高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

入院生活は基本退屈が九割だと思う

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:35
文字数:3,923

 人の夢に入り込むなんていう摩訶不思議な経験をした日から一週間。ケガが完治し、晴れて俺は……


「暇だ……」


 病院のベッドにいた。


「マジで入院生活暇すぎるだろ」


 忙しい時に限って暇が欲しいと強く思う。それとは反対に暇な時ほどやる事が欲しいと思う。矛盾とはまさにこの事だな


「はぁ……これでも落ち着いた方だからいいっちゃいいんだけどよ……」


 俺が目を覚ました……正確には身体に戻ったのが昨日の昼。そりゃもう大変でしたよ。主に訪問者が多すぎてな。




 昨日の朝────────。


『そう言えば今日で一週間経つな』


 これまで通りリビングでお袋と二人ボケっとテレビを見ていた時、ふとテレビの右上に表示された日付を見て俺は一週間が経とうとしているのを知った


『言われてみればそうだねぇ~』


 お袋は平常運転で相変わらずのほほんとしている。まぁ、俺が昏睡状態だと思っているのは親父と夏希さん、後は事情を知らぬクラスメイト達と教師達くらいで零達と由香は一週間経てば俺が目を覚ますのを知っている。加えて言うなら魂だけの状態なのに家でテレビを見てるのを知っているからな、目が覚めた時の喜びなんて特に感じないだろう


『昼辺りに身体に戻ろうと思う』

『いいんじゃない~?きょうならすぐに幽体離脱マスターするだろうしね~』


 傍から聞いてるととてもじゃないが普通の親子の会話とはかなりかけ離れている。俺とお袋にとってはこれが普通なんだけどな


『すぐ出来るかどうかは置いといてだ。身体に戻る事零達に伝えた方がいいのか?』


 一週間経ったら目を覚ますとは伝えてある。だから今になって身体に戻ると伝える必要はないと個人的には思う。


『ん~どうだろう?別に一週間経ったら目覚めるって伝えてあるならいいとは思うけど、そうだね~、一応、琴音ちゃんには声掛けておいた方がいいんじゃないかな~?』

『その理由は?』


 目を覚ますと告知しているのに琴音に声を掛ける。その意味が理解不能だ


『きょう、よ~く考えて?お昼頃に身体に戻ったとしてだよ?一週間経ったら目を覚ますと前もって知らせてあるとはいえ一言も声を掛けられなかった琴音ちゃん達はどんな行動に出ると思う?』

『どんな行動ってそりゃ……』


 ここで俺は声を掛けなかった時の事を考えてみた。


 黙って身体に戻る→病院から連絡を受けた琴音達が病室に駆け込んでくる→目を覚ます事を知ってるけど、今日だとは知らない。琴音達が病室になだれ込んでくる→俺の入院生活が崩れ去る


『うわぁ……』


 声を掛けなかった場合、琴音達によって俺の入院生活が崩壊の一途を辿るビジョンがありありと脳裏を過ぎった。これはさすがにマズイ


『きょうの入院生活があっという間に崩れたでしょ?』

『ああ。跡形もなく崩れ去るビジョンが見えたよ』

『そうならない為に琴音ちゃんだけには伝えておかなきゃね?』

『だな』


 俺はすぐさま琴音の元へ向かい、昼頃には身体に戻る旨を伝え、それまでの間、幽体生活を満喫し、いよいよ運命の時と言っても過言ではない昼を迎えた


『さてっと、そろそろ病院に行くか』


 幽体の状態で腹は減らないから昼飯を食う必要なんてない。本来ならいつ身体に戻ろうと俺の自由だ。昼まで幽体で過ごしたのは単なる気まぐれで深い意味はない


『そうだね、ところできょう』

『何だ?』

『病院の場所と名前知ってるの?』

『あ……そう言えば……』


 身体に戻ると意気込んでいたのに病院の場所も名前も知らない。え?魂だけの状態で病院から家まで来ただろ! って?あの時はお袋に目を隠された状態で家まで連れて来られたんだ。場所と名前なんて知る由もない


『全く、きょうは本当にドジだなぁ~、お母さんが目隠しして運んであげるよ。来た時と同じようにね』


 運んでくれるのは置いといて、何で目隠しをする必要がある?別に目隠ししなくてもよくない?もっと言うなら運ぶ必要もなくないか?普通に案内してくれないのか?


『目隠しして運ぶ意味は?帰って来た時もそうだけどよ、普通に案内でよくないか?』


 サプライズじゃあるまいし別に目隠しする必要も運ぶ必要もない。お袋、目隠しして運ぶって事は何か事情があるのか?


『お母さん的にはそうしてもいいんだけど……』

『けど?』

『入院先を知ったらきょうはきっと後悔するかな~って……』


 入院先を知って後悔?どういう意味だ?


『意味が解からないんですが……』

『教えるのは簡単だけど、自分の目で直接確かめた方がきょうにとってはいいかも。よし! きょう! 病院までお母さんとデートしよ!』


 霊圧の扱い方とか簡単に教えてくれるクセに病院の名前と場所は隠すんですね……お母様。つか、何がよし! なんだ?それと母親と出歩くのはデートじゃねーからな?


『何がよしなのか全く理解できないけど、まぁいいや。案内よろしく』


 母親と出歩くのはデートじゃないと喉元まで出かかった。それを言うとお袋がヘソを曲げるのは火を見るよりも明らかだから言わないけど


『まっかせなさい!』


 ドンと胸を張るお袋。そんな姿を見せられても俺は任せるしか言えない


『任せた』

『うん! 任されました!』


 出る前に琴音に一声掛け、家を出て病院へ



 徒歩でも自動車でもなく浮遊だから信号待ちする事も渋滞に巻き込まれるなんてアクシデントもなく、ものの数分で俺が入院しているとされる病院に着いた。着いたんだけどよ……


『冗談だよな……』

『冗談じゃないよ~』


 魂は元気でも身体はケガをしている。その身体に戻るんだから病院に連れて来られるのは当たり前だ。名前に大きな問題があるだけで


『いやいや、俺の入院しているのは別の病院でこの病院じゃないよな?そうだよな?お袋?』

『きょうの入院している病院はこの病院で間違いないよ~』

『う、嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


 俺は悲鳴を上げながら崩れ落ちた。それもこれも目の前の病院。その名前が原因だ


 “伏古総合病院”


 親父の勤めてる病院の名前がそこにある。これが悲鳴を上げずにいられるか?無理だろ


『可哀想なきょう……お母さんが慰めてあげる……』


 お袋はそう言って後ろからそっと抱きしめてきた。何だ?このシリアス擬きな展開。確かに事実を受け入れたくないって思ってはいるけどよ


『お袋……』

『うんうん、辛かったね、よく頑張ったね……きょうは偉いよ』


 何を頑張ったか、何をもって辛いと言ってるのかは全く理解できない。本当に何だ?このシリアス擬きな展開は


『何を頑張って何をもって辛いと言ってるかは知らんけど、離れてくれね?これから起こりうる面倒事を考えてめんどくさくなっただけだから』


 さっき悲鳴を上げたのだって絶望したからじゃなく、単にこれから現実を受け入れたくなかっただけ。もう一度言う。絶望したからじゃないぞ?


『ぶ~! きょうはもうちょっと親子のスキンシップを大切にするべきだとお母さんは思うよ!』


 最低限のスキンシップなら大切にするが、アンタの場合は最低限じゃなくて過剰なんだよ! しかも! 身を任せると洒落にならない事仕出かしそうで怖い


『お袋の言うスキンシップが必要最低限なら俺だって大切にする。が、お袋の言う親子のスキンシップって過剰だろ?』

『失礼な! 過剰じゃないよ! きょうへの愛が止まらないだけで!』


 愛が止まらない時点で息子である俺からすると過剰だと感じるのはスルーですか、そうですか


『ほう、過剰じゃないならお袋が俺としたいスキンシップの形を言ってもらおうか』

『いいよ! まずはきょうと一緒に寝る!』


 高校生にもなって自分の母親と寝るのは気恥ずかしい。でもまぁ、一緒に寝るくらいなら常識の範囲内だ。


『ああ。次は?』

『毎朝きょうにおはようのキスをする!』


 それは新婚夫婦かラブラブバカップルがする事だろうに……。ま、まぁ、海外じゃキスが挨拶って国もある。ひとまず保留だな


『言いたい事はあるが今はいい。次は?』

『お母さんが作った朝ご飯を食べさせ合いっこ!』


 あー……もはや何も言うまい


『なるほど、次は?』

『登校前のきょうにいってらっしゃいのキスをする!』


 どこの新婚夫婦だよ……。俺達の関係って親子だよな?


『今聞いただけでも俺達がどんな関係か疑いたくなるが、突っ込みは全部聞き終えてからだ。次』

『朝バージョンはこれくらいで夜バージョンはまずおかえりのキスをする』


 朝と夜。二つのバージョンがあるだなんて初耳だぞ……


『朝バージョンと夜バージョンがあったのかよ……次……』

『きょうと一緒にお風呂に入る!』


 俺は一体いくつの子供なんだろうな……。あ、親からすると子供はいくつになっても子供か。


『次は?』

『一緒にお風呂に入った後はきょうと一緒に寝るんだけど、その前に夜の運動会だね!』

『アウトォォォォォォォォォォォ!!』

『ふぇ!? い、いきなり叫ばないでよ~! ビックリするでしょ?』


 叫びたくもなるわ!! 一緒に寝る程度なら妥協して常識の範囲内とか思ったけど、おはようのキスからもう親子でする事じゃねーよ! 完全に新婚夫婦か同棲してるバカップルのそれだよ!!


『叫びたくもなるっつーの!! 百歩譲って一緒に寝るまではいい! けど、おはようのキスや行ってきますのキスとキス関係は完全に新婚夫婦がする事だろ!! 一緒に風呂に入るのは身近にいる女共が似たような事してくるからいいとしてだ、夜の運動会は親子でする事じゃねーよ!! 完全に夫婦のそれだよ!!』


 お袋のスキンシップは確実に俺を社会的に抹殺しにかかってきてる。幽霊だから零達以外にはバレないと思う。その零達にバレたら俺はマザコン認定を食らうかそれよりも酷い事になる


『え~! いいじゃん! 親子なんだしさ~』

『親子だからダメなんだよ!』


 誰にも届く事のない俺の叫び。その叫びを雲一つない空だけは聞いている。そんな気がした昼下がりだった


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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