高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

茜の収録に付き添った結果、大量の声優を拾った

公開日時: 2021年6月29日(火) 23:14
文字数:3,460

 監禁生活────あれ? 今日で何日目だ? 何日目でもいいか。ここは多くの人で賑わうビル街。今日は珍しい事に外に出ている。え? 誰とかって? それはだな……


「グレー、今日は私のアフレコするとこしっかり見ててよね」


 同居人の一人で人気声優の高田茜とだ。帽子とメガネで軽く変装している彼女の出勤に付き添う俺。曰く今日はラブコメアニメのアフレコと同アニメのラジオ収録があるらしいのだが、ハッキリ言わせてもらおう。俺みたいな一般人の男子高校生を現場に連れてっていいのか? 前回強引に引きずり込まれた時もちょっと思ったが、アフレコの段階とはいえ、放映前のアニメを一般人に見せるのはマズいんじゃねぇの?


「見てる見てる。それよりもだ、一般人の俺をアフレコブースに連れ込んでいいのか?」

「え? 普通にいいけど? というか、グレーがいてくれなきゃ困る事もあるんだけど?」

「なん……だと……」

「私と真央がグレー同伴でアフレコブースに行くのなんて声優界じゃ当たり前だよ?」

「嘘だろ?」

「本当」


 茜はさも当たり前みたいな顔してるが、俺にとっては当たり前ではない。異常だ。ラノベとかならご都合主義で済まされるだろうが、ここは現実世界。ご都合主義で全て丸く収まるのなら警察はいらん! 何がどうなったら俺が茜と真央に同伴する事が声優界の常識みたいな感じになるのか是非ともご教授願いたい


「何なんですかねぇ……」

「何でだと思う? 心当たりあるでしょ?」

「心当たりねぇ……茜と真央がストーカー被害に遭った事くらいしかねぇな」

「他には?」

「他に? 他にはねぇよ。心当たりがあるとしたらストーカー被害くらいだ」

「え? 本当に分からないの?」

「分かんねぇよ」


 マジかコイツみたいな顔で俺を見る茜。こっちがマジかコイツなんだが……茜と真央に付き添わなきゃいけない理由なんてストーカー被害に遭ったからくらいしか思い浮かばねぇよ。ストーカー以外だと……二人が俺に好意を持ってるからか? 公にすると炎上する未来しか見えないんだが……


「グレーって私と真央ちゃんを拾ってくれたじゃん?」

「どちらも成り行きだけどな」

「そこは素直に頷いてほしかったんだけど……まぁ、いいや。でさ、声優って全員が全員売れるかと言われればそうじゃないわけ。中にはデビューしたはいいけど、アルバイトをしながらって人もいる」

「らしいな。何かのブログで読んだ」

「それでさ、アルバイトしながらでも結構生活がキツイって子が多いんだ」

「へー、そうなのか」


 俺はどうして自分が茜と真央に同伴しなきゃならないのかを聞いたはずなんだが……いつから売れない声優の裏話になったんだ? つか、茜が何を言いたいか全く読めんのだが……


「そうなんだよ。そこでグレーの出番なわけなんだけど……ここまで言えば解かるよね? グレーの同伴が声優界で当たり前になってる意味」


 茜のニンマリとした笑みに冷や汗が止まらない。ここまで言われれば何となく理解してしまう。同居人の声優二人が俺同伴出勤を許されている意味が。俺の思い過ごしだといいのだが……


「あれか? 生活に困ってる声優を拾えってか?」

「正解」

「嫌な予感的中かよ……」


 いい大人なんだから自分の生活くらい自分で何とかしろ。声優を志した時に解っていた事だろ? とは声優である茜を前に口が裂けても言えねぇ……


「うん……今日連れて来たのはそれもあったからなんだ」

「はぁ……」


 申し訳なさそうにしている茜には悪いが、俺は深い溜息を吐く。本来なら見ず知らずの人間を拾ってやる義理なんてない。家なき子を拾ってやる事は俺の義務ですらないから突き放しても罰は当たらないのだが……元々はデパートだった場所。売れない声優の一人や二人拾っても建物全体を埋めるって考えたら人が足りない。今まで聞かずにいた光熱費に関しては後で爺さんに確認するとしよう。今は生活カツカツな声優連中をどうするかだ


「勝手な事してゴメン……」

「はぁ……別に怒ってねぇよ。ただ、確認事項が増えたなと思っただけだ」

「ゴメン……」

「だから、怒ってねぇって。むしろ感謝してる。広すぎる建物に同居人を増やそうとしてくれたしな」

「グレー……」

「諸々確認事項はできたが、電話一本で済む。茜が気にする事なんて何一つねぇよ。元々デパートだった建物で一人暮らししろだなんてバカな事言いだした親父と協力した爺さんが悪い。それに、あの建物はもう俺ので偶然見つけた生活に困ってる声優を俺が拾う。ただそれだけの話だ」

「じゃ、じゃあ、いいの?」

「いいって。それより、早いとこ現場に連れてってくれ」

「うん!」


 高校入学してから俺は家なき子を拾う事が多くなったような気がしてならない。どうして俺がって思う事もある。しかし、そんな生活が嫌いじゃない自分がいる。零達を始め、多くの人との触れ合いの中で人と関わるのも悪くはないと思い始めたからなのか、単に人は人、自分は自分って信念を持っているからなのか……どっちでもいいか






 今回茜が仕事するスタジオに到着すると俺はスタッフがいる部屋へと通された。普通はアフレコ中は外で待機なんじゃねぇの? 通されたのは仕方ないから大人しく従っておくけどよ……


「何かが絶対間違ってんだろ……」


 前回みたいにキャスト・スタッフ一同から注目を浴びる事がないのが幸いなのだが、男子高校生の俺をアフレコスタジオに通すのは間違いでしかないだろ


『それだけきょうが信用されてる証拠だよ~』

『恭様は何だかんだで助けてくれるってみんな解ってるから何も言わないのよ』


 それとこれとは関係ない気がするんだが……指摘する事じゃねぇから黙っとくか




 特にする事がなかった俺はキャスト・スタッフ一同には申し訳ないなと思いつつ、寝て過ごした。別にアニメのアフレコ現場になど興味はない。アニオタじゃねぇからな。で、程よい時間かなと思って起きたのだが……名も知らぬ声優からそれなりに有名な声優が目の前にいるのは気のせいか?


「………………おい、茜」

「は、はい……」

「本人達前にして聞くのは心苦しいが、一応、聞くぞ」

「ど、どうぞ……」

「解釈が間違ってたら悪いが、俺が拾うのは売れなくて生活に困ってる声優であってるよな?」

「え、えっと……生活に困ってる声優だっていうのはあってるけど、売れてない人達とは言って……ない……です……」

「そうか」

「はい……ところでグレー、この人達なんだけど……ちゃんと拾ってくれる……よね?」


 不安気な目で俺を見る茜と声優一同。スタッフはそんな俺達の様子を真剣な表情で見守っている。広すぎる建物を持て余している俺にこの連中を拾わないという選択肢はないのだが……確認しなきゃいけない事ってあるわけで……今はその確認をしているわけで……


「拾う。拾うから捨てられた子犬みたいな目で俺を見るな」

「だって……グレーの気が変わって拾わないって言うと思ったんだもん……ね? みんな?」


 瞳に涙を溜めた茜が振り返ると俺に拾われる予定の声優一同が茜と同じく瞳に涙を溜めながら頷く


「拾わないとは言ってねぇだろ……じゃなくて、聞いてた話だと売れなくて生活に困っている声優を拾う的な感じだったから確認しただけだ。実際のところどうなんだ? 売れない声優を拾えばいいのか? それとも、生活に困ってる声優を拾えばいいのか?」

「え、えっと……両方……です………」


 気まずそうに俯きながら答える茜。それならそうと最初から言えばいいものを……


「それならそうと最初から言えばいいものを……全員拾うのはいいんだが、この後どうするんだ?」

「この後?」

「茜はこの後ラジオの収録があんだろ。他の人だって別の現場で仕事があるだろうから拾ったとしても帰りがバラバラになるぞ?」

「あ……」


 俺のこの一言に茜を含む声優陣が一瞬で固まる。おかしなこと言ったか? 普通の事しか言ってないよな? もしかして……


「もしかして目先の安定ばかり考えて今日のスケジュール全て頭から吹っ飛んでたとかじゃねぇよな?」


 俺の問いかけに声優一同はもちろん、スタッフ一同も黙り込む。どうやら図星だったようだ


「あのなぁ……」


 俺は考えなしの大人連中に頭を抱えるしかなかった。生活が懸かってると視野が狭くなるのは理解できん事もないが、安定した生活の前に一日のスケジュールくらい把握しておいてくれよ……つか、無関係のスタッフまで黙るなよな……



 この後、茜は今いるスタジオの隣に位置するスタジオでラジオの収録に臨んだ。俺? 俺はアフレコの時と同じだ。拾うと言った声優陣は加賀の同僚に全員まとめて家へ送り届けるように指示しておいた









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