高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

今日の俺は寝てばかりのようだ

公開日時: 2021年2月5日(金) 23:29
更新日時: 2021年3月18日(木) 23:33
文字数:4,222

「きょ、恭様! バスとトラックの手配って……この学校に通う児童の家族全員を引き取る気ですか!?」


 丸谷が俺を咎めるように問い詰めてきた。引き取るって言ったら何だと言うんだ? 俺が住んでるのはデパートの空き店舗だ。部屋数が多すぎな上に広いというある種の問題を抱えていた。加えて一人暮らしをして何もないのは当たり前だとしても簡単に郵送を頼める場所でもない。と、なると……


「当たり前だ。家は部屋数が多い上に広すぎる。さらに言うと住んで場所は普通のマンションやアパートじゃない。部屋数が多く広いに越した事はないがそれを考慮しても諸々が不便過ぎる。万が一を考えて人手は多い方がいいだろ?」


 現在家に住んでる連中が風邪を引いたとかはない。現状そうだってだけで人間どっかで風邪は引く。それだけじゃなく、爺さんの知らないところで必要な物があったとして、それを車で運ぶとなると運転手が必要になる。


「そ、それはそうですが……運転手が必要でしたら連絡さえ頂ければ我々が────」

「確かに丸谷の言う通り爺さんに連絡したら運転手の一人や二人貸してはくれるだろう。だが、緊急の用事で呼んだ時にお前達はすぐ来てくれるのか?」

「そ、それは……」


 丸谷が言うように爺さんに電話一本掛ければ運転手の一人や二人すぐに貸してくれる。貸してくれるのは有難いが、家に来るまでにどれだけ時間掛かる? 緊急時じゃない時だったら来るまでに時間が掛かってもいいだろう。緊急だったら? 待っている間に状況が悪化したら洒落にならない


「だろ? 丸谷でも津田でも瀬川でもすぐに来てくれるって保証はどこにもない。今言ったのは運転手に限定したが、万が一って事も考えて加賀夫妻含めて人手は大いに越した事はない。これでも納得いかないか? 丸谷」

「い、いえ、恭様の仰る通りでございます……」

「分かってもらって何よりだ。じゃあ……」

「すぐにバスとトラックの手配を致します」

「助かる。ついでに爺さんへの報告も頼んだ」

「承知いたしました」


 丸谷はスマホを取り出しどこかへ電話を掛け始めた。丸谷を説得した次は加賀夫妻の番だ


「さて、丸谷がバスとトラックの手配をしている間に加賀夫妻。アンタ等にも働いてもらうぞ」


 丸谷から加賀夫妻へと視線を移した俺はバスとトラックを待つ間に次のステップへ


「俺らに何させる気だ? クソガキ?」

「りゅ、竜二! 止めなって!」


 警戒心全開で俺を睨む夫・竜二とそれを止める妻・阿由菜。これじゃ俺が大魔王みたいじゃないか


「何って娘達と他の児童達、その親を説得して来てくれ。そうだな……津田を同行させる」


 津田の方へ視線をやると笑顔で頷いてくれた。後は加賀夫妻をどうやって説得するかだ


「はぁ!? 同行者が来たってそんなの行くわけね────────」


 ぐぅぅぅぅ~


 竜二の言葉を遮り、社内に響き渡る腹の音。一瞬だが空気が凍った


「今腹の虫ならしたのは誰だ?」


 空気が凍る中、俺は勝利を確信し、誰が腹の虫を鳴らしたかを尋ねる


「「「「「…………」」」」」


 だが、誰一人として目を合わせようとはしない。不可抗力とはいえ腹が鳴った事って恥ずかしいってのはよく理解出来るぞ


「何で誰も目を合わせようとしないのかはいい。丸谷達は会社か家に帰ったら飯を腹いっぱい食え。加賀夫妻はそうもいかないだろ?娘二人いて自分達が満足に飯を食えてるのか?」


 この際誰の腹が鳴ったかは問題じゃない。俺は琴音が飯を作ってくれているから言うまでもない。丸谷達は爺さんの部下という事でそれなりに収入はある。問題なのは加賀夫妻だ。小学生の娘が二人もいて満足に飯を食えてるわけがない


「お、俺達は……その……なぁ? 阿由菜?」

「え?あ、うん、そうだね、竜二!」


 はい、加賀夫妻はちゃんと飯を食ってない事確定


「言い淀むって事はちゃんと飯食ってないって捉えるぞ?」

「「……………」」

「事実かよ……」


 さっき鳴った腹の虫が加賀夫妻のものか丸谷達のものかはどうでもいいとして、コイツ等がまともに飯を食ってないのはこれ以上ないってくらい理解した


「恭様、加賀ご夫妻がこの様子では娘さん達のお迎えは困難なのでは……」

「津田……そうは言うが、二人の娘も他の児童もいきなり見ず知らずの津田に声を掛けられたら不審がるだろ」

「ですが……」

「家に着いたら全員に軽食でも食わせる」


 高校生たる俺の財布じゃ加賀夫妻の飯代くらいは賄えるが、加賀一家の飯代を賄える余裕はない。それが学校一つ分ともなると俺の財布はあっという間に吹っ飛ぶ


「わかりました。して、加賀ご夫妻は如何様に?」

「あー、とりあえず腹空かしてると思うけど家までの辛抱って事で何とか説得して娘達と児童達を連れて来てくれると助かる」

「畏まりました」

「悪い、ちょっと疲れたみたいだ。俺は寝るけど、家に着いたら津田達の誰かが起こしてくれ。起きなかったらとりあえず部屋まで運んでくれ。ついでに琴音を始めとする管理人達に経緯と事情を話してくれるとスッゲー助かる」

「承知いたしました」

「んじゃ、頼むわ」


 津田が加賀夫妻の説得を開始したのを見守ったところで限界を迎えた俺はここまでの道中で寝たにも関わらず再び深い眠りに就いた。今日は丸谷達と加賀のせいで相当疲れたようだ




 アレから何時間経っただろう? 今日に限って人任せにする事が多い……本当なら何もかも俺がすべき事なのに……それは置いといてだ。そろそろ起きないとな……


「んぁ……今何時だ……?」


 気が付くと俺はいつもの住まいにいた。俺が寝ている間に津田達は全部やってくれたようだ。にしても……


「何で俺は縛られてるかな?」


 目覚めると見慣れた光景がそこにあったのはいい。俺の縛られる意味が分からない


「恭ちゃん、目が覚めた?」


 右隣から聞こえるのは我が担任の声


「おはよう、恭クン」


 左隣から聞こえるのは飛鳥の声。嫌な予感しかしない


「あ、ああ、おはよう。二人共。ところで何で俺は縛られてるんだ?」

「「何でだと思う?」」


 俺が縛られてる理由なんて一つしかない。それは……


「思い当たる理由は俺がトイレって嘘吐いて学校を抜け出したからって事しか思い浮かばない」


 誰が寝てる俺を縛ったかなんて探ろうとは思わない。飛鳥と東城先生が俺を縛ったか丸谷達が俺を縛ったかの違いはある。俺にとってそんな事は取るに足らない事だ。縛られてるし


「当たりだよ。恭クン」

「恭ちゃんがいなくなった後私達がどれだけ苦労したか知ってる?」

「そ、それは……済まなかった」


 彼女達は怒っていると本能で感じた俺は素直に謝る。嘘吐いて逃げたのは事実だ。言い訳のしようがない


「うん。でも、私達が怒ってるのはそこじゃないんだよ。恭ちゃん。謝らないといけない事、もう一つあるよね?」

「藍さんの言う通りだよ。恭クン。トイレって嘘吐いて逃げた事もそうだけど、黙っていなくなるのって良くないよね?」


 今頃になって思い出した。飛鳥や東城先生、零や闇華、琴音は俺が黙っていなくなるのを極端に嫌うんだった


「そうだな。本当に悪かった。それで、強盗の事なんだけどよ……」


 飛鳥と東城先生は学校に丸谷達扮する武装集団と強盗(加賀)が襲撃してきた事を知ってる唯一の人間だ。結末をちゃんと話さないといけない


「知ってるよ。恭ちゃん。加賀さん一家含めて貧乏生活を送っている人達を全員引き取ったって丸谷さん達から聞いてる」

「そうか……じゃ、じゃあ、俺の現状とかも……」

「それも知ってるよ。恭クン。丸谷さん達が声高らかに説明してたから」


 ちょっと? 丸谷さん達口軽すぎない? 爺さんに告げ口してプロジェクト関係の仕事が回ってこないように言っちゃうよ? イベント関係の司会とかにしちゃうよ?


「それならいい。色々と気にはなるが、今何時だ?」


 目が覚めた時にはいつもの部屋で隣に飛鳥と東城先生。東城先生がいるって事はとうの昔に十七時は過ぎている。じゃなかったら東城先生はここにいない


「今は十九時だよ。恭ちゃん」


 バスに乗ってた時にはまだ日が出ていた。つまり、俺はバスの中で眠ってからかなりの時間が経過したらしい


「マジか……ところで俺の縄は話が終わってから解いてもらうとして、零達はどうした?」


 十九時なら零達が帰ってきている。だというのに静か過ぎる


「零ちゃん達なら恭クンが拾ってきた家族の子供達と一緒に遊んでるよ。弟と妹が出来たって大はしゃぎでね」


 弟と妹が出来た。零達からするとそう思っても不思議じゃない。何しろ家にいる年下は碧ろ蒼だけ。アイツ等でも弟と妹だと言って差し支えはない。それを全く感じさせないからそう思えと言われても無理があるけどな


「今回拾ってきたのは小学生だから零達がそう感じても何ら不思議じゃない。ところで俺の縄をそろそろ解いてほしいんだけど?謝る事は謝っただろ?」


 するべき謝罪はした。俺が縛られている理由はもうない


「恭ちゃん、謝る事は謝ったけど、私達は恭ちゃんがいなくなった後ものすごく苦労したんだよ?それに対してご褒美とかないの?」

「そうだよ恭クン。丸谷さん達と加賀さんの説明をした私達にご褒美くらいくれたっていいんじゃないの?」


 丸投げしたつもりはないが、結果として俺は飛鳥達に丸谷達と加賀の事を押し付けた。飛鳥達の要求通りご褒美をあげても罰は当たらない


「ご褒美って言われても俺にやれるものって何もねーぞ?」

「「添い寝で勘弁してあげる!」」


 飛鳥と東城先生なら俺の貞操を寄越せくらい言ってもおかしくないのだが、今日に限って要求がソフトだ。変なモンでも拾い食いしたか?


「ま、まぁ、それくらいなら別に構わないけどよ……何か変だぞ? 二人共」


 闇華にも当てはまる事ではあるが、飛鳥も東城先生も時々野獣みたいになる。それが今日に限ってない。どうなってんだ?


「別に変じゃないよ。私も飛鳥も恭ちゃんも明日は長距離歩くから今夜は激しい運動出来ないってだけで」

「そうだよ。恭クン。明日は強歩鍛錬だから激しい運動はしたくないの」


 え? 強歩鍛錬って何? 俺初耳なんだけど?


「え? そうなの?」

「「うん、そうだよ」」


 どうやら明日は強歩鍛錬があるようなのですが、何でだろう?今から行きたくない


「マジ? え? それって休むとか出来ない?」


 具体的に歩く距離は知らない。ただ俺はその行事を休みたい


「休むのはいい。その代わり休んだら恭ちゃんは体育の単位を大幅に落とす事になるけどいいの?」


 どうやら強歩鍛錬とやらを休むと体育の単位に大きく影響を及ぼすようです。知りたくなかった……そんな事実……


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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