファーのところにいるからお前達が他の連中にも声掛けてきてくれないか?」

「分かった。他の人達は僕が責任を持って声掛けるよ」


 そう言って瀧口達は男子数名と去り、俺はソファーへ


 ソファーへ来ると零、闇華、飛鳥、由香の四人が楽しそうに雑談中だった。零と闇華は女学院に通ってるから言わずもがな、飛鳥と由香も家では女学院の生徒と交流があるだろうから喋る相手はいっぱいいるだろうに……イツメンと喋ってる姿を見ると俺のコミュ障が移ったのかと思ってしまう


「はぁ……人間簡単には変わらねぇか」


 イツメンと雑談している彼女達にそっと溜息を漏らす。零と闇華の交友関係は知らんから何も言えねぇが、飛鳥と由香は星野川高校の中じゃそれなりに交流がありそうなのにどうして家でも一緒にいる零達と雑談してるのか理解に苦しむ。客観的に見れば学校の枠を超えて交流してるように見えるからとやかく言うつもりはないがな


「中学時代から全く変わってない恭がそれを言う?」


 独り言のつもりが聞こえていたらしい。由香がジト目で俺を見つめ、零達が苦笑を浮かべていた


「うっせ。俺は変わってないんじゃなくて人間関係が煩わしいから他者と交流を持とうとしないだけだ」


 人間関係は煩わしい。色恋沙汰に多感な年頃になると強くそう思う。好きな異性を取り合っている姿を見ると恋愛する気は一気に失せ、俺は恋愛なんて絶対にしないと思うし同じ年の同級生同士なのに上下関係が生まれると面倒な事この上ない。中学時代の由香や瀧口が後者だ。同級生同士なのに人の上に立ち、結果、俺は人間関係が面倒になって不登校になった。当時の由香と瀧口に嫌気が差したからってのもあるだろうけどな


「恭のめんどくさがりは中学の頃からなのね……」

「そこが恭君のいいところですよ、零ちゃん」

「だね。いつもは面倒だとか言っても困ってる人は必ず助けてくれるしさ」


 呆れたように溜息を吐く零と手のかかる息子を見守る母親のような目を向けてくる闇華と飛鳥。俺は子供か?未成年という意味じゃ子供だが、零達の子供になった覚えはないぞ?つか、毎度の事ながら妙に信頼度高ぇなオイ


「腹が減り過ぎて反論する気すら起きねぇよ。それより、これからみんなで調理場に行く事になったんだが、お前らはどうする?」


 零達に調理場の冷蔵庫は正直なところ見せたくない。飛鳥は昨日のカレーがレトルト食品だって知ってる。冷蔵庫に大量のレトルト食品があるのは言ってないがな。ゲームでも調理場の冷蔵庫には大量のレトルト食品があったから俺は目の当たりにしても引く程度で済んだが、彼女達はどうだろう?手抜きだ! って文句言わなきゃいいが……


「アタシは行くわ。起きてから何も食べてなくてお腹空いてたのよ」

「わ、私も……は、恥ずかしながらお腹と背中がくっつきそうですぅ……」

「あ、あはは……私も……」

「あたしも……」


 いつも同じようにしようと気丈に振舞おうとしている零、空腹が限界を超え、今にも倒れそうな闇華、態度には出さないが、覇気を感じさせない飛鳥、力なく同意する由香と反応は様々だが、空腹なのは共通のようだ。


「了解」


 かく言う俺も空腹のピークはとっくの昔に超えていた。このままじゃ琴音達の居場所を掴む前に飢えて死にそうだ。そんな折────


 くぅ~


 誰かの腹が鳴った。


「「「「「………………」」」」」


 突如なった腹の音に俺達は言葉を失くし、全員明後日の方向を向いた。今のは誰の腹から鳴ったんだ?とはとてもじゃないが聞けない。聞いたら聞いたで気まずい


「瀧口達が来たらすぐに調理場に行くか」

「「「うん……」」」

「はい……」




 瀧口達を待つ事数分。生徒全員が揃ったところで談話室を出て調理場へ。集まった時も今も誰一人として言葉を発しなかった。喋ると余計なエネルギーを使うと考えた結果だろう。集合時は誰かに肩を叩かれ、振り返ると瀧口がいた。で、彼は全員揃ったと言わんばかりに無言で頷き、俺も分かったと言わんばかりに無言で頷いた。後は俺が先導し、調理場へ向かう。瀧口を覗く他の連中は黙って俺に付いて来るだけ。どこぞのRPGかよ


 調理場へ着くと瀧口達を始めとした生徒達は一目散に冷蔵庫へ走り出した。叫びはしないまでも目が獲物を狙う肉食獣みたいになってた時点でお察し。みんな食い物に飢えていたようだ。


「あの様子じゃレトルト食品の方が都合良さそうだな」


 食い物に飢えた同級生を見て俺の中からここへ来る前に抱いていた不安が消え失せた。ゾンビみたいに『食い物……食い物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』って言いながら冷蔵庫を開けてる姿を見たら何も言えなくなってしまった


「これからどうなる事やら……」


 俺は食い物に飢えた同級生達の姿を見ながら今後の展開に思いを馳せた。願わくば、今回のスクーリングが後の笑い話になりますように

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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