高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

千才さんって何で警察官をしているのかが分からない

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:36
文字数:3,862

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 固まっていた親父がお袋の姿を見た瞬間、絶叫した。それは言わずもがな周囲(俺以外)を驚かせるには十分な威力があり、大人は何があった?といった様子で親父を見つめ、子供達は驚く子と泣き出す子の半々に別れる。そんな中、その原因を作ったお袋はというと……


『ぷッ……、恭弥ったら驚き過ぎ! も、もうダメ!』


 腹を抱えて爆笑していた。再会した日の俺はお袋の姿を見て特別驚きはしなかったから親父の反応が普通だ。零達や俺がおかしいだけでな


「きょ、恭! お、おま、お前の、よ、横に血みどろの女がいるぞ!!」


 親父は俺の両肩を掴み、切羽詰まった感じで詰め寄ってきた。血みどろの女?何を言ってるんだ?


「血みどろって、俺にはそんな風には見えないぞ?あの頃のまま変わらない姿だろ」


 親父はお袋を血みどろの女と言った。しかし、俺にはあの頃────亡くなる前のままの姿に見える


「お、お前こそ何を言ってるんだ!? 血みどろだろ!!」

「あのなぁ……」


 俺と親父でお袋の見え方が違うらしい……。どうなっているんだ?


『それについては後で解説してあげるよ~、それよりも今は千才だっけ?その子が過去に犯した罪を犯人達以外の人に見てもらうのが先じゃないかな?』

「だな。親父に関してはいくらでも時間はあるが、千才さんが過去に犯した罪は今いる人間だけには知らしめとかなきゃな」


 幽霊であるお袋と話す姿は傍から見れば何もないところに話しかけている痛い奴に見えるだろう。でも、それについて誰も何のリアクションをしてこないのは親父の絶叫が効いたと見て間違いない


「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ、幽霊が……、血みどろの女が恭に憑りついている……」


 それはお袋が後で解説すると言ってたのにも関わらず未だガタガタ震えている親父を見て息子ながらに情けなく思う


「それはもういいっつーの!」

「あだっ!」


 俺はガタガタ震えている親父の頭を叩く。元に戻ってくれるかどうかはとか、リハビリ科とはいえ医療職なんだから幽霊はともかく、怪現象くらい日常茶飯事だろうに……本当、我が父ながら情けない。そもそもが結婚する前にお袋の実家に挨拶行ってんだったら幽霊関係の話は去れたはずだ


「親父、ビビり過ぎ」

「はっ────!?」


 親父が正気に戻るまでの流れをダイジェストで説明しよう!叩く→突っ込む→正気に戻る(←今ここ)。無駄な説明だったな。それはさておき


「親父、とりあえず親父が見たものを犯人達と千才さん、子供達以外で共有する事になった。異論はないな?」

「あ、ああ、それよりも恭、お前の横にいる血みどろの女は……」

「それは後で説明してやる。今は千才さんが過去に犯した罪を暴く方が優先だ。他の人達もそれで異存ないですね?」


 俺の言葉に人質だった人全員が首を縦に振る。多分、親父の絶叫で何かを感じ取ったんだろう。こっちとしては思ったよりも早く事が進んで何よりだ


「それじゃあ、今から彼女が過去に何をしたか見ていきたいと思いますので皆さん、円になって隣の人と手を繋いでください」


 諸注意として子供と心臓の悪い人、年寄りは離れろと言うべきなんだろうけど、それを言ったら見る人はいなくなるのは火を見るよりも明らかだ。だから俺はあえて何も言わなかった


「ちょっと待って」


 円になって手を繋ぐ前に名乗り出たのは一人の女性看護師


「何でしょうか?」

「さっきの灰賀さんのリアクションを見るとそれって残酷な場面とかあるよね?」

「まぁ、そうですね。彼女が犯人達にした事はそういう事ですので」

「だったら、子供とお年寄り、心臓の悪い人は除いた方がいいと思うの。むしろ残酷なシーンがあるのなら見るのは私達看護師と医者だけでいいと思うの」


 女性看護師の指摘はもっともで残酷なシーンがあるのなら見るのは看護師と医師だけで十分だという意見には俺も同意する。本人達の意志にもよるけどな


「その意見には俺も賛成ですけど、本人達の意志を確認しない事にはなんとも……。とりあえず子供とお年寄り、容体が不安定な人達は病室に戻るなりしていただいて構いません。看護師と医師の方々はご本人達の意志にお任せします。単に何で自分達が人質になってしまったか、何で犯人達が病院に立てこもるなんてバカな事を考えたかを知ってほしいだけですから」


 俺に千才さんを貶めようという気はない。女性看護師に言った通り自分達が恐ろしい目に遭った理由を知ってほしいだけ。ただそれだけ


「そう。じゃあ、医療に携わる人は残り、それ以外の人達は病室に戻るなり、帰宅して頂くなりで構わないよね?」

「ええ、構いません」


 参加は自由だと聞いた途端に医療職とは無縁の人達は散り散りになる。そう思っていた。しかし────────


「俺達も残る。何で自分達が事件に巻き込まれたか知りたいしな」


 一人の三十代くらいの男性が残ると宣言。それを聞いた他の人達も『確かに、言われてみればそうだよな』と言って誰一人その場を動こうとしなかった


「残るって言われましてもこれから見るものは残酷と言っても過言じゃないんですよ?それでもいいんですか?」


 千才さんのした事は例えるのならホラゲを少しマイルドにしたもの。それでも残酷なのには変わりない


「俺は構わない。むしろ人質にされた理由を知らない方がモヤモヤする」


 モヤモヤするからって残酷なシーンでも見たいという気持ちが理解出来ない俺がいるのだが、思いは人それぞれだから何も言わんけど


「そうですかい。他の方々も同じ感じですか?」


 誰一人としてその場を動こうとしない時点でお察しなのだが、聞かなきゃならない。もしかしたら流れでって人もいる可能性だって考えられる。だが、俺の予想に反し、他の人達は無言で頷いた。思いは皆同じというわけか


「皆さんの意志は分かりました。全員が過去を見るという事で円になって手を繋いでください」


 俺の指示通りここにいる犯人達と千才さんを除く全員が円になり、手を繋ぐ。さすがに二度も親父と手を繋ぎたくない俺は親父との間に看護師一人を挟んだというのを補足として話しておこう。


「では、皆さん……。後悔しないでくださいね」


 とは言ったものの、俺は自分が見た他人の記憶を流す方法なんて知らねー……


『共有した記憶を映写機で流すイメージをすればいいんだよ~』


 と、お袋からのアドバイスがあり、それを早速実践。特に目を閉じろと指定しておらず、俺はもちろん、他の人達も目を開けている。親父の時は咄嗟にやったから方法を聞くのは初めてだ




 お袋アドバイスの下、この場にいる全員に俺が見た千才さんの過去を見せてから何分が経過したのかは分からないけど、全員の顔が歪み始めたという事はだ、虐めのシーンになっていると見て間違いないだろう。さて、俺も千才さんを追い詰める為に一から見直すとするか



 映し出されたのは高校生時代の千才さんとお袋が連れてきた幽霊達の中にいた一人の女子の姿。ちょうど囲いの女子に彼女を押さえつけさせ、肝心の千才さんは冷たい眼差しで右手にカッターを、左手にライターを持っている場面だった。場所は体育館裏か?


『止めて!! 千才!! 私達友達でしょ! この人達止めてよ!』


 囲いに押さえつけられながらも必死に抵抗をする彼女の目には涙が浮かぶ


『うるさいわね、私は貴女を友達だとは一度も思った事なんてないわ』


 涙を浮かべながら抵抗をする彼女を千才さんは一蹴。この時点で千才さんが警察官として働いているのが不思議だと思わずにはいられないのだが、よく見ると押さえつけてる方の目にも涙が


『そ、そんな……、私はずっと友達だと思っていたのに……』

『あら、それはおめでたいわね。でもお生憎様、私はそんな風に思ってないの』

『ひ、酷い……』


 改めて見ても背景は分からない。でも、押さえつけられている方は千才さんを友達だと思っていたという事は入学当初から仲良しだったと見える。じゃなかったら友達だと思っていたなんて出てこない


『酷い?貴女の認識が甘かっただけでしょ?麻衣子まいこ


 押さえつけられている方の女子の名前は麻衣子。最初見た時は千才さんが名前を呼ぶまで押さえつけられている彼女か押さえつけられている方と呼ぶしかなく、困り果てたものだ。


『認識が甘かったって……私達友達じゃなかったの?』


 涙ながらに訴える麻衣子さんの姿は傍から見ていても痛々しい。友達だと思っていた人に裏切られたというのがどれほど精神にダメージを与える事か……。当時の千才さんはそれが理解出来てなかったと思う


『違うわよ。私が貴女と仲良くしたのは単なる気まぐれ。不要になれば切り捨てるし憂さ晴らしの道具にだってするわ』


 とても現在警察官として働いている人間の言葉とは思えない物言い。こんなんでよく犯罪者に向かってドヤ顔で説教を垂れたものだ。ある意味感心すらする


『ひ、酷い……、酷すぎる……』


 千才さんの言葉を聞き、感極まったのか泣き出してしまった麻衣子さん。それを見た千才さんは慰めるでも謝るでもなく右手で持っていたライターに火を点け、左手でカッターの刃を出し、火で炙る。そして……


『酷いも何も最初からそう思っていたんだもの。気が付かない貴女が悪いわ』


 麻衣子さんの右頬を切りつけた


『い、痛いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!! や、止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』


 熱を持ったカッターで切りつけられたのか、体育館裏いっぱいに響く悲鳴を上げる麻衣子さん


『止めてって言われて止めるバカはいないわよ』


 悲鳴を上げる麻衣子さんを見ても顔色一つ変えず千才さんは頬に続いて今度は右腕を切りつけた

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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