高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

どうやら俺は蒼と決闘する事になったらしい(後編)

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:28
更新日時: 2021年3月11日(木) 00:31
文字数:4,143

「恭さんボク達は人間ですよ? 物じゃありません」

「どうだか」

「なら……それを証明してやるよ!!」


 蒼の口調と態度がさっきとは一変し、荒々しいものに。その蒼が左腕を大振りにして殴りかかって来た


「態度と口調を変えただけじゃねーか」


 俺はそれをヒラリと躱す


「それはどうでしょうか……ねっ!!」

「─────!?」


 拳を躱したと油断していたところへ右足からの蹴りが俺の腹部を捉えるが、所詮は中学生。痛みも大したものじゃなく、体勢が崩れるまでには至らなかった


「喧嘩って殴り合いだけが全てじゃないんですよ? 恭さん♪」

「んな事知ってるよ。今のはちょっと油断したな……だが、この程度じゃ俺の心の内を曝け出させるだなんて無理だ」


 左手で殴ると見せかけて本当の狙いは右足の蹴り。狙いは悪くない。


「でしょうね。今のは軽いジャブです。それに、勝負はまだ始まったばかりじゃないですか♪」

「言ってろ。俺はお前と勝負しているつもりなんてない。ただ、不要な物を捨てる前に壊すに過ぎない。次は俺から行くぞ」

「どうぞどう─────!?」


 言い終わる前に俺は右手で首を絞める。俺にとって殴り合い喧嘩なんて必要ない


「何だ? 自分が殴る蹴るしたから俺も同じだと思ったか?」

「──────!! ──────!!」


 首を絞められた蒼は言葉を上手く発する事が出来ないのかジタバタと暴れる。


「何だ? 先に勝負を吹っかけてきたのはそっちだろ? 当然、首を掴まれるって事は予想出来たよな?」

「──────!! ──────!!」

「何言ってんのか分かんねぇや」


 俺は左手で顔面を殴り、絞めていた首を離す。蒼は首を押さえながらゲホゲホと咳き込む


「は、はぁ、はぁ、きょ、恭さん、貴方は、ぼ、ボクを、こ、殺す、気ですか?」


 息を整えながらこちらを睨んで訪ねてきた。喧嘩に殺す気も何もあるか。効率のいい方法を選んだだけだ


「別に。格闘技の試合じゃあるまいし喧嘩に決まったルールなんてないだろ? 違うか?」


 不良マンガで喧嘩って言えば河川敷での殴り合いが定番だ。あくまでもマンガの話だけどな。


「違いませんね……でもまさか初めての喧嘩で殺されかけるとは思いませんでした……」

「殺しはしないさ。そんな事したら俺が捕まるだろ? それにしても……俺の心の内を曝け出させるとか豪語しておいて何だ? そのザマは? これじゃ俺が年下の男子をイジメてるみたいじゃないか」


 喧嘩を言い出したのは蒼だが、現状を見ると俺は最初の蹴り以外は一発も食らっていない


「イジメじゃありませんよ。それに……」

「──────!?」


 蒼の拳が俺の顔にめり込む。今のは最初に食らった蹴りとは大違いの強さだ


「さっきも言ったでしょ? 勝負は始まったばかりだって♪」

「ちっ、言ってろ。お前にゃ誰の心もこじ開けられはしないんだからよ」


 口内に鉄の味が広がる。今のは少し痛かったな……


「恭さんこそボクを甘く見ないでください。ボクは貴方の心を必ずこじ開けて見せますよ」


 俺の心をこじ開けて見せると断言する蒼。しかし、コイツは気づいていない。自らの心を曝け出さない奴に人の心をこじ開けるだなんて芸当が無理だって事に


「はっ、自分の心を曝け出さない奴が人に心を曝け出させる? そんなの無理に決まってるだろ。お前は入居した時からそうだ。俺どころか自分の姉にだって本性を曝け出した事が一度でもあったか? ないよな? そんなお前が俺の心を曝け出させる? 冗談はその女みてぇな見かけだけにしろよ」


 俺は高校生になって初めて他人ひとの容姿を貶した。持って生まれたものや親が付けてくれた名前を貶す。過去に自分がされて嫌だった事だ


「テメェ!! もう一遍言ってみろ!!」

「ああ! 何度でも言ってやるよ!! 自分の本心を言えないチキンに人の本心を引き出す事は無理だ! 冗談は女みたいな見かけだけにしろ!」

「恭ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 容姿を貶しただけで簡単に熱くなるだなんて思った通りコイツは単純だ。その証拠にバカみたいに雄たけびを上げながら突っ込んで来てやがる


「煽られた程度でムキになんなよな」


 突っ込んで来たところへ足を引っかけ転ばす。すると蒼はそのまま倒れた。俺は倒れた隙を突き、一方的に蹴った。悲鳴やら咳き込む声やら聞こえるが、そんなのお構いなしだ。


「はぁ、はぁ、これで分かったか……? お前なんかに俺の心を曝け出させるだなんて無理なんだよ……」


 年下……中学生相手に何してんだと自分で自分が嫌になる。蒼を一方的に痛めつけた俺の心にあるのは空しさだけ。そりゃそうだ。俺のしてる事は単なるイジメと何も変わらない


「ま、まだ……です……まだボクは参ったと……い、言って……ま、ません……」

「参ったって言ってなくてもお前はもうボロボロだろ」


 参ったと口に出して言ってはいない。だが、蒼の身体はボロボロだ


「うっせぇ!! テメェにゃボク達に思ってる事全て吐いてもらわなきゃ困るんだよ!!」

「思ってる事なら全部言っただろ? 俺はお前達なんて替えの利く代用品程度にしか思ってないってな」


 俺が思っている事は全て話した。だというのにコイツはこれ以上何を望む?


「それは聞いたさ!! けどな! ボク達がアンタをどう思ってるかはまだ言ってねぇ!! それを聞いた上でもう一度ボク達をどう思ってるか聞かせろって言ってんだよ!!」

「お前達の思いを聞いたところで俺の認識は変わらない。お前らはタダの代用品だ。じゃあな」


 もう立ち上がってくれるなよ……俺は蒼が立ち上がらない事を祈りその場を立ち去ろうとした。その時……


「勝負はまだ終わってねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 俺は後ろから追突された。相手は言うまでもなく蒼だ。


「──────!?」


 追突された俺は倒れこそしなかったものの、若干よろめいた


「勝負はまだ終わってねぇぞ!! 恭!!」

「終わっただろ。お前はボロボロなんだからよ」

「終わってねぇよ!! オラ! こっち向けや!!」


 俺は強引に蒼の方を向かされた後、思いっきり顔面を殴られた。そんな俺にお構いなしと言った感じで蒼が馬乗りになってくる


「痛ってーな……」

「ったりめぇだ!! 殴ったんだからな!! どうだ? イテェだろ? 人を殴ってもイテェ、殴られてもイテェんだよ!! それをアンタは何だ! ボク達は代用品でも人形でもねぇ!! 人間なんだよ!!」


 馬乗りになった蒼は容赦なく俺を殴る。何発も何発も……そして、俺の頬を温かい何かが伝う


「何泣いてんだ? お前」


 頬を伝う温かい何かの正体は蒼の涙だった


「うっせぇよ……! ボク達……少なくともボクはアンタを友達だと思ってる……ボクがどれだけ毒を吐いてもアンタはボクから離れて行かなかった……それがボクにとってはどれだけ嬉しかったと思う!? アンタからすると興味がないだけだったのかもしれねぇだけだったとしてもな!!」


 コイツバカか?何で俺の為に泣いてるんだよ?友達?そんなの都合のいい時だけ使う言葉だろ?


「お前がどう思ってようが俺の知った事かよ。お前の暴言に言い返さなかったのは興味がないのもそうだが、単に面倒だっただけだ。どこぞの連中みたいにトラウマがーって泣かれちゃめんどくさいからな」

「な、何言って────────」


 蒼の表情に驚愕の色が浮かぶ


「何って俺の思ってる事だ。ちょっとした失言ですぐ泣く!! 俺にだってトラウマの一つや二つあるからな!! その気持ちは理解出来なくもねぇさ!! だがな!! そんな俺でもそれを克服しようと努力してきた!! なのに何だよ!? アイツ等はそれもしようとしねぇ!! バカじゃねぇのか!?」


 いい機会だ。コイツ等に俺が思っていた事全て教えてやる。そう思い蒼の胸倉を掴んだ


「お前だってそうだ!! 口を開けば暴言ばかり! 初対面で暴言を吐かれる謂れはねぇ!! アレか!? 自分は容姿で弄られたから自衛の為に暴言を吐くしかなかったんですぅ~ってか!? だからって初対面で暴言を吐く事ねぇだろ!! 何も暴言を吐いても離れて行かなかった? 気を使ったからに決まってるだろ!!」


 愕然としている蒼を退かせ身体を起こした俺は零達の方を向いた


「お前ら、俺の本心を聞きたかったんだよな?だったら聞かせてやるよ!!」


 零達は身体をビクッと跳ねさせた


「トラウマを盾にいちいち泣くな!! 気ぃ使ってるこっちは疲れるんだよ!! それに、会いたくもねぇ連中を勝手に入れんな!! 俺は未来永劫ソイツ等と関わり合いになる気なんてなかったんだよ!! そんな事すら分かんねぇのかよ!! アレだな……お前ら……もう少し人の気持ち考えたらどうなんだ!!」


 俺が零達に思っていた事を言い終わった後、彼女達は泣いていた。それが自分の愚かさを自覚してなのか、それとも、俺が遠回しに彼女達を負担だと言ってしまったからなのかは分からない


「で! 次は親父達!! 別に再婚するのは止めねぇよ!! だがな! 再婚相手くらい考えろ!! 俺の大切な物を奪った奴の母親と再婚とか何考えてんだよ!! それで対面した時に盗人を殴ったら俺を怒る……殴られて当然の事した奴殴って何が悪いんだよ!! 大人しく謝ったら可愛げもあったさ! でも実際は彼氏から貰った初めてのプレゼント……人から奪ったモン貰って喜ぶなバーカ!!」


 親父が誰と結婚しようと関係ない。親父の人生は親父のモンだ。再婚するのもしないのも勝手だ。だから、最後の締めくくりとして明日には出て行くであろう零達、二度と関わる事のないであろう親父達にこの言葉を贈るとしよう


「どうせ親父達とも零達とも今日を機に二度と関わらないだろうからこれだけ言っとく。お前らは俺にとって必要ない。義理とはいえ娘贔屓にする父親も人のモン奪っといて開き直る義姉もそれを教育出来ない母親もな。で、トラウマを盾に泣き、口を開けば暴言ばかりの男女おとこおんなも邪魔だ」


 コイツ等を切り捨てて初めて分かった……俺はどんな時でも裏切らない人間関係、ちゃんと喧嘩出来る友達が欲しかったんだ……そして、自分をちゃんと見てくれる家族……俺自身がそうしようとしなかったと言われればそれまでだが、そういうのを欲していた。それが叶わなかったから俺はコイツ等を切り捨てたんだ


「俺は本心を語り、お前らなんかよりも何十倍も重いお袋の形見を取り戻した。もう俺に用はないだろ? 全員荷物を纏めてとっとと出てけ」


 俺はそれだけ言って駐車場を後にした



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