女性陣をどうにか説得して両手両足の拘束を解いてもらい、晴れて自由に動けるようになった俺、灰賀恭は現在……
「監禁されるって素晴らしい……」
監禁生活を謳歌していた。皆さんは理想の生活について考えた事があるだろうか? そもそもの話、理想の生活ってなんだ? 金持ちになって大豪邸で暮らす? 確かに理想の生活だ。一生遊んで暮らせるんだから。それとも、複数の異性に囲まれてハーレム生活? これも理想の生活だろうな。自分をチヤホヤしてくれんだから。俺の場合は……見た方が早いだろう
「お義兄ちゃん、手足を自由にしたけど、逃げようだなんて考えないでよね」
「義兄さん、逃げたらどうなるか……ワカッテマスヨネ?」
「恭殿は逃げないでござるよね?」
「グレーは私達の事大好きだから逃げるわけないよね?」
右側を零と闇華の義妹コンビに、左側を真央と茜の声優コンビに陣取られ……
「恭ちゃんに監禁される趣味があるってもっと早く知っておけばよかった」
「そうですね。そうしたら恭をあたし達だけのモノにできたのに……」
藍と由香を膝枕していた。琴音と飛鳥はキッチンで料理中、センター長と神矢想子、蒼と碧の双子はそれぞれ仕事と学校で不在。ちなみに今日は平日なのだが、センター長の余計な気遣いにより、藍、由香、飛鳥の同じ学校組は特別に休む事を許可され、零と闇華の灰賀女学院組は婆さんの一声で自主欠席。茜と真央の声優コンビは俺ら同行で出勤の許可が下りたのだが、今日は一日中オフ。偶然に偶然が重なり、揃って家にいる
「あのなぁ……」
監禁されるのは素晴らしい。一日中ゴロゴロしてても文句は言われねぇし、働かなくてもいい。ぐうたらダメ人間にとってこれほど素晴らしい生活はない。まさに理想の生活だ。楽して稼ぎたいというわけじゃねぇけど、俺は夏は暑いから外に出たくない、冬は寒いから外に出たくない人間なんだ。しかしだ、俺に監禁されたい願望はなく、その手の趣味もない。いつもなら藍と由香の妄言に溜息の一つでも漏らすのだが、これは反論できない
「だってそうでしょ? 怠いめんどいが口癖なんだから監禁される趣味があると言っても過言じゃないでしょ?」
「そうだよ。恭はいつもダラダラしたいとか、働きたくないって言ってるじゃん」
怠いめんどいは口癖のように言ってるが、ダラダラしたいとか働きたくないとは言ってない。額に汗して働くのは素晴らしいと思って……いる
「オマケにお義兄ちゃんはずっとアタシ達と一緒にいたいって言ってるわよね?」
「できる事なら私達を全員俺のものにしたいとも言ってますよね?」
零と闇華は何を言っているんだ? 俺は一言もンな事言ってねぇよ。妄言も大概にしとけ
「そんな事一言も言ってねぇんだが……まぁいいか」
ヤンデレの妄想に付き合ってたら身体がいくつあっても足りん。俺は否定する事を止め、大人しく彼女達の言いなりになるしかないのだ。それより、琴音と飛鳥は何を作っているんだろうか……本人達曰く、できてからのお楽しみらしいが……不安だ。果てしなく不安だ。そういや早織達の姿も見えないが……こちらも気にしたら不安になるから気にしないでおこう
「恭ちゃん……私達から離れないでね?」
「あたし達は恭がいなくなったら生きていけないよ……」
そう言って俺に抱き着く藍と由香。昨日は泣くわ怒るわ、説教されるわで大変だったなぁ……オマケにセンター長と神矢想子にまで藍達と同じ目で睨まれ、蒼と碧からはゴミを見るような目で見られ……思い出したら悲しくなってきた……
「監禁されてんだから離れようにも離れられねぇだろうに……」
家の中……というか、部屋の中か。とにかくだ、自由に動き回れる監禁なんて聞いた事がない。自由になったからと言って逃げようとは思わない。引き籠り体質の俺だぞ? 自分から外に出るわけねぇじゃん
「それでもだよ。恭クン。キミは逃げない、ずっと側にいるって言いながら勝手にいなくなる事が多いからね。みんな不安なんだよ」
「そうそう。言ってる事とやってる事が矛盾していれば誰だって言いたくなるよ」
琴音と飛鳥がキッチンから戻ってきたのだが、手には何も持ってない。料理してたんじゃねぇのかよ
「正論なだけに反論できねぇ……」
二人の言う事は正論だ。ぐうの音も出ねぇ……・
「当たり前でしょ。反論させないようにしてるんだから」
「恭クンにはいい薬だよ」
「マジごめん」
いつの世も男は女に叶わねぇなぁと思いながら俺は久々の安息を可愛く見えて仕方ない零達と過ごした
零達の成すがままになってしばらく。俺はふと学校の事を思い出した。本当は自由になってすぐ思い出すべきだったんだろうが、人間めんどくさい事って極力思い出したくないだろ? 忘れていた俺が悪いんじゃない。面倒な学校祭準備が悪い
「そういや、俺のクラスでやるリサイクルショップの商品ってどうなっているんだ?」
相も変わらず零と闇華に右側を、真央と茜に左側を陣取られ、藍と由香を膝枕している状態だ。途中、体勢を変えたりはしたけどな。それはそれとして、めんどくさがり屋な俺でも文化祭の準備を忘れる程ボケてはいない
「恭二郎さんが出品する物を車で運んでくれたし、場所の飾りつけもある程度終わってるよ」
「そうか……つか、最初から手の空いた先生が車出してくれればよかったんじゃ……」
「恭ちゃん、先生方の中で手の空いてる人なんてスクールカウンセラーしかいないよ」
「マジかよ……」
「マジだよ」
俺は藍を撫でながら項垂れる。職員室に行くと誰かしらいるから教師は暇だとばかり思ってたんだが……案外暇じゃねぇのな。ちょっと反省……
「どの道俺はサボる運命だったのか……」
星野川高校に在中してるスクールカウンセラーは俺の祖父母と同じくらいの年回りの婆さん。彼女という人間を信用してないわけじゃないが、車の運転は話が別だ。元気な高齢者もいるから一概に決めつけられはしないが、身体が衰えてるだろう年代の人間に軽々しく車を運転しろって頼めるかと聞かれれば答えは否だ。同乗者にも本人にも多少の危険が伴う。俺限定で言えば……霊圧があるし、早織達だっている。普通の人間よりかは危険じゃねぇと思うけど、頼みづらさはある
「恭、サボるなとは言わないけど、今度からあたし達に一言声掛けてからサボってね?」
「義兄さんがサボるなら私もお付き合いします」
「アタシもよ」
「私ももちろん付き合うよ。恭クン」
普通はサボるなと怒るところだぞ? 由香はブラコン気味のヤンデレ、闇華は純粋なヤンデレ、零はツンデレと見せかけたヤンデレ、飛鳥は男装女子系のヤンデレ。コイツらに何を俺を否定しろと言ったところで無駄だ。どうしてヤンデレになっちまったかねぇ……特に由香。お前は親からの愛情が枯渇してたわけでも教師や同級生からシカトされてたわけじゃないのに……考えるだけ時間の無駄だけどよ
「そこはサボるなと俺を叱るべきなんだがなぁ……」
叱ってほしいって願望はない。ただ、こう……何て言うか、クラスの輪を乱そうとする奴は誰かがそれを正さなきゃならねぇっつーの? うまく言えねぇけどそんな感じだ。俺は叱られて当然の事をしてるんだが、由香達は叱るどころか一緒にサボると言い出した。この女共の神経はどうなっているのやら
「グレーと一緒なら文化祭準備の一つや二つサボってもいいと思ったみたいだから仕方ないんじゃないかな? 私も同じだしさ」
「うむ。拙者達は恭殿とだったらサボるのも悪くないと思っている故、仕方ないでござる」
「私も文化祭の準備と恭くんだったら恭くんを取る。仕方ないよ」
「教師としては注意するところなんだけど、私も同じ気持ちだよ」
学生組にサボりを肯定され、成人組に同じ立場だったら自分もサボると言われる始末。世の中って不思議だよな。ダメ人間の俺といるよりクラスメイトと文化祭準備してりゃいいものを……理解できん
「大人しくリア充のイベントに参加してりゃいいものを……変な奴らだな」
俺は呆れ気味に溜息を吐く。リア充にとってクラス一丸となって取り組む物事ほど都合のいいものはない。片思いの異性がいればアピールするチャンスになるし、特にいない人にとっては自分をよく見せる格好の見せ場となる。一方で俺みたいな陰キャというか、クラスで大した交流のない人間にとっては合法的にサボれるいい機会だ。授業がないから成績に響かないし、サボったところで気にする奴など一人もいない。だというのに俺の周囲にいる女共は揃いも揃ってサボりを推奨するとは……変な連中だ
「あたし達にとって文化祭の準備や仕事なんかよりも恭が大事なんだよ」
「さいですか……」
妙な女共にかこまれちまったなぁ……俺自身が監禁生活をパラダイスと思う変人だから仕方ねぇか
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