零、闇華、琴音に引き続き東城先生も撃破。八人の内四人を撃破し、残るは四人
「そんじゃ、次は飛鳥の番だな」
へたっている零達を放置し、飛鳥へ目を向けた
「お、お手柔らかに……」
いつもは活発に俺を引っ張ってくれる飛鳥だが、今に限って活発さがなく、大人しい。男モードの時も女モードの時もグイグイ踏み込んでくる彼女がこんなに大人しいのは零達の行きつく先を見たからなのか?
「お手柔らかにって飛鳥達が望んだんだろ?」
俺は煽るように言う。キスしろってのは彼女達の方から言い出した事で俺はそれに従っているに過ぎない。愛してるって言ってるのはバカにされたままじゃ癪に障るからだ
「そ、それはそうだけど、愛してるって言いながらキスされるとは思わなかったんだもん……」
それには俺も同感だ。キスだけで終わるだろうと思ってたのに愛してるのオマケ付きになろうとは思ってなかった。なんだかんだで俺も煽り耐性はないって事か
「俺だって思ってねぇから!」
「だったら言わなきゃいいじゃん!」
「うっせ! お前らが煽ってくるからやる羽目になったんだろ!」
煽ってきたのは零、闇華、東城先生の三人で飛鳥に八つ当たりしてると思われても仕方ない事を言ってるのは自分が一番よく理解している。ラブコメじゃ主人公が女性キャラから一方的に罵倒されるシーンをよく見る。それは現実でも同じで一部の勘違いしている女共は自分は何を言っても許されると思っている節があると思う。零達が勘違いしている女だとは言わないが、少なくともヘタレと言っても俺が怒らないと甘えていた部分は無きにしも非ず。事実だから言い返せない俺はこうして行動に移しているというわけだ
「ヘタレって言ったのは零ちゃんと闇華ちゃんと東城先生で私じゃない!」
そう、ヘタレって言ったのは零達で飛鳥じゃない
「じゃあ、飛鳥だけキスのみにするか?」
「え……?」
キスのみにすると言った途端、目を丸くし、涙を流す飛鳥
「愛してるって言ってるのはキスだけじゃ味気ないと思ったからで無理に言う事でもないだろ。飛鳥の言った通り言う事になるとは思わなかったって言うくらいなら最初から言わない方がよかったのかもしれないな」
後悔するならやらない方がいいに決まってると思って提案してみたんだが……
「い、嫌だ……」
泣くとは思わなかった
「嫌だって……言わなきゃいいって言ったの飛鳥だろ?」
滅多に泣かない彼女が涙を流している。それだけで胸が締め付けられるのは何でだ?
「嫌だよ!! 私だって恭クンから愛してるって言われたい! 言わなきゃいいって言ったのは嫌々言われたくないって意味で言ったんだもん! 本当は愛してるって言われて抱きしめてほしいもん! キスしてほしいもん!」
そう言って号泣して座り込んでしまった。今の飛鳥は普通の人の目から見てどう映る?めんどくさい女?素直じゃない女?少なくとも俺の目には愛に飢えた幼い子供にしか見えない
「恭殿……飛鳥殿もこう申している事ですし、ここは一つ零殿方と同じようにしてあげては如何だろうか?」
今まで黙っていた真央が苦笑いを浮かべながら口を開く。内田飛鳥という女は本当に……
「面倒な女だ」
俺は座り込んでる飛鳥を強引に立たせる
「ふぇ!? きょ。恭クン!?」
強引に立たされた飛鳥は驚きの声を上げ、俺を見る
「うるせぇ、黙ってされるがままになってろ」
目を白黒させている飛鳥を黙らせた俺は彼女を思い切り抱きしめる
「きょ、恭クン?」
抱きしめてるからどんな顔をしているのかは分からない。一つ言えるのは彼女が腕を背中に回したから嫌がってはいないって事だけだ
「キスだけにするだなんて言って悪かった」
キスのみにするかって聞かなきゃ飛鳥だって泣かずに済んだ。今回は完全に俺が悪い
「うん……。それを言われて私凄く寂しかった……」
未だに涙声で俺の首元へ顔を埋めた飛鳥は背中に回した腕に力を込めた。
「悪かったって……」
「本当に悪いと思ってる?」
「ああ」
「そう思ってるならする事あるよね?」
飛鳥の言うする事とはもちろん、愛の言葉を囁いてデコにキスする事。言われるまでもなく、今から実行に移そうと思っていたところだ
「愛してるって言われてキスしてほしいなら俺の首元から顔を出してくれません?」
愛してると言うだけなら今の状態でも可能だ。しかし、キスをするとなると今のままじゃ角度的に無理がある
「うん……」
飛鳥の顔が首元から離れ、見つめ合ってみると彼女の目は真っ赤に腫れていた。泣いてたんだから当たり前か
「飛鳥と初めて会った時はコイツと関わる事はないんだと思ってた。それがまさか女だった上に同じ家に住む事になり、旅行にまで一緒に来る事になるとは思わなかったぞ……」
出会った当初の飛鳥は完全にチャラ男というか騒がしい奴だった。女だったと知った時はリアクションに困ったのを今でも覚えている
「私も入学式で一人だけ保護者の人数が多くて面白そうだなって思って声掛けただけなのに自分だけじゃなくて家族まで助けてもらった挙句、一緒に旅行する仲になるだなんて思ってもみなかったよ」
コイツと関わる事はない。そう思っていたら友達申請され、その日の内に友達の秘密を知るだなんて思ってすらいなかった。それが今じゃ姉さん女房みたいになってるってんだから人生は面白い。
「だな……。全く、第一印象ウザい奴を愛してしまうだなんて俺もどうかしてんな」
愛してるの下りには触れないとして、飛鳥の第一印象がウザい奴またはウザそうな奴だと思っていたのは本当だ。典型的なリア充の取り巻きみたいな感じだったし
「むぅ~、あの時は男の子を演じてたから仕方ないけど、女の子にウザい奴はないんじゃないの?」
「うっせ。そっちこそ初対面の奴にハイテンションで絡むとかどんな神経してんだよ?」
「いいじゃん。恭クンと仲良くなりたかったっていうのは本当なんだから。それより、私の事、本当に愛してる?」
愛を囁いて欲しいって言ったのは彼女達で俺は望み通りにしているだけ。心の底から愛してるかはまだ分からない。今はただ飛鳥の欲しがってる言葉を言うだけだ
「愛してる。愛してなきゃ危険を犯してまで教師に歯向かったりしねぇよ」
星野川高校は通信制だから教師への態度で成績が変動するかは分からん。勤務している教師のほとんどが俺達生徒と歳が近く、生徒の中には友達感覚で接しているだなんて奴もいるだろう。神矢想子に歯向かった事が危険かって聞かれるとパートとか派遣とかの扱いだった彼女に歯向かったところで大した危険はないと思う
「恭クン……」
「飛鳥……」
上目遣いで見つめてくる彼女の前髪を上げ、唇を落とす。どれだけいい雰囲気になったところでマウストゥマウスでキスはしない
「本当は唇にしてほしかったけど今はおでこで満足してあげる」
零達とは違い、頬をほんのり赤く染めた満足気な笑顔を浮かべた飛鳥は耳元で『いつか恭クンの唇を貰うね』と囁き、俺が呆気にとられている隙に腕から抜け出し、元の位置へ戻って行った。
飛鳥が終わり、次は由香の番と思い、声を掛け────
「次はあたしの番だよ!」
ようとする前に抱き着かれてしまった
「はいはい、差別も区別もしないからいきなり抱き着くのは止めようね?俺は逃げないからよ」
身体に衝撃が走るほど勢いよく抱き着かれたわけじゃないから驚きはしなかったものの、不意を突く形で抱き着かれると少しビビる。
「あたしを待たせた仕返しだよ!」
灰賀由香────。書類上は俺の義姉に当たる人物で中学の頃俺を虐めていた連中の一人で同じ高校のクラスメイト。それが彼女で今は実家で親父、夏希さんと三人で暮らしている。ちなみに部屋は俺が中学時代まで使っていたのを使用。と、彼女について語れと言われた時、在り来たりな回答しか出来ず、書類上だけとはいえ、家族の事をほとんど知らないんだと痛感させられそうになる。
「随分と嬉しそうだな」
「嬉しいよ。中学の頃からずっと好きだったんだもん。嬉しくないわけないよ」
この子はなんで俺が触れないようにしている中学時代の話をちょくちょく持ち出すかねぇ……
「それはどうも」
零達事情を知ってる奴らだけなら掘り下げた話も出来たのだが、事情を全く知らない声優組のため、由香の名誉のためにスルーしておく
「嬉しくなさそうだね」
「嬉しくないんじゃなくて信じられないんだよ。深い話はしねぇけど、とてもそんな風には見えなかったからな」
虐められていた上にお袋の形見まで盗んだ奴が実は自分の事を好きでしただなんて言われて信じる奴なんていない。俺は好きな奴を虐めるってのは小学生までで中学生になったら普通にアピールするものだと思っている。だから彼女の好意は信じづらい
「そうだよね……」
自分の行った行為が悪い事だと自覚してるのか由香の表情が暗いものへと変化していく。この女は自分から地雷を踏みぬかなきゃ気が済まないのか?
「ああ。泥酔してる奴に酔ってないって言われて信じられないのと同じで由香、お前の好きはどうにも信用ならん」
由香からの好意が信じられないのと愛してると言わないのは話が別で彼女の寄せる好意は信じられない。そこに愛情がないのかと言われれば話は違い、恋愛対象としての愛情はないにしても家族として、義姉としての愛情はあると思う。
「うん……」
由香の表情が先程よりも更に暗くなり、さすがに言い過ぎたかと僅かに罪悪感が芽生える。せっかくの旅行で暗い顔をされんのも暗い話をすんのも気分が悪い。アフターケアくらいしとくか
「暗い話はここまでにするとしてだ、俺と由香の間にはここでは言わんけどいろいろあったな」
「うん……」
話題を変えては見たものの、由香の表情は以前として暗いまま。零達とは違い、由香との因縁というのは深く、瀧口以外の同級生とはなるべくなら遭遇したくないとすら思える程だ。おっと、俺達の因縁なんて今はどうでもよくて、自分で地雷踏んどいて暗くなってる書類上の義姉をどうするか……
「藍ちゃん同様、由香、お前にもあまり多くは語らない」
東城先生の時は彼女の性格がクールだからという理由でストレートに愛してると言ったが、由香の場合は違う。コイツと思い出話をすると高確率で地雷を踏む可能性が多く、100%空気が重くなるのは火を見るよりも明らかだ。だから俺は彼女に対して多くは語らない
「そ、それって、あたしには何も思うところがないって事?」
「違う。過去の話をお前としたら空気が重くなるからしないだけで思うところがないわけじゃない」
さっき空気が重くなると告げたけど、他の理由もある。由香の好意が俺に向けてくる好意が信じきれないと言っといて愛してると言うのは明らかに矛盾し、そこを第三者から突っ込まれると答えようがなく、結果として彼女を傷つけてしまう。零達と同じ事をするには多くを語らない方が由香のためなのだ
「な、ならよかった……」
暗かった由香の表情が僅かに明るくなる。俺としては地雷を踏まない事を願うばかりだ
「安心してくれたようで何より。細かい話はしねぇし、どういった意味でという質問には答えねぇけど俺は由香を愛してるぞ」
「うん……」
俺は由香の前髪を上げると触れるだけのキスをした
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