右側に飛鳥、左側に茜。何だこれ?
「貴女、恭クンの何なの?」
「そういう貴女こそグレーの何?」
俺を挟み、二人の女性が冷戦を繰り広げている。そんな状況に俺は溜息すら出ない
「私は恭クンの同居人だけど文句ある?」
「それなら私はグレーのゲーム仲間だよ。文句あるのかにゃ?」
飛鳥と茜。この二人の関係を一言で言うなら水と油。ただ、二人の言っている事は間違ってなく、飛鳥が同居人だってのも茜がゲーム仲間だというのも事実だからこそ質が悪い
「二人共初対面でいきなり喧嘩すんなよ……。つか、眠いから寝かせてほしいんだけど……」
事の経緯を簡単に説明すると離れたくないと言った茜に俺の部屋へ来るかと提案したところ、二つ返事でOK。しかし、彼女がパソコンを持って行きたいと言い出し、必要な物を準備するからという事で俺はしばし待たされる羽目になった。で、彼女の準備が終わり、部屋を出て俺の部屋へ。そこで待ち構えていた飛鳥と目が合うなり互いに睨み合ったと思ったら飛鳥が俺の右頬にキス。それを見た茜が左頬にキス。結果火花が散り、中へ入るといきなり飛鳥が……というわけだ
「恭クン黙って」
「そうだよ、グレーは黙ってて」
俺が口を挟むと左右から氷のように冷たい視線が飛んできた。喧嘩していてもこういうところでは意見が一致するらしい
「ご、ごめんなさい……」
そんな二人の迫力に押され、俺は思わず押し黙る。女性が本気でキレたらヤバいという事はこれまでに何度か体験しているから今更ではあるけど怖いものは怖い
「それで?その同居人の貴女がどうしてグレーの頬にキスしたのかにゃ?」
「そういう貴女こそ単なるゲーム仲間なのに何でキスしたの?」
茜と飛鳥が喧嘩している理由は多分、俺だ。彼女達の共通点は寂しがり屋という部分で茜はheight時に、飛鳥は昨日の一件でその頭角を現している。そんな似た者同士の二人が鉢合わせるとこうなって当然
「貴女に言う必要はないでしょ」
「にゃはは、じゃあ私も答えないよ」
彼女達は互いに睨み合う。もちろん、俺を挟んで。その当事者である俺はというと眠気がピークに差し掛かり、今にもぶっ倒れそうなところをギリギリのところで踏みとどまっている状態だ
「ヤバい……そろそろ本気で眠い……」
変な時間に起きたせいか今になって急激な睡魔に襲われる。ヤバい事態じゃないから別に飛鳥と茜を強引に引きはがす必要などなく、自然と喧嘩が収まるのを待てばいい。何もない状態ならそうしたんだけど……
「貴女、質問には答えろって教わらなかったの?」
「にゃはは~、それは貴女もでしょ?」
彼女達の不毛な争いを聞いているとイライラしてくる。どうやら本格的に眠気が襲ってきたようで思わず俺は─────────
「いい加減にしろ!! 喧嘩するなら外でやれ!!」
二人を怒鳴りつけてしまった
「きょ、恭クン……?」
「ぐ、グレー……?」
まさか怒鳴られるとは思ってなかった飛鳥と茜は驚愕の表情を浮かべこちらを見つめてくる。しかし、一度ヒートアップしたら簡単には止まらない
「二人共離せ。俺は寝る」
俺は二人の間から強引に抜け出すとそのままベッドへ倒れこみ、そのまま意識を手放した
「やっちまった……」
目を覚まし、最初に襲ってきたのは飛鳥と茜を怒鳴りつけてしまった事に対しての罪悪感。いくらなんでも別のやり方があったのでは?と後悔するも全ては後の祭り。後悔したところで何の意味もなく、俺は天を仰ごうと腕を……上げられなかった
「きょうクン……」
「グレー……」
左右から聞き慣れた声がし、そちらを見て見ると右側で飛鳥が、左側で茜がそれぞれ目元に薄っすらと涙を浮かべながら寝ていた
「腕が上がらないわけだ」
飛鳥と茜が俺の腕を枕にして寝ている。これじゃあ腕が上がらないのも当然の事だ
「泣くぐらいなら最初から喧嘩なんてすんなよな……」
俺が意識を手放した後、彼女達がどうしたのかは分からない。一つ言えるのは俺の両隣で寝ているという事は仲直りしたか、一時休戦したかのどちらか
「二人共寝てりゃ可愛いんだよなぁ……」
茜は言わずもがな、飛鳥も普通の平均女子よりかは可愛い。俺からするとそれは寝ていたりと意識のない時か幼児化した時。茜は知り合ってまだ間もないから何とも言えないけど、飛鳥の方は寝てれば可愛いけど、起きてたら時々めんどくさいといった感じだ
「はぁ、今何時だよ……」
起き上がれない以上、時間を確認する事が出来ず、今が何時なのか分からない。一つ言えるのはカーテンが閉まったままとはいえ陽の光が差し込んできている事から普通の人間なら活動している時間になっているという事だ。それはそれとして……
「腕の感覚がねぇ……」
飛鳥と茜の頭が長時間乗っていたのだろうか、腕が痺れ、感覚がなくなり、自分の腕があるのかどうかや彼女達の頭が乗っている事は目視では確認できたものの、体感として本当に乗っているのか分からないところまできている
「とりあえず退かすか」
彼女達を起こさないようにそっと腕を引き抜くと意外にもアッサリと抜け、その代わり─────
「腕枕がなくなったからってしがみ付かないでくれませんかねぇ……」
しがみ付かれた。忍者か、お前ら……
「どの道動けない運命にあるのかよ……」
俺にしがみ付き、幸せそうな顔で寝息を立てる彼女達を無理矢理起こしても構わないのだが、それはそれで良心が痛み、しばらくはそのままにしておく事に
「今朝より酷くなってねぇか?」
今朝は飛鳥が隣で寝ていた事はあってもしがみ付いたりはしてなかったから制約はあったものの、身体は自由に動かせた。それに比べて今はというと完全に身体の自由を奪われ、彼女達が起きるのをジッと待つしかない
『それは仕方ないよ、きょう』
『仕方ないよ、灰賀君』
これからこのままの状態でどうやって暇を潰そうかと考えていたところにお袋と紗李さんがどこか納得している感じで口を揃え、仕方ないと言ってくるも俺には何が仕方ないのか理解出来ない
「何が仕方ないんだよ?」
『きょうは二人を怒鳴りつけた後すぐに寝ちゃったから解からないと思うけど、二人共泣いてたんだよ?きょうを怒らせた~って』
『早織さんの言う通り! 自分達が喧嘩なんかしたから灰賀君が怒った、嫌われたんじゃないかってずっと泣いてたよ!』
確かに俺は寝る前に二人を怒鳴りつけた。それは眠気から来るイライラのせいであって彼女達が嫌いになったからではない
「あの時は眠気がピークに差し掛かってカッとなってつい怒鳴ってしまっただけで別に飛鳥と茜の事は嫌いじゃないぞ?」
とは言ったものの、眠たかったからと言って怒鳴っていいというわけじゃない。そこは反省すべき点だ
『それは二人が起きた時に伝えなよ。ついでにお母さんを女性としてどれだけ愛してるかも語ってくれると嬉しいな』
『あ、それ私も聞きたい!』
飛鳥と茜に謝罪と本心を伝えるのはいいとして、お袋を女性として意識した事なんてないぞ
「二人に謝って本心を伝えるのはいいけどよ、お袋を一人の女性として意識した事なんて一度もない!」
毎度の事ながらお袋は俺が母親を女性として意識したらマズイとなんで気が付かない?紗李さんは何でお袋にその事を注意しない?
『ぶー! きょうのいけず!』
『そうだ!そうだ! 灰賀君は母親を一人の女性として意識すべきだー!』
あ、頭痛ぇ……どっちから突っ込んだらいいんだよ……
「アホか」
お袋も紗李さんも手遅れだと感じた俺はただ一言天井に向かって呟くだけだった
『『アホじゃない!』』
アホじゃない奴は母親を一人の女性として意識しろと言わずそれを推奨もしない!
「はいはい、二人は賢い賢い」
言い終えたところで再び眠気に襲われ、俺は眠りに就いた
あれからどれくらいの時が経った……?そもそも、俺が目を覚ました時間は何時だった……?飛鳥と茜は起きてるのか?分からない……
「また俺が一番乗りか……」
たくさん寝たお陰か清々しい気分で目覚めた俺はすぐに左右を見て飛鳥と茜がまだ目を覚ましてない事を確認。しがみ付かれているのは変わらなく、自分もそうだから人の事を言えた立場じゃないけど、よく寝るなと感心する
「この暑さじゃ仕方ねぇか」
二人の人間がしがみ付いているのもあってか汗ビッショリ。そんな奴にくっ付いて寝てるんだから飛鳥も茜も純粋にすごいと思う
「暑いから離れてほしいんだがなぁ……」
お袋と紗李さんから聞いた話じゃ俺が寝た後で彼女達は泣いていたらしいので今回ばかりは無理に引き剥がす事はせず、二人が起きるのを待つ事に。それから少しして飛鳥と茜は起きたと同時に声を揃えて謝ってきたが、怒鳴った俺も悪かったという事で喧嘩両成敗となり、一件落着となった
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