幽霊二人が声優二人を起したところで受付へ連絡して夕食。その後はみんなで風呂に入り、後は寝るだけなのだが……
「どうしていつもこうなるんだよ……」
「グレーが黙っていなくなろうとするからだよ」
「茜の言う通りでござる。恭殿は目を離すとすーぐどっか行ってしまわれる故。こうするのが一番でござろうて」
俺達が風呂に行ってる間、旅館の人が布団を敷いといてくれたのはいい。三人分並べて敷かれているのも別に構わない。俺達は川の字で寝ているのだが……どうして俺を真ん中にし、左右を茜と真央が陣取ってるのかが分かんねぇだけで
「どっか行くって……単に飲み物を買いに行ったり、トイレに立ってるだけだろ。人を落ち着きのない子供みたいに言うな」
家での俺はコーラの飲みすぎで夜中にトイレに立ったり、ふと星を見たくなって外へ出たりするが、茜達に黙ってどこかへ行こうとするだなんて事は……ないと思う。多分
「グレー、今日自分がしようとした事よーく思い出して」
「恭殿、今までの事ではなく、今日の事を思い出すでござる。拙者達に黙ってどこかへ行こうとしたであろう?」
「うぐっ……」
今日の事を言われると何も言い返せない。黙っていなくなろうとしたしな
「日頃の行いって大事だよね」
「そうでござるな」
そう言って二人は腕を絡めてくる。勘弁してくれよ……お前達の胸が腕に当たるんだよ
「悪かった。ちょっと魔が差しただけだ」
「グレーはそうかもしれないけど、私達は不安だったんだよ?」
「そうでござるよ。恭殿は周りから人がいなくなる事に対してどう思っているか分からぬでござるが、拙者達は不安なのでござる……」
不安そうな顔で俺を見つめる真央。反対を見て見ると茜も同じ顔をしていた。周りから人がいなくなるか……人に依存した事がない俺には周りから人がいなくなる事を不安に感じない。いる時はいるし、いなくなる時はいなくなる。二人の気持ちを理解できない。だが、俺のせいで二人を不安にさせてしまったのなら責任を取らなければいけないのも事実
「ったく、これだから依存体質の奴は……」
「「だって……」」
「だってじゃねぇよ。一度掴んだモンは是が非でも離すな。依存したきゃ好きなだけ依存しろ。ただし、依存したら途中で逃げんじゃねぇぞ? ソイツがどんなに醜く変わろうが、どんな困難に巻き込まれていようが絶対に見捨てんな。これらの事と定期的に癒してくれれば俺は黙っていなくなったりしねぇよ。時と場合によるけどな」
依存体質なのに途中で依存した相手を見捨てる奴は最低だ。個人的な意見で申し訳ないが、俺はそう思う。だってそうだろ、寄生するだけ寄生して用がなくなったらポイ。だったら最初から依存なんてすんなって話だ
「見捨てないよ……グレーが私達を見捨てなかったように私達もグレーを見捨てない」
「恭殿がそうしてくれたように拙者達が全力で守るでござる。醜く変わってしまったのなら全力で元へ戻すでごさるよ」
「そうかい。そうならない事を願うが、万が一の時は頼む」
「任せて!」
「承った!」
俺達は互いの決意を言い合い、目を閉じた
翌朝────
「学校……は欠席して自主学習で社会見学でもすっか……」
珍しく自分で目覚めた俺は左右で寝ている茜と真央に目をやると彼女達はまだ寝ているようで規則正しい寝息が聞こえる。二人の寝顔を見てってわけじゃねぇけど、学校に行く気はしない。文化祭の準備などリア充共で勝手にやってろって話だ。俺は俺で自由に過ごそうと思うのだが、平日の真っ昼間からゲーセンに行くと補導される恐れがある。かと言ってこの部屋に一人残るのは声優二人がさせないだろう。残る選択肢はただ一つ。許してもらえるかは分からんが、彼女達について行く事
「どっちについて行くかな……」
茜と真央について行くのはいいが、問題はどちらについて行くかだ。アニメは一作品だけじゃない。一シーズンに複数のアニメが放送される。放送されるアニメに比例して収録も増え、作品によってはラジオもある。何が言いたいのかと言うとだ、昨日みたいに茜と真央が都合よく共演してるアニメばかりじゃねぇから絶対にどちらかとは離れ離れにならなきゃならねぇ。そうなった時、俺がどっちに付くかが問題になってくる
「グレー……」
「きょうどの……」
「面倒な事になる予感しかしねぇ……」
寝言で俺の名を呼ぶ二人を見ていると面倒な事になる気しかしない。どちらかの収録について行くと言ったらどちらかがヘソを曲げそうだ
『まだ二人のスケジュール聞いてないでしょ~?』
『どっちかがオフだったら問題ないでしょうに……』
「そりゃそうだけどよ……」
早織達の言う通りだが、人気声優が都合よく一日オフだなんて事があろうハズがない
「今日は一日オフなんだな~これが」
「拙者は昼からアニメの収録、夕方からラジオの収録があるでござる」
「いつから起きてたんだよ……」
「最初からだよ」
「茜に同じく」
起きてたなら声掛けろよな。てっきり起きてないものかとばかり思っていたぞ
「だったら声くらい掛けろよ」
「グレーを私達だけで独り占めしてるんだよ? 寝顔も堪能してもらわなきゃ」
「人気声優二人の寝顔なんてそう見れるものではない故。恭殿には存分に拙者達の寝顔をみてほしかったのでござるよ」
「そういう事」
「あのなぁ……」
普通は人に寝顔を見られるの恥ずかしがるんだが……この二人は零達同様、普通じゃなかったわ
「それより、今日私は一日オフだよ。グレー」
「拙者は昼からアニメの収録が一本、夕方からラジオの収録が一本あるでござる。この意味理解できるでござるな?」
二人の言いたい事はなんとなく分る。茜と二人で真央の仕事を見学しろって事だ
「俺と茜で真央の仕事を見学しに行けばいいんだろ?」
「正解でござる」
「さすがグレー」
「言われんでもそれくらい分かる」
茜との付き合いはネトゲを入れればかなり長い。真央とはまだ二か月程度だが、言いたい事が分からん仲じゃない。加えて一日オフの茜と仕事がある真央、この場に三人しかいない事を考えると自ずと答えは出てくるというものだ。言われんでも分かる
「なら決まりだね」
「拙者の仕事ぶりしかとご覧あれ」
「はいはい。二人に従いますよ」
俺達はこの後少しだけ布団でゆったりし、着替えを済ませて風呂場へ向かった
旅館の風物詩を一通り済ませ、部屋に戻り────
「何でだよ……」
俺は昨日と同じく左右を声優二人に陣取られていた
「いいじゃん。グレーに甘えられる機会なんてそうないんだから」
「そうでござる。いつもは零殿達がいる故、拙者達が恭殿を独占できる機会などそうはござらん。こういう時くらいよかろう」
「あのなぁ……」
彼女達の言う通りだが何だかなぁ……二人がいいならいいんだけどよ……零達で思い出したが、部屋を出る前、スマホを確認すると電話、メッセージ共に着信が99件を超え、カンストしていた。アイツらが複数回に渡って連絡を寄越してきたんだ、10件を超えていても不思議じゃないが、カンストは引く。メッセージなんて酷いもので最初は確認の連絡だったが、最終的には俺の名前と返事しろのみがズラっと並ぶだけの怪文書。ちょっとしたホラーだった
「グレーは私達に甘えられるの……いや……?」
「恭殿は拙者達が嫌いなのでござるか?」
人気声優が上目遣いで自分を見つめてくる。こんな機会は滅多になく、声豚なら泣いて喜ぶところなんんだろうけど、声優に特別興味のない俺としては何とも思わん。人気声優なんてものは所詮肩書。知らん奴からすると彼女達はその辺歩いてる姉ちゃんと大差ない。っつってもこの状況はなぁ……はぁ……
「嫌いじゃねぇよ。嫌いだったらくっつかれた時点で無理矢理にでも引き剥がしてるっつーの」
「「本当?」」
「本当だ」
「「よかった……」」
安心した表情の二人にホッと胸を撫で下ろす。俺はやっぱ親父の息子で爺さんの孫だ。女に甘いところなんかあの二人そっくりじゃねぇか……このままでいいのか?
「ったく……爺さんと親父の悪いとこだけを受け継いじまった……」
我ながら女性に甘い……小、中と女に縁がなかったから気にした事すらなかったが、今になって思う。女に甘すぎると。この調子で俺の将来大丈夫なのかと不安になる。女でも非道な奴はいる。ソイツと対峙した時、俺は厳しく接する事ができるのか?
『悪いところじゃないよ~』
『そうよ。女性────いや、人に優しくできるのは素晴らしい事なんだから誇りを持ちなさい』
「お二人の言う通りでござる。皆恭殿が優しいから慕ってくれるのでござるから誇りを持っていいんでござるよ」
「そうだよ、グレー。私達はグレーの優しいところを好きになったんだから」
「俺は優しくなんかないんだがなぁ……」
女性陣は俺が優しいと言ってくれるが、自分じゃよく分からん。彼女達や零達に優しくした覚えなどないからな。俺って優しいのか?
「そんな事ないでござる。脅威が迫っていると聞いたら相手が困っていると知っても逃げ出すのが普通の人間でござる。しかし、恭殿は違った。初対面の拙者を助けてくれたではないか」
「私の時もそう。自分も狙われるかもしれないのに助けてくれた。グレーは優しいよ」
優しいねぇ……二人を助けたのは別に優しさじゃなくて自分がそうしたいと思った故の行動なんだがなぁ……言い方を変えると自分に降り掛かりそうな火の粉を払ったとも言う
「俺は自分がやりたい事をやった上で降り掛かりそうな火の粉を払っただけだ」
「その結果が私達との同棲?」
「恭殿ってもしかして無類の女好きなのでござるか?」
「ちげーよ。ただ、目の前で泣いてる奴や困ってる奴を見捨てると飯がマズくなったり目覚めが悪いからそうしただけだ。たまたま騒動に巻き込まれてた奴が女だった。ただそれだけだ」
本当に勘弁してほしいよな……巻き込まれた騒動の渦中にいる奴が高確率で女なんだぜ? 凛空君くらいだろ。困ってた奴で男だったの。後は操原さんか。どうして俺が出会う困ってる人間の割合は女の方が多いのやら
「やっぱりグレーは優しいよ……」
「恭殿はこれからもそうしていろんな人を助けていくのでござろうな……」
「俺としては是非とも遠慮したいんだがなぁ……」
俺は目を細める茜と真央の頭を撫でた。これからも騒動に巻き込まれるのかと思うと頭が痛い。マジでお先真っ暗だ
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました
読み終わったら、ポイントを付けましょう!