高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

俺はスマホを取り戻した

公開日時: 2021年3月6日(土) 00:06
文字数:4,366

「どーすんだよ……」


 藍の部屋を出て自分の部屋に戻ってきた俺はスマホを点け、不在着信が入ってないかを確認。メールは未読のものが二つあり、着信の方は不在じゃなかったけど、蒼からの着信が一件あった。日時がスクーリング初日の昨日だったから多分、藍が出て事情を説明したといったところだ。本当だったら人の電話を勝手に取るなと怒るところなんだろうが、その辺は気にしない。それより……


「担任のセクシー自撮り写真なんて他の連中に見つかったら面倒な事になる未来しか見えないぞ……」


 藍のセクシー自撮り写真の方が重要である。待ち受けになっているって事は当たり前だが、アルバムに保存されているわけで、写真だけじゃなく、動画もあったらと思うと頭が痛い。


『そ・う・だ・ねぇ!! お母さんが今やろうと思っている事と同じ事をするんじゃないかな!!』

『恭様、その写真を消さないと殺すわよ』


 背後で怒りを顕わにしている幽霊二人組。彼女達の怒気を孕んだ声に思わず竦み上がりそうになる。俺が撮影したわけでも、自撮りを強要したわけでもないのにどうして怒られなきゃならんのやら……


「はいはい、消すから殺気立つな。それから早織、アンタは俺が幼い頃に似たような事散々やってきただろ。藍の奇行に怒り燃やす前に自分の行いを振り返ってくれ」


 グチグチと文句を垂れる二人は無視。俺は待ち受けを元に戻し、スマホをズボンのポケットへ入れ、部屋を出た。



 部屋を出た俺は瀧口達がいるであろう食堂へ向かう。話し合いが終わって食堂を後にしてるかもしれないが、塚尼の部屋から藍の部屋に行く途中では誰とも鉢合わせしてない。話し合いが長引いてるのを祈るばかりだ




 気配を殺し、食堂のドアをそっと開け、中を除くと瀧口達がいた。どうやら話し合いはまだ続いてるらしい。いなくなった塚尼と藍の捜索派とこのまま動かず過ごそう派で意見が対立してるのか?俺はバレないように中へ入り、瀧口に近づいた


「それでは多数決を取るよ。塚尼先生と東城先生を探そうと思う人挙手」


 話し合いは粗方済んでたようでちょうど多数決を取ろうとしてるようだ。タイミング的にちょうどいいのか悪いのか……。同級生の方へ目を向けると塚尼と藍を探そうと思っている奴は少なく、挙手数はたったの四。自分達の先生に対する情はないのかと思うが、薄暗い館内を集団でとはいえ歩き回ろうと考える奴はそういない。今挙手してる連中は勇気がある方だと思う


「四人か……。じゃあ、このまま先生達を探さずスクーリング最終日まで過ごしたいって思う人挙手」


 瀧口の声に捜索派の四人は挙げていた手を下ろし、今度は捜索派以外の生徒が手を挙げた。数が多すぎて数えるのが面倒だが、結果は一目瞭然。捜索はせず、最終日まで静かに過ごせそうだ。そう思っていた時────


 じりりりりん! じりりりりん!


 俺のスマホからけたたましいほどの黒電話音が鳴り響いた。


「────!?」


 この音にこの場にいる全員が身体をビクッと跳ねさせ、振り向いた瀧口とバッチリ目が合った


「わ、悪い、俺のスマホだ」

「そ、そうだったんだ……び、ビックリした……」

「ちょっと出てくる」

「う、うん……」


 未だ鳴りやまぬスマホを手に俺は食堂を出た



食堂を出てすぐ。俺は誰が電話してきてるのかを確認。相手は────


「琴音?」


 着信画面には『琴音』の二文字。電話を掛けてきたのは琴音らしい。俺は通話ボタンをタップし、スマホを耳につけた


「もしもし」

『恭くん?瀧口くん達は私達を探さない方向で話を進めてるみたいだけどさ、隠れている方からするとそれじゃ困るんだよね』


 数時間ぶりに聞いた彼女の声は落ち着ききっていた。その落ち着きぶりが俺には不審に思えてならない


「隠れる側からするとそうだろうな」

『だからさ、恭くんからみんなを説得してもらえない?隠れている人達を探そうって』

「断る。同級生の中には恐怖で泣き出した奴もいる。ただでさえ薄暗くて視界が悪い建物内を歩き回ろうだなんて考える物好きはいねぇよ。俺も恐怖こそ感じてねぇが、隠れている連中を探すのはめんどい。だが、こちらが出す条件を呑むってなら吝かではない」


 琴音が何で俺に電話を掛けてきたかは分からない。しかし、直接話せる今がチャンスなのも確かだ。


『条件?中身にもよるよ?』

「だろうな。条件と言っても簡単だ。生徒全員のスマホの返却。これが条件だ。呑めなきゃ俺は瀧口達を説得しねぇし琴音達も探さねぇ」

『うーん……スマホの返却かぁ……』


 今まで落ち着いていた琴音が困ったような声を上げる。探す方としてはこの条件は是非とも呑んでほしい。俺個人の意見としてはだ、栄養バランスが悪いとはいえ、食うには困らない。調理方法が簡単なものばかりだから自分達でも出来る。言い方は悪いが、琴音や教師陣はいてもいなくても同じで探す必要はない


「ああ。探すのはいいんだが、館全体を手分けしてってなると何等かの連絡手段は必要になってくる。だが、俺達はトランシーバーの類を持ってねぇし渡されてもいない。スマホの返却を許可してくれたら瀧口達の説得を試みようと思う」

『うーん……確かに恭くんの言う通りだけど……でも、スマホを返しちゃうと外に連絡されそうで怖いんだよね』

「ならこの話はなしだ。瀧口達はお前達を探さねぇし俺も探さない」


 そう言って俺は電話を切ろうとした


『わー! 待って待って! 一度藍ちゃん達に相談するから待って!』


 電話を切ろうとしたところで慌てた感じの琴音から待ったが掛かり、俺はもう一度電話を耳につけた


「分かった。だが、こういう事の結果は早めに知りたい。そうだな……五分だ。五分後にまた電話をくれ」

『ご、五分!? ご、五分じゃ無理だよ! せ、せめて────』

「制限時間は五分だ。それ以上はなしだ。俺も瀧口達を食堂内に留まらせなきゃならないんでな。まぁ、説得に失敗したら俺一人でお前達を見つけ出してやる」


 伝える事を伝え終えた俺は電話を切り、食堂の方を向いた




「ご、五分かぁ……」


 恭くんから突き付けられた条件は預かってるスマホの返却で制限時間は五分。非常に厳しい。けど、恭くんが言うように恐怖のあまり泣き出した子もいて、私達を探そうって気がゼロなのも解かっている。でも、見つけてもらわなきゃ藍ちゃん達が考えたレクは成立しないわけで……


「こ、困った……」


 私は先程から反応がない藍ちゃん達を背に一人頭を抱えていた。


「はぁ……とりあえず相談……だよね……」


 振り返ると遠い目をした男女五人の姿が。言うまでもなく藍ちゃん達教師陣。彼女達がなんで遠い目をしてるかって言うと、私と恭くんのやり取りが原因。彼がスマホを見つけ出したのは……多分、藍ちゃんを除いた先生達は予想外。カメラの映像を見てた時から不穏な空気は流れてたんだけど、恭くん────生徒の口から隠れている人達を探さないって言われたらこうなるよ……。レク自体が成立しなくなっちゃうもん


「どーしよー……このままじゃレク失敗……事後授業ができない……」


 遠い目で呟いたのは一人の筋肉質な男性教師。彼は藍ちゃん曰く、国語の上級担当らしい。口振りから推測するに彼はこのレクに関する事で今後授業をする予定のようだ。先生の立場からすると授業ができないだけで済むけど、私やあの人達からするとビジネスに関係してくるから是が非でも見つけてもらわなきゃ困る


「恭ちゃん……私の事なんてどうでもいいんだ……せっかく頑張ったのに……」


 藍ちゃんも藍ちゃんで遠い目をしてる。そりゃ、好きな人に探してもらえないんじゃ虚無感に襲われても仕方ない。私も恭くんに見つけてほしいもん。瀧口くん達の説得に失敗したら恭くん一人でも探してくれるらしいから心配はないけど……お友達と協力して見つけ出してほしいという気持ちが強い


「はぁ……まずは魂の抜けた人達を元に戻すところからかぁ……」


 私はこの廃人スレスレの人達を前をどう元に戻すか頭を悩ませながら深く溜息を吐いた





「ちょっと待てよ……」


 琴音との話が一段落つき、食堂のドアを開けようとしたところで手が止まった


『どうしたの?きょう』

『琴音さんに伝え忘れた事でもあるのかしら?』

「伝え忘れはねぇんだが、思い出した事っつーか、考えとしてはあったっつーか……その何だ……」


 不思議そうな顔をする早織と神矢想花の頭に疑問符が浮かぶ。当然だ。突然ドアを開けようとした手が止まったんだからな。オマケに要領を得ない返事。彼女達が不思議そうな顔をするのは当たり前だ


『要領を得ないわね。ハッキリ言ったらどうなのかしら?』

『そうだよ。曖昧な返事されたら困るよ』

「言っても文句言わねぇか?」

『内容によるわね』

『お母さんも想花ちゃんに同じく』


 この二人だからチートだ、チーターだとは言わないと思う。ただ、俺のやろうとしているのは事情を知ってる人間から見れば立派な反則行為。早織と神矢想花は事情を知ってる側の人なわけでどう言えばいいのか……考えても仕方ねぇから正直に言ってみっか


「二人を信じて言うが、隠れてる連中に霊圧ブチ当てていぶり出そうと思う」


 霊圧を当てて隠れている連中を強引に出てこさせる。事情を知ってる人間からすると反則行為だと思う。琴音には瀧口達の説得に失敗したら俺一人でも見つけ出すとは言ったが、正直めんどい。


『お母さん的には自分の持ってるモノを使うわけだからいいとは思うけど……』

『一応、これはかくれんぼなわけなのだし……。脅して見つけたみたいなのは……どうなのかしら?』


 俺の案に幽霊二人組は文句は言わなかったが、難色の色を示した。早織の言うように俺の持っているモノを使うから文句を言われる筋合いはない。しかし、神矢想花の言うように一応、これはかくれんぼで鬼である俺が隠れている側の教師を強引に出てこさせるのは何かが違うのも十分に理解はしている


「二人の言う事も解かる。普通のかくれんぼなら狭い範囲だからいいが、このかくれんぼは普通じゃねぇだろ。範囲が決められてねぇ上に隠れている連中のヒントすらない。ハッキリ言って探す方としては非常に面倒なんだ」


 公園でのかくれんぼなら範囲は公園内で隠れちゃダメな場所は絶対に入れない場所と入るのが躊躇われる場所と隠れられる場所は限られ、探す方も無い知恵を必死に振り絞り、公園の至る場所を探す。俺らがやっているかくれんぼはどうだ?範囲が決められてない上に隠れてはいけない場所も指定されてない。漠然と隠れた教師連中を見つけ出せ。これじゃ探す気も失せる


『確かにきょうの言う通りだけど……霊圧使うのはちょっとねぇ……自分の持ってるモノを最大限使うのはいいと思うけど……』

『かくれんぼは鬼が探してなんぼよ。霊圧で脅して引きずり出そうだなんて間違ってるわ』


 幽霊のクセに二人共律儀だな。仕方ない、最後の手段を使うとするか……

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