「これでいいか」
適当な守護天使ミカエルのカード画像を保存し、ダウンロードページからフォルダを開く。デスクトップを保存場所に指定したからそこに画像がある。保存の際に名前を付けるのだが、それは適当にダウンロード.jpegとしておいた。
「恭ちゃん、ダウンロードした後はどうするの?」
横にいる東城先生からこんな質問が飛び出した
「ダウンロードした後はワードを開いて画像を必要な数だけ張り付ける。まぁ、口で説明するよりもやって見せた方が早いか」
俺はワードを開き、挿入から画像をクリック。このデバイスという項目を選択し、先ほどダウンロードした守護天使ミカエルの画像を張り付けた。しかし、画像は予想以上に小さく、このままだとプロキシとして使えない
「小さいね」
「ああ。そうだな」
『このままだと私が前に見たカードのサイズとは程遠いわね』
『お母さんもカードゲームはよく分からないけど、これはさすがに小さすぎると思うよ~』
東城先生達の言う通り今のままだと小さすぎてモンスターファイターのカードとしては使えない
「みんなの言う通りこのままだと小さすぎてモンスターファイターのカードとしては使えない。だからサイズ調整をする」
「『『サイズ調整?』』」
わけが分からない。彼女達の顔にはハッキリとそう書いてあった
「ああ。お袋と千才さんはともかく、藍ちゃんは教材を作る時にワード使ってるだろうから画像のサイズ調整くらいした事あるだろ?」
「そ、それはあるけど……、でも、カードゲームに使うカードのサイズなんて分かるの?」
「分からなかったら画像を使ったプロキシなんて使おうと思わないからな?とりあえず見ててくれ」
張り付けたミカエルの画像をクリック。右上に表示されるレイアウトオプションから詳細表示をクリックするとレイアウトの細かい設定が出来る画面が表示された。そこからサイズをクリックすると高さ、幅、回転、倍率、原型のサイズと細かく表示されているのだが、現状では高さと幅を調節出来ればそれでいい。モンスターファイターのカードサイズは縦86mm 横59mmなので必要な項目に数値を入れる。すると……
「これでよし」
モンスターファイターのカードサイズに画像が変わり、カード一枚分のプロキシが出来上がった
「これで完成なの?恭ちゃん」
「ああ。とりあえずカード一枚分のプロキシは完成した」
今のところミカエルのカードを使うデッキを組む予定はないから一枚あれば十分だ。
『プロキシって案外簡単に出来るのね』
『だね~』
意外と簡単にプロキシが作れた事に幽霊二人は感心した様子を見せる。
「作り方は本当に人によって違うから断言は出来ないけど、手間を考えるならこの方法かノートの切れ端が一番手っ取り早い。今の場合で言うなら後はこれを印刷し、余計な部分を切って使ってないカードと一緒にスリーブに入れたら完成だ」
パソコン上では今のでとりあえずは完成。実際にプロキシとして使うのであればこれを印刷して不要な部分を切れば実際のゲームで使えるようになる
「意外と早く出来たけど、これって対戦とかで使えるの?」
「身内での対戦とかプロキシに理解のある人との前ならな。そういうのが許せないって人の前とか、公式の大会だと使えない。前者はその人の感じ方によりけりだが、後者で使った場合は偽造カードとみなされ失格だ」
「そうなの?」
「ああ、プロキシって要するにスポーツ大会で言うところのドーピングみたいなものだからな。使ったら失格になるのは当たり前だ」
実演を終え、俺は開いていたワードを閉じようとした
「待って」
閉じようとしたところで東城先生から待ったが掛かる
「何だよ?一通りやったからもういいだろ?」
「それはそうなんだけど、例えばこのカードのプロキシを複数欲しい時ってどうするの?また一から画像を張り付けてサイズを調整するの?」
「いや、一度調節した画像をコピーして貼り付けるけど?それがどうかしたのか?」
「複数枚のプロキシを作る時はどうするのかなと思って」
東城先生はプロキシという単語も作る工程も初めてだからこんな質問をしてくる理由も理解は出来る。年上でも時折見せる子供みたいな部分が彼女の魅力なんだろうな
プロキシ作成の実演を終え、再び暇を持て余す事になった。盃屋さんの荷物を取りに行った零達もまだ戻って来ず、とりあえず何をするかを考えるも特にしたい事が思い浮かばない。ちなみに、作ったプロキシは今の俺にとっては不要なものかつ家にプリンターがないという事で保存しなかった
「退屈だな」
プロキシ作成実践後、再びごろ寝する気になれなかった俺は昨日と同じようにアニメ動画を漁る。だが、最新のアニメはすぐに消去されてしまい、残っているのは数年前に放送されていたアニメか公式が張り付けた一話限定とか期間限定のものだけだった
「退屈だね」
東城先生、アンタには仕事があるだろ?という思いが一瞬頭を過ぎったが、今は夏休み中。教師の仕事内容など知る由もないけど、退屈だと言ってるって事は今すぐやらなきゃならない仕事があるってわけでもないようだ
「こうも暑いとやる気しねぇな……」
こんな調子で社会人になった時どうするんだ?と言われても仕方ない俺だが、暑いものは暑い
「だね……、私も今回ばかりは恭ちゃんに同意」
二人揃って怠け癖が付くのはよくないのは重々承知だ。でも、暑さには勝てない
「昨日零とプール行って俺からすると二日連続にはなるけどこう暑いとやってられないからプールにでも行くか」
「私は今夏初めて。でも、恭ちゃんの言う事にも一理ある」
「んじゃ、行くか」
「うん」
俺達はのそっと立ち上がり、部屋を出た。部屋を出た後は零とプールに行った時同様だから割愛
着替えを終えた俺は一足先に適度な準備体操を済ませるとすぐさまプールへ飛び込んだ。ここには監視係がいないから飛び込んだところでそれを咎める人間はいない。自分の家にプールがあるって素晴らしい
「夏と言えばやっぱプールだな」
安直な発想だけど夏と言えばプールだと思う。他にもかき氷や夏祭りと夏の風物詩やイベントはあれど現状、俺の中では夏と言えばプールだ
東城先生を待っている間、俺は軽く二十五メートルを泳ぎきり、上がろうとした時だった────
「お待たせ、恭ちゃん」
黒のビキニを着た東城先生が現れた
「そんなに待ってない」
入学式の時からクールだなとは思っていたし、黒とか青といった大人っぽい色のものが似合うのではないか?とも思っていた部分はある。スタイルだってモデルまではいかないものの、いい方だ。その彼女が黒のビキニを着て現れたらどうなるか?答えは────────
「そ、そんなに見られたらは、恥ずかしい」
見惚れてしまう。俺としてはガン見したつもりなどなかった。が、東城先生は違ったようで恥ずかしそうに身を捩っている
「あ、ごめん、あまりにも似合ってたからつい見惚れてしまって……」
「そ、そう……」
「「……………」」
素直な感想を言ったのになぜか顔を真っ赤にし、黙って俯いてしまう東城先生。人の事を言えた義理ではないけどよ、何で黙る?何で顔を真っ赤にする?
「あー……、ひとまず泳ぐか?」
「う、うん……」
それから俺達は泳ぎ続けた。零と来た時は爺さんが来る事もあり、体力を温存させなきゃいけなかったが、今日は爺さんが来るという話も騒動に巻き込まれる話もない。ここで力尽きようとも後に待っている面倒事はないのだ
「ふぅ、泳いだな」
「うん、こんなに泳いだのは初めて」
ここへ来て三十分くらいか?泳ぎ疲れた俺達は休憩の為、ビーチチェアへ移動し、くつろいでいた
「恭ちゃん、これからどうするの?」
「どうするって何が?」
「盃屋さんに早織さん達の事説明してないでしょ?」
「爺さんが説明したんじゃないのか?」
「恭二郎さんは何も言ってないよ。恭ちゃんがここに住む事になった経緯含めてね」
「マジかよ……」
爺さんを当てにしてたわけじゃないから説明してない事に対して怒りはしない。俺がそうしているように爺さんも俺がここに住む経緯等を勝手に話すべきではないと思ってあえて言わなかったんだろうけど、盃屋さんにそれを説明する必要があるのか?と聞かれれば答えに迷う
「マジだよ。それで?恭ちゃんはどうするの?」
「どうすっかなぁ……」
本音を言うと盃屋さんにはここに住む経緯だけ説明すればそれでいいと思っている。だけど、生活していく上でどうしてもお袋と話す機会というのはどうしても出てきてしまう場合があり、そうなった時に事情を知らない彼女の目には俺が独り言を言ってる痛い奴にしか見えない。でもなぁ……
「同じ家に住む以上、隠し事はしない方がいいと私は思う」
「そうなんだよなぁ……でもなぁ……」
盃屋さんにお袋の事を説明しようにも踏ん切りがつかない。彼女は一般人ではなく、声優だ。職業で判断したくはないけど、ラジオやイベント出演と人前に出る事の多い彼女にお袋達の事を説明し、万が一の時を考えると説明する気にはなれず、だからと言って彼女にだけ何の説明もせず、お袋達の事を隠すような感じになるのも何か違う
「声優って職業が恭ちゃんの決心を鈍らせてるんだよね?」
「まぁな。職業で差別するような真似はしたくねーけど、人前に出る機会が多い以上どうしても考えさせられる」
一般人でも話した相手の口が軽かったらと思うと気が重くなる。それだけお袋達の事は話す相手を選ばなきゃならない
「隠し事はしない方がいいと思うと言ったけど、話す方からすると考えちゃうよね……」
「ああ。俺がここに住む経緯なんてぶっちゃけギャグみたいな理由だからいいとして、お袋達の事は普通じゃ考えられない事だからな」
盃屋さんが入居し、実質今日が初日。ある程度時間が経ってるのなら選択を迷う事などせず、スパッと決められた。それが出来ないのは俺が盃屋真央の表面────つまり、イベントやラジオで見た顔しか知らず、プライベートな部分を何一つ知らないからだ
「どうしたものか……」
騒動に巻き込まれてはいないものの、俺は頭を悩ませなければならないのは確定事項か……
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました
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