高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

スマホがないのは非常に不便だと思う

公開日時: 2021年2月19日(金) 21:30
文字数:5,087

 瀧口と二人だけの虚しいババ抜きにも飽き、気晴らしに俺達は談話室へ行くため、部屋を出た。気晴らしとは名ばかりで本当は現在時刻を確認したかったからだ。それは他の連中も同じだったようで現在、談話室には────


「あ、あはは……みんな考える事は同じなんだね……」

「手元にスマホがなく、部屋には時計がない。唯一時計があるここに集まるのは必然だろ」


 多くの生徒が集まり、ごった返していた。ゲームじゃ館の宿泊客が全員揃ってもイモ洗い状態になる事はなく、ソファーに座ったとしても余るくらいの人数。ゲームとは違い、俺達は教師五人(男一人、女四人)と星野川高校、灰賀女学院合わせて五クラス。ほとんどの生徒が一斉に同じ部屋に集まったらごった返すのなんて火を見るよりも明らかだ。諸注意の時は整列してたから分かんなかったが、整列なしだとこんなにごった返すとは……


「そうだね……それに、さっきの手紙騒ぎも相まってかみんな自分の部屋にいる事に不安を感じているのかもしれない」


 自分の部屋にいる事に不安を感じている。瀧口の言う事もある意味では正しいと思う。だが、一つ分からない事がある


「さっきの手紙騒動って、ここで零が手紙を見つけた時、いたのはお前を含めて数名で残りの奴らはいなかった。そんな連中がドアプレートの手紙はともかく、談話室の手紙の一件を知るわけないと思うんだが?」


 零達以外の連中がどこに行ってたかは知らないし興味もない。ただ、スマホが手元にない以上、いなかった連中が談話室で見つかった手紙の事を知る術はないと俺は思う。


「普通はそうだけど、女の子のネットワークを甘く見ちゃいけないよ。ただでさえドアプレートに張り付けられた手紙で怖がってる子もいるんだ。いい知らせでも悪い知らせでもみんなで共有しようと思うのが当たり前だろ?」

「そんなもんかねぇ……元ネタを知ってる俺は怖くも何ともないんだがなぁ」


 とはいえ、分からない事が多い。『誰か消える』『惨劇の夜をお楽しみください』この二つは元ネタを知らない奴が見れば完全な犯行声明文。帰宅する流れになってもいいはず。そうじゃなくても集まってこれからの対策を教師の方から発表されるはずなのにそれがない。零達の報告を教師の誰かが聞いたとしたら騒ぎ出しても不思議じゃない展開だぞ?


「灰賀君はそうでも他の子達は違うんだよ。僕だって君が側にいなかったら絶対パニックになってた」

「過信しすぎだ。俺だって元ネタ知らなきゃパニックになってたっつーの」

「過信……確かにそうかも知れない。でも、君が同室で救われたのは確かだよ」


 瀧口に褒められると素直に喜べない。元々彼とは世間話をする仲でもなければ一緒に遊ぶ仲でもない。言えるのは俺と瀧口は友達じゃないって事だけだ


「そりゃどうも。それより、ここには星野川と女学院に通う生徒全員が集まってんのかな?」


 星野川高校の一学年の人数なんてたかが知れてる。一クラスあたりざっと計算して十人。それが三クラスだから学年の人数は三十人。灰賀女学院はクラス二つだから合計七十八。二校の生徒合わせて百八人が整列してないんだ、ごった返すのも納得できる


「多分そうじゃないかな?仮に一人か二人いなかったとしてもこれだけの人数が一か所に集まってるんだ。分かりっこないさ」

「た、確かに……んじゃ、俺が部屋に戻るか」


 人で溢れかえってる今、ここにいても無駄だと判断した俺は部屋に戻ろうとした


「待ってくれ」


 戻ろうとしたところで瀧口に呼び止められた


「何だよ?」

「この場にいるのが全員かどうかは分からないけど、手紙の件を話すなら今がちょうどいいんじゃないかな?不安や恐怖を払拭する意味でも話だけはしておいた方がいい」


 えらく真剣な表情の瀧口。彼の言うように生徒達の不安や恐怖心を払拭するためにはこの館がゲームの舞台を参考に作られた事や諸々を全員に伝える機会は今を置いて他にない。だが……


「その話をしてこの場にいる中の何人が素直に信じるってんだよ?信用してないわけじゃねぇけど事が起きてから話しても問題はないんじゃないのか?何か起こるって決まったわけじゃねぇけどよ」


 ゲームのシナリオ通りならこの後事件が起こる。しかし、これは合同スクーリング。事件が起こると決まったわけじゃない


「そうだとしても情報共有は必要だよ。このまま何も分からないだなんて不安過ぎる」

「そう言われてもなぁ……話の最中に教師が乱入してこないとも限らない。お前にした話と同じ話をするとしても何か俺達だけが解かる伝達手段が必要だ。中学校や小学校で流行った手紙回しみたいな教師にバレにくい伝達手段がな」


 仮に手紙回しを採用したとしても部屋に戻ってしまえば渡すのは不可能に近い。薄暗い館内を手紙を回すためだけにうろつこうだなんて輩は俺くらいなものだ。オマケにスマホは教師に預けてしまっている。バレずに生徒だけでやり取りをする手段がないのが現状だ


「そ、そんな事しなくても今ここで話せばいいじゃないか。そうすれば……」

「そうしてもいいが、教師が来た時に知らせる見張り役が一人か二人必要だろ」


 旅行的行事あるある。教師にバレないようにコッソリと何かする。例えば、教師の目を盗んで女子部屋に潜入したり、宿泊施設を抜け出したり。それだってごく少数でやって成功する確率は五分五分。どこかでボロが出たり教師が予想外の行動に出たらおじゃんだ。少数で相応のリスクを伴うというのに大人数でやったらリスクだらけだ。一応、幽体離脱してどこかの部屋に集まる選択肢もなくはない。教師陣に幽霊の見える藍がいる事とここにいる星野川高校、灰賀女学院の生徒全員を俺や瀧口と同じにしなきゃならないという手間が掛かるけどな


「た、確かに……で、でも、他に方法は……」

「なくはない。ただ、これを実行するには一切の質問は許さないし今の話を知っても騒ぎ立てないってのが条件になる。それでもいいなら実行に移す。決めるのは瀧口、お前だ。どうする?」


 恋愛関係においては優柔不断で俺が見る限りじゃ誰とでも分け隔てなく接してきただろう男。それが瀧口祐介。知られたくない過去以外は聞かれた事に何でも答えてきただろう男が一切の質問を許さないという前提でのこの策に乗るか乗らないか。見ものだ


「どうするって……それで少しでもみんなの不安や恐怖が消えるのならやるよ」


 真っ直ぐに俺を見る瀧口の目には迷いの色はなかった。それだけ他者を思いやっているのか自分も恐怖や不安に駆られたからなのかは分からない。俺はやる意志さえ見れればそれで満足だ


「分かった。んじゃ、俺は用意があるから一端部屋に戻るが、それまでの間星野川高校の連中だけでも引き留めておいてくれ」

「いいけど何をするつもりなんだい?」

「手紙回しだよ。スマホがない以上声を出さないでみんなに情報を伝えられるし今なら教師連中もいない。情報伝達手段としては最適だろ」

「それはそうだけど、先生方がここに来たらアウトなんじゃ……」

「だったら生徒の誰かが妙な手紙を見つけて報告に行ったすぐ後にでも俺達は教師に集まるよう言われてたはずだ。普通ならそうするのに俺達と一緒に来た教師陣はそれをしなかった。どういう事だと思う?」


 俺の考えじゃこのスクーリングで起きる事件は全て一種の謎解きゲーム。教師連中の目的は生徒同士の協力とか連携だろう。加えて不測の事態に対応する能力を身に着けさせるとこんなところだ


「生徒の引率で疲れてたとか?ほら、僕達は高校生と言えど先生方の言う事を絶対に聞くって保証はないわけだしさ」


 瀧口の言うように高校生とはいえ俺達が教師の言う事を聞くとは限らない。特に星野川なんて怪しいもんだ。不登校だった奴らはともかく、高校中退者連中にいるヤンチャな奴らはな


「その可能性は否定しねぇ。とにかく話は後だ。ここにいる連中の足止め頼んだぞ」

「任せて!」


 瀧口に生徒達の談話室足止めを任せ俺は足早に部屋へ戻った



 部屋に戻ってきた俺は自分の荷物からノートと筆記用具を取り出し、この館の元ネタ等必要な事を箇条書きで書くとそのページを切り離し、四つ折りにしてポケットへ放り込み、談話室へ戻った



 談話室へ戻ると瀧口が生徒達に詰め寄られていた。中には『今から何が始まるの?』『祐介君! どういう事か説明してくれよ!』と彼を問い詰める者もいる。まるで何かした政治家や芸能人に群がるマスコミだ。そんな連中にも瀧口は『それはこれから説明するから落ち着いて、ね?』と怒りもせずに対応してるんだからそこは素直に凄いと言わざる得ない


「はぁ……」


 薄暗い館で窓すらない部屋に放り込まれた上に犯行声明文とも取れる手紙を見てしまったんだ、事が起きておらずとも精神が不安定になるのは解かる。瀧口を問い詰めるのは見当違いだがな


「あ! 灰賀君!」


 説明すべきか否かを迷っていたところで瀧口に見つかった。彼の顔には安堵の色が浮かび、バッチリと『戻って来てくれてよかった……』と書かれていた


「はいはい、今から説明しますよ。ったく……」


 不満を漏らしながら俺は瀧口の隣に行く。手紙回しのトップバッターを誰にするか考えながら



 瀧口の隣に来た俺に星野川高校・灰賀女学院両校の生徒は訝し気な視線を向ける。その生徒の中には零、闇華、飛鳥、由香の姿もあり、ほんの少しだけ裏切られたような気分だ。


「んじゃまぁ、何だ……この館とお前らが見つけた手紙に関する詳しい内容はこの紙に書いてある。今からそれを瀧口に渡す。で、瀧口は誰でもいいから適当な奴に渡せ。んで、手紙を読んだ奴は次の奴に渡せ。早い話が今からここにいる全員で手紙回しをする。最後の奴は手紙を瀧口に戻すように! 以上!」


 そう言って俺は瀧口の側を離れ、談話室を後に─────


「待ちなさい! 恭!」


 出来なかった。談話室を出ようとしたところを零に呼び止められた


「何だよ?」

「手紙じゃなくてちゃんと口で説明しなさいよ!」

「そうしたいのは山々だが、説明の最中に教師陣の誰かに見つかったら元も子もないだろ。だから手紙にしたんだがそれじゃダメなのか?」

「ダメよ! ちゃんと分かるようにしてくれなきゃ! ね?みんな?」


 零の言葉に他の生徒も口々にそうだ!と賛同の意を示し、俺を睨む。説明しろって百八人を相手に喋ろと?スッゲーめんどくさいんだが……


「全員に説明するのが面倒だから嫌だ。手紙を読め」


 人に説明するのは同居人達で慣れてる。それとこれとは話が別で百人以上に伝わるよう説明となると声を張らなきゃならない。そうなると教師陣の誰かに見つかる恐れがある。俺はリスクリターンを考えられる男。危険を犯すような真似はしない


「だったら、星野川高校を瀧口君が、アタシ達灰賀女学院を恭が担当すればいいじゃない!」


 と零がとんでもない事を言い出した。確かに灰賀女学院の生徒を知らないわけじゃないから俺的には構わない。瀧口が何て言うか分からないがな。


「僕も賛成だ。手紙で伝えるよりよっぽどマシだと思う」


 マジか瀧口……


「お前がそれでいいならそうするか」

「うん」


 俺と瀧口の意見が一致したところで星野川高校・灰賀女学院の生徒はおもむろに立ち上がると俺達を中心に円を組んだ。




「説明は以上。各自部屋に戻るなりここにいるなり好きにしていいぞ」


 説明が終わり、自由にしていいと言ったはずなのに解散する気配を見せない零達をどうしたのか聞こうとしたタイミングでゴーン、ゴーンと振り子時計の金が鳴り、目を向けると時刻は十八時。家にいる時ならそろそろ琴音が飯を作り始めようとしている頃だ。


「お疲れ様、灰賀君」


 俺と同じく説明を終えた瀧口が声を掛けてきた。笑みは浮かべているが、疲れたような顔をしている。彼も俺同様質問攻めにあった事は容易に想像出来た。星野川高校の生徒も灰賀女学院の生徒と同様で解散する気配を見せない


「ああ疲れた。はぁ……これからどうしたものか……」


 事が起こるのは今夜零時。ゲームだとそれまでは何も起きないから安心ではあるが、夕食の事を考えると憂鬱だ


「まぁまぁ、何が起こるかは分からないけど、零時までは安全なんだろ?そんなに気を負う必要はないんじゃないか?」

「そうだけどよ、夕食の事を考えるとちょっとな……」

「た、確かに……」


 俺達は調理場の冷蔵庫の中身を思い出し、苦笑を浮かべた。アレを見た後じゃとても夕食が楽しみだとは言いづらい


「とりあえず食堂に行くか」

「そうだね。しおりには十八時半から夕食って書いてあったし今から行けばちょうどいいと思う」


 各自で時間を確認する手段を奪っておいてよく言う……。と心の内で毒を吐き、俺達は食堂へ向かった

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