『ただいま……』
雑な説明だが、由香に現状とケガが治ったら目を覚ます旨を伝えたところで俺の視界は真っ白になり、気が付けば目の前に満面の笑みを浮かべたお袋。何がどうなっているんだ?
『うん、おかえり~、きょう~』
現在何が起こっているか分からない事だ。それ以上に満面の笑みを浮かべたお袋が怖い……怒ってはいないと思うも俺の本能が今すぐ逃げ出せと警笛を鳴らしている
『えっと……何でお袋はそんな笑顔なんだ?アレか?息子が無事に帰還した事を喜んでいるのか?』
人の夢に入るなんて経験生まれてこの方した事がなく、不測の事態も想定される。そんな状況で俺が無事に帰って来たから母としては喜ばしい。満面の笑みはそれの現れ……
『きょうが無事に帰ってきた事はもちろん嬉しいよ~?そ・れ・よ・り……』
『それより?』
『お母さんだってきょうにハグされた事ないのにな~んで由香ちゃんはハグしてたの~?』
ではなく、単にお袋にはしない事を由香にしたからヤキモチを妬いているだけだった
『そうしろって言われたから?』
『ふ~ん、きょうはやれって言われたら簡単にしちゃうんだ~、へぇ~』
笑顔を張り付け額に青筋を浮かべているお袋。怒ってないわけじゃなくて怒りを笑顔で誤魔化してるの間違いだったわ
『はぁ……』
嫉妬されるって事はそれだけ好かれている証拠だからね?嬉しいっちゃ嬉しいよ?でもそれ以上にめんどくさくもあるんだけど。
『な~に溜息吐いちゃってるの?もしかしてお母さんの事めんどくさいと思ってたりする~?』
めんどくさいとは思っている。だってそうだろ?こっちは実の母親で夢の中とはいえハグしたのは義理の姉。血の繋がりという意味では差がありはするものの、どちらも家族……いや、身内なのには変わりない。つまり何が言いたいかと言うとだ。家族は異性に入りません!
『めんどうだとかは思ってない。ただ、書類上は家族に該当する奴にハグしただけでこうなるとは思ってなくてな。どうしたものかと考えていただけだ。っていうか、何で俺が由香にハグしたってお袋が知ってんだよ?』
本来なら俺と由香しか知らない情報をお袋が知っている。考えるまでもなく変だ
『女の勘!』
女の勘で人の行動をピタリと当てないでくれませんかねぇ……
『さいですか。それより、俺はお袋に聞きたい事が山ほどあるんだが……』
『うん。分かってる。分かってるけど、外見て』
お袋に言われた通り俺は窓の方を見る。すると……
『げっ! もう朝かよ!』
窓からは朝の心地よい日差しが差し込んでいた。
『きょうの聞きたい事っていうのは何なのかある程度の見当は付くよ~?でも、それは家に帰ってからか帰りの道中にでも話してあげる。だから、今は帰ろう?ね?』
聞き分けのない子供に言い聞かせるような口調のお袋なのだが、ちょっと待て。俺は別に駄々を捏ねたわけでじゃない。ただ聞きたい事が山ほどあると言っただけだ。何で説得されてるみたいな感じになってんだよ
『分かったよ。つか、その俺が聞き分けないみたいな感じ止めてくんね?』
『え~! ちょっとくらい母親っぽく息子を説得したっていいでしょ~?これでも母親なんだからさ~』
『あのなぁ……』
唐突に母親風吹かさなくてもアンタは立派な俺の母親だ。死んでなおバカな俺の側にいてくれるんだからな。恥ずかしいから絶対に口に出して伝えはしない。けど、感謝しているのは本当だ。いつもありがとう。って! そんな事言ってる場合じゃねぇぇぇぇ!!
『さてっと、おふざけはこれくらいにして、帰らないと今度は零ちゃん達に怒られちゃうよ~?』
そうだよ! 今それを言おうと思ってたんだよ!
『どっからが悪ふざけなのかは後で問い詰めるとしてだ。お袋よ』
『ん~?』
『それを先に言え!! それと、お袋は零達にここに来てる事伝えて来なかったのかよ!?』
俺が家を出る時は零達全員寝ていた。声を掛けようがない。書置き?幽体の状態でンな事出来るわけねーだろ! お袋が一声掛けて出てきたのなら零達は多分、俺が今ここにいる事を知ってるはずだ。頼む! 声を掛けてきたと言ってくれ!
『黙って出てきちゃった☆』
頭を小突くお袋。そんな姿に俺はトキメキは全く感じない。実の! 母親が! 可愛い子ぶったところで! 息子たる俺がドキッとするわけねぇだろ!!
『マジかよ……』
『うん! マジだよ~』
『『……………』』
無言で見つめ合う俺とお袋。見つめ合ったところで何かが変わるわけでも何でもない。
『とりあえず大急ぎで帰るぞ』
『だね。幽体の姿とはいえいなかったら零ちゃん達うるさいもんね』
『言い方! その通りだけど言い方!』
寝ている由香を後目に俺達は壁をすり抜け、大急ぎで家へ向かった。
家へ着いた俺達はその足で部屋へと戻って来た
「ん~、むにゃ……きょう……、それはアタシが……育てたお肉よ……」
戻ってきて一番に零の寝言を聞く事になるとは……
『コイツどんな夢見てんだよ……食い意地張ってるにも程があるだろ』
『これでも零ちゃんはまだマシな方だよ~?他の子なんて……ね?』
ね?って言われても困る。つか、何だ?今の間は。まるで零よりもヤバいみたいな感じだぞ?
『ね?って言われてもなぁ……』
『じゃあ零ちゃん達の夢に入ってみる?』
ついさっきって言っていいのかは知らんけど、俺は由香の夢に入って来たばかりだ。ただでさえ精神的疲労が上り調子なところに零達の夢に入る?冗談じゃない
『止めとく。一人でさえ精神的疲労が尋常じゃないんだ。なのに零達の夢にまで入れるかよ。それより、俺が幽体になった理由や何で夢の中へ入れたのかちゃんと説明してくれっと助かる』
お袋と同じ力を持っていると言われたら原理は分からないまでも納得せざる得ない。というか、多分、納得してしまう。だからこそちゃんとした説明をしてほしい
『あ~、それねぇ~……とりあえず、きょうが何で幽体になったかってところから説明した方がいいよね?』
『ああ。元は跳ね飛ばした奴が悪いけど、こんな事態になったのは確実に俺が幽体になったからだ。お袋には何の責任もないが、俺は自分に何が起こっているか分からないから解説してくれると有難い』
今回、俺が幽体になったのは車に跳ねられたからだ。だからお袋には何の非もない。たが、幽体になれる方法や夢の中へ入れる方法を知っているのは俺の知っている中ではお袋ただ一人。問い詰めるようで気が引けはするものの、ちゃんと説明してもらわなきゃ困るのもまた事実
『だよね~、じゃあ、きょうが幽体になった理由から説明するけど、幽体になったのは簡単で車に跳ねられた時にきょうが心の中で死にたくないと強く思ったから。心当たりある?』
『そりゃ跳ねられたら死にたくないと心で強く思うのは当たり前だろ。そう思わないのは自殺目的で自ら飛び込んだ奴だけだ』
お袋の言うように俺は跳ねられた時、意識を失う前に死にたくないと強く思った。その前にこちらに向かってくる車が方向転換しないかって思ったのが先だったりする。それは幽体になった経緯とは全く関係ないから言わない
『だ、だよね~……でね?零ちゃん達には幽体になるには自分の身体から意識だけを抜き出すイメージをしながら目を閉じてって言ったんだけど、それは自ら幽体になろうとする場合。きょうの場合は跳ねられて病院に運ばれるまでの間で本能的に魂だけはこの世に留まろうとした。それが今のきょうがある理由だよ』
話がホラゲとかマンガにありそうな展開になってるような気配しか感じない。端的に言うと俺は無意識のうちに死にたくないと思った。で、身体はともかく、魂だけになったとしてもこの世に残りたいという本能が働いて現在の状況というわけか……
『何となく今の状態になった理由は理解した。現状については理解したが、何で俺のケガが全治一週間なんだ?俺を轢いた車のスピードがどれくらいなのかは分からない。でも、車に跳ねられたとなれば場合によっては大ケガしてても不思議じゃないだろ?』
某ボッチが主人公のラノベじゃ車に跳ねられて足を骨折。登校した時にはすでにグループが出来上がってたという話だった。つまり、完治には一か月程度掛かってもおかしくない。なのに俺のケガは全治一週間……俺の知識が俄かなのか、それとも、ケガの方が軽かったのかは別として、早すぎるとは思う
『あ、それはお母さんが咄嗟に霊圧で衝撃を押さえたから。結果としてきょうにケガを負わせちゃったから守りきれたとは言い切れないけど』
なるほど、お袋が守ってくれたお陰で全治一週間のケガで済んだわけか。って!サラッととんでもない発言しないでくれませんかねぇ……
『サラッと衝撃の真実を言われたのは置いといてだ。サンキュ、お袋』
『いえいえ~』
とりあえずだ、俺のケガが全治一週間で済んだのはお袋のお陰だってのは分かったし、感謝してもしきれない。後は人の夢に入れたワケと諸々を聞いて終わりだな
『俺のケガと現状についてはもういい。次はどうして人の夢に入れたかを聞こうか』
本音を言うとケガの具合や気が付いたら幽体だった理由なんてのは些細な事で本命は人の夢に入れた理由だ。
『それはねぇ~、夢には様々な諸説があるんだけど、今回の件に当てはめて話すと夢はその人が無意識の内に抱いてる願望だったりするんだよ。由香ちゃんの場合は完全に意識的な願望だけど』
夢がその人の無意識的な願望だという話は聞いた事がある。しかし、それと由香の夢に入り込めたのと何の因果関係があるんだ?
『その話は聞いた事がある。でも、それと由香の夢に入り込めたのと何の関係があるんだ?』
『大ありだよ~、由香ちゃんは中学校時代にきょうに酷い事をした。それは好意の裏返りでした~ってオチだったよね?だけどね、その好意があったからこそ由香ちゃんの夢に入れたんだよ』
お袋が何を言ってるのか分からない。由香が俺に好意を抱いているのと夢の中へ入り込めたのと何の関係がある?そもそも、俺は由香に好かれる事をした覚えなんて全くない
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