高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

人間変われば変わるものだ(後編)

公開日時: 2021年2月15日(月) 22:58
文字数:4,545

 瀧口が壊れた後の話は正直したくない。したくはないが、しないと求道と北郷の二人に愛を囁くに至った経緯が分からないから少しだけしよう。瀧口が変質者と化してから五分くらい。最初はドン引きだった俺達が徐々に慣れ始めたくらいの頃────


「弓香!麗奈!」


 憑き物が落ちた瀧口が二人の名前を呼ぶ。


「「は、はい!」」


 突然名前を呼ばれた求道と北郷は身体を跳ねさせながらも返事を返し、俺達は瀧口を見守る事しか出来ず、黙って彼らの様子を窺う。


「僕は……いや! 俺は二人が好きだ! 愛してると言ってもいい! どっちかを選ぶなんて出来ない!! そんな優柔不断な俺でもよければ二人共俺と付き合ってほしい!!」


 見事なまでのクズ発言。瀧口の言ってる事を要約すると俺は優柔不断だから二股をかけさせろって事だ。これじゃ百年の恋も冷めるというもの。だが……


「アタシも……祐介が好き……だよ」

「私もです。祐介、ずっとお慕い申しておりますわ」


 瀧口の二股宣言に涙を流しながら笑顔で答える求道と北郷。泣く要素あった?ねぇ?今の泣くところなの?


「じゃ、じゃあ……」

「こっちこそよろしくね! 祐介! 浮気したら許さないから!」

「ちゃんと二人を見ないと怒りますわよ?」


 そう言って抱き着く求道北郷コンビと二人を受け止め、抱きしめ返す瀧口。求道、二股かけられてる時点で浮気してるようなモンだぞ?お前の浮気基準が分からん。つか、これってハッピーエンドなの?


「当たり前だろ! 俺は弓香のような見た目ギャルの姉御肌と麗奈のようなお嬢様キャラにしか興味はない! 他の女に目移り?あり得ない! ギャルとお嬢様のハーレムが俺は大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 うわぁ……コイツ人ん家で何暴露しちゃってんの?と俺は瀧口の見たくもない新たな一面に引き、琴音達は────


「恭くんもこれくらい女の子にだらしなければいいのに……」

「恭、いつお義姉ちゃんを襲ってくれるの?」

「恭クンから来ないなら私から襲おうかな……」


 引くどころか羨ましそうな顔で瀧口達を見ていた。異性関係にだらしなくて顰蹙ひんしゅくを買い、非難される事はあってもだらしがない方がいいって言うのはお前らだけだぞ?俺が拾う奴は変な奴ばかりなのか?


「付き合ってらんねぇ……」


 堂々の二股宣言をする瀧口にもそれを容認する求道北郷バカコンビにも琴音達にも付き合い切れない。俺は深い溜息を吐いた




 んで、現在────。互いの存在を確かめ合うように抱き合ってたバカップル達だったが、同じ事の繰り返しに物足りなさを感じたと思われる瀧口が二人に愛を囁き、今に至る


「これどうすんだよ……」


 目の前には未だ飽きもせずにイチャつく瀧口達の姿が。いい加減帰ってくれねぇかなぁ……


『どうしようもないんじゃない?一度壊れた人間は元に戻らないって言うしさ~』


 瀧口が壊れる事になった元凶が隣でニコニコして何か言ってる。呑気なモンだ。こうなった元凶のクセして


「お袋が原因だろ……どうにかしろよ」

『早織って呼んでくれなきゃきょうのお願いは聞きませーん』


 子供みたいな事を言ってそっぽを向くお袋に若干苛立ちを覚える。名前呼んでもらえないだけでヘソ曲げるなよ……。ったく、仕方ねぇな……


「早織、この状況をどうにかしてくれないか?」


 俺は恥ずかしさを押し殺し、お袋の名前を呼ぶ。どうせ瀧口達は好きな奴しか見えてない。俺がお袋の名前を呼んだところで気が付きは……


「は、灰賀君……?」

「灰賀、そんな趣味あったの?」

「正直、ドン引きですわ」


 しちゃったね。琴音達は気にした様子ないけど、瀧口達はゴミを見る目してるね


「うっせぇ。これには海よりも深い事情があんだよ」


 琴音と飛鳥を始め、同居人達の存在を明かせない俺は適当にお茶を濁す。事情があるのは事実だ。嘘は言っていない


「どうやったら母親を呼び捨てで呼ぶ状況を作れるんだい?」


 瀧口が引きつった笑みを浮かべ、俺の肩に手を置く。どうやったら実の母を呼び捨てで呼ぶようになるのかなんて俺が聞きたい。強いて言うならそうだな……


「罰ゲーム有りのカードバトルに負けたらだな」


 この一言に尽きる。


「そ、そうなんだ……は、ははは……」

「無理して反応返さなくていいんだぞ?」


 場を和ませようとしたのは評価する。しかし、乾いた笑みで全て台無しだ


「ごめん……」


 ガチトーンで謝んなよ! 俺が居た堪れなくなるだろ!


「いいさ。元はと言えば俺の自業自得だ。それより、早織は瀧口達に霊圧の扱い方をレクチャーしてやれ。ちゃんと扱えないとヤバいだろ?」


 神矢想花の一件で俺は嫌ってほど痛感した。自分が持っているものは使い方を間違えれば人一人簡単に殺せてしまう危険なものだと。だからこそ瀧口達には正しく扱えるようになってもらいたい。俺にはそっち方面の知識がないからお袋────早織頼りになってしまうがな


『ヤバいのはヤバいんだけどさ~、その前に一つ確認しておきたい事があるんだよね~』

「確認しておきたい事?」

『うん~、祐介君と由香ちゃんに』

「瀧口と由香?瀧口、求道、北郷にじゃなくてか?」


 今日付けで俺と同じになった瀧口、求道、北郷になら解かる。どうして瀧口と由香なんだ?由香も『え?私?』と言いたげな顔で自分を指さし、戸惑いの表情を浮かべている。


『そうだよ。中学校時代からきょうと接点があっただけじゃなく、お母さんがきょうに渡したペンダントを盗んだでしょ~?』


 お袋の言葉に瀧口と由香は気まずそうに目を逸らし、求道と北郷は悲しそうな視線を由香達に向ける。琴音達も同じ目をしていた


「そうだけどよ、それはもう解決した話で今更蒸し返す話じゃねぇよ」


 俺の中では早織から貰ったペンダントを盗まれた事はゴールデンウィークで片が付いてる。彼らが今も悪いと思っているかは別として、俺は殴ったし十字架を背負わせた事で満足だ。今になって許すのか許さないのかを問われても困る


『お母さんだってペンダントを盗った理由を問い詰める気はないよ。ただ、どうして生きてるのかを聞きたいだけで』


 お袋の言葉にこの場にいる全員が疑問符を浮かべる。彼女の言い草だと生きているのがおかしい。そう聞こえてならない


「その口振りだと生きている方が変だって聞こえるぞ?」

『うん~、そう言った~』


 早織の笑顔はいつもと同じもので幼い頃から見てきたはずなのに狂気にも似た何かを感じるのはなぜだ?口では問い詰める気はないと言いながら心の底では瀧口と由香を憎んでいたのか?


「そう言ったって……二人が生きてたらダメだってのか?」


 俺の言葉に瀧口と由香は罪悪感からか悲しそうに目を伏せる。由香に至っては口元に手をやり泣くのを堪えているようだ


『ダメとは言ってないでしょ~?ただ、あのペンダントに触ってよく生きてたな~って関心はしてるけどね~』

「は?」


 早織のこの一言に全員の目が点になった。え?何?あのペンダントってそんなヤバいもんだったの?


『あのペンダントは元々きょうが万が一暴走した時の為に渡したもの。もっと簡単に言うときょう制御装置だったんだけどまさか強奪されるとは思ってなくてさ~』


 早織はヤレヤレと言いながら肩を竦める。本当に彼女は盗まれると思っていなかったらしい


「あのペンダントにそんな役目が……で?盗まれると思ってなかったのと由香達が生きてるのと何の関係があるんだよ?」


 早織に限ってないとは思う。しかし、考えずにいられないのがペンダントを盗んだ代償として今ここで死ねと言う事だ


『大ありだよ~、あのペンダントは霊力の低い人が触ると魂が燃え尽きちゃうんだから』


 柔和な笑みを浮かべてとんでもない爆弾を落としてきやがった……。早織さん?それ半分呪いじゃないっすか?普通の人が触れたらヤバいって事は世の中にいる大半の人が触ると大変な事になるって事ですよね?


「嘘……だよな?」


 頼むから嘘と言ってくれ……


『本当~』


 この時ばかりは嘘と言ってほしかった……。ニコニコしてる早織から悪意は全く感じないが、そういう物騒な事は前もって伝えておいてほしかったぞ……と、形見を貰った俺は早織はしょうがない奴だな~と思う程度で済んだのだが、問題は由香と瀧口だ


「あ、あたし達、と、とんでもない物を取っちゃってたの?」

「ら、らしいね……」


 由香と瀧口は顔が真っ青だった。霊力の話や魂が燃え尽きると言われたところで俺の頭じゃいきなり全身の穴という穴から火が噴き出す程度しか想像できない。惨い光景なんだとは思うけどな


『ま、由香ちゃんと祐介君が何で生きてるのかはもうどうでもいいや。それよりも由香ちゃん、祐介君、弓香ちゃん、麗奈ちゃんの特訓が先だしね~』


 生きてる理由どうでもいいんかい!


「どうでもいいなら最初から言うなよな……」


 今日の早織は肝心なところはいつも通りしっかりしてるが、妙なところで適当だ。そんな日もあっていいとは思う。思うけど振れ幅が激しいのはちょっと……


『お母さんだってたまには若い子遊びたい時があるんですぅ~』


 若い子じゃなくて若い子なのかよ……。いい歳したオバサンが剥れても可愛くはないぞ?


「はいはい。もう十分遊んだだろ?だったら琴音達の時同様、一階の駐車場にでも連れてって特訓して来いよ」

『ぶ~! 分かったよ~だ!』


 早織は俺に向かってアカンベーをすると由香達に『行こっ!』と言って部屋を出た。





 時は流れ、深夜────。由香達が特訓を終えて戻ってきた頃にはすでに十九時を回っており、一応、電車もあったから瀧口達は帰宅も可能だったのだが、何を思ったか瀧口が今夜泊めてくれと言い出し、帰って来ていた義妹コンビは二つ返事でOK、藍とセンター長の教師コンビも家に連絡を入れるならと条件付きでOK。声優組は言うまでもない。義妹コンビと同じだ。で、三人は各々の親に連絡。許可が下りたタイミングで夕飯となり、飯が終わった後は着替えのある場所へ案内し、自由時間を経て今に至るのだが……


「瀧口が家に泊まるって変な感じしかしねぇ……」


 夏休みモードが完全に抜けきっていない俺は布団に入ったはいいが、眠れずにいた


『そう言う事言わないの~。中学校の頃は色々あったみたいだけど、今は今、昔は昔でしょ~?』

「仕方ねぇだろ。違和感しかないんだからよ」


 由香もだけど、中学時代にひと悶着あった人間と普通に喋ってるとか違和感しか感じない。瀧口の場合特にな


『それだけきょうの周りに人が増えたって事でしょ~』


 俺の周りに人が増えたねぇ……俺はそんな事望んでないんだがなぁ……


「俺は望んでねぇんだけどなぁ……。それより、神矢想花はどうした?今までずっと喋ってなかったようだが」


 神矢想花の性格ならどこかのタイミングで皮肉めいた態度で接してくるはず。それが今日────いや、ここ数日に限ってない。俺以外の宿主でも見つけたのか?


『想花ちゃんならずっときょうの側にいたよ?ただ、霊圧隠してたから見えなかっただけで』

「霊圧隠せたのかよ……」

『隠せるよ~。やり方さえ解かればきょうだって出来るし』

「それはまたの機会に教えてもらう事にする。今日はもう疲れた」


 二学期初日だってのにリア充様の三角関係に巻き込まれた挙句、元凶が二股宣言をする事で解決。だったら最初から二股宣言して解決しとけよな……。俺は心の中で瀧口へ毒を吐き、目を閉じた

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