ネカフェに着き、受付を済ませた俺は────
「ん~! 零達もお袋もいない時間……解放感パネェ……」
個室にて一人解放感に酔いしれていた。
「さてっと、四時間も時間があるんだ、思う存分一人を満喫するぜ!!」
面倒な連中から解放された俺は他の個室に迷惑が掛からない範囲で叫ぶ。ちなみにこのネカフェに来たのは今日が初めてで会員カードを作らされるという初めて入る娯楽施設あるあるのハプニングに遭遇したが、そんなのは取るに足らない事。零達の監視から逃れられるのならハプニングの一つや二つ安いものだ
「おっと、一人を満喫する前にコーラの確保を忘れていた。危ない危ない」
俺が選んだパックは四時間パックのドリンクバー付き。だから飲み物も四時間パックの料金内に入っていて税込み1280円。俺の財布に大変優しい料金となっている。金の話はこれくらいにして、俺は個室を出てドリンクバーに向かった
ドリンクバーでコーラを入れ、個室に戻った俺はパソコンを起動。いつも通りブラウザを開き、動画サイト……ではなく検索エンジンに『高多茜 噂』と入れて検索をかけた。本当は零達が側にいたら見れないアニメでも見ようかと思ったけど、今はアニメを見たい気分じゃなく、仕方なく茜に関する噂で今回の一件に関係するものがないか調べる事にしたのだ
「やっぱりこの程度しか出ないよな……」
検索エンジンで検索をかけると出てくるは出てくる。しかし、あくまでも彼氏・彼女の噂や結婚、大学時代や養成所時代に彼氏あるいは彼女がいたのではないか?という根も葉もないものばかりで具体性がない。
「真央の時同様スレを漁るしかねぇか……」
真央の時は闇華達が拾う前から黒い噂があったのか簡単にリアルタイムで彼女を追いかけるスレッドが見つかった。でも、今のところ茜に黒い噂があるって記事が見当たらず『高多茜 スレ』で検索して出てくるかどうかは微妙だ。出てくるかもしれないし出てこないかもしれない
「やるだけやってみっか」
俺は半信半疑で『高多茜 スレ』と入れ、検索をかける。結果は……
「あるにはあるのか……」
見つけはした。しかし、今回の事に関係ありそうなものが見当たらない。『高多茜Part2』とか『高多茜案内所』とかの出演した作品を宣伝するものばかり
「8ch内で検索かけるしかないのかよ……」
検索エンジンはとにかく入れたワードを拾ってしまい、明らかに関係ないものは除外したとしても出てきたサイト全て確認するのは骨が折れる。真央の時は運がよかったのか、本人の日頃の行いが悪かったおかげなのか必要としていた情報をすぐに見つけられた。対して茜は今のところ目立った不祥事や噂がなく、嫌がらせをされる理由を探すのも一苦労。猫の手も借りたいくらいだとは思うけどよ……
「零達に茜が過去に起こした不祥事に関する事を調べろとは言えねぇよなぁ……」
俺がさせようとした事は同居人の粗探し。とてもじゃないが頼めたものじゃなく、当事者の茜に気安く聞けるような事でもない。でも、人手は欲しい。完全に矛盾してるよな……
「俺がやるしかねぇか……」
数ある中から一つの情報を見つけるってのはこれ以上ないくらい面倒な作業だ。本音を言うと有名人のゴタゴタはこれっきりにしてほしい
「はぁ……」
溜息を吐いた後、俺は8chで検索をかけ、トップから二番目に出てきた掲示板をクリック。目的のサイトに飛び、キーワード入力欄に『高多茜』と入れてスレタイ検索のボタンを押した。すると……
「こんだけあんのかよ……マジで勘弁してくれ……」
茜に関するスレが出るわ出るわで目が回りそうになる。数ある中から茜の部屋にイタズラしに行くといった感じの犯行予告を見つけなきゃならねぇってんだから骨どころか心が折れそうだ。
「こうなるって分かってたなら直接本人に聞きゃよかった……」
茜の人気を甘く見ていたわけではない。真央の時に上手くいったから今回もすぐに見つかると思っていた俺が甘かった。世の中簡単じゃねぇよな……
「茜の事を調べんの止めてアニメ見るか……」
茜関連のスレがあまりに多く、心折れた俺は一度ブラウザを閉じ、ホーム画面に戻ると再度ブラウザを開きMYVideoと入れて検索。サイトに飛んで仕方なく『37歳ニートBBAの配信』というクソアニメを見る事にした
一つのアニメ3か月分────。動画の本数にすると実際は十二本。しかし、俺が見たのはCMをカットし、1話から12話を一本の動画に纏められたものだから1話終わる事に次の動画をクリックする手間は省けたからよかったものの……
「さすがにオープニングからエンディングまでぶっ通しで見ると1話あたり20分かそこら……さすがにキツイな……」
普通の日常アニメを纏めた動画はものによっては三十分とかそこらで終わる。1話あたりの時間が二~三分だから纏めたとしても一時間掛からずに済むのだろう。しかーし! 俺が現在進行形(音無し)で見ている『37歳ニートBBAの配信』は三十分放送でアフレコしている声優陣には申し訳ないが、ネカフェの個室で見るには不適切なクソアニメは飛ばし飛ばしで見ないと見れたものじゃない。というのも……
「このアニメ、主人公のニートババア配信者が暴言を吐きまくった挙句、アンチや他の配信者にひたすらおちょくられるだけのアニメなんだよなぁ……」
そう。このアニメは37歳の女ニート配信者がサバイバルゲームの実況を生配信するといった内容ものなのだが、如何せん主人公の被害妄想が激しく、作品内で他の登場人物が主人公に注意やアドバイスをするとそれを誹謗中傷だと思い込んで勝手に喧嘩を売り、自分から敵を作るという何のために生まれたか分からないアニメなのだ。しかも、暴言の中身も37歳の女とは思えない中身だから笑えない
「音無しじゃ面白くねぇな……」
俺は動画のミュートを解除し、適切な音量にする。ヘッドホンがあるし音を出しても大丈夫────
『ふざけんなよ!! やめろー!! やめろぉー!!』
じゃなかった。主人公のニート配信者がアンチからPKされ、発狂しているシーンだったらしく、叫び狂っているところだった。
「音小さ目にしといて助かった……」
このアニメの適切な音量は数字にして10~20の間。かなり小さな音量で見るのがこのアニメの正しい見方だ。じゃないと近所から苦情が来たり親に怒られたりするらしい。実際、主人公のBBAを演じた声優はこの作品のアフレコに臨む前、人の声で限りなく不快な音というのを研究したとコメントを残していたくらいだ
「そういや、このアニメって確か茜出てたよな?」
主人公を演じたのは別の声優だが、主人公の被害妄想のせいでSNS上で誹謗中傷された配信者の女を茜が演じていたような気がする。詳しくはキャストを見て見ないと分からんけど、俺の記憶が正しければそうだったはずだ
「調べるだけ調べてみるか」
俺はMYVideoの動画を一時停止し、新しいタブを開き『37歳ニートBBAの配信 キャスト』と検索。その結果────
「茜もこのアニメに出てたのか……」
茜の名前がキャスト表にバッチリ記載されていた。他にあったとすればこのアニメが配信者のイメージを悪くすると言った内容の記事だけで茜が嫌がらせを受ける直接の原因に当たる内容のものはなく、現状収穫ゼロ
「嫌がらせしてる奴をとっ捕まえるしかねぇか」
収穫が得られないのなら嫌がらせをしている当人を捕まえて直接吐かせるしか他に方法はない。なんていたものの今回ばかりは俺は動く気ゼロ。操原さんと警察の対応に全て任せようと思う
「俺に尻拭いしてほしいならそれ相応の金を払えってんだ」
俺は甘々対応をした操原さんと山の如く動かなかった警察に悪態をつき、ブラウザを全て閉じ、コーラを一気に飲み干すと個室を出て漫画コーナーへ────
『きょう……見つけた……』
行く前にお袋に見つかった
「漫画取りに行く前にコーラの補充でもするか」
俺は個室へ戻り、コップを手に取ると何か言いたそうにしているお袋の脇を通り過ぎ、ドリンクバーへ────
『待って……待ってよぉ! きょう!』
行けなかった。すり抜けてしまっているがお袋は必死になって俺に抱き着いているのだ。だから何だって話で他の連中には見えないからお袋がどれだけ泣き叫ぼうと関係ない。見える聞こえる俺からするとうるさい、めんどくさいだけで
「はぁ、アニメの続きでも見るか」
溜息を一つ漏らし俺は大人しく個室へ戻る事にした
個室へ戻り、俺は椅子へ、お袋は向き合う形で俺の上に座り、そして……
「何の用だよ?俺は一人にしてくれと言ったはずだぞ?」
両手で顔を覆いながら泣くお袋へ尋ねた
『ううっ……、ご、ごめんね……、お、お母さん……もうきょうのい、嫌がる事……し、しないから……だ、だから……、だから許して……』
泣きながら俺に許しを乞うお袋。彼女はどうやら俺が怒って出て行ったと思っているみたいだ
「許すも何も俺は怒ってない。ただ、一人の時間が欲しかっただけだ」
『ほ、ほんと……?』
「本当だ」
『ほんとにほんと?』
「本当に本当だ。そりゃいつも付いて来られれば疎ましく思う事も時々あるし一人で自由に過ごせる時間が欲しいとも思う事もある。だけど、お袋達から本気で離れようだなんて思うわけないだろ」
零達の事は置いとくとして、お袋は死んでなお俺を愛してくれた。そんな母親から本気で離れようと思ったら罰が当たる
『で、でも……お、お母さんきょうの為に何もしてあげられなかったよ?』
「そんな事ねぇだろ。死んだ後も息子の事が心配で幽霊になってまで見守ってくれてるんだ。お袋は立派に俺の母親やってくれてるよ」
『きょ、きょう~!』
幽霊だからすり抜けるって事を忘れ、俺に抱き着くお袋。この時だけは彼女が幼く見えた
「悪かったな、拒絶するよな事言った上に心配まで掛けて」
『ううん……いいの……お母さんはきょうが側にいてくれるだけで……それだけで満足だから……』
そう言って笑みを浮かべるお袋は贔屓目なしに綺麗だった
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