高校入学を期に一人暮らしをした俺は〇〇系女子を拾った

意外な場所で一人暮らしを始めた主人公の話
謎サト氏
謎サト氏

零と闇華に兄と呼ばれるのは違和感しかない

公開日時: 2021年2月12日(金) 23:11
文字数:5,088

「恭、その年で難聴か?」


 難聴も何もいきなり義妹が出来たと言われたら誰だって頭の中が真っ白になるだろ! 肝心の義妹が自分のよーく知った奴なら特にな!


「どうもそうらしい。悪い、もう一回言ってくれ」


 俺の聞き間違いでありますようにと切に願う。だが……


「仕方ないのう……。この度零ちゃんと闇華ちゃんが恭。お前の義妹になった」


 聞き間違いじゃなかった。


「…………帰って寝るか」


 俺の聞き間違いじゃなきゃこれは夢だ。何度も自分に夢だと言い聞かせ、部屋を出ようと────


「待ちなさい! お兄ちゃん!」

「そうです! 待ってください! 兄さん!」


 出来なかった。部屋を出る前に俺は零と闇華に取り押さえられてしまい、歩を進める事は敵わず終い。だだでさえ書類上の姉がいてウザったいと思っていたところに今度は書類上の妹ですか……俺の人生どうなってるんですかねぇ……。というか────


「止めろ離せ。俺を兄と呼ぶな」


 これまで呼び捨てだった零と君付けで呼んでいた闇華に兄と呼ばれるのは寒気しか感じない


「いいじゃない、アタシ達は義理の兄妹なのよ?兄である恭をどう呼ぼうとアタシの勝手でしょ?」

「その通りです! 私達は兄妹なんですから兄と呼ぶのが普通です!」


 歳の離れた妹だったら兄って呼ばれると来るものがある。しかーし! 俺達は同じ年で同じ学年だ! 由香を姉と呼ぶのもそうだが、零と闇華に兄と呼ばれるのは違和感しかねぇよ!


「いや、君ら同じ年で同じ学年だからね?俺にとっちゃ違和感しかないからね?」


 世の中には双子が存在するから同じ年、同じ学年の兄弟、姉妹がいるのは不思議じゃない。親同士の連れ子が同じ年だから誕生日が早い方が上。つまり、兄か姉になるってパターンもなくはないだろうから否定も拒否もしない。俺達の場合は別だ。今まで同居人だった奴がいきなり妹になるんだぜ?違和感どころか気色悪さすら感じる


「アタシ達に兄と呼ばれるのは嫌……なの……?」

「そう……なんですか……?」


 上目遣いで見つめるなよ……。俺が苛めてるみたいじゃねぇか


「別に嫌じゃない。ただ、今まで同居人だった女の子がいきなり義妹になりましたと言われて戸惑ってるだけだ」

「「ほんと……?」」

「あ、ああ、本当だ。だから、上目遣いで見ないでくれ……俺が苛めてるみたいになっちゃうから」

「「うん……」」


 や、やりづれぇ……。いつもの口調で兄と呼ばれるのもそうだが、元気だったのが急にしおらしくなられるのも扱いに困る。呼び方は追々考えるとして、今は零と闇華が義妹となるに至った経緯を聞くとするか


「零と闇華を義妹として認めるのはいいとしてだ、ここに至る経緯はちゃんと話してくれるよな?爺さん?」


 俺は振り向く事なく爺さんに言った。女関係の話で我が祖父が最初に何をするかだなんて分かりきっている。もしもふざけた事抜かすようだったらその時は……


「当たり前じゃ。とは言っても恭。零ちゃんと闇華ちゃんがお前の家に住む事になった経緯についてはよく知っとるじゃろうから省かせてもらうぞい」


 予想に反し、いつになく真面目な爺さん。ならばこちらもちゃんと目を見て話をしようと思い、しがみ付いてた零達に一端離れてもらい、俺は爺さんの方を向く


「ああ。その辺はいい。家にいる連中の大半に共通する事だ。俺が聞きたいのは零と闇華が義妹になった経緯だけだからな」


 零と闇華が義妹になった経緯なんて正直なところ何となく予想はついてる。琴音や藍、飛鳥や双子、由香とは違って零と闇華はある意味特別だ。もちろん、真央と茜とも違ってな


「分かっとるわい。まぁ、二人を拾った恭なら説明せんでも解かると思うが、零ちゃんは父が失踪。母も零ちゃんがまだ小さい頃に蒸発し、闇華ちゃんは両親はすでに他界しとる」


 そんなのは分かっている。拾った時に聞かされたからな


「それは知ってる。他の連中はどうか知らねぇけど、俺にとっちゃ今更だ。だからと言って零達を追い出そうとは思わねぇ。爺さん、俺は義妹になった経緯を話せって言ったんだ。零と闇華のこれまでを話せとは言ってねぇぞ」


 そもそもが零の両親と闇華の親戚連中がちゃんとしてりゃ彼女達が俺に拾われるどころか出会う事すらなかっただろう。当然、義妹になる事も


「分かっとる。じゃが、義妹になる経緯を話すには避けて通れない事なんじゃよ……」

「そうかい。んで?」

「うむ。零ちゃんと闇華ちゃんの経緯というのは儂や婆さんやさっきまでいた操原を始めとした儂の友人なら誰でも知っとってのう……。その友人達と飲みに行った時に言われたんじゃ」

「何て?」

「“零ちゃんと闇華ちゃん、このまま両親がいないままなのは拙いじゃないか?”と……」


 零と闇華に両親がいないままなのはマズいっちゃマズい。俺が想像できる範囲だと進学する時だ。進学するのは本人の自由でしないのも一つの道ではある。だけど、零と闇華がもし進学したいと言い出した時、学費は誰が払う?両親だ。その両親がいないのなら育ての親でも構わないとは思う。でも、避けて通れないのが両親が何等かの事情で学費を払えなくなった時、代理人を誰にするかが問題となってくる。代理人と本人の間柄を問われた時に多分だけど困ると俺は予想する


「よく分かんねぇけど、そうなのか?」


 あくまでも学費云々は俺の予想で詳しい事は分からない。だから敢えてよく分からないと言った


「まぁのう……。学費に関しては零ちゃんと闇華ちゃんが進学したいと言ってきた時は儂が払おうと思っとる。じゃが、婆さんの学校に通っとるとはいえ、どうしても保護者のサインが必要な書類が出てくる。そうなった時、二人に親がいないのはさすがに拙い。そこでじゃ……」

「零と闇華を養子に迎え、俺の妹にしようと思い立ったと」

「うむ」


 俺の中じゃ保護者のサインなんて適当に成人してる同居人が書けばそれで済む。そうならないのか?


「保護者のサインなんてぶっちゃけた話、同居人の中の誰かが名前書いてハンコ押せばいいだけだろ?何も養子に迎える事はないんじゃないのか?」


 よくある設定だと幼い頃に両親が他界し親戚に引き取られて生活してましたってのが王道だ。物語はその子供が成長し、高校生になったところから始まり、同居人は親戚の美人なお姉さん。あるいは冴えない兄さんか、はたまた頭にエリートが付く人間。零と闇華の場合は美人のお姉さん複数とダメ人間一人ってところだ


「まぁ、書類はそうじゃ。というか、書類関係の話は誰かに聞かれた時の建て前なんじゃよ」


 一気に嫌な予感がしてきたのは気のせいか?


「ほう?だったら本音は何なんだよ?」


 頼む、この真面目な感じをぶち壊しにしないでくれ


「由香ちゃんのようなアホの子タイプの孫娘の他に零ちゃんみたいなツンデレタイプ、闇華ちゃんのような清楚ヤンデレタイプの孫娘が欲しくなった!」


 俺の嫌な予感が見事的中。爺さんは親指を立てながら自分の欲望を恥ずかし気もなく吐き出した。そんな爺さんに俺から言えるのはたった一言


「……………アンタには婆さんがいるだろ」


 妻がありながら別の女性を求める。婆さんはこのどうしようもないクソ野郎のどこに惹かれて結婚したんだ?


「だってだって! 由香ちゃんだけじゃ物足りないんだもん! 婆さんだって茶を啜りながら“由香ちゃんみたいな天然系もいいけど、零ちゃんみたいなツンデレ、闇華ちゃんみたいなヤンデレな孫も欲しいねぇ”って言ってたもん! 儂だけの欲望じゃないもん!」


 えぇ……。似たもの夫婦かよ……。つか、爺さんがだもんって言うなよ……気色悪いなぁ……


「うわぁ……。この夫婦気持ちワリィ……」


 類は友を呼ぶって言葉を自分の祖父母で目の当たりにするとは……


「うるさいやい! 祖父が孫を欲しがって何が悪いんじゃ!」

「いや、悪いとは言ってねぇけど……なぁ?さすがに欲望を満たしたいが為に二人の人間を養子に迎えるだなんてどうかしてるぞ?何より気色ワリィよ」


 その証拠に零達以外は全員腐った目を爺さんに向けている


「気色悪いって言うでないわ! それに……いや、この先を言うのは止めておく。あまり気分の良い話じゃない。それに、恭一人ならまだしも女子おなごと人の親がいる前でするような話でもないしのう」


 爺さんは何かを言いかけて止めた。女と人の親がいたら出来ない話で俺だけには出来る話が何なのかは分からない。が、顔が一瞬曇ったところを見ると話す方も聞く方も気分のいい話じゃないんだろう。


「そうかい。今回のところは爺さんと婆さんが単に由香以外の孫娘を欲しがったからって事で納得してやる。零と闇華にも思うところ……いや、思ったところがあるだろうけど、それは後で聞く。それより、茜の引っ越しはどうすんだ?」


 零と闇華にいつ頃から養子の話があったのかは分からない。もちろん、養子の話をされた時の零と闇華の心情もな。零達を雑に扱ってるわけじゃないぞ?当事者達が喜んでるから水を差すのが躊躇われただけで


「それなら心配はいらん。すでに儂の部下が茜ちゃんのから荷物を運び出しておる。もうそろそろ恭の家に着くころじゃろう」

「相変わらず行動が早い事で……」

「善は急げじゃ。それに零ちゃん達には家に帰ってからやる事があるらしいしのう」

「やる事?」

「儂の口から言うてもよいが……それは帰ってからの楽しみにとっておくといい」


 俺を見ながらニヤつく爺さんと拝む加賀。この対照的な反応から導き出される答えは一つ! 戦略的撤退を置いて他にない! そと決まれば早速爺さんに泊まり交渉を……


「爺さん、今晩────」

「断る。今夜は婆さんを思い切り愛すと決めとる。恭、お前は邪魔じゃ」


 する前に断られた。仮にも祖父が孫を邪魔者扱いするなよ……。だが! ここで折れるわけにはいかない!


「頼むよ。久々に孫と朝まで語り明かそうぜ?な?」

「嫌じゃよ」

「そこを何とか!」

「嫌じゃ! というか、儂はただ零ちゃん達には家に帰ってからやる事があるらしいと言っただけなのに何をそこまで嫌がる?恭、何か都合の悪い事か心当たりがあるのか?」

「ま、まさか! そ、そんなわけねぇだろ?」

「本当かのう?」

「本当だ!」


 爺さんは零達は家に帰ってからやる事があるとしか言っておらず、嫌がる理由なんてない。嫌な予感はするけど


「本当かのう?」

「本当だ!」

「まぁ、儂はお前が何を隠そうと構わんが……どうも零ちゃん達はそうじゃないらしいぞ?」


 爺さんが零達の方へ視線をやり、俺もそれに倣う。すると……



「お爺ちゃんの言う通りよ。お兄ちゃん?疚しい事がないなら家に帰れるはずよね?」

「帰るのを嫌がるって事は何か疚しい事があるんですよね?兄さん?」

「そうなの?恭くん?」

「恭ちゃん、怒らないから言って」

「今言ったら許してあげるよ?恭クン」

「恭殿……、拙者達の間に隠し事はなしでござるよ?」

「グレー、また隠し事するの?」


 女性陣は案の定、光のない目で俺を見つめていた。これがあるから家には帰りたくないんだよ……。


「隠し事も疚しい事もねぇよ! 一人の時間欲しさに黙って抜け出した事に関して咎められるのが嫌だってだけでな!」


 一人の時間が欲しいと思うのは誰だって同じだ。家にいたくない時や親と喧嘩した時は行き先も告げずに飛び出す事だってあると思う。俺だってそうだ。一人の時間が欲しくなる事も家にいたくない時もある。だから、黙って飛び出した事に関しては咎められる謂れはないはず……


「それなら平気じゃよ。儂がよく言って聞かせておいた」

「は?言っとくが零達は依存心が強いぞ?第三者の意見を聞き入れるとは到底思えねぇ」


 料理とか勉強に関するアドバイスなら大人しく聞くだろうけど、俺……というか、人に対して依存するのは止めろと言って聞き入れるかどうかは怪しいところだ。どこへ行くにも付いてくのを止めろと言ってもすんなり受け入れるとは思えない


「それは儂が一番よく理解しとる。婆さんもあれで昔は依存心が強かったからのう。儂が零ちゃん達に言ったのは依存してても構わぬ。じゃが、拘束ばかりしとると恭に嫌われてしまうぞって事じゃ」


 零達に拘束されたところで今更なんだよなぁ……。それに、過去に前例があるんだよなぁ……


「出来ればお仕置きを止めさせる方向で忠告しておいてほしかった……」


 依存されるのは構わない。お袋で慣れてる。俺の希望としてはお仕置きを止める方向で話をしておいてほしかった


「その辺もちゃんと言っておいた。恭へのお仕置きは正座させて説教よりもキスマークを付ける方が効果的じゃとな!」


 お仕置きを止めさせろよ……


「何でそうなった?」


 爺さんが零達にした斜め上過ぎる忠告を聞きいた俺は天を仰いで溜息を一つ漏らした

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